表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/69

第59話 姿勢

「貴方にそれができますかな?」


 すっと視線が鋭くなったフラン様からは一種の殺気に似た何かを感じた。あまりのプレッシャーに押しつぶされそうになるけど、耐えなければならない。

「少なくとも、ロージーに召喚された僕ならば紅竜を仕留めることはできます。できるはずです。世界を滅ぼす方法ってのはまた別ですけど」

「では、そこまでしてデリートをかばう理由は?」

 フラン様はまったく動じなかった。その眼力は強いままでシンプルな質問のみを投げかけてくる。

「僕はデリートを導くと決めたんです。殺してしまえば簡単なのかもしれないけれど、デリートは言わばまだ小さな子供のような存在で、スキャンに目的を与えられていたからああいう事をしていたけれど、もうスキャンはいないんです」

 心を壊していなかった八潮教授はどうしたかったのだろうか。あの状態ではもはやバグを排除する事以外に何も考えることができなかったのだろう。だから、デリートは正しい方向に導いてあげればいいはずだ。おそらくは八潮教授もそう思うはずと信じる。


「子供のような存在と。ですが、彼が危険であることは変わらないのでは?」

「ええ、そうですね。ですが、それは僕も同じですよ」

「あなたは召喚獣と聞いています。召喚主がいなければ現世には留まれない」

「そうですね。デリートも同じで導く者がいれば危険にはならない」

 いつの間にかフラン様の姿勢が治っている。あの腰が曲がったよぼよぼは演技だったのだろう。本当に80を超えた人間なのだろうかと思うほどに迫力があった。

 意見は平行線のように感じる。ここでフラン様が僕とデリートを排除しようとするかもしれないしそれが可能であるとは思う。ただ、僕なしで紅竜と戦うのは難しいはずだった。召喚獣たちが持ち寄った情報を分析した限り、今のレイクサイドの戦力でも紅竜はそうそう倒せるものではない。だからこそフラン様はデリートを排除するわけにはいかない。彼はそこまでの権限を持ち合わせていないはずなのだ。だから賭けなのだけれども。


「ふぉっふぉっふぉ、よろしいでしょう。いささか私が判断する領域を越えているようです。この件は後々指示を仰ぐとして……」

「ありがとうございます」

 一気に肩から力が抜けた。確約はもらえなかったが、とりあえずは凌いだ。もちろんフラン様の権限の中での話ではあるのだけれども。

「ですがあなたはハルキ様を誤解している。あの方であれば紅竜を滅する方法をみつける事は可能でしょう」

 絶対的な信頼がそこにはあった。たしかにハルキ=レイクサイドならば何かしらの方法であの紅竜を倒してしまうような気がしないでもない。部下としてはハルキ=レイクサイドを侮っているように感じたかもしれないな。そんなつもりは全くないんだけど。


「よし、難しい話もまとまったようだし、俺たちの任務といえばデリートの状況確認およびチャンスがあれば排除だったけど排除しない事になったんだし一旦レイクサイドにもどるか? でもヒューマたちはこの後どうするんだ? このクソガキはまだ話が通じる方だとしてもレイクサイドの人間全部が納得するとは思えないしヴァレンタインやシルフィードの連中にとっては仇になっちまうんだからそうそう簡単に帰ってこれないのは分かるけどよ。とりあえずは紅竜をなんとかする作戦もカンガエナクチャナラナイダロウシ、デリートトヒューマガセメテコナイッテンナラレイクサイドノホウノサクセンモオオハバニカワッテクルダロウ。ダカラココハアイダヲトッテ……」

「このまま紅竜をなんとかしましょう。ロージー様たちにここに来てもらうよう要請します」

 残念エルフの言葉を遮ってフラン様が言った。それはつまり僕はまたロージーたちに会えるという事だ。嬉しくないはずがない。そんな僕を見てフラン様はにっこりとほほ笑む。そして続けた。

「さて、ではブルーム=バイオレットに宿の提供を頼むと致しましょう」


 なんてことのないように言ったけど、それってエレメント魔人国の王城に押しかけるってこと? えっとまた大変なことになりそうだけど、この辺の宿じゃだめなのかな?


