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第66話 頼みたいこと

 ニコラウスの放った雷が槍を避雷針代わりに紅竜の体に突き刺さり、内部から内臓を破壊していく。魔力の通った鱗で全身を護っている紅竜にとって、この攻撃は予想外であろうし、非常に効率がいいと思われた。実際に、サンダーを受けた紅竜は激痛に身もだえている。


「まだだっ!」

「サンダー!!」


 ハルキ=レイクサイドの号令とともにニコラウスはサンダーを連射し、その度に雷が紅竜を焼いた。

 そのうち、動きがなくなっていく紅竜。肉の焼ける臭いが辺りに充満した。ぜぇぜぇと魔力のほとんどをつぎ込んでサンダーを放ったニコラウスがペリグリンの上に倒れこむ。


「や、やったか?」


 タイタニスがそう言った。あれはフラグという奴だろうか。僕がタイタニスに突っ込みを入れる前にハルキ=レイクサイドがめっちゃタイタニスを睨んだ。



 こういう場合に嫌な予感というのは当たるものである。

 ピクリと動いたかと思うと、次の瞬間に紅竜の内部から魔力が放出された。僕が吹き飛ばされたやつである。それはほんの数秒だけだったが、確実に紅竜はまだ死んでいない事を示した。

 それとともに突き刺さった槍が溶けて外れる。周囲を飛んでいたタイタニスとニコラウスを乗せたペリグリンたちがその魔力に耐えきれなくなり、遠くまで逃げていく。上空に残るのはハルキ=レイクサイドとテツヤ=ヒノモト、そして僕、少し離れてロージーとヘテロ=オーケストラを乗せたペリグリンだった。


「化け物か……」

「ダメージは蓄積されたはずだ!」


 魔力を放出しきった紅竜は満身創痍という言葉が似あう状態だった。だけど、その瞳に怒りが消えることはなく、隙なく僕らを睨み続けている。動きも少しは鈍るかと思ったけど、そこまでではない。警戒が解けるわけではない状況で、僕もテツヤ=ヒノモトも満身創痍であり、テト=サーヴァントは生存すら分からない。


「ちぃっ! 召喚!」


 ロージーの本気とは言わないが、それでも常人のそれを大きく上回る魔力がハルキ=レイクサイドから放たれた。ゴッドの召喚である。


『紅竜よ、召喚獣の世界に帰るがよい』


 ここに来てハルキ=レイクサイド最強の召喚獣の登場で、紅竜はそれを最大の脅威と判断したようだ。ゴッドが恰好つけているが、僕にはそれにツッコむ余裕はない。僕はまだ少ししか動くことができないほどにロージーの魔力が減ってしまっている。


「へっ、こうなりゃガチンコってやつだな!」


 同時にテツヤ=ヒノモトが紅竜へと斬りかかった。だけど、その刀は胴体を貫くことなく紅竜の爪に阻まれてしまった。

 その隙にゴッドが魔力を集中させた光線を放つ。一般的な魔獣であれば一瞬で蒸発するそれを身に受けても、紅竜の鱗は耐えることができた。あの鱗をどうにかしないといけない。あれを貫けるのは僕だけだ。


 尾でテツヤ=ヒノモトが吹き飛ばされ、ゴッドと紅竜との距離が縮まる。ゴッドには紅竜の爪や顎での噛みつきを防ぐ手段がないが、近づけば近づくだけゴッドの攻撃は威力を増すはずだった。


「ロージー様、落ち着くッス。魔力が回復していない今は単なる足手まといッスよ」

「ヘテロ! 止めるな! くそぉ!!」


 ロージーは嘔吐しながらも僕へ魔力を送ろうと必死だった。明らかに魔力枯渇の症状が出てきている。魔力ポーションを飲みながら、少しでも力になろうともがいている。だけど、そんななけなしの魔力で僕の第三形態は維持できそうにない。


「諦めるな!」


 トールがまたしても大量のアークデーモンを召喚した。だけど、トールの召喚するアークデーモンでは紅竜に有効な攻撃を加えられない。それは他の召喚獣でも、例えテト=サーヴァントと同じくシューティングスターを召喚したところで同じだろう。


 煩わしい虫を振り払うかのうように紅竜はアークデーモンたちに目もくれずにゴッドへと向かった。ゴッドの繰り出す光線で鱗の一部が焼かれたようであったが、動きに制限はない。


『おのれ!』


 そして紅竜の爪がゴッドを捕らえる。更には刺さった爪で地面に固定して、紅竜はゴッドに噛みついた。


 強制送還されるゴッド。ここにおいて最大戦力とも言える召喚獣の離脱は明らかに士気の低下へと結びついた。


「くそったれが!」


 復活したテツヤ=ヒノモトが、ロージーを後方へと下げたヘテロ=オーケストラが紅竜へと斬りかかった。だけど、その鱗を貫くことはできない。その内、二人まとめて尾で吹き飛ばされる。

 飛ばされた先では、ヘテロ=オーケストラが起き上がってこない。テツヤ=ヒノモトも立っているのがやっとの状態だった。


「ヒューマ……」


 気づくとロージーが近くまで来ていた。


「ロージー」

「すまないな、俺がこんなんで」

「馬鹿を言うな、君以外にこれだけの魔力を送れる人間がいてたまるか」


 ふらふらになりながらもロージーはこちらに近づいてきて、僕の肩に手をおいた。

「なあ、頼みたいことがあるんだけど」

「なんだよ、今さら」



 こんなに真面目なロージーははじめてだった。僕らはいつでも笑い合い罵り合い、支えあってきたはずだった。

 なのに、何でそんな顔をしているんだ。


 僕はロージーの召喚獣だ。彼が何を考えているのか、分かる気がした。


「あのさ、ミセラとノアの事を…………」

「あぁぁぁぁぁああああ!!」


 馬鹿を言うな。僕はロージーが言ってる事を聞きたくなくて叫んだ。



 僕は嫌だ。幻獣化だなんて。






茶番は品切れだ!

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