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第56話 焼き卵

 ベランの町の東側はあまり草木が生えていない土地だった。ゴツゴツした岩が多く、更に東に向かうと岩山が見える。たまに一本だけ気が生えていたりして、その根元に少しだけ生えている雑草をなんとか食べて生きている動物たちがいるくらいだった。だから、怪鳥フェザーはあえてこういう所に巣を作り、卵を孵化させるのかもしれない。彼らは飛ぶことができるから、餌を取りに行く範囲は非常に広いのだ。そして岩山の上に巣を作って置けば、巣にたどり着く魔物や動物は少ない。天敵の少ない場所に住むというのは合理的だろう。さらに言えば、巣に接近する者がすぐ分かる。


「あー、完全に僕らの存在がバレているよね」

「うん、ギャアギャア言ってる」

 上空には数匹の怪鳥フェザーが飛んでいた。あれを使役する魔人族がいるらしく、それで軍が編成されることもあるんだとか。確かにワイバーンには劣るけど、同じくらいの機動力があって地上部隊だけの軍隊には大きな力を発揮するだろう。伝令役としても優秀だ。

「この辺には他の冒険者とか住民はいないよね」

「うん、周りには誰も気配を感じない」

 トールは意外と周囲の気配に敏感だったりする。それまでの生き方があるのだろうから、ちょっと複雑だ。召喚獣を召喚してもらっても良かったけど、実はトールはきちんとした召喚契約を結んでいないから、召喚されると少し不快感があったりする。究極の召喚獣として、他の召喚獣にも同じような不快感を味わわせたいわけではないし、今後の事を考えるとやっぱり召喚に頼らない生き方を学ばなければならないと思う。


「それじゃ、2,3匹撃ち落とすよ」

 怪鳥フェザーは飛んでいる魔物であるために体重が少ない。石つぶてとの相性は意外といいはずだった。スリングを使って石を飛ばす。4,5発石を当てると、怪鳥フェザーの1匹が落ちてきた。それをトールが剣でとどめを刺す。いきなり飛び道具で攻撃された怪鳥フェザーたちは警戒したようだ。高度を上げる。

「でも、届くんだよ」

 やや身体能力のあがった僕はスリングをさらに強く振り上げた。手ごろな石が沢山あるこの辺りで、スリングはちょうどいい。

「あっ、もう一匹当たったね」

 石が頭にぶつかって落下してくる怪鳥フェザー。落下のダメージだけでもそれなりのものだけど、すかさずトールがとどめを刺しにいく形である。

「2匹もいれば十分でしょう」

 親鳥は完全にこちらを警戒して近寄らなくなってしまった。巣に近寄ったらどうなるのかな。首を斬って木に吊るしておく。帰りに回収するとしよう。

「さあ、まずはあっちの丘を登ってみよう」

 手始めに一番ちかい丘を登ることにした。


 ***


「意外と山登りってきついね」

「そうだね」

 僕は召喚獣だし、トールの想像力のもっともすぐれた人の体力があるから大丈夫だけど、トールはほぼ生身の人間だった。山登りですぐに体力がなくなる。

「まずは、こういった所からも訓練していかないとね」

「きっついー」

 水筒の水をほとんど飲み干してしまったトールが弱音を上げた。だけど、おそらくこの先には怪鳥フェザーの巣がある。さっきから上空の親鳥がそわそわしながら僕の射程距離ぎりぎりのところを飛んでいるからだ。

 最終的に巣が見えたところで親鳥が襲ってきた。わざわざ地上に降りてきた怪鳥フェザーはそこまで強くない。トールと二人がかりで十分に戦うことができた。逃げようとしたところをスリングで追撃し撃ち落とす。またしてもトールがとどめを刺した。

「できたよ!」

「よし、上出来だ」

 まずはこのくらいから慣れさせていこう。ランクB以上の魔物はかなり強いし、命の危険もあるからまだできないけど、そのうちできるようになるかもしれない。


 怪鳥フェザーは木の枝を組み合わせた鳥の巣を作っていた。ただ、その規模はかなりデカい。僕ら二人が足を延ばしても十分な広さのある巣である。そしてそこに4つほどの大きな卵があった。

