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第49話 未覚醒

 ノア=エンザです。栄えあるレイクサイド第7騎士団ペニー隊の副長を務めております。二つ名はまだありません。若輩者ながら、レイクサイド騎士学校を主席で卒業した成績を見込まれ、現在の地位を頂いています。同期の中で唯一、幹部の会合にも出席する権利をいただきました。現在の任務は領主ロージー=レイクサイド様の護衛およびエルダードラゴンの討伐補助です。…………しかし。


「はい、終わり」

 氷の大精霊にして大巨人であるユニーク召喚獣コキュートスがエルダードラゴンに止めを刺しました。それもコキュートスにダメージはほとんどありません。まさかあのような召喚術があるとは全く思いませんでしたが、やはりこの方はハルキ様とセーラ様のご子息であります。

『うむ、連携も完璧であるな』

 コキュートスがこのように召喚主を褒めるの事などあるのでしょうか。若干上から目線の言い方が気になりますが。

「へんっ! 今回は瞬殺ってやつだぜ」

 そのとおり。上空から降下した召喚獣によってエルダードラゴンはなす術なく倒されてしまいました。初日にコキュートスだけで殴り合っていたのは何だったのでしょうか。

『確かに、少し物足りん』

「阿保か、正面から行った時は強制送還されてただろうが」

『むっ、それは魔力が足りんかったからだな』

「何をぉぉ!!」

 本人は気づいていないのでしょうか。あのような使い方は大召喚士ハルキ=レイクサイド様でもなかなかできるものではないという事を。


 まずエルダードラゴンの発見は容易でした。かなり上空をペリグリンで飛んでいた私たちに、ペリグリンが教えてくれたのです、あそこにいると。エルダードラゴンはこの辺りでは天敵がいません。討伐にきた冒険者や騎士団にやられることはあっても、今現在ここに存在する個体はいままで負けたことがないはずです。そのため周囲の警戒がおろそかです。簡単に上空を取ることができました。

「この前もあまりスマートじゃなかったからな……」

 などと2頭目のエルダードラゴン討伐の事を言うロージー様ですが、あの戦法もハルキ様のように効率的なものでした。現にコキュートスは強制送還されることなく討伐に成功しております。ですが、本日のロージー様の想像力はかなりのものでした。

「黒騎士召喚! コキュートス! 行ってこい!!」

 上空で召喚される黒騎士3体とコキュートス。どうやら前回同様にコキュートスは上空からの降下の威力をいかしてエルダードラゴンに初撃を入れる予定のようです。しかし黒騎士はどう使うのでしょうか。

『ふんっ!』

 すると、降下しながらコキュートスが黒騎士の1体を掴みました。そのまま剣を頭上に突き出した形でまるで槍のようになる黒騎士。何をするのかと思っていると黒騎士を投げたではありませんか。次々に眼下のエルダードラゴンに黒騎士を投擲するコキュートス。2体の黒騎士の剣が両翼に刺さり、最後の黒騎士は投げずにそのままエルダードラゴンの上顎から下顎まで剣が突き抜ける形で刺さります。ついでにコキュートスはエルダードラゴンの背中に着地するというおまけつきです。ドスン!ゴキッ!ブチィ!って音がしたので背骨が折れて内臓がやられたのでしょう。そして地面に縫い付けられてしまった無防備なエルダードラゴンは3体の黒騎士とコキュートスに死ぬまで殴られ続けるという、見ていていたたまれないほどの戦法です。あれではどれだけ巨体を誇るエルダードラゴンといえどもなす術はありません。


「ついでに黒騎士たちはそのまま解体な。アイアンドロイドを追加で出しておくか。しかしヒューマがいないと全然ダメだな」

 もはや完全な単純作業と化してしまったエルダードラゴン討伐ですが、場所によっては天災認定もありうる魔物です。青竜と同格と言われているこの竜種の魔物がここまで簡単に討伐されてしまうとは……。

