第50話 デリート少年と旅立ち
主人公が主人公に!(意味不明)
本日2話目投稿
「だから、分かる? その意味を言えって言ってんの」
「だから、バグは排除されるべきなんだよ」
「だから、なんで排除されるべきかが伝わってこないでしょ? それに意味あんの? 相手を言葉で説得できないってのは屁理屈でしかないんだから、それを他人にも強要しようとしてもダメでしょ。もうちょっと考えてから行動しなよ」
「だって、スキャンがバグは排除されるべきだって、僕はそのために生まれてきたんだって」
「そりゃ、スキャンって人が君をそのために作り出したのかもしれないけどさ、君の人生は君のものであって、スキャンって人のものじゃないでしょ? だったら、自分で考えるの! いい!?」
「ううう……」
ゴゼの大空洞。ここで召喚された僕はこのデリートという少年の保護者をやっている。
「ああ、もう。ちゃんと火を通さないとお腹壊すよ! 貸してみて」
「……御飯は全部スキャンが作ってくれてたんだ」
「分かってるよ、少しずつ覚えていこう。スキャンはもういないんだ。現実から目を背けててもいいけど、いつかはちゃんと向き合おうね」
「ありがとう」
「お礼なんかいいよ。それよりもよく2人で生きてこれたね。寂しかったんじゃない?」
「寂しい……そうかもしれない。でも必死だったんだ。やっとハルキ=レイクサイドがスキャンのバグ認定に引っかかって、それまで魔人とか亜人とか獣人とか、明らかなバグが蔓延してたのをスキャンは認めたくなかったみたいで。」
「そのバグってなんなの? まるでプログラムみたいだね」
「よく分からない。スキャンは全部知ってたみたいだけど……」
そのスキャンはランカスターから逃げる際にヘテロ将軍の率いる部隊に殺されてしまったらしい。スキャンの能力のおかげで生き延びたデリートはなんとかゴゼの大空洞までたどり着いた。だけど、スキャンが死んで、ここに捕獲していた蟲人たちには逃げられたようだった。そして一人になったデリートがした事は大量の召喚である。でも、誰もデリートと話をしようとはしなかった。もちろん、いままでの事があるからだ。そしてデリートが最後にダメ元で召喚したのが僕だった。ただし、デリートの想像力はものすごく貧弱である。魔力だけは無限大だけど。
「というわけで僕はたんなる怪力人間だから」
「それでも色々な事を知ってる」
「そりゃ、それなりに生きて来たからね。デリートもちゃんと生きていれば色々と知ることができるよ。それでやっぱり世界を滅ぼしたいと思うなら、その時は全力で止めるけど、今のデリートは自分の生き方をしてないからちゃんと考え直すべきなんだよ」
「よく分からない。僕はスキャン以外の人間を知らないから」
「それは、これから会えばいい。まずは僕に出会った。次も他の誰かに会えばいいし、誰かの考え方を聞いて、いろんな人の考え方を知って、それで色々と考えるんだ。それが生きていく事だと僕は思ってる」
「HDP……」
「僕の名前はヒューマと呼んでよ」
「ヒューマか。分かった」
精神年齢が低い。まるで幼稚園児かと思う時もある。もともと身長もそんなに大きな方ではない。ちょっと説教したら、急に大人しくなっちゃって、口調まで少年のそれだ。いままでスキャンはどれだけ過保護に育ててきたのか。しかし、それは僕の思い違いだったという事が分かる。
「これ、スキャンが書いてた」
「何? 日記かなにか?」
「分からない。文字読めないから。それに、どの町に行っても同じような文字は見たことがなかった」
渡されたのはぶ厚い本である。日記なのだろう。汚い字で、色々と書き綴られていた。番号が振ってあり、5番目の本らしい。他に1~4番があるのだろう。
「これは……日本語か……」
こっちの世界にきてから日本語を見たことはなかった。もしかするとスキャンは日本人だったのかもしれない。神楽先生がこっちにいる事を考えると、知り合いだったのかも。ただ、あの髭もじゃもじゃの顔は……。
「あ……」
最初の一文を読んで思い出した。スキャンは、八潮教授だ。髭があるから全く分からなかったけど、神楽先生の教室の教授である。僕は、八潮教授の日記を、読みふけった。この世界が単なるプログラムで、僕らもプログラムに過ぎないと知った時の衝撃はなんとも言い表せない。デリートは、生まれてからまだ1年も経っていなかった。少年であるのは当たり前だったのだ。
***
「分かった。君はとりあえず人として生きて行こう」
「人として?」
「そう。一人で生きていくのは、人として不自然だよ。だから、まずは人として生きて行こう。大丈夫。僕が付いている」
このデリート少年が自分の考えを持って、自分で生きていけるまで、僕が保護者になるしかない。殺してしまえば楽なのかもしれなかったけど、僕にその選択肢はなかった。所詮は命の危険のない日本から来た人間だと思い知ったけど、いまさら考え方を変えようにも変えられない。しかし、不慮の事故とかで意識を失ったら僕が強制送還されるという事を考えて、一人で保護者をするわけにもいかなかった。だが、事情を知っているからこそデリートの保護者をする事にしたけど、レイクサイドの人間にかぎつけられたら暗殺の対象となる事は間違いない。アレクさん率いる諜報部隊から身を守れる程度の力が必要だ。それは普通の人間では持ちえないほどの結構な力なために、一朝一夕に身につくものではない。ばれないように過ごしていく必要がある。
「デリート、僕はこれからイノウエになるよ。デリートも違う名前を名乗ろう」
「違う名前?」
「そう、偽名だ。君がデリートだとばれると厄介なことになる。トールとか、どうだ?」
徹は八潮教授の息子の名前だそうだ。デリートを見ていて、息子を思い出す。そうつづられていた。スキャンを忘れないためにもデリートはこれからトールとして生きて行けばいいと思う。十分に判断力がついたときに、それでも世界を滅ぼそうと思ってしまったら、その時は全力で阻止することにしよう。そうならないように導くのが大人の役目だ。とか言いつつも親のすねをかじって生きてきた自分が言えるセリフではないのだけれども。
「まずはここを出よう。そして人がいる場所へ移るんだ」
そして僕らは旅に出た。トールが召喚魔法を使えることは内緒にしておかねばならないために、ゆっくりとした移動になった。エレメント魔人国との国境につくまでに、数週間もかかるとは思っていなかったけど、この旅はこれでいいと思う。さて、僕が無事でデリートがもう攻めていく気がない事を知らせるべきかどうか……。
野営にも慣れた頃に、エレメント魔人国の北の村、辺境の「ライセン」に着いた。食料は自分で採ってきたけど、お金がないんだよね。どうしようか。
ぎゃふんぎゃふん(。-`ω-)




