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第6話 期待の次期領主

あらすじ


デザイアはロージーでフラット領にいたらマリーがきた

「いや、まさかこんな事になるとは思わなかったね」

「まあ、誰も予想できないだろ?」

「うん、デザイアの言う通りだと思う」

 朝の良い時間帯である。木漏れ日が癒してくれる、そんな森の中で僕たち二人は立ち竦んでいた。もはや、この木漏れ日も侵入者を照らすスポットライトにしか見えない。そりゃぁないぜ、とっつぁぁぁん!!


「グギャギャ!」

「ブリャギャ!グギャ!」

 周囲にゴブリンたちがいる。囲まれてて逃げ場はない。うん、僕たちはゴブリン退治に来ているから、それはいいとしよう。

「で、どういう状況だと思う?」

「あー、ゴブリンの親玉がたまたまオーガだったんじゃないかな?」

「これ、オーガ? あれってランクCだろ? とてもそうは見えないんだが」

 僕たちに前に立っているのはサイクロプスだった。ランクはAもしくは個体によってはS。そして、何を隠そう僕らの仲間である自称Sランクレベルという「宝剣」マリー=オーケストラは……。

「いまさらゴブリンなんて相手にしてられないわよ。二人で行ってくれば?」

 とか何とか言って職務放棄中である。なにやらレドン草という薬草の事を教えてあげたら大量のノームを使って採取に向かったのだ。瞳の中が硬貨になっていたのは間違いない。


「それで、どうしようか」

「解禁でいいか?」

「いいんじゃない? 僕も死にたくないし」

 召喚主に出会うまで強制送還されるわけにはいかない。

「じゃ、コキュートスで……」

「待って、できれば魔力をできるだけ使わない召喚で戦ってみてよ。それが修行になるんじゃない?」

「おぉ、そういうのもありだな!」

 噂に聞こえる「大召喚士」ハルキ=レイクサイドの真骨頂は召喚魔法の効率なんだとか。最善の一手が打てる奴はどの分野でも強いし、職人とかも無駄な動きがないから消耗しないと聞いたことがある。一方、素人は無駄が多すぎて疲れてしまい、最善のパフォーマンスができないんだそうだ。

「行くぜ! アークエンジェル3体召喚!!」

 そしてボンクラがサイクロプスをオーバーキルするのを眺める。話、聞いてたんかい?



「これの討伐証明だしたら、一瞬でランクCまで上がっちゃうね。どうしようか?」

「うーん、今帰ったところで母上の説教と拷問が待ってるからなぁ」

 とりあえずゴブリンの討伐証明である耳を刈り取っていく。こいつらは食用じゃないし、素材にもならないから売れるところもない。サイクロプスも同じようなものである。しかし、なんでこんな強い個体がゴブリンの親玉なんてしてたんだろうか。最近は魔物に変化が起きているという説もあるようで、分からない事も多い。

「さあ、さっさと帰ろうぜ」

 デザイアはお腹が減ったらしい。すぐにもフラットの町に帰りたくて仕方がないようだった。


 しかし、そんな僕らの前に思いもしない人が出てくる。というよりも僕は知らない人だったんだけど。

「勘弁してくださいよ、ロージーさん。レイクサイドの諜報部隊がめちゃ多いと思ってたら、あなたがいたんですか……」

「げぇっ!! タイタニス! なんでここに!」

 タイタニス? もしかするともしかしなくてもフラット領の次期領主タイタニス=フラットか? 貴族院で知り合いだったのか。

「なんでって、それはこっちのセリフですよ。ここは俺の領地、ロージーさんの領地は向こうでしょうが。サイクロプス退治に来たんですけどね」

 タイタニス=フラットの両側には屈強な騎士たちが付いている。どう見ても護衛だった。そしてタイタニス=フラットがパチンと指を鳴らす。

「よし、丁重に拘束だ。レイクサイド領から身代金替わりにゴーレム大隊を借りて道路の整備をするぞ。色々とつなげておきたい所が溜まってるんだ。丁度いい」


「待ったぁぁぁ!!」

 そしてそこに割り込んでくるマリ。

「それをやられちゃうと、私の経歴に傷がつくのよ!! いでよワイバーン!! 二人とも逃げるわよ!」

 いや、ちゃんと乗り込むから足でむんずって掴んで飛ぶのやめてもらえるかな? 隣でデザイアもギャーギャー言ってるし。なんで鞍の後ろに採取した薬草の籠を乗せてるんだよ。

