第63話 容赦なく
「どう見る?」
「どうも何も、とりあえずは魔力通っているからお前の次元斬は通用しないな」
「ああ、通用すれば簡単だったんだけどな」
紅竜との戦闘が開始されたその時、やや離れた場所には大召喚士ハルキ=レイクサイドと神殺しテツヤ=ヒノモトがいた。その周囲は護衛兵に囲まれているが、あの紅竜相手に護衛もなにも関係ないなとハルキ=レイクサイドは思っている。
「あれはどんな召喚獣でも太刀打ちできないだろう。人類にはもっと無理だ」
紅竜が吐き出すブレス。それの熱量を感じ取ってハルキ=レイクサイドは生身の人間が相手できるものではないと思うと同時に息子の心配をしてしまう。さすがに自分よりは戦闘力が高いと信じているのであるが、それでも息子は息子だった。さらに言えば冷静になれるかどうかというのが戦闘には非常に重要であり、お互いに致命傷を与えるか与えないかの戦いをしている最中に力そのものはあまり必須のものではないという事は知っている。
自分があの場面にいたからと言って、ロージーほどの立ち回りができているかどうかは分からない。少しでもブレスをくらってしまえばそれでおしまいなのである。
「ああ、あいつに何かあったらセーラさんも悲しむというのに」
「お前も父親だったんだな」
「そういうお前は結婚しないのか」
「相手がな」
「そろそろ諦めろ」
まさかこの激闘の最中に世間話をしているとは誰も思わず、その表情を変えずに二人は話し続ける。そしてハルキ=レイクサイドもレイクサイド領の元領主というより父親であったというのが正しいのだろう。
「フィリップ、ダメだ我慢できん。早めに加勢に入れ」
「はい、わかりました」
ヒューマが二回目の強制送還をされた時である。まだ紅竜の目標がロージーへ向いているわけではないが、それも時間の問題だろうとハルキ=レイクサイドは思った。ロージーとの約束は勝機が見えない限り、合図を出すまでは手出しをしないことになっていた。だが、ハルキ=レイクサイドはそれを破る。
もっとも信頼する第一将軍、鉄巨人フィリップ=オーケストラは待機していた部隊へと指示を出した。それは第一騎士団と第四騎士団赤風との合同の部隊であり、全員がペリグリンへと騎乗していた。
***
第三形態に変わった僕を見て、紅竜は少しだけ動きを止めたようだった。
先ほどから倒しても倒しても再召喚される僕に苛立ったのかもしれない。それとも、僕を本当に消滅させるために何をすればいいかを考えているのかもしれない。
だけど、その目には常に怒りが灯っていた。少しだけ、それを感じて悲しくなる。
感情とは逆に、僕の身体には先ほどまでとは全く違う次元で魔力が注がれていた。
それはロージーが倦怠感を隠し切れないことからも明らかであり、彼も魔力ポーションを飲み始めている。
「僕が、究極だ!」
今までの数倍の速さで紅竜に接近した。最初の一撃とは違って油断はしていなかった紅竜であったが、いきなり上昇した速度には対応できないようである。
狙ったのは首だったが、それでも体をひねり、腕で僕の攻撃を何とかしようとした紅竜の胴体部分をえぐり取った。
濃い赤の鱗が飛び散り、中から鮮血がほとばしる。召喚獣だとしても幻獣化しているので、血が流れているのだ。
「ヒューマ!!」
ロージーから流れてくる魔力がさらに上がった。かなり無理をしているのだろう。この攻撃で片を付けたいというロージーの想いが分かる。
それだけ、僕もロージーも焦っていた。どこかで感覚が共有されているのではないかというほどに二人ともにこの状況に焦りを感じている。
僕の右手がさらに紅竜の鱗をえぐり、紅竜が叫ぶ。しかし、次の瞬間には僕のいた場所めがけてブレスが吐かれていた。
第三形態になったとしても、あれは一撃で強制送還される。そして、この状況でもう一度強制送還されてしまえば、次は万全の状態で召喚されることはないだろう。つまりは僕はあれをくらってはならないという事だった。だけど、それを避け続ける自信はない。対して紅竜は僕の攻撃を受けたにもかかわらず、それは致命傷になっていなかった。
「このままでは……」