「ロージー様、目撃情報ではこれで最後です。この後はどうしますか?」

「お、もう終わりか。次の発生を待ってもいいけど、時間はあるのかな?」

「いえ、デリートの動向は依然として不明です。それに私は首都リヒテンブルグに行ってみたいんですよ」

 そうです。今頃ロージー様と私を題材として演劇が開催されているはずです。何故私とロージー様が恋仲になっているのかは知りませんが、自分が題材となって演劇が作られるなんて光栄です。できれば将来の伴侶となる男性との話であったなら良かったのですけれど、今までそのような関係になった男性はいませんからね。

「いや、絶対後悔するような気がする……」

 ロージー様はあまり行きたくないようです。恥ずかしいのでしょうか。でも、所詮は演劇であって本当の事ではないですよ。それに、私が攫われた事になっているじゃないですか。誰が考えたんでしょう。

「でも他にやる事ありませんよ? レイクサイドに戻りますか?」

「いや、……それもヤダな……」

 領地を追い出される形でここまで来たロージー様は実家に帰りたくない家出少年となってしまっています。このままデリートが攻めてきてもどうせハルキ様が撃退するだろうと言って帰ろうとしません。とりあえずは魔道具を使って諜報部隊の人に素材を取りに来てもらおうとしたら、その前にアレク様が姿を現しました。そろそろだと思ってリヒテンブルグ王国まできていたそうです。他に用事もあるのだとか。詳しい事は聞けませんでしたが、なかなか難しい任務だそうです。

「素材は渡しましたし、そろそろ行きますよ!」

「い、イヤダ……」

「ダメですって!」

 無理矢理ロージー様をウインドドラゴンで掴んで首都リヒテンブルグ王国まで飛びます。なにやら下の方で騒いでますけど、よく聞こえませんね。意外と楽しみなんでしょうか?


「お、お前、その輸送の仕方をやめれ……」

 到着した途端、ロージー様は倒れてしまいました。仕方ないのでフェンリルの背に載せて宿屋まで運びます。最初はユニコーンを召喚したのですけど、何故か断られてしまったのです。召喚主の言いつけを守らない召喚獣は当分召喚してあげません。

 宿では演劇の情報を手に入れることができました。ですが、とても人気だという事でチケットが手にはいりそうにもありません。困っていると、ロージー様が言いました。

「お前、本当に見たいのか?」

「え? 当たり前じゃないですか。別に私たちの本当の事を演劇にするわけじゃないんでしょう?」

「面白おかしく脚色されるのは嫌じゃないのか?」

「えっと、どうでしょうか。内容によりますね」

「はぁ…………仕方ないな」

 そう言うとロージー様は宿を出ようとします。

「どこに行くんですか?」

「どこでもいいよ。向こうが見つけてくるから。酒場でも行くか?」

「えっ? いいですけど」

 ちょっと何を言っているのか分かりませんでしたがついて行くことにしました。近くの酒場に入るロージー様。簡単な食事とお酒を頼みます。

「おい、アレク」

 いきなりロージー様が言いました。アレク様? 今は他の任務について……

「用意しておきました……ぶふっ」

「笑うな!」

「いえ、健闘を祈ります。では……」

 いきなり隣のテーブルからチケットを2枚もらうロージー様。まさか、あの人が変装したアレク様? もしかしてこの旅は常に監視がついていたのでしょうか?


「え? 気づいてなかったの? まだまだ俺は未熟だから信用ないんだよ。常に誰かが周りをうろついてる。逆にそいつらの気配がない時はアレクが担当の時だからむしろ安心して過ごしてるけどな」

 当たり前だろ? みたいな顔のロージー様。……この人、実はとっても優秀なのに、自分が優秀じゃないと勘違いしているんじゃないですか? 年下にこれだけ差をつけられるなんて、初めての経験です。


「俺は召喚魔法と総魔力以外は全然だめだしな」

 本当に何を言っているのでしょうか。


ぎゃふん(´゜д゜`)

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