第48話 親心
「おい……そろそろ機嫌直せよ」
「…………」
「はあ、……悪かったって」
昨日と打って変わってペリグリンの上は静かである。風が強すぎて魔道具でしか交信できないのだけれども、魔道具があっても交信できないというか。原因は、まあ、ユニコーンの嗅覚が優れていたという事だろう。
「お、情報通り、こっちにもいたな」
「…………」
「じゃあ、ちょっと行ってくるからよ」
ペリグリンをもう1頭召喚して乗り込む。本日も相手はエルダードラゴンだった。昨日はコキュートスを2回召喚してようやく討伐だったけれど、ちょっと召喚の方法が雑だったのは否めない。だからって親父のように低コスト召喚をしろと言われてもできないもんはできん。だったらどうしようかという事はちょっと考えた。
「コキュートス!」
まずはコキュートスの召喚だ。エルダードラゴンに攻撃が効く召喚獣が少ない中で、こいつは欠かせない。では、このコキュートスがやられないように何かを考えなければならない。
「飛び立たせるなよ」
『承知している』
上空投下の形でまずは翼を凍らせにかかる。重力も含めてかなりのダメージが翼に入ればエルダードラゴンは飛び立つことができなくなる。そうなれば警戒すべきはブレスである。
「あのブレスをどうにかしなきゃな」
コキュートスがエルダードラゴンと取っ組み合いになる中、ペリグリンで周辺を飛ぶ。ブレスの予兆を感じた時にすぐに対応するためだ。
「こんな時にシルキットみたいに破壊魔法が打てたらいいんだが、才能ないしな」
ブレスを吐く寸前に口を凍らせるとか、逆に爆発させるとか。将軍クラスになれば切り込むんだろうけど、俺にはそれは無理だ。
「ヒューマがいてくれたら……」
あいつなら、なんでも対処できるだろう。破壊魔法も打てれば切り込むことだってお手の物だった。さらには第2形態になれば正面からエルダードラゴンを倒すこともできただろう。だが、いないものは仕方がない。
「さて、癪だが親父の戦法を参考にしますか」
エルダードラゴンが息を吸った。体が膨張するのを確認してブレスが来るのを確信する。コキュートスも防御体勢へと入った。だが……。
「アイアンドロイド! ノーム! ノーム!」
数体のアイアンドロイドと大量のノームがエルダードラゴンの口の周辺に召喚される。そしてそれぞれがガッチリと組みあって、口にまとわりついた。ブレスの体勢に入っていたエルダードラゴンがすでに止める事が出来なくなっている。口の中にもノームやらアイアンドロイドやらが入っていき、そんな状態でブレスが吹かれた。結果は、もちろんの事、暴発である。アイアンドロイドやノーム達はほとんどが強制送還されてしまっているがコキュートスは無傷だった。その状態でコキュートスがエルダードラゴンの頭に目がけて殴りつける。完全に頭部を凍らされたエルダードラゴンはもがいていたが、その内動かなくなった。コキュートスがとどめを刺す。
『見事であった。大召喚士を彷彿とさせる召喚術よ』
「当たり前だろ?」
ただし、このやり方は俺が考え出したものではなく、親父が思いついたものだった。ヒューマがいなくなった今、親父を越える力が必要である。少しずつでいい。力が欲しい。まずは親父を越える召喚魔法の使い方だ。
「お見事です」
いつの間にかノアが降りてきていた。解体用のアイアンドロイドたちを一緒に召喚してくれるようだ。
「ううっ、寒い」
極寒とはこの事である。防寒具を使っていても寒いものは寒い。解体が終わるまではまだ時間がありそうだったためにフェンリルを召喚して腹の下に潜り込む。
『もぞもぞして気持ち悪い』
「うるさい、口答えするな」
何故、俺が召喚した召喚獣はこんなに性格が悪いのだろうか。召喚主に似るのか?
「暖かそうですね……入ってもいいですか?」
ノアが俺がぬくぬくしているのを見て言った。あれ? すこし機嫌が直ってる?
「あ、ああ。いいぜ」
二人してフェンリルに包まれて解体が終わるのを待った。思ったより時間がかかったのは、あいつらが空気を読んだからか?
***
「ちょっと、なんで? なんで? カルティはどうなったの?」
レイクサイド領レイクサイド領主館、そこには渦中の噂になっている領主の父親が困惑した顔をしていた。元凶は現領主と第7騎士団の期待の新鋭との間に生まれた噂話である。すでに恋人という事になっている上に、その彼女、ノア=エンザを救うためにロージー=レイクサイドが旅だったとかなんとか。リヒテンブルグ王国では彼らを題材にした演劇が講演予定だとかなんとか。
「まあよろしいんではないでしょうか? 本人たちが良ければ」
「ちょ、セーラさん。前は貴族には選ぶ権利がないとかなんとか……」
「ノア=エンザは騎士学校を主席で卒業した優秀な子ですから、私としては特に問題ありませんよ。エンザ家も家柄が悪いというわけではありませんしね。それにカルティは母親に似てぼーっとした所が多くて……」
「あれ? あれ?」
てっきりヴァレンタイン王家のお姫様との縁談が進んでいるとばかり思っていた元領主。たしかに、ヴァレンタイン家との繋がりはべつにロージーたちが結婚しなくてもどうにかなるほどの緩いものではないために元領主としても現領主が強く要望するのであれば反対するつもりなどはないのだが、蚊帳の外にされまくっていた事が複雑である。ついでにアイオライ=ヴァレンタインを説得するのがめんどくさい。
「そんな事よりもわざわざテトとヘテロまで派遣して、どれだけロージーが心配なんですか?」
「あれ? ばれた? あいつらは「面白そうだから付いて行った」って事にしとけと言っておいたんだけど」
「面白いからついていくような無責任な人たちではないですよ? 分かっているでしょう?」
「シウバとアレクだけじゃ、ちょっとね。たまに暴走するし、あいつら。酒癖悪いし」
「いくらエルダードラゴンが相手とは言っても過剰な対応ではないでしょうか。第4、第5将軍が御守りだなんて」
「ああ、そっちは全然問題ないよ。むしろ生活とかが心配だったのと、あいつらにもたまには休暇をと思っただけ。それに、ロージーはね……」
瞬時に「大召喚士」の顔に戻るハルキ=レイクサイド。彼の顔には少しだけ寂し気な表情が混じっている。
「魔力量も使い方も、とっくに俺なんか越えてるんだよ。本人が気づいていないだけだ。あいつはセーラさんの息子だよ?」
にょにょーん(*‘∀‘)