 ***


「というわけで、デリートは今現在ヒューマに保護されながら旅を続けていたという状況だったわけですがその能力が消失したわけではなく自発的に使わなくなったわけで危険であるのには変わらないと判断いたします」

「了解、ご苦労さん」

 エレメント魔人国からの魔道具通信でフランからの報告を聞き終わりハルキ=レイクサイドはため息をついた。完全にハルキもヒューマも日本人の感覚が抜けていないために人の命の重さがこの世界の住民に比べて非常に大きい。だからこそ様々な考えを巡らせてできるだけ殺生をしないように権力を身に着けたつもりだった。だが、今回は失敗した場合に自分の力を大きく上回る損害が出る。冷静な頭脳がデリートの抹殺を指示していた。しかし、そこにヒューマが絡んできている。私情を挟む余地など全くないが彼の意志も尊重したい。

「分からん」

 そこでふと気づく。

「…………そうだ、俺ってリタイヤしたんじゃん」



「おいバカ息子、爺がヒューマとデリートを捕獲したってさ」

「なにぃぃぃいいいいい!? 捕獲ってどういう事だ!?」

「なんか、デリートが敵じゃないとかなんとか。とりあえず帝都エレメントまで行ってこいや。ノア連れてっていいからさ」

「ニヤニヤしてんじゃねぇぇぇえええええ!!」

 ハルキ=レイクサイドのとった方針はロージーへの丸投げである。こういった重要な決断ばかりさせられるのが嫌で引退したんじゃなかったのか。それであれば優秀とは言い難いがなんだかんだで才能を発揮しつつあるバカ息子に全てを擦り付けてしまうというのがいいかもしれない。親としてそれはどうなのかとも思うが、この場合どっちが正解とかどうせないと開き直っている。世代交代万歳。

「よしマリー呼べ! ついでにタイタニスとニコラウスも連れて行きたかったら手配してやるぞ」

「こらぁぁぁああああ!! 話を聞けぇぇぇぇええええ!!」

「こっちはこっちで紅竜討伐の作戦たてておくからさ、じゃあよろしく!」

 しゅばっと手を挙げてロージーのもとから颯爽といなくなる元領主。残されたロージー=レイクサイドは結局一言も言い返せないままに呼ばれて出てきたマリー=オーケストラに怪訝な顔をされるまでその場から動くことができなかったとか。



 ***



 ロージー=レイクサイドが「極めし者」と呼ばれるのは紅竜討伐後の事である。ヴァレンタイン王国カヴィラ領および付近のエレメント魔人国を急襲したとされる「駆除人」デリートの召喚する無数のアークデーモンと「紅竜」と呼ばれる史上最強の竜との激戦で、砦と化していたカヴィラ領主館付近は跡形もなく壊滅したと伝えられている。住民の避難は事前に済ませてあったということから、最終決戦の場として用意されたのであろうが、ヴァレンタイン軍はその戦いには間に合わなかったようだ。カヴィラ騎士団とレイクサイド騎士団の一部のみが戦いの記述に登場する。

 無限ともいわれるアークデーモンをかいくぐり、最終的に「紅竜」を仕留め、「駆除人」デリートを討ったのは「極めし者」の召喚した「究極召喚」であったとされている。多くの者がその瞬間に強制送還されるアークデーモンを見て歓声を上げたと記録にはあった。

 この戦いで活躍した「四闘士」に関してはすでに説明の必要はないだろう。だが、彼らの他にこの戦いで散り、名を遺すことのなかった者たちがいた。



 -「新説 レイクサイド史」タークエイシー=ブックヤード著 より抜粋―

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