第8話 偽りの密命
冒険者ギルドに設置された酒場は混みあっていた。酒場の喧噪は、隣のテーブルの冒険者が一人急にいなくなっても気づかないほどである。例え、それが若干光りながらであっても、消え去ったあとに装備がガチャンと音を立てて転がったとしてもだ。基本的に食器は宙を舞うものだという理由で、ここでは割れにくい木製のものを使用する事がほとんどであるという。
「ちょっと、ロージーさん。何やったんですか? ヒューマが消えちゃいましたよ」
「待てよ、タイタニスス。お、俺がな、何かしたんかかかか?」
「え? やってないんですか?」
「や、や、や、やってねえよ。俺はお前のい、言う通りにこのゆ、ゆ、ゆゆ指輪をはめただけででで」
挙動不審なロージー。そしてあまりの驚愕っぷりに意識を失いかけているマリー=オーケストラ。
「か、完全に目の前で消えましたね。しかも、装備を一瞬にして脱ぐとは……只者ではない」
若干天然気味な発言をするニコル。
しかし、誰一人として状況を理解できている者はいなかった。魔力の流出が変わり、なんとなく昔の事を思い出してヒューマの正体に気づいてしまったロージーを除いて……。
のちに「極めしもの」ロージー=レイクサイドは父親である「大召喚士」ハルキ=レイクサイドにこの時の事を語っている。そして、そのあと拷問に近い説教をくらっている。
「考えろ、考えるんだロージー=レイクサイド。お前はこんなピンチはいつも乗り越えて来たじゃないか。あの母上の子供に生まれたお前に越えられない試練なんてないんだ。母上の教育に比べたら、こんなのは試練とは言えない。思い出せ、母上のごうも…教育を。どうやって乗り越えて来たんだ? いつも乗り越えるときは……あ、だめだ。母上の機嫌が治るまで耐えるだけで何もしてないわ…………」
「ど、どうしたんですか、ロージーさん? いきなりブツブツ言い出して?」
「い、いや、なななな何でもないぞ、タイタイタニス」
ヒューマが送還された事で10年ぶりに魔力の回復量がもとに戻り、ただでさえ総魔力は人の数倍ある体が正常に戻ることによって魔力のみなぎり方が尋常でなくなった事を自覚して、やはりヒューマが自身が召喚していた召喚獣であったという事を確信してしまう。指輪をそっと外す。魔力的な感覚が鋭すぎる。魔力が常に消費されていない状況が清々しすぎて、舞い上がってしまいそうな反面、もし、あの時の事件が召喚契約だったならと急に思い出された記憶をたどると、国宝級のお宝が何個も紛失した事件の犯人が自分であったという事になるために、取り返しのつかないという思いで次にするべき行動が思いつかない。
「はっ! ヒューマ!! どこ行ったの!?」
ここでマリー=オーケストラが意識を取り戻す。
「ロージー様! ヒューマはどこに行っちゃったのでしょうか!?」
「さ、さ、さ、さあ? どこ行ったんだろうかにゃ」
「にゃ?」
これはまずいと思い始めたロージー=レイクサイド。なんとかしてあの宝物庫に忍び込み財宝を盗んでいったという事件の犯人にされないためにもなんとかごまかさなくてはならない。そう考えた「極めしもの」が後に「極めしもの」と呼ばれる事になる旅の目的がここに出来上がるとは誰にとっても予想外であり、後の歴史書にも語られていない事である。
「こ、これは…………ついにこの時が来たか……」
「どうしたんですか? ロージーさん。語り始めちゃって」
「実は、俺は一つの密命を父上から受けている」
「えぇ! 聞いてませんよ!」
「マリー、だから密命だと言っているだろう?」
ゴクリと息をのむマリー=オーケストラ。ロージーがここまで真面目に何かを語ることなどなかった。もしかするとこれは父親同様に成人の儀が終わった後の「覚醒」というやつではなかろうか? という思いが彼女の中にあったとかなかったとか。
「ヒューマは俺の護衛だ。しかし、それはその辺りにいる魔物からではなく、ある組織から俺を守ってくれている」
