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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第16話 くうき。

2022・12・23、本文微修正。




「そう。手を合わせて……ゆっくりでいい」


「うんっ」



 【浄化魔法】の説明を終えると、彼女は直ぐに『覚えたい!』と言ってきた。

 しかし彼女の体調の事を考えるのならば、今は無理せず帰った方が良いだろう……。


 と考えていたのだが、『少しでもいいから』と頼まれると何とも断りにくく──結局『最初の手解き位は良いか』と妥協して私はその為の準備を進める事にしたのであった。


 なによりも、彼女のその真剣さが、素直に私は眩しく映ったのだ。



「…………」



 ただ、『魔法』を他者へと教える際、一般的にはどうやっているのかを私はあまり知らなかった。

 ……なので、今回私が彼女に施そうと思っている手法は完全な自己流である事を先に伝えておく。


 因みにその方法とは、私の魔力と相手の魔力を合わせ、私がその状態で魔法を使い、相手に私の魔法の発動の感覚を覚えて貰ってから、相手にも発動して貰うと言う仕様となっている。



 言葉だけだと分かり難いかもしれないが、これをする事の最大の利点としては、相手が最終的に魔法を発動した時に、成功するにしろ失敗するにしろ、どこが上手くいきどこか上手くいかなかったのかが全て私へと伝わる、と言う点である事だけを知っておいて欲しい。



 要は、相手の一度目の発動が失敗した場合には、私はその情報を元に原因となる部分を修正し、次は最低限相手が魔法を発動できる状態まで補佐する事が出来る様になるという訳だ。


 魔法の発動とは不思議なもので、一度発動できた時の感覚を掴めれば大体その後も成功するようになる。


 なので、その最初の一回目が上手くいく様に、何度も調整を重ねていこう。



「…………」



 ただまあ、当然こんな簡単な方法ならば、魔法使い達なら誰でも思いつくだろうし『他でもやっているんじゃないか?』と、『その方法の方が一般的なのではないの?』と、そう思われるかもしれない。


 だが、この方法にはまず大きな前提条件として『差異』に気付けるくらいの技量がなければいけないという魔法使いとしての『力』の差が大きく関わって来る。



 そもそも『差異に気付けるか否か』と言うのはどういうことかと言うと──


 それは『目安』の一つに過ぎず。もっと正確にいうならば、相手の細かな魔力の揺らめきを感じられる程度の能力、が必要なのである。



 それがないと『相手の魔力がどんな変化をしているのか』、また『相手の魔力に自分の魔力がどんな効果を及ぼすのか』を理解ができていないのと同義であり、相手の魔法の発動を認識できても、その調整をする事など到底できないという話だ……。



 例えるなら、芸術的な絵を見てもそれを『良いものだ!』感じ取れる者でなければ、それの真の価値は見いだせず、精々『なんか変わった絵があるなー』位にしか思わないのと感覚は似ている。


 その絵を正しく調整する為には、当然の様にそれ相応の技量が必要となる事もまた道理であろう。



「…………」



 ただ、その点彼女の場合、魔力量こそまだまだ足りていないと感じるものの『天元』と言う周囲の魔素を取り込み己の力に変える事に特化した器官が有る為、元の素質は高いだろうと予想している。


 なので、調整もそこまで大きく手間取りはしない筈。……それに、こうして魔力を同調させ魔法を教える方法は、言葉で一から全てを伝えるよりも余程に効果的であるだろう。



 『言葉』は、きっと視野が広すぎるのだ。……あれはとても難しいものだから。




「……これでいい?」


「うむ」



 私達は手を前に出し、合わせて、そこに直接的な魔力の通り道(パス)を作った。

 そして、そこから本命となる彼女の『天元』──鬼人族のおへその奥にあるとされる器官──にも魔力を伸ばしておき……私はそこに本道となる調整用の(パス)も作っておく。


 よし、拒絶もなく、下準備も済んだ。



「ぅっ!ぅぅ?……うーん?……んぅぅぅっ」



 だが、するとどうやらその瞬間、彼女の方は異変を感じ取ったらしい。


 普段の自然体で無意識な状態との『差異』。それを感じ取る為、人為的に調整された時の不思議な感覚に、彼女はどうやら困惑している様子である。



 まるで羽箒でおへその周辺をこちょこちょと(くすぐ)られる様なむず痒さを覚えるのか、何度も身をよじったり、次いで小さなボールが臍上で弾んでいる様な驚きにお腹を押さえたり、そして最後には髪の毛よりも更に細い針が一気に突き刺さったかの様な刺激に、筋肉が痙攣する様な震えを帯びている……筈だ……。



「…………」



 これは、彼女の感覚を『天元』辺りに集中させるのと、『天元』自体にも私の魔力を慣らしておく事で今から流す魔法に『驚かないで大丈夫だから』と合図を送った状態でもあった。