なんとかしなければという想いが焦りを加速させる。周囲を旋回しながら、ロージーも攻撃の隙を伺っているようだった。だけど、ロージーの他の召喚で紅竜にダメージを負わすことができるのだろうか。それとも囮として動くつもりなのだろうか。
無理をすれば紅竜にまた一撃を加えられるだろう。一旦距離をとった僕はそう感じた。だけども、紅竜が捨て身で防御を捨てて僕を倒そうとしたらどうなるだろうか。その思いが僕になかなか攻撃を許さない。
「ヒューマ!」
「くそっ!」
ブレスが特に厄介だった。あまりにも熱量が大きすぎて、紙一重で避けても駄目なのである。そしてその継続時間も他の召喚獣を大きく上回っていた。回数に制限がありそうもない、余裕の表情をしている気がしてくる。
打開策がない。そう思った刹那だった。
「ヒューマ! 合わせろ!」
視界の端から出てきた巨大な影。それがシューティングスターだと分かるまでに時間がかかった。
「テト兄! 手を出すな!」
「馬鹿! そんな事言ってられる状況じゃないだろう!」
テト=サーヴァントの召喚したシューティングスターが紅竜へ噛みつく。その大きさは召喚獣の竜の中では最大規模であったが、紅竜を前にすると一回りは小さく見えた。
首元に噛みついたシューティングスターを振り払うように、紅竜は身もだえた。
『グギャァァァァァ!!!!』
紅竜の胸に血がしたたる。シューティングスターの噛みつきは、紅竜にダメージを負わせていた。だが、そこまでだった。
ゴギッという音が響いた。紅竜の右腕がシューティングスターの首を握っていたのだ。首を折られたシューティングスターは強制送還となる。
「ヒューマ!」
だけど、それは大きな隙だった。背後に回った僕は、紅竜の背中から首を狙った。
肉が避け、鱗が飛び散る。煩わしいハエを振り払うように紅竜は暴れる。背中にしがみついた僕は振り払われないように左手で紅竜の背びれを掴み、右手が攻撃を加え続けた。
これは大きなチャンスだった。これで振りほどかれでもしたら、次はないかもしれない。紅竜が大きく暴れ始めた。僕も諦めない。
それは数秒間だったのかもしれないし、数分以上にも及んだかもしれない。僕は必死に攻撃を続けた。
そして、空が見えた。
青く、雲一つない空である。次の瞬間に僕は地面にたたきつけられた。紅竜が自分の体ごと、僕を潰しにかかったのである。一瞬、何が起きたか分からなかった僕は、背びれを手放さなかったけど、紅竜は再度同じことを繰り返した。
「ヒューマ!」
「がはっ!」
ものすごい衝撃が加わり、僕は左手を放してしまう。そして、紅竜は僕から距離を取ると大きく息を吸い込んだ。
ブレスが来る、逃げなければならない。必死に飛ぶ。
「ヒューマ! 上空に上がれ!」
テト=サーヴァントの声が僕を導いた。冷静に状況を判断できないと感じた僕はその声に従って上空へと飛び上がる。
そこで、見た。多数のアイアンゴーレムが、紅竜へと降り注ぐ光景を。
上空待機していた第一騎士団が召喚した無数とも言える数のアイアンゴーレムは、土埃で地面が完全に見えなくなっても休むことなく召喚し、投下され続けられたのである。
それはフィリップ=オーケストラが終了の指示を出すまで、約十分以上も継続され続け、さらには徐々に投下の高度も増え続けた。
地図が変わるほど、平原が盆地になるほどの容赦ない攻撃を加えられ紅竜はどうなったのだろうか。
茫然としながらも、ロージーは魔力ポーションを飲み、僕はいつでも迎撃ができる体勢を取り続けた。
ふはははは、豆腐メンタル紬です。ごきげんよう。
昨日と本日の早朝に続き3回目の投稿でございますが茶番のネタがもうねえよ!
という事で、やめようかと思ったけども、もうちょっとで最終回(予定)なのでこのまま後書きは続けるよ!
このテンション高いままで最終話まで行きたいのだけれども、どうなるか分かりません! 一応は最後の結末とかは考え着いたから、あとは文字に起こすだけなんだけど、それが大変なのよねん(ლ ^ิ౪^ิ)ლ
あと、皆さん私の体調を心配してくれて本当にありがとうございます。なんとか生きていきます。ダイエットせねば……
とりあえずは1日に2~3話投稿できたらしようかというほどにテンション上がってるんで、なんとか行けるかなぁ……エタったらごめんなさいねー
紬でした。




