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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第121話 新。




 小国と大国の戦争は終わった。

 それによって終わった人生もあれば、新しく始まった人生もある。



 人それぞれに思う所はあるだろうけど、また朝日というのは変わらずやって来るもので、今日も一日頑張って行こうと気合を入れている街の人々の姿に、私達も微笑ましさを覚えた。最初見た時のあの悲愴感はもう彼らのどこにも見られないのである。


 街を暫く歩いていると、そう言えばここの街のギルドに来ることをすっかりと忘れていた事を思い出したので、私達はそちらに顔を出し簡単な報告だけして、この街を出る事にした。この街の料理屋はほぼ制覇したのでエアもだいぶ満足している。



 さてこの先は、元小国の方に向かうか、大国の方へと向かうか、となった時にエアに尋ねてみると少し考えてから『大国側が良い!』と答えた。


 確かに、今小国側は色々とややこしい事になっているので大国側の方が面倒に巻き込まれなくて良いかもしれない。流石にこれ以上は勘弁して欲しい気持ちがあったので、私達はこちらの大陸の内陸部方面へと向かう事にした。


 内陸部のこちらの方が森も多く、何となくいい雰囲気を感じる。

 のんびりと冒険する私達には、こちらの方が合っているだろうというそんな予感がした。




 ──と言う事で、私達は今日もまた歩き始める。

 この先に向かう目的は今の所は何も決まっていない。

 『白石』ランクと言う事で狩りが推奨されていない為に、森の中をひたすら突っ切って、戦闘に明け暮れるような生活を送るわけにもいかない。やれないわけではないが、やらないのだ。

 今はのんびりと歩きながら、エアと一緒に魔法の練習へと励みたい気分なのである。

 ……まあ、途中で羽トカゲとバッタリと出くわしてしまったりした場合は、それは向こうにとっての不幸な遭遇戦と言う事で、倒してしまうのは仕方のない話である。

 だって、やらなければこちらがやられてしまうのだから、その場合は不可抗力である。ギルドもそういう時の狩りは認めているのだ。……ふむ。どこかそこら辺にいないものかな。



 そうして私が少し辺りをキョロキョロとしていると、最近では珍しい事に自分の足で歩いているエアが隣で私の顔を見つめながら不思議そうに首を傾げていた。

 どうやらエアは流石に背中に乗り過ぎて自分の脚力の衰えを心配したらしい。

 まあ、鬼人族がそれくらいで弱くなる程やわではないと思うのだが、本人がそうしたいならと、私もダメとはいわなかった。

 エア的には隣を歩く際は左側が好きらしく、気づいたら私の左腕にエアはピトッとくっついている。



 因みにだが、そんな状態でもエアも私も歩きながらの魔法の練習はちゃんと欠かしていない。

 現在は、同時発動の訓練と威力向上と精密制御を満遍なく一つずつローテーションしながらエアは練習していた。

 私はそれに適宜お手伝いをしながら魔力のスーハ―をしている。今日も『アンチエイジング魔力放出法』は快調であった。



 私は今でも毎日時間が許す限りは魔力のスーハ―をするようにしている。

 心配性な精霊達には『旦那、あまりやり過ぎない方がいいのでは?』などと言われた事もあるけれど、慣れれば無理なく普通にできるようになってしまったので……まあ、問題は無いだろう。



 それに、これをやっている者達だけが知れる感覚だと思うのだが、これをしていると毎日ほんの微量だが自分の魔力量が確かに成長しているのを感じられるのである。

 だいぶ成長したと思う私でも、未だにその成長が止まる事が無いのだ。

 ……それを知ってしまうと、どうにも止めるという発想にまでは至れないのである。



 ささやかだが、出来ればいつまでもエア達にカッコいい姿を、目標になれる様な背中を見せていたいという、そんな小さな夢も密かに持っているのであった。



 私が魔法を使う際、大体は魔力のスーハ―をしながらその余力の魔力を使って感知などを行っているのだが、鋭い者ならその時こう思ったかもしれない……『あれ?何故、身体にある魔力を全部吐きだしているのに魔法が使えるんですか?』と。



