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第64話 未来視

 歴史書に記載されている極めし者とデリートとの壮絶な戦いというのは数行でしかない。


「レイクサイド領における領主ロージー=レイクサイドはレイクサイド騎士団を率いてカヴィラ領北部の平原でデリートとそれが召喚した紅竜および多数のアークデーモンを打ち破った。レイクサイド騎士団に被害は出たものの、最終的にロージー=レイクサイドは紅竜を降し、デリートをその場で討つことに成功した。」

 記載内容は以上である。他の領地および王国の歴史書を紐解いても同じような内容しかない。そのために後世の人間は、演劇「竜の背に乗った花嫁」の内容を強く覚え、いつの間にかそれを正史であるかの如く語り継いだ。レイクサイド騎士団のほとんどが太刀打ちできず、「大召喚士」ハルキ=レイクサイドや「神殺し」テツヤ=ヒノモトすら敗れる中、最後に立ち上がり究極の召喚を行うロージー=レイクサイドを皆が知っている。


 一方で正式な歴史書ではない記録というものがある。我が家系に伝わっているものもその一つであるが、この「カヴィラ領北部の戦い」は厳重な情報統制が敷かれており、当時の最精鋭のみが戦闘に加わることを許された節があった。当時、ハルキ=レイクサイドの命令の中に紅竜へは一般的な攻撃が効かず、かなりの実力があると認定されたものだけが招集されたようである。この戦いに負ければ世界が滅びると、当時のレイクサイド騎士団とその家族は認識していたが、当然の如く戒厳令が敷かれていた。

 とは言え、本来は戦いというものは数が多ければ多いほどに優勢となりやすいのが常道である。しかし、当時の領主であり「極めし者」と呼ばれる若きロージー=レイクサイドが、そして「大召喚士」ハルキ=レイクサイドが何を考えてこの戦いに臨んだのか、その目的を知るものはもういない。


 一つ、仮説がある。それは紅竜はデリートが召喚したものではないのではないかという仮説だった。理由は数多にあり、当時の記載を収集した結果から導かれたものだと思っていただければよいが、紅竜の召喚はそれ以降誰もしていないという事である。

 硬くぶ厚い濃い赤の鱗に禍々しい角。その巨体から想像できるものとして、一つの召喚獣が浮かび上がる。私の悪い癖であり、証拠もなくこのような事を書き連ねるというのは本来ではしてはいけない事だと思われるが言わずにはいられない。

 紅竜とは、レッドドラゴンの幻獣化ではないかと筆者は考えるのだ。であるならば、その召喚獣を幻獣化したのは誰なのか、そしてそれが何故人類と魔人族に敵対し、デリートに味方したのか。

 謎は尽きることはない。それが歴史というものである。


-「新説 レイクサイド史」タークエイシー=ブックヤード著 より抜粋―




 ***




 土埃と表現してよいかどうか分からない規模のものが少しずつ晴れていく。数えるのも無理なくらいのアイアンゴーレムが投下され、第一騎士団の多くが赤風の第四騎士団員に非戦闘地域まで連れて行かれるのを送り、僕らは大きく窪んだ大地の中心部を睨み続けていた。


「さ、さすがにやっただろう。これを耐えることができるわけがない」

「もし耐えていたらどうするんだよ」


 ロージーの楽観的とも言えない言葉に、つい否定的な言葉で返してしまう。だけど、僕の直感が教えていた。奴はまだ生きていると。


「ロージー、生きているものとして行動しよう」

「ヒューマの言う通りだ。警戒を怠るなよ」


 テト=サーヴァントが魔力ポーションを飲んでリリスを召喚した。シューティングスターを再召喚したとしても足止めにしかならないと判断したのだろうか。そしてその後ろにはヘテロ=オーケストラの姿も見える。両者ともにペリグリンに跨っていた。剣を抜いていないのは機動力が少しでも落ちないように、つまりは紅竜の一撃をくらわないようにとの判断だろうと思う。


「土埃の周囲にはまだ出てきてないッスね」

「そもそも、隠れる必要もないかもしれない」


 さすがに歴戦の将軍たちは油断していない。


 

 ただ、最初に沸き起こったのは土埃の中心部に発生した竜巻のような風だった。

 それが紅竜が翼をはためかせただけであると気づいたのはブレスの予兆を感じ取ってからである。


「避けろっ!」


 叫んだのは誰だったろうか。第一騎士団が総力を挙げて魔力が尽きるまで召喚し続けた大質量が、まるで効いていないのではないかという動きだった。実際にダメージがゼロということはないだろうが、その動きを遮るほどのものではなかったというのを紅竜がその動きで証明している。


「ロージー!」

「ああ!」



 でも、僕らは言葉がいらないほどに集中し、信じあっていた。僕の思ったタイミングでロージーがその魔力のほとんどをつぎ込む。いつの間にかヘテロ=オーケストラのペリグリンへと乗り移り、僕に全力をかけていた。

 それに応えないわけにはいかない。


「グギャァァァァ!!!!」


 何度目かの紅竜の咆哮、そしてその怒りが、殺気が僕の肌を切り刻むかのようである。


「ヒューマ!」


 僕が地面に急降下するのに合わせてテト=サーヴァントも紅竜の背後に回り込もうとしていた。視界の中にはリリスがいて、巧い具合に紅竜の視界にテトが入らないように氷の魔法を撃ち続けている。


 だけど紅竜は僕を見ていた。テトもリリスも脅威にならないと判断したんだろう。実際にその通りだった。


「終わらせる! 僕が究極だ!」


 今まででもっともロージーから魔力が、力が流れ込んでくるのが分かった。視界がクリアになっていき、時間の感覚が遅く感じられる。紅竜のブレスをどうかいくぐればよいかがはっきりと分かる。


 僕は、右手に全てを込めた。首から胴体までを引き裂くしかない。ぶ厚い胴体の中の臓器にまでは僕の手は届かない。首を落とすか、引き裂くか。角度からは引き裂けると思った。


 手が鱗に到達する。ブレスを吐こうとしていた紅竜は、僕が捕らえられないと分かると身を捩る。だが、その動きすら僕は把握できていた。


 とった!


 未来視という言葉があると思うが、僕は確信していた。右手が首に到達し、その鱗と肉を引き裂いて行くイメージが出来上がっていた。



 しかし、現実は違う。僕が近付いた瞬間に、紅竜の体内から魔力が沸き上がった。その力は突っ込んだ僕を吹き飛ばすことのできるほどの力であり、リリスを強制送還し、テトのペリグリンを撃墜した。


「ヒューマ!! テト兄!! ダメだヘテロ! 助けに行かなきゃ!」

「無理ッス! 離脱するッス!」



 飛びそうになる意識の中でロージーの叫びを聞いた。

 紅竜が僕を無視し、ロージーたちに向かって飛び立つのが分かった。






 さて、ここで一つの問題がある。

 それは「イツモノヨウニ」でお馴染みのこの作者においては平常運転と言っても差し支えないものだ。

 だが、平常運転とはなんであろうか。それはイツモノヨウニ、いつも通りに、予測の範囲内で、という事だろう。


 予測の範囲内。反対語を考えるに、予測の範囲外。これは当たり前の事だ。


 しかし、この作者、いつも予測の範囲外でやらかす=プロットを逸脱するという行為を繰り返している。予測の範囲外のことをやらかす予測が立てられましたああああばばばば。



 先の予想ができない展開で……何度この感想を頂いたことであろうか、そしてその都度思うのだ。



 俺も先の展開の予想できないんで……




 はいっ! またしても逸脱したよ! どうしよお! もう知らんっ!


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