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第60話 視線

 演劇「竜の背に乗った花嫁」では捕らわれた「竜姫」ノア=エンザがデリートの許から逃げる場面で最終章が始まる。そこに登場する者の中にロージー=レイクサイドから派遣されたレイクサイド騎士団親衛隊トール=ヤシオの名前があった。生き残っていればロージー=レイクサイドの右腕とも称された彼の経歴は歴史的に謎に包まれている。だが、演劇の中で彼は脱出を手助けした後に紅竜の灼熱の息吹からノア=エンザを守るように命を散らした。そこまで恋心を押し殺し続けた彼が最後に見せた微かな自己主張であると締めくくられているがそれはさすがに演出なのだろうと思われる。

 さらに言えば彼の死すら演出であり、それらしき人物が後にロージー=レイクサイドの周辺にいたのは確実である。ただ、彼が紅竜との戦いで大きな役割を果たしたのは間違いないだろう。しかし世間は「四闘士」を称えても彼を含めて「五闘士」とは言わない。当時、何かしら世間にさらせない事情があったと思われる。


-「新説 レイクサイド史」タークエイシー=ブックヤード著 より抜粋―



「というシナリオで、ロージーを含めた4人を英雄に仕立て上げようと思うんだ。世代交代重要じゃん」

「さすがはハルキ様です。では、そのように演劇の脚本を書き換えるように手配を……」

 すでにロージー=レイクサイドはエレメント魔人国にむけて出立した後である。ハルキ=レイクサイドも側近たちを引き連れてあとから合流するつもりだった。


 今回の「紅竜」の騒動は、おそらくは紅竜の討伐で区切りがつくのだろうと大召喚士は思っている。それの収束の仕方を考える段階へと入っていた。

「ハルキ様、本当にヒューマが紅竜を討伐できると考えているのでしょうか」

 第一将軍が危惧しているのはそこである。ヒューマの実力を知らないわけではないが紅竜もかなりのものがある。

「いざという時には他の方法も考えてはいるんだけど、犠牲が出ないようにと思うとヒューマが討伐してくれるのが一番いいんだよ」

 この表情をしている時に、自分の主人は本当の事を言いたがらない。フィリップ=オーケストラは長年の経験からこれ以上の追求をすることを諦めた。


「アイオライとジギルが、デリートの事を許せるかどうか……」

 他にもデリートに家族を殺されたものは多い。むしろ、その二人は側近ダガー=ローレンスと長男ソニー=シルフィードが召喚獣として復活していることを考えるとまだマシな方なのだろう。少なくとも会話をしたいと思えばできない事はないのである。だが、死んでしまってはそれもかなわない。

 ハルキ=レイクサイドは、デリートがトールとして生きていくためにこの事を隠す必要があると考えていた。すでにこの世界で長いこと為政者の一人として生活してきた彼には、罪を償うことの大切さを誰かに説ける権利があるとは思っていない。


「先行したロージーたちが変なことをしないうちに全員を集合させろ」

「はっ」


 だが、今は紅竜の討伐が第一である。相手を確実に倒す事ができるとは考えていない。召喚都市レイクサイドの最精鋭が集うなんてことはこれで最後だろうとフィリップ=オーケストラは思う。その先頭に立つのは大召喚士ハルキ=レイクサイドであるのか、それとも……。



 ***



「ねえロージー。僕、なんかしたかな? ものすっごい殺気を感じるんだけど」

「し、知らねえよ。俺にき、聞かないでくれよ」

 ロージーたちに再会したのはフラン様たちと出会ってから数日後のことだった。エレメント魔人国の王城の一室を占領したフラン様たちは、それからロージーたちがやってくるまで特に何をするでもなくくつろいでいただけなのである。ブルーム=バイオレットの呆れ顔なんてレアなものが見れたのは幸運なことなんだろうか、それとも見なかった方が幸せだったのだろうか。


「い、いやでもよう。俺とヒューマの絆ってのは召喚士と召喚獣ってだけあってな、仕方ないとは思うんだけど、いや、何を言ってるんだろうかかかかかか」

「ロージーからきちんと言ってよ。ちなみに僕はそんな趣味はないってこともしっかり伝えるんだ」

「そんな趣味ってなに?」

「ちょっと、トールは黙ってて!」

 視線が痛い。それもこんなに敵意に満ちた視線というのはなんなんだろうか。向ける先間違ってない?

 目の奥が笑っていないのである。いや、全体的にはにこやかな美人なんだ。だけど目の奥から敵意を感じる。それも周囲の人間にまでばれるレベルで。その視線の先にいるのが何故か僕。



 感動の再会だったはずだ。それぞれが目標に向かって、それでいて離れ離れになりながらもお互いを心配しながら、ようやく合流できたのである。

 そりゃ、つもる話も多いし、なによりそれまではずっと一緒にいたのだ。ロージーは僕がいなければ冒険者をやっていられないほどの世間知らずだったし、僕もそんなロージーに救われていたこともある。


 だから、これは自然な流れだっただろう。それまでロージーは僕を召喚できなくなってて精神的な支柱が抜けたと言ってもいい状態だったに違いない。だけど、それをお互いに乗り越え合ってここに至るわけで、ちょっとくらい話こんでも仕方ないと思う。


 それが例えば数日間ずっととかだったらこの反応も納得できなくもないけど、まだ数時間も経ってないよ?

「ロージー、君はどれだけ寂しがり屋だったんだ」

「ど、どういう事だ!?」

「彼女、大切な君を僕に取られて怒ってるんだよ。そうに違いない。さあ、フォローしてこい」



 僕らの視線の先にはノア=エンザがいた。さっきから何もしゃべらなくなって、ニコニコとこちらを見ているだけである。まるで付き合いたての彼氏が彼女を放っておいて他の女友達と話し込んでいるかのような雰囲気だ。恐ろしい。そして、僕にもロージーにもそっちの趣味はないから安心して欲しいものである。将来的にロージーが尻に敷かれるのは決定した。どことなくセーラ様に似ている気がする。


「うっ、ちょっと俺も怖いんだけど」

「このヒソヒソと話してるってのも彼女の期限が悪くなってる原因の一つだよね」

「か、彼女って!? ちげーし、そんなんじゃねーし!」

「あっ、馬鹿っ!」


 ロージーの照れ隠しが聞こえたせいでノアの機嫌がさらに悪くなったのは言うまでもない。でもマリとかに聞くと、彼女はここにくるまでこんなキャラではなかったんだとか。ライバルが出現って言ってたけど、僕はライバルではない! 断じてないったらない!




「ねえ、そっちの趣味って男色のこと?」

「トールは黙ってて!」

 

「隊長! 久々であります!」

「うむ、この小説は約4カ月の間更新されてません表示をこれで解消できたというわけだ。断じてエタったわけではないな」

「はい!感無量であります!」

「作者も他の小説とか書いてて全くストーリーを覚えていなかったとかなんとか、途中でエンディング用に考えてたラストの矛盾点に気づいてしまったというのが致命的だった」

「アホであります!」

「…………」

「…………」



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