 吸収している時はまだしも、『全部吐きだしてしまった時なんかは魔法が使える魔力なんか残ってないのでは?』と、『もしや、常に少しは残しているのか?』と。

 そういう微妙な『差異』に気付き、疑問を抱ける者は、きっと良い魔法使いになれると私は思う。



 ……実は、その答えは、少し特殊な放出の仕方にあった。

 私は、エアや精霊達が気づけぬもう一つ別の『差異』へと、自分の魔力の塊を圧縮した球体──これを私は『オーブ』と呼んでいるが、その透明で固い硝子の様な物体を──私は静かに宙へと浮かせた。これの大きさはだいたい片手の掌に乗るくらいで、そこまで重さもない。



 これは『差異』至った時に得た解の一つ。私の魔法使いとして秘奥でもあった。

 大樹に居る時には、森全体へと自分の魔力を広げて放出して、吸収する時はそれをそのまま戻していたのだが、地味にそれをやると周囲の環境に与える影響が大きい事が分かった。

 精霊達によると、これの成果で空間の魔素濃度が高くなり、大樹の森は他よりも特別な場所になっているのだとか。


 ただ、簡単にやっていたように思うかもしれないが、あれの技術は実はかなり難度が高い。

 自分の身体から離せば離す程にその魔力の制御が恐ろしく難しくなるからである。



 それに、あの森ならば自分の庭の様なものなので、何があっても私だけで対応できたが、こうして旅をすることになると、そこら中に影響を撒き散らしてしまっては対処できなくなると思い、ずっと他の方法を模索していたである。



 そこで見つけたのがこの『ドッペルオーブ法』であった。



 自分の身体から離すと難しいのなら、単純に身体の傍で制御する事。

 そして、広範囲に出来ないなら、放出する場所を極小範囲に限定する事。

 以上の二点に気を付けて、身体中の魔力をオーブの様な状態に圧縮するように放出し、全部放出できたら今度はそこから解凍しながら吸収して、自分の身体へと戻していたのだ。


 そして、これが実は少し特殊な性質を有しており、完成した『オーブ』は感覚的にはもう一人の私になるのである。


 これによって、私は絶えず魔力の吸収と放出を行ないながら、吸収している時は自分の身体から魔力を用いて魔法を使い、放出している時はこの圧縮してある『オーブ』から魔力を引き出して魔法を使っている、という訳であった。


 最初は、この切り替えがかなり難しく難儀したが、それも今では無意識にできるようになるまで慣れさせる事が出来るようになっている。



 正直、この方法を使う難しさと比べたら、数日前の万を超える兵士達を眠らせられたのも、浮かべたのも、児戯に等しく感じる程であった。

 あれはそれを行なえるだけの魔力があって、それを精密に運用できる技を持っていれば誰にでも出来る事であるからだ。



 いずれエアも『天元』の効果で訓練すれば段々と魔力総量が増えていく事だろう。

 だからその時、その運用に困難する様になったら、この方法はエアへも伝えたいと考えている。……それまではまだ秘密だ。



 そんな訓練を重ねながら、こちらの大陸に入って感じるのは暑さの他に木々の違いが目に付いた。

 眺めているだけで力強さを感じると言うか、なんと言うか懐かしい気持ちになってくる。



「……ん?」



 すると、私は自分の魔力の感知内に少しの違和を捉えた。

 そして、その感覚に私は少しだけ胸の熱さを感じる。


 これは、森に住む者達特有の【結界魔法】の感覚だった。

 恐らくはこの大陸に住んでいる『里』の者達の施したものだろう。

 これは森に住む者にしかわからない。生まれ付いての性質みたいなものだ。



「……あれ?あそこなんかある?」



 暫くして、エアもその感覚に気付いたようで不思議そうに私の顔を見上げて来た。

 私はあれが何なのかをエアに説明すると、エアはかなり興味深そうに見つめている。……行きたいのかな?


 恐らくは拒否はされないだろうとは思うが、その土地その土地によって特色は様々であるから、入れて貰えない場合も少なくはない。

 それでもエアが興味あるのであれば、少し尋ねてみるのは面白いかもしれないと私も思った。



「行ってみるか?」


「いいのっ?ダメって言われない?」


「そうだな。言われたら、その時は他に行けばいい」



 私達は旅人で、冒険者だ。少しだけ宿を借りる位ならば、そこまで悪くも言われないだろう……たぶん。


 そうして私達は、『言祝(ことほぎ)』と呼ばれる集落へと行ってみる事にしたのであった。




またのお越しをお待ちしております。

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