「はい? そんなのレイクサイド領を上げて潰してしまえば……」
「そして、ヒューマはその組織の気配を察すると、瞬時にその構成員を抹殺しにいくように訓練された男なのだ!!」
「えええぇぇぇ~!? ヒューマが!?」
「うむ! だから、もしかすると近くに組織の構成員がいるかもしれない。警戒を怠るな。ヒューマがやられたらこちらに襲いかかってくるぞ」
「なんですって! ロージー様! 急いでここを出ましょう!」
「いや、むしろここの方が安全だろう。ここならば大規模な攻撃は仕掛けてこれない。ヒューマを信じるんだ!」
よく考えれば孤児院にいるころからヒューマを知っているマリーがこんな嘘に騙されるはずがないのであるが、マリーは疑う事をしらない人物だった。そのせいで婚期が遅れている。
「ロージーさん、あまりにも話が……」
全く信じていないタイタニス。しかし、途中まで言いかけて面白そうだという事で放置している。
「なるほど、だから初心者装備を脱いで……」
そしてニコルは完全に天然だった。他に上級者用の装備を用意していたとでも思っているのだろうか。
(いや、まじでこの後どうしよう…………)
ロージー=レイクサイドが完全に思考を放棄するまでにあまり時間はかからなかった。
***
「って、召喚獣の異世界からでも契約主の事を覗けたりするんだね」
「えぇ、契約主が拒否してなかったらですが」
「つまり、契約直後にこうしてれば僕はあんなに苦労しなくても良かったのか……」
はやく教えてくれよ。ヒューマンである僕は野生の勘ってやつが全くないんだから。教えてもらわない限り、理解する事はない。その代わり学習はできるよ。
「しかし、これはまたしても盛大な嘘を吐いたよね。まぁ、タイタニス様は信じてないみたいだけど、まさかマリとニコルさんが信じちゃうとは思わなかった」
「ふむ、私はそちらの事は覗けませんので、さっぱり分かりませんが、心中お察しします」
イフリートが慰めてくれる。しかし、デザイアはこれからどうするつもりなんだろうか。
「僕はこれで契約主が分かったから当初の目的は終了だ。まさかデザイアが契約主だなんて予想外なんだけども」
そして、なんで僕が召喚されたのかが分からなかった。召喚獣は召喚される時に目的が伝わってくるものらしい。しかし、ヒューマンである僕には伝わらなかったようだ。なにが究極だよ、最低の間違いじゃないのか? だいたい、戦闘力なんてほとんどないに等しかったじゃないか。なにができる召喚獣なんだろうか?
「あれ? 呼ばれてる?」
するとデザイアから召喚されるようだった。時間の感覚がない召喚獣の異世界では召喚までの時間差すら自由に調整できるからあわてなくていい。状況を把握してから出ていく召喚獣がほとんどだという事だった。だから召喚したてでも契約主の要望に応じて瞬時に動けるんだね。
「また召喚してくれるのかな?」
こうして僕はデザイアに再度召喚された。召喚される事は嬉しい事なんだ。召喚獣は必要とされる事に喜びを感じる。そして契約主からもらう魔力を感じると心が満たされる。はやく現世に出たかったから、状況の把握なんてしなかった。しかし、次回から必ずしようと思う。
「デザイア。なんでこんな所で召喚したの?」
「うるせえよ! 一人になれる場所なんてここしかねえだろ!」
酒場のトイレの個室から二人で出て来たのをマリに見られた時は死のうかと思ったんだけど……。
あなた! ついに不定期更新ね! これでいつエタっても文句言われることはないわ! 感想もこないけど。
…………あれ? どこ行ったのかしら? さっきまで投稿しない日があったからソワソワしちゃってたのに……。
え? どうせあいつの事だろうから毎日投稿すると思ってたって?
そんなわけないじゃないの!
すでにF〇15のプレイ時間が40時間に届きそうだってのに、小説書いてる時間なんて仕事中だけよ!
…………そうね、仕事はきちんとするべきね。