「逃がすなっ!! あと諜報部隊が邪魔してくるぞ! そっちの警戒も怠るな!!」

 タイタニス=フラットはやりたい放題である。領主である親父の阿保さ加減からか、領民からの期待は大きいようだ。貴族院での成績がそのまま領地経営に影響するわけではないという事は先達の例があるためにどこの領地でも理解されている。

「元第5部隊なめんじゃないわよぉー!!」

 マリが本気でワイバーンを飛ばしたせいで、僕らは一瞬意識が飛んだようだった。


 ***


「それで勢いあまってエル=ライトの町まで来ちゃったわけだね」

「えへ♪」

「マリ、もうすぐ三十なんだから、「えへ」はやめた方が…………」

「うるっさいわね!! だったら何だって言うのよ!  それに私はまだ二十四よ!」

 ここはエル=ライトの町の冒険者ギルドである。何故かフラット領でのゴブリン退治をここで報告したから受付のおっさんに怪訝な顔をされてしまった。全てマリが悪い。

「しっかし、ここは賑わってんな!」

 デザイアはエル=ライト領は初めてだそうだ。さっきからキョロキョロとまるで田舎者である。

「まぁ、拠点をこっちにするかどうかはちょっと考えてからにしようね。エル=ライトは魔物のレベルも高いって言うし、レイクサイドから離れすぎてるし」

「そうね、観光してから決めましょう」

「マリーは観光したいだけだろう。まぁ、俺もしたいけどな!」

 という事でエル=ライトの町を回ることにしたのだった。しかし、観光なんかするからすぐに金が尽きる。

「なんで親衛隊のマリもお金もってないんだよ?」

「仕方ないでしょ!! 今月ピンチなのよ!」

 どうやら無駄遣いが多いみたいだった。仕方ないので、マリの採取した薬草から薬を作って薬屋に売りに行く。


「ふむ、パティの所と同じ調合だな?」

「え? パティ=マートンを知ってるんですか?」

 薬屋のおっちゃんはパティ流の調合の仕方をすぐに見破った。

「まぁ、奴は私の事を師匠と呼ぶからな。調合の腕は完全に追い越されているが」

 なんと、パティ=マートンに薬の調合を教えた人物なのだという。パティがただの回復魔法使いだったころから知っているのだそうだ。今では薬の調合から補助魔法までなんでも使えるまさに「神医」である。

「奴の知り合いというからには色をつけてやろう。配合も悪くない。これでどうだ?」

「あ、ありがとうございます!」


 思ってた以上のお金になった。それでも数日でなくなってしまうだろう。

「じゃあ、何か依頼を受ける?」

 お金が手に入るとすぐにいい物を食べて酒を飲もうとするのがこの二人の悪いところであり、それを止めないのが僕の悪いところだろう。

「召喚さえあれば、なんとか依頼はこなせるだろ?」

「それじゃあデザイアの修行にならないじゃない」

「ははは、修行の前に食べて行かなくちゃならないよね。デザイアが家からもっとお宝を持って来てくれてたらよかったのに」

「そんな暇なかったんだよ、母上に見つかったらどんな目にあうか……」

「そうですよねぇ、ロージーさん貴族院の時も大変でしたからねぇ」

「そうなんだよ、タイタニス。今回も大変で…………って!?」


 いつの間にか、タイタニス=フラットが冒険者風の恰好で僕たちのテーブルについてたんだけど?

「あ、こっちにエール追加で!」

「はいよぉ!」

 そして当たり前のようにエールを注文している。なんで?

 



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