 なので、後はこのままの状態で魔法を使えば、より深く魔法に対しても集中して視えてくるものがあるだろう。



「──さて、では今から【浄化魔法】を使う。いつもよりハッキリと集中して流す。流れてきたら、自分の魔力で同じ形を辿ってみるといい。そしてその上から更に色を付けるつもりで魔力を変化させる事。私の浄化は暫く継続して発動し続けるから、何度でも同じように形を辿り、自分なりの色を付ける事を試して欲しい。焦らずゆっくり。……そう。そうだ。そのまま、大丈夫」



「うんっ」



 初めての事に不安と緊張もあるのだろう。私の手を握る彼女の力が段々と強くなっていった。

 なので、私はそんな彼女の緊張をほぐそうと、目の前ですーーっと深く息を吸い込み、頬をぷくりと膨らませてみた。


 そして、彼女にも『同じ様にやってごらん』と言う意味を込めて、視線を送る。

 すると、彼女もその視線に応え、同じようにすぅぅぅーと息を吸い込みプクっと頬を膨らませて私を見返してくる。



「…………」


「…………」



 そのまま暫く見つめ合って居ると、どことなく不思議な状況になってしまった様な空気感になった。

 がしかし、これは王都にいる友二人の片方、確か同族の淑女の方が遠い昔に、私に教えてくれた『緊張を解す』為の方法の一つで──



 『……相手の不安や緊張を解す方法?そうねー。わたし以外にはしちゃダメだけど、相手が不安そうな時は、予想外の行動をしてあげると良いと思うの。だから例えばね。聞いて、突然貴方が手を握って来て、頬を膨らませて、わたしにも真似してごらん?って感じで熱心に見つめて来るのよ。一旦、全然意味の分からない事をして油断させるの。そして、貴方はその隙を突いて、急に今度はきりっとした表情のまま正面からわたしの肩に顎を軽く乗せて、そこで頬に息をふううーって残らず全部吐き出すのよ。当然そんな事をされたらわたしも吃驚して慌てふためくでしょ?そう!そしたら次に貴方はわたしにそこで一言、大丈夫だよ。僕がいつも君の事を……って、えっ?そんなの男同士じゃ出来ないから、他のもっと簡単で手短なやつが良いって?……なによ、ダメなの?男同士でやったっていいじゃない。それにこれだって十分に手短でしょ!とりあえず、これで良いから一度試してみましょっ!そうすれば良さも分かるッ!──って、あっ!?待て、逃げるなッ!……くっ、逃がさんッ!メテオっ!メテオッ!メテオオオオオオ!!』



 ──いかんいかん、間違えた。思い出さなくていい方の記憶を思い返してしまったらしい。



「…………」




 だが、暫くそうして見つめていただけでも効果は出たのか、彼女の握る手の力が急にふっと優しくなった。それを機に、私達は一緒にふうーっと息も吐き出していく……。



「少しは落ち着いたか?」


「うんっ」


「そうか。では再び始めるぞ」



 私は再度彼女へと浄化を発動した。

 毎朝使っている浄化とは少しだけ性質の異なる──まるで浄化と言う形状の魔法の型抜きが彼女の『天元』に接触している状態で──魔法が発動し、彼女は今自分の『天元』でその色や形を認識しながらその型をなぞっている。そして、既にその型の中を自分の色で満たそうと頑張ってもいるようであった。


 ……正直、悪くないと感じる。こんなにも早く基礎が出来ているのはやはり素質が高いのだろう。



「良し。一度目はそこまで。……次は、最初から自分で同じように形を作ってみるといい」



 精霊の歌を歌っている時や、『天元』に水の魔素を通そうとした時以上の感覚に彼女は今震えていた。その間、本人は少し虚空を見つめたまま、かなりの時間が経っている様な錯覚を得ているかもしれないが、準備の時からまだ二分も経っていない。



「……できたっ!」


「うむ」




 一度目は発動こそしなかったものの、そこでほぼコツを掴んでしまったのだろう。

 自分だけで魔法の形を作り始めた彼女は、私の補助を殆ど受ける事も無く、二度目にはもう【浄化魔法】の発動を成功させてしまった。


 こればかりは言葉で説明できることではない。感覚として掴み、一度掴んだらもう離さないと言う純粋なる才能の話。



 自分の足をどう動かせば走れるのか、彼女はそれと同じ事を魔法で行っているに過ぎないのだと。



「…………」



 末恐ろしい魔法の才能を、私は目の前にした。

 同時に、私にないものをもつ彼女が、この上なく輝いて見えたのだ。



 ……そうして、この日彼女は魔法使いとして、正真正銘、産声を上げたと言えるだろう。

 この第一歩が幸いに通じていると信じ、彼女という魔法使いの誕生を喜び、その成長を期待したくなった。



 だから私は、その喜びを何らかの形に残したくなって、生まれたばかりの魔法使いである彼女に、『新たなる名』を贈りたくなったのである。



 自らの真名から同じ音を一つ取り、その『名』に彼女の輝きと自由な無邪気さと無限の才能の広がりを願って、私は彼女に『エア』と名付けた。




またのお越しをお待ちしております。

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