第5話 新米冒険者
やっぱり、こっちでも茶番しなきゃならんのかな?
第2部でネタは尽きてるし……。
つまり、親衛隊であるマリが部下に近い人物であるという事はこいつは間違いなく「不肖の跡取り」ロージー=レイクサイドであって、デザイア=ブックヤードではないという事だった。
「なんでお前ら知り合いなんだよ!?」
「そんな事言っても、僕らは同じ孤児院の出身だから」
マリはちょくちょく孤児院に帰ってくるし、僕はどうしても他の子どもたちと馴染めなかったから院長先生とマリとばかり話していたんだよ。むしろなんでお前がこんな所にいるんだよ。
「まさか、ヒューマが坊っちゃまに巻き込まれてただなんてね」
「坊っちゃま……ぷぷぷ」
「笑うんじゃねえ!! 好きで坊っちゃまやってるんじゃねえんだよ!!」
「マリは仕事でも孤児院でも子守やってたんだね」
「こるあぁぁ!!」
怒り狂うデザイアことロージー=レイクサイドは放っておいて、今後の事を考えねばならない。すでに前金として結構が額をもらってしまったのだ。これだけでも慎ましやかに生きれば半年は食いつなげそうである。しかしこの「不肖の跡取り」を立派な戦士にするのは大変そうだった。というよりも、なんで教育係をこっちに回してくるんだろうか。他に凄い人がいっぱい騎士団にはいると思うけどな。
「マリ、どのくらいの事をすれば依頼が成功した事になるのかな?」
「まあ、ロージー坊っちゃまがすぐに立派になるわけないから大変よね」
「こーらー、無視すんじゃねー」
「ウォルター様は「周りの人が授けてくれた力に感謝し、誇りに思え」っていうフレーズが凄い気に入ったって言ってたわよ。まさかヒューマだとは思わなかったから、なんて凄い志の人がいるんだろうと思って楽しみにして来たんだけど」
「それはごめんね。でも、このボンクラが感謝と誇りを持つまでには結構な期間がかかるんじゃない?」
「ボンクラって誰のことだぁぁ!!」
手をワナワナさせながらロージーが言う。そして無視する。
「とりあえず、冒険者として依頼をこなしていくうちに、なんとかなるわよ。何たって、あのハルキ様とセーラ様の息子なんだもん!」
「あ、ちょっと、マリ。それは待ってあげて」
どう考えてもこの「不肖の跡取り」は自分が偉大な父親と母親をもって生まれてきてしまった事の重圧に耐えきれていない。現代日本だったら、絶対に引きこもりニートになる事間違いなしである。
「まずは、ロージーはロージーじゃない所から始めようよ。ハルキ=レイクサイドもセーラ=レイクサイドも関係ない所からのスタートさ」
「ヒューマ…………お前…………」
目をウルウルさせてロージーがこっちも見てくる。でも、現実は甘くないんだよ。
「つまり、召喚魔法を禁止して、冒険者デザイアとして過ごすってのはどうかな?」
「それいいわね! 決定!」
「マジかよぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
こうして冒険者デザイア=ブックヤードが始まった。とりあえず、こいつがCランクまで上がれば依頼達成でいいのかな?
