第65話 大召喚士
「待て……」
どこかをやられたらしい。そしてロージーはまだその魔力を回復しきっていない。そのために僕が飛び立つのは遅れた。というよりも飛び立てなかった。
紅竜はロージー達が乗ったペリグリンへと向いて羽ばたこうとしている。その速度はヘテロ=オーケストラであっても一人乗りのペリグリンでどうにか追いつかれずにここまで誘導できたくらいに早い。ましてやロージーを乗せた状態で逃げ切れるとは思えなかった。
テト=サーヴァントを乗せたペリグリンは墜落したようだ。リリスも強制送還されていた。
「やめろ……」
嘆願に近い声が僕の口から漏れ出た。ロージーがやられる未来が見え、不安が僕を押し包んだ。
紅竜が大きく息を吸った。おそらく照準はロージーたちの乗ったペリグリンだろう。
間に合わない。
もし誰かがロージーたちの間に何かの召喚獣を召喚したとしても、ブレスはそれを易々と貫いて行くだろう。騎士団たちは後方にさがり、この場にいる数人では量も足りない。
どうすればいい、そして僕には何もできない。
僕は究極の召喚獣だったはずだ。そして、それに見合うだけの魔力ももらっていたはずだった。自分が増長していたという事に気づくのが遅すぎる。そして気づいたとして、何もできない。
自分を恥じるしかない。召喚獣の身でなければ、泣いていたかもしれない。それだけ、僕は絶望した。
「やめろ……」
奇跡が起こることを、祈った。僕は無力だった。
そして、奇跡が起こった。
「アークデーモンズ!」
僕の視界の先には指環を外したトールがいた。無数のアークデーモンたちが紅竜とロージー達の間に召喚される。ブレスは大量のアークデーモンたちに阻まれ、少しだけ勢いが落ちた。
そして、その隙にロージーを乗せたペリグリンは何とか軌道をずらしてブレスを回避することに成功したようだ。
「トール!」
もうだめだと思ったけど、こんな時に登場するのはずるいと思う。約束を破ってしまったというのは本来ならばダメだけど、自分で何も考えられなかったあいつが、ロージーたちを助けようと思って行動した。後で怒られる時は一緒に怒られてやろうと思う。
そして、ブレスが突然止まった。
「はっは、よく頑張ったじゃねえか……まあ、もうちょっとゆっくりしていけよ」
上空から降り注いだ黒い斬撃。若干厨二病臭いけど、僕はあえてその場面をそう表現したくなった。その魔人族はいつの間にか上空まで来ていたペリグリンから落下する形で刀を抜くと、落下の力を余すことなくその刀に乗せて紅竜の右の翼を切り裂いた。あの、堅い紅竜の翼をである。
「テツヤおじさん!」
「おう、ロージー。後は大人に任せておけ」
地面にクレーターを作って着地すると、返す刀で紅竜の反対の翼に切れ込みを入れる。そして何てことないかのようにロージーに向けて言ったのだった。
「神殺し」テツヤ=ヒノモト。ハルキ=レイクサイドからは彼もモニターの一人だったと聞いている。そしてこの世界で最も順応している一人であり、最強の剣士と言ってもいい。だけど、あんな性格だから詰めが甘い。これもハルキ=レイクサイドから聞いていた。
「あとは俺がこいつを切り刻んで……ぶべらっ!!」
本気で振り抜いた紅竜の尾がテツヤ=ヒノモトを地面に叩きつけた。普通の人間や魔人族であっても、かなり鍛えられた人間や魔人族であっても、あの攻撃を受けて生きていられる者はいないと思う。
しかし、テツヤ=ヒノモトは頑丈であり、なんでか生き残っていた。
「いててて、こりゃ確かにやべえな」
地面にめり込みながらそう言う様はさながらギャグ漫画である。だけど現実的にそれを見て笑える状況ではない。その攻撃は恐怖でしかなく、それに耐えるということは到底信じられるものではなかった。今の状態の僕ですら耐えることができるかどうか分からないのだ。
しかしいくらテツヤ=ヒノモトが頑丈だからと言っても限度がある。
「あ、やべ」