「おお、デカいな」

「あれ食ったら美味いのかな?」

 不覚にもトールと同じ事を思ってしまっていた。日本のテレビでダチョウの卵の料理を見たことがあるけど、それよりもデカいかもしれない。たしかに人を一人乗せて飛ぶことのできる魔物だ。デカいもんね。


「依頼だと、卵を1~2個だったよね。3個持って帰れば一つは食べてもいいかもしれない」

「イノウエ! 頑張って運ぼう!」

 でも、運ぶものを持って来てないんだよな。丘の麓には押し車を持って来ているけど、これを3つも持って丘を降りるのか。さっき仕留めた親鳥も1匹いるんだよ。

「もう一回登ることになってもいい?」

「いや、……それは……」

 ちょっと、考えようかと思って気が付いた。


「あ、もしかして……茹で卵みたいにしてみようか。鍋ないから焼き卵だね」


 ***


 怪鳥フェザーの巣をちょびっと引きちぎる。これを敷き詰めてその上に卵を置いた。卵の上の方に穴をあける。火力が強いと爆発するかもしれないからね。そして巣に火をつけた。あとは火が通るのを待つだけだ。

「焼き卵……」

 作ったことはないけど、理論上はいけるはず。調味料は塩だけ携帯してるしさ。

「あ、なんとなく良い匂いがしてきた」

 他の2つは持って帰る。トールが親鳥を担いで、僕が卵二つを抱えて降りれば押し車が麓にあるので全部回収できるだろう。残りの卵は食べてしまおうという考えだ。我ながら、ナイスアイデア。


「もう大丈夫じゃないか!?」

 卵の上の方に開けた穴から火が通った白身が溢れている。まだちょっと半熟なような気もするけどいい具合かもしれない。剣を使って火から離して半分に切る。やっぱりちょっと半熟だったけど、それの方がおいしいかもしれないね。塩をかける。少し熱が引くまでの間に木を削って簡単なスプーンを二つ作った。これで掬って食べるんだ。

「はい、どうぞ」

「ありがとう」

 今か今かと待つトールの姿が犬みたいである。

「もう大丈夫だよ、火傷しないように食べて」

「おうっ!」

 殻を容器替わりにトールが卵を食べだした。僕も食べる。

「うまいっ!」

 塩をかけた半熟卵が上手くないはずがない。僕ら二人は空腹だったこともあって夢中で食べた。



「さて、帰ろうか」

 お腹いっぱいになって寝ころんでいたけど、上空の生き残った怪鳥フェザーのギャアギャア言う声もうるさかったし、さすがに昼寝はしなかった。卵を2つ抱える。倒した親鳥はトールがなんとか担いだ。自分よりも大きな獲物を担ぐのはきついと思う。けど手を使わずに卵を抱えて降りるのはトールには無理だ。

「大丈夫?」

「だ、大丈夫」

 これも訓練になる。丘を降りるのは大変だったけど、トールは弱音を吐く事なく親鳥を持って降りた。

「さあ、押し車に全部詰め込んでしまおう」

 怪鳥フェザーが3体。そして卵が2つ。これを持って帰れば依頼は終了だ。


 しかし、その時空が暗くなった。

「あれ? 雲……じゃないな」

 巨大な影が上空を飛んでいた。かなりの高度にもかかわらず、それが影をつくる範囲が広い。

「あれは……」

 影はライセンの村の方角へと飛んでいた。そして、その姿は赤く……。



「あれが……「紅竜」か……」

 想像以上の大きさと、その禍々しい姿を見て、僕は時間がない事を思い知った。

 翌日、ライセンの村が壊滅したという報せを聞いた。


目玉焼きにはケチャップなのは知ってますよね。

茹で卵は塩でもいいと思います。コショウもちょっと振るといいですね。

書いた後に検索してみたら、「焼き卵」あるみたいですね。良かった。

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