まずは冒険者ギルドでギルドカードを発行してもらった。
「待てぃ!! なんで俺がFランクなのにマリーがBもらってるんだよ!?」
「はぁ、坊っちゃま。じゃなかった、デザイア。いい? 私は「宝剣」マリー=オーケストラよ? Bでも低いんだから」
マリの腰には昔「宝剣ペンドラゴン」と呼ばれていた剣を打ち直した「宝剣サクセサー」が佩かれている。若干小さくなっているという事だが、女性であるマリにはちょうど良い大きさだった。そしてそれを使いこなせるだけの実力がマリにはあるという。
「そうですよ!! 本来ならばSランクをもらっていただいて依頼をバンバンこなしていただかなくてはいけない所です!!」
受付のおばちゃんが叫んでいる。こちらの話が聞こえたのだろう。確かにレイクサイド親衛隊の装備で参加していないとはいえ、宝剣サクセサーは目立つ。お忍びで来ているのはすぐにばれたようだった。
「ぐぬぬぬぬ」
「それに自力で上に上がることが必要なんだよ。Fランクの依頼だって、誰かがやらなきゃならないんだし、自力で上がってこそ認められるんじゃないか。それにマリはマリで孤児院出身のくせに世間知らずだから」
「なんですって!?」
とりあえず、このフラット領で冒険者を始めることにした。そして、最初の依頼は薬草採取だった。
「地味だ。地味すぎる。ノーム召喚してもいいか?」
「たしかに地味だね。ノーム召喚して、ワイバーンで帰ろうか。それで次の依頼もやってしまおう」
「ちょっと!! さっきまでの自力で認められるとかいう話はなんだったの!?」
僕はリアリストなんだ。無駄は省いて行くよ。
そしてその日のうちに薬草の採取依頼を5つほどこなしたらEランクへと上がった。
「しかし、金が微々たるものだな。この程度にしかならないとは…………」
初任務の報酬があまりにも低い事でデザイアが落ち込んでいる。
「まあ、最初はこんなものだよ。でも、冒険者ってのはね、依頼をこなすだけではないと思うんだ」
「え?」
僕はおもむろに提出しなかった薬草をテーブルの上に並べて見せた。ちなみにここは冒険者ギルドの酒場であって、僕らは夕方から飲んでいる。
「これとこれ、あと、これとこれを調合すると、一般価格としてどれだけになると思う?」
「こんなに採ってたのかよ。依頼分を採ったらすぐに帰ってたのかと思ってたぜ」
依頼達成の邪魔になるような採り方はしてなかったけど、ついでだったので結構な量の薬草がとれたのだ。
「多分、このくらいで売れると思う。薬屋との交渉次第だと、もっと高いかもね」
「おい、今回の依頼料の五倍はあるぞ?」
「へぇ、ヒューマがろくに仕事もしないでも食べてられたのって、こういう事してたからなんだ」
実はこれだけではないけれど、薬の調合はパティ=マートンに認められるくらいだから結構な割合の収入源だよ。
「今夜中に作っておくよ。明日の朝に売りに行こう」
「Eランクに上がったからな。討伐任務もあるだろうし」
「討伐こそ、召喚魔法なしでやるからね」
次の朝、薬を売った金を持って、武器防具屋に来ていた。
「やっぱり、冒険者は形から入らないと!!」
ゲームの時はとりあえず最初に来た町の武器防具屋で一番いいのを買うまで金を貯める派だったのだ。この前はとりあえずで中古の物を買ったけど、良い武器防具を見て置くことにこしたことはない。目標にもなるしね。
「たしかに、この服だけじゃ戦えないな」
そしてデザイアは防具が全くなかった。無論、武器もない。召喚魔法があればいらないけどね。
「僕と一緒で初心者装備から始めようよ」
「え? うちから持ってこさせれば……」
「それだと、世界最高装備から始めることになるよ?」
「…………お、おう。とりあえず見てみるか」
そして一通りの初心者装備に身を包む。
「ふん、こんなもんかな?」
ほとんどが革装備だけど、意外と様になっている。本人は槍が持ちたかったようだけど、革装備で槍を使うよりは、回避中心で剣をマリに習った方がいいのではと言ったら、素直にうなずいてくれた。
「ふん、今帰ってフランに習うことに比べたらマリの修行の方がなんぼかマシだ」
という理由らしい。
「依頼は……何を受けようか?」
「俺は召喚魔法以外は全くダメだから、ゴブリンで!」
「分かったよ。ゴブリン討伐を受ける事にしよう」
この辺りにもゴブリンはいるようである。というよりもどこにでもいる。
「あ、私取ってきてあげるわ」
「ありがとう、マリ」
しかし、僕もデザイアも、まさかこの事があの事件につながるなんて思いもしなかった。というよりも予想できないよね。




