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第51話 尋問

本日第3弾












 いつもだったら、こんな時はとりあえずは冒険者ギルドに登録して適当な依頼を受ける。だけど、今の僕たちはこそこそと生きているためにそんな事をしても大丈夫だろうか。

「でも、他になんか仕事というか、お金をもらえるものもないしなぁ」

 辺境の村ライセンに冒険者ギルドはなかったけど、支部とも言える機関が軍の駐屯所にあるようだ。行ってみると、机が一つに、そこに設置された受付に座る魔人のおっさんがいただけである。

「え? こんな辺境で登録?」

「もともと冒険者じゃなかったんですけど、こっちの大陸を回ってる上で魔物と戦うことが多くて。依頼料が受け取れなくても、せめて素材の買い取りくらいしてもらいたいじゃないですか」

「まあ、そうかもね。どちらもFランクになるけど、大丈夫?」

「はい、僕がイノウエ、こっちがトールです」

 受付のおっさんは僕の作り話を信じてくれた。これで身分証明のようなものにもなる。ここの村で簡単な依頼を受けてEランクくらいまで上がったなら、他の場所に移動しよう。

「とりあえず、有り金がないから簡単に今日の宿代くらいを稼げるやつを……」

「あまり、この辺にFランク依頼はないんだよね。あってもDランクか……」

 正直、Dランクのブラックディア―の討伐くらいだったら楽勝である。肉が欲しいとの事だったから、角とかの素材は売れる。

「このくらいだったら、できるんですけどね」

「ギルドの規定だからねえ。でも、他に冒険者も来てないことだし、なんとか融通するよ」

「ありがとうございます」

 受付のおっさんはいい人だった。ひと昔前までは魔人族は純人に対して差別ばかりしているという事だったけど、時代が変わったんだろう。アイオライの治世で、ヴァレンタイン王国が世界最強である事も一つの理由だった。

「さあ、トール。行こうか」

「うん」

 この数週間でトールはさらに少年のようになってしまった。髪を短く切りそろえると昔のぼさぼさ頭だったころのデリートの面影がほとんどない。だけど、それでいいと思う。彼はまだ精神的には子供だから。ついでに僕も髪を短く切って変装しているつもりだ。


 ゴゼの大空洞には蟲人が作った武器しかなかった。あんなでかいやつが持てるか。仕方ないので僕が使っているのは木の棒と、石のつぶてだ。意外と石のつぶては殺傷能力が高い。

「ほいっ!」

 野球の投手のようなフォームで石を投げる。こっちにきて召喚獣になったこともあり、身体能力は格段に上がっているから、前世ではできなかったようなこの動作もできるようになっていた。石ころが、ブラックディアーの頭にぶつかって、昏倒させる。多分、頭蓋内をつぶしたんだろう。起き上がってくる気配はなかった。素材になる角は壊れていない。

「じゃあ、解体をしようか」

「分かった」

 一人になった時に、生きるために必要な事を。できるだけ生活に必要なことはトールとともに行っている。いつの日か、僕もスキャンのようにいなくなる日が来るかもしれないとトールには言ってある。残酷かもしれないけど、事実だった。だからトールが他の人間とも過ごしていける日まではできるだけ一緒にいようと思う。なんとなく、僕は孤児院の院長先生を思い出していた。



「結構はやくランクが上がったね」

 翌日にはDランクに上がっていた。受付のおっさんが適当な事をしたみたいで、このくらいはすぐにできると言ってくれた。その代わり、これ以上はどうあがいても無理なのだそうで、もうちょっと都会の支部に行かないとCランク以上の昇格はさせてもらえないらしい。

「お金も手に入ったな」

 トールは無邪気に喜んでいる。今までお金を使ったことはなかったようであるが、好きな物が買えると知った後はお小遣いをどうやって使うか本気で悩んでいた。本当にこの少年がデリートだったのだろうかと思うほどである。

