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第9話 貫きとおす意志

やばいやばい、エタるところだった

「てめえ、何でこんなに魔力もっていってんだよ! コキュートスの数倍ってどういう事だ!」

「現世に召喚されるには必要なんだよ。その魔力量は僕にはどうにもできないのさ」

「対して役に立ってねえだろうが! というよりも、前回よりもかなり多めに持ってかれた気がするぞ!」

「前回は気づいてなかったんでしょ? 別にいいんじゃない、余ってそうだし。だいたい、僕を召喚するだけしておいてレイクサイド郊外の荒野に置き去りにしたでしょ? それから5年以上も放置とかありえないんですけど」

「5年もレイクサイドに住んでたんなら名乗り出ろよ! こっちは知らんうちに大量の魔力を吸われてたんだからな! この寄生虫め!」

「寄生虫ってなんだよ! そっちが勝手に召喚したんじゃないか! だいたい、契約はきちんと行ったよ!」


 冒険者ギルドの酒場から帰り、宿を取ることになった。それまでにマリはデザイアの話を信じ込んでしまったようで、いろいろと根ほり葉ほり聞かれた。さらにはトイレの個室に2人で入ってた理由についてまででっち上げた。最初は複雑な表情をしていたマリだったけど、なんとか誤解は解けて新たな誤解に書き換えることに成功したようだった。ちなみに他の人には聞かせられない情報を僕が取ってきたという事で信じてもらえるとは思わなかった。隣でレオンが爆笑している。ニコルさんはよく分からない。

 そして宿に帰り、3部屋取る事になった。デザイアは僕が、レオンはニコルさんが護衛するという事で話が付き、マリは一人部屋だ。つまり、今はデザイアことロージー=レイクサイド契約主と二人きりの時間である。


「それに非常にまずいんだよ。お前の契約の時に使ったというか、眺めてたお宝がなくなったって騒ぎになった事件があってな」

「そりゃ、君が羊皮紙の上に並べて僕を呼んだから」

「そんなつもりねえよ! つまりはお前の契約で消費しちまったって事じゃねえか!」

「そりゃ、もちろん。おいしくいただきました」

「あれ、いまだに俺が疑われてるんだからな! 当時は身に覚えがなかったから知らんぷりできたけど、今お前みたいな特殊な召喚獣に出てこられるとあれの疑惑が再燃する事になるだろうが!」

「知らないよ、僕のせいにしないでよ」

 まさか、この状況でそんな事を思っていただなんて。そんな事よりも僕が君の召喚獣だったって事に何か感じることはないのかい?

「どうすりゃいいんだ!? あれだけのお宝を弁償しようにも無理だし、ばれたら母上に殺される!」


 デザイアがベッドの上で頭を抱えている。完全に自分の事だけ考えてるよ。これはちょっと説教だ。

「待ってよ。デザイア、君は母上に怒られなきゃなんでもしてもいいと思ってるのかい?」

「い、いや、そんな事はないけど……」

「この状況で君がしたい事、しなければならない事、してはいけない事、色々あるよね?」

「お、おう」

「まず、したい事は置いておこう。これは義務を果たした者だけが口にする事を許される。やる事やらずに権利だけ主張するのはよくない」

「お、お、おう」

「そこで君のやらねばならない事はなんだ? それは次期領主としてレイクサイドのために働き、そして自分を高める事なんじゃないのか? 逆にしてはいけない事はなんだ? 逃げることじゃないか?」

「…………」

「何故君の母上が君を叱ると思ってる? 考えたことがあるか? 君は、あの「大召喚士」ハルキ=レイクサイドの息子であり、父親の名に恥じない人物にならねばならない。回り道をしている暇があるかい?」

 あっ、落ち込んで布団の中に入っちゃった。


 ***


「だってよぉ、父上の名に恥じない人間ってなんだよ。そんなの父上以外に知らねえよ……」

 翌日、部屋に籠ってるのかと思ったけどお腹がすいたという理由で食堂に出て来たデザイア。しかし昨日の説教が思った以上に効いているようだ。

「さあ、ヒューマに何を説教されたかは知らないけど、ロージーさん……いやデザイアがこれからやる事は決まってるんだから、その準備が必要だな!」

 タイタニス……いや、レオンが言う。何もかもお見通しなのではないかと思うが、それでも付き合ってくれるようだ。そして、そのやる事が決まっているというのが問題なのである。


 昨日の夜、僕が召喚獣の異世界に還ってる最中にデザイアはその場を乗り切ろうとして壮大な嘘をついた。それは僕がロージーの護衛というのも入っていたけれど、旅の目的という点で引っ込みがつかなくなってしまうほどのものだった。

「何せ、天災級の魔物を狩る必要がありますから!」

 そう、僕の召喚の契約に使った素材を手に入れる事を旅の目的として話してしまったのだ。マリなんかは天災級の魔物と戦うという使命を与えられて昨日は一睡もできなかったようだし、レオンはこれを冗談だと考えている。そしてデザイアはその素材を回収する事で昔の失態をなんとか挽回しようとしたのだ。マジで勘弁してよ。

「いや、今のままじゃ天災級の魔物には踏みつぶされるだけだよね」

「そうだ! で、ヒューマはそれをどうやって乗り越えるつもりなんだ?」

 この……レオンが意地悪く言う。それならばこっちにも考えがあるよ。

「フラット領におびき出してフラット騎士団がやられた頃に出ていくってのはどう?」

「フラット領次期領主の名において却下だ」

「…………」

「今のロージー様、いえデザイアの実力ってどの程度なのでしょうか?」

 そんな中冷静に質問をするマリ。目の下にはクマができてしまっている。あまりよく眠れられなかったようだ。

「たしかに戦力の把握は重要だ。それでロージーさ…デザイアはどのくらい強いんだ? 貴族院の時の実力から少しは成長してるだろうから」

 さて、どうだろうか。

「言っとくけど、召喚魔法は召喚ができればそれでいいってもんじゃない」

 あれ? デザイアが何か真面目な事を言い出した。

「母上にしこたましごかれたから、総魔力で俺に勝てる奴なんて父上くらいしか知らないけど、というよりも昨日から父上も超えたと思ってるけど、魔法は使い方だから」

「なんで昨日なのかってのは分からんけど、要は経験が足りないって事ですかね!」

 レオンが楽しそうに言う。これは……どの方角にもっていこうとしているんだろうか。

「じゃあ、とりあえず天災級の魔物はまだ無理としてもそれなりに強い魔物を狩る所から行きましょう」

 おお、レオンまでまともな意見を言うようになった。

「というわけでフラット領に戻りましょう。どうせ狩るんだったらフラット領の魔物からです」

 いや、違った。レオンはタイタニスだった。



 こうして僕たちはレオンのすすめでフラット領の冒険者ギルドに戻ってきた。ここから四人のパーティーで冒険者としてやっていこうという話に決まったようだ。ちなみにニコルさんはフラット領に戻る間に置き去りにされた。そりゃワイバーンから途中で落とされたら走るしかないもんね。レオンにいいように誘導された気もしないでもないけど、方針としてはいいと思う。ただし、どこで天災級の魔物に挑む前に辞めさせるかがポイントだね。


サイドストーリーばっか書いてんじゃねえよ! って声が聞こえてきそうだな!

しかし、一つ言っておく!

あれはサイドストーリーに見せかけて主人公が主人公だ!(意味不明)

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