飛べなくなった紅竜はテツヤ=ヒノモトに止めを刺そうとした。眼前に開けられる紅竜の顎と、息を吸う動作。ブレスの予兆を感じ取るも、テツヤ=ヒノモトはめり込んだ地面から脱出する間もない。
「召喚」
しかし、ブレスが吐かれることはなかった。テツヤ=ヒノモトの後ろは一人の男がペリグリンに乗って飛んできている。地面にめり込んだテツヤ=ヒノモトの腕を取ると、ペリグリンの上昇に合わせて引き抜いた。
「ブ、ブレスは!?」
「召喚獣を研究したことがある。魔獣も同じなんだが、何故火が吹けるのかを解明するのには時間がかかった」
その男、「大召喚士」ハルキ=レイクサイドは言った。僕が究極の召喚獣で聴力がいいから聞き取れているけど、この声は僕の他にはテツヤ=ヒノモトにしか届いてないんじゃないかと思う。
「体内にある火炎袋みたいな器官があってな。口の中の発火装置に強く吹きかけることでブレスになるんだ。だから、あいつらも体内を鍛えているわけじゃない。むしろ、召喚獣も魔獣も幻獣も、体内は同じだ」
「で、どうするんだ?」
「ロージー達が弱らせて、お前が飛べなくしたんだ。ブレスを封じたからもうあれはデカいトカゲだ」
よく見ると、紅竜の口の中に一匹のノームがいた。ハルキ=レイクサイドの言う発火装置なのか火炎袋の出口なのか分からないが、そこを塞いでいるらしい。巧く潰されないようにしていて、紅竜がなんとかかみ砕こうと何度も咀嚼のような行動を取るが強制送還されずに動いている。
「さあ出番だ!」
ハルキ=レイクサイドが叫ぶと、後方から数頭のペリグリンが飛んだ。その上にはタイタニス
とニコラウスと、ノアが乗っている。
「こらくそ親父! 何をやらかすつもりだ!」
復活したロージーが魔力ポーションを飲みながら自分の召喚したペリグリンでそれを追ってきた。徐々に僕にも魔力がもどってきて、動けるようになる。
「世代交代だと言っただろうがバカ息子! さあ、やれ!」
「「ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」
叫びで答えたのはロージーではなく、タイタニスとニコラウスだった。タイタニスを乗せたペリグリンは口に槍を加えている。あのペリグリンはハルキ=レイクサイドが召喚しているのだろう。タイタニスとニコラウスの意志には反して紅竜へと向かって行った。
「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬってぇぇぇぇぇええええ!!!!」
タイタニスが柄にもなく絶叫している。紅竜の腕をかいくぐると、タイタニスを乗せたペリグリンは紅竜の背中に槍を刺した。あれは僕が背中にしがみついた時にできた傷の部分で鱗が剥げているところだ。
「おし! ぶちかませ!」
「は、はいっ!!」
ニコラウスも命令に従うだけであるが、紅竜の近くの上空で魔力を練りだした。
「サンダー!!」
そうか、避雷針である。紅竜は魔力を帯びた鱗に覆われていて、外からの物理攻撃も魔法攻撃もほとんどが効かない。その魔力を上回る攻撃でなければならないのだ。
だが、避雷針を介したサンダーであれば体内に通電させてダメージを負わすことができる。
「グギャァァァァ!!!!」
紅竜の絶叫が響き割った。もしかしたら心臓が止まっているんじゃないのか?
ハルキ=レイクサイド、さすが過ぎる……。
うははぁ~いv(・∀・*)
今日もストレスマックス紬でござい、ごきげんよう。
プロット逸脱はまあいいとして、書き貯めなしってのは少しまずいかもと思いつつ、全く貯めることなく吐き出し中でござい。
今日は職場の人とご飯行くから明日の早朝は何も投稿されてないかもしれんけど、このままの勢いで書いて行きたいですなヾ(´▽`*)ゝ
ちなみにあと数話の予定でしたが、逸脱でそれも分からん状態に…………。
あー、ダイエットしなきゃ……。




