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第52話 亡国将軍

本日4話目

さすがにこれで打ち止めですわい










「かつて、お前のように生きる者たちを見たことがある。やつらはあの「邪王」ですら持ちえなかったものを持っていた。お前から、同じものを感じる」

 レイドーム将軍が言っているのはどういう事だろうか。「邪王」はシウバさんの事だよな? それ以上の存在と言えば「大召喚士」ハルキ=レイクサイドとか「神殺し」テツヤ=ヒノモト? 完全に日本人の事じゃないかな? なんでそんな事に気づくかなぁ?


「いや、あの、本当に思い当たる節がないんですけど」

 困った表情をする。困っているのは本気なので、これは演技ではない。思い当たる節がないってのは嘘だけどさ。

「分かった。ついて来い」

 何故? なんでこの流れでついて行くことになるんだよ? 何が分かったんだ?

「いや、あの……」

「いいからレイドーム様の言うとおりにしろ!」

 下っ端の兵にもう一度槍を突き付けられる。さすがにトールが怒った。それを手で制する。

「分かりましたから、槍を引っ込めて下さい」

 トールが本気を出せば、ここら辺一帯は壊滅する。それを抑える力が今の僕にはない。そして、抑えたとしても、その後を生きていく力も。慎重に選択肢を選んでいかねばならない。

「僕たちを何かと勘違いしているんでしょうけど、多分時間の無駄ですよ」

「黙って歩け!」

 ……これはちょっと我慢が必要だ。ただ、トールが我慢する事ができるだろうか。


 連れて行かれたのは練兵場だった。

「これを持て」

 渡されたのは練習用の剣である。

「えっと……」

 ためらっていると、急に打ち込まれた。それをなんとか剣で受ける。だが、それが正しかったのだろうか。次々と剣が打ち込まれる。だが、わざと受け損なってもばれてしまうだろう。しかしその心配は無用だった。

「はっ!」

 僕の持った練習用の剣が弾かれる。なんとか手放す事はなかったけど、その隙に首もとにレイドーム将軍の剣が付きつけられていた。

「ふむ、見込み違いだったか。力はかなりのものだが、剣術はまだまだのようだな」

 そりゃ、今はトールの召喚だからこんなものだ。だけど、これがロージーだったらお前程度……という考えが出て来たので自重する。そんな調子に乗れる状況ではないはずだ。これが現状で、僕はほとんど力がない。これでやっていくしかないのだ。


「すまんな、ある種の懐かしさのようなものがあってな。詫びとして今日はここに泊まっていくといい」

 レイドーム将軍はそういうと、僕らの宿舎の手配を部下に言いつけた。

「誤解が溶けたようでなによりです。少し複雑ですが」

 負けた事自体は悔しさしかない。

「トール、今日はここに泊めてくれるって」

「美味い御飯が出るのか?」

「そうだね。期待してようか」

「分かった」

 トールはご飯の事を聞いて、すこし機嫌を直したようだった。

「先ほどは失礼いたしました。こちらです」

 将軍の客となった僕たちに兵士は手のひらを返したような態度で接してきた。まあ、そうだよね。


「御飯、美味い!」

 ひさびさにちゃんとした料理を食べた。トールにいたってはずっとスキャンの作ったものばかり食べていたはずで、この旅の最中も僕の作った簡単なものしか食べていなかったはずだ。もしかしたら初めて手の込んだ料理を食べたのかもしれない。

「ふむ、それでお前たちは何故純人なのにこの辺りをうろついているのだ? 正直、この周辺には蟲人が出現する可能性もあり、今は駆除人デリートのせいで厳戒態勢と言ってもいい」

 デリートの話にトールが反応をしてしまった。だが、僕はそれをやり過ごすことに決めた。

「たしかに、その噂は僕らも聞いていて、実は恐いと思いながらも旅をしています」

 これならトールがデリートに怯えているという感じになってごまかせるはずだね。さて、適当な理由をでっちあげて切り抜けるとしよう。

「実はこのトールは育ての親と一緒にここの北に住んでいたんです。何故住んでいたのかは彼に聞かなければ分からないんですが、その育ての親が亡くなってしまいまして。僕はトールを連れてヴァレンタイン大陸まで旅をしている最中なんですよ」

「ここの北に? 純人が住んでいたと?」

「本当に、何故こんなところに二人で住んでいたのかは今となっては分かりませんが」

「その純人は何という名なのだ?」

 スキャンと言うわけにはいかない。僕は彼を前世の名前で呼んだ。

「ヤシオです」

「聞いたことがないな……」

 そりゃそうだ。八潮教授の事を知っているのはほんの数人だけだろう。ハルキ=レイクサイドはもともと付属病院の医者だって言ってたから面識はないかもしれない。であるならばテツヤ=ヒノモトくらいだ。あと、もちろんヨシヒロ=カグラも。

「彼の日記は、暗号で書かれていて、それを読める人を探すんです」

「暗号?」

 レイドーム将軍に日本語を見せても大丈夫だろう。少しだけしか見せられないという条件を将軍は吞んでくれた。数ページだけ、日本語で書かれたページを見せる。

「たしかに、今まで見たことのない文字だ」

「1人だけ、これを読めそうな人、もしくはそんな人を知っていそうな人物に心当たりがありまして。あくまで噂なんですけど」

「誰だ?」

「大召喚士ハルキ=レイクサイド様です」

 こうしておけば、僕らがヴァレンタイン王国に向かう口実にもなる。それに現段階でこの日記の価値がレイドーム将軍に分かるはずがない。ずいぶんと秘密を喋り過ぎな気もしないでもないが、嘘ばかりついていても矛盾が生じてくる。これはある種の賭けだが、この場を切り抜けることが最優先だと思う。

「なるほどな……」

 レイドーム将軍が考え込んだ。大召喚士ハルキ=レイクサイドの名はここエレメント魔人国では悪名もあれば英雄視する声もある。最初にエレメント魔人国が弱体化するきっかけがハルキ=レイクサイドであり、その後にエレメント魔人国の危機を救うのがハルキ=レイクサイドであるからだ。

「ふむ、その日記には何が書かれているかの見当はつくのか?」

「さあ、それはまるで分かりません。ヤシオが何故あそこに住んでいたかという事も含めて、全くの謎です。ですが、トールにとってはとても重要なものだと思っています」

「ふむ、こちらでもそのヤシオという人物の事を調べさせるとしよう。たった2人の純人がこの地方で生きて行けるとは思えんからな。何かしらの接触があったかもしれん」

「ありがとうございます。ですが、もうヤシオはいません。本当は一刻もはやくトールを安全な場所に連れて行きたいのです。それに……」

「それに?」

「トールに、生きるすべを教えなくてはなりません」

 急に本音が出た。僕の言葉が急に熱を帯びたのを感じ取ったのか、レイドーム将軍が若干微笑んだように見えた。

「そのための旅か……」

「そうですね」

 これで、言外に援助はいらないという事を分かってくれたようだ。それからはたわいのない事を少し話して、食事は終わった。翌朝、早めに僕らは出発する事にした。


誰だよ、月一更新とか言ってたやつ

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