「イノウエ! 今日は絶対にあの焼き串を買うぞ!」

 初日に手に入れたお金で買った露店の焼き串が気に入ったらしい。辺境の村の唯一の露店で、しかもそんなに高い肉を使ってなかったから、僕はそこまで美味しいと思わなかった。だけどトールにとってみれば初めて買った料理である。これからも色んな経験をさせていく必要があった。

 ライセンは辺境とはいえ、軍の駐屯地がある。この土地には兵士が派遣される事もあって、ちょっとした商売をする人間も訪れているようだった。蟲人が攻めてきた場合、最前線になる場所である。駐屯所の将軍は名のある武将なのだとか。


「早く! イノウエ!」

 トールが受け取った依頼料の中からもらった小遣いを握って露店に走っていく。

「おいおい、こけるなよ」

 なんとなく随分年下の弟を持った気分だった。断じて息子ではない。




 しかし…………。

「貴様、本当にただの冒険者か?」

 露店の前でいきなり槍を突き付けられた。見ると、この駐屯地の兵が数人と、その上官らしき魔人がこちらを見ている。騎乗している魔獣も強そうだ。トールの想像力のせいか、こういう接近を察知する能力も落ちている。もう少し慎重に行動すべきだったんだろうけど、後の祭りかもしれない。

「おいっ! レイドーム様の質問に答えろ!」

 僕が黙っていると、部下の兵士がそう言った。さて、どう言うべきなんだろうか。

「えっと、僕の名前はイノウエで、こっちの少年はトールです。二人でこの辺りを旅してるんですけど……何か御用でしょうか?」

「貴様、最近この辺りに来たらしいが、どこかの国の諜報ではないか?」

 あー、なるほど。僕をどこかの国のスパイか何かだと思ってるんだな。

「いえいえ、そんな事はないですよ。何なら所持品を全部お見せしましょう」

 そう言って僕はトールを近くに寄せて所持品を地面に並べ始めた。と言っても僕らが持っている物なんてほとんどない。

「これは何の石だ!?」

「ああ。これはただの石です。強い魔物に追いかけられた時にこれを投げて隙を作るんですよ。こう見えても投擲には自信がありまして」

 ここで騒ぎを大きくするわけにはいかない。

「木の棒と石ころで魔物と戦うのか?」

「いえいえ、この前の討伐で剣が折れたのですよ。ですから最近はろくに食べ物にもありつけず。こうしてようやくお金が入ったから露店で焼き串を食べようと……なっ」

「うん!」

 トールもただならぬ事態だとは理解しているらしい。暴れるようだったら大変だったが、そんな事もなさそうだ。このままやり過ごすことにしよう。


「おい」

 しかし、上官はその説明で納得しなかったようだ。

「お前、かなりできるな?」

「そんなつもりはないんですけど……」

 彼の名前をなんとなく思い出してきた。「亡国将軍」レイドーム。トバン王国の将軍の弟だった人物で、トバン王国が滅亡した際に敗残兵を引き連れて生き延びた武将である。その用兵術は邪王も認めたとかなんとか。邪王ってシウバさんの事か?

 このエレメント魔人国の中でも重要拠点を守るだけの人物ではある。トバン王国が滅亡してからエレメント魔人国で将軍にまで上り詰めた彼の実力を疑うものはいない。

「この辺境において、不自然な「余裕」をお前から感じる。それは強者のみが持ちえるものであり、一介の冒険者が持つものではない」

 なんとこの将軍、僕が余裕で生きていることを見抜いている。たしかにいざとなればトールの召喚魔法で切り抜けるつもりの僕に焦りはない。しかも他の能力は皆無とはいえ、力だけは十分にある。トール一人を守り抜くことは可能だ。だけど、そんなの分かるのか?


「今一度だけ聞く。お前は何者だ?」

 さて、どうやって切り抜けようか。



焼きナスを冷たくして食べたい

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