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第47話 責任

 見渡す限りの雪原。ところどころに小高い丘があり、たまに白い熊の魔物が見える。その頭上を飛ぶ風竜。魔物たちは飛ぶ竜を見ると一瞬体を硬直させるが、すぐにその大きさが恐れている者とは違う事に気づき、体の力の抜くようである。この地域の覇者は、空を飛ぶ。


「いました!」

「いました! じゃねえよ! 本気でここまで掴んで飛ぶとかどういう事だ!」

 ウインドドラゴンにむんずっと掴まれたままでリヒテンブルグ王国最北端にまで連れてこられた俺。外は非常に寒い。凍えそうであるのにも関わらず、そんな事はおかまいなしにとノア=エンザの召喚したウインドドラゴンは飛んでいる。

「では、行って来てください!」

「ちょっと待て! 作戦は! あっ……ぎゃぁぁぁぁぁぁああああ!!」

 眼下にはどう見てもウインドドラゴンの倍はあろうかという巨竜が寝そべっていた。その翼の大きさはちょっとした小屋なんかよりもずっと大きい。そしてそれ目がけて投下される、俺領主。


「そうだ! ヒューマいないんだった!?」

 あわててヒューマとワイバーンを召喚しようとしてワイバーンのみ召喚されることに気づく。ヒューマなしであれと戦えと?

「ど、ど、どうすっかな!」

 エルダードラゴンがこちらに気づいたようである。首を上げて睨んでくる。翼が羽ばたいた。飛ぶつもりだ。ワイバーンじゃ話にならない。

「コ、コキュートス!」

 ヒューマがいないんじゃ仕方がない。とりあえず単独でもっとも強いのは氷の大精霊であるコキュートスだ。上空から投下する形で召喚されたコキュートスは、そのまま重力を使ってエルダードラゴンの背を殴りにかかった。雪原に雪嵐が舞う。飛び立とうとした瞬間に首根っこを殴打されたエルダードラゴンは体勢を崩した。着地したコキュートスが追撃にかかる。雪原で生活している魔物ではあるが氷属性の攻撃が効かないわけではないようだった。体勢が崩れたまま反撃することができないエルダードラゴンを次々と氷の巨人が殴り続ける。翼が凍ってしまい、動くことのできないエルダードラゴンが反撃として使用したのはブレスだった。正面からブレスを受けきるコキュートス。そして顔面を殴りつけた。

「行けっ! コキュートス!」

 巨竜と巨人との殴り合いが続く。正直近寄りたくないくらい迫力あるな……。

「次の手は打たなくていいんですか?」

 いつのまにかノアが近くに寄ってきていた。何故かワイバーンの後ろに飛び乗ってくる。自分のウインドドラゴンに乗っていればいいじゃねえかよ。

「コキュートスで十分じゃねえか?」

 今のところコキュートスは戦いを有利に進めているようだった。ただし、もう一度あのブレスを受けたらどうなるか分からない。

「もしものために、次の手を考えておくべきです」

「次ねえ」

 そう言っていたらエルダードラゴンが2発目のブレスを吐いた。それを左腕を犠牲にして防ぐコキュートス。だが、氷の左腕は溶けてしまったようだ。右腕だけを振り回す。

「ああっ!」

「大丈夫だって」

 ノアはどうしても次の手を打っておきたいようだ。だけど、俺にそれは必要ない。かなりのダメージがエルダードラゴンに加わったが、3発目のブレスにコキュートスは耐えきることができなかったようである。強制送還される氷の大巨人を見てノアが小さく悲鳴を上げたようだった。だが、これは俺の中では想定内だ。何故なら……。

「コキュートス!」

 俺の魔力量ならばコキュートスの再召喚は十分に可能であるから。


 ***


『相変わらず、召喚の仕方が雑……』

 コキュートスに嫌味を言われながらもエルダードラゴンは倒した。

「なんて魔力量……」

 召喚の仕方に関してはノアも若干ドン引きしている。それでもまだ魔力が余っているのはヒューマを召喚し続けていたからだ。すでに親父の魔力量は超えているに違いない。だが、使い方がなあ……。

「もうちょっとスマートに召喚できたらと思うんだけどな」

「むしろそこまで脳筋な方法を取れるという事の方が凄いですよね」

 褒められているのか馬鹿にされているのかよく分からん事を言われた。多分、馬鹿にされている。

 解体は自分ではできないために黒騎士とアイアンドロイドを数体ずつ召喚した。爪だとか牙、鱗を剥がしていく。肉はどうすっかな……、前にシウバが狩ってたやつを食べた時はそこまで美味しいとは思わなかったんだよ。

「ちょっと食べてみたい気がします」

 とノアが言ったから一部だけ持って帰ることにした。だが、ここからレイレットまで戻るとするとちょっと時間がかかる。とは言っても野営の準備もしていなければこんな寒い地域で野営する気にもならない。どうしようかと悩んでいると、ノアが言った。

「この辺りにはもうエルダードラゴンはいないと思います。やっぱりレイレットに帰って目撃情報を集めましょう。お風呂にも入りたいですからね」

 ……その目撃情報を集める前に俺を掴んで連れてきたのはどこのどいつだっての。まあ、多分風呂に入りたいという欲求があるんだろうなと思う。女性騎士と行動を共にするとちょくちょく不満がでるのが風呂の事らしい。

「じゃあ、帰りますか」

 しかし、帰り支度をしているとコキュートスが言った。そう言えば送還せずに召喚したままだったっけ。


『ヒューマ様からの伝言があります。イフリートを呼べと』


 ヒューマは、デリートに召喚されてしまう事を予想していた。そして、対策をイフリートに託したのだという。

「まじかよ! じゃあ、さっそくかえって親父にイフリートを召喚してもらう事にすっか。おい、魔道具持ってたっけ?」

「いえ、ありませんよ。レイレットの町まで戻りましょう」

「分かった、急ごう」

「その前に……」

 ノアが急に荷物を探り出した。中には朱雀の羽根などが入っていた。

「はいどうぞ、私も一ついただきますね」

「何だよ、これ」

「何を言っているのですか? ペリグリンの契約素材ですよ。朱雀の羽根は非常に貴重なので使用するには許可がいるんですよ。1頭討伐するだけでも大変ですからね。単独で討伐できるのはハルキ様クラスの人間だけですから」

 そうか、これをするためにエルダードラゴンを討伐に来たんだった。だけど、ノアもペリグリンの契約を成功させるとは、かなり召喚魔法のレベルが高い。ウインドドラゴンを普通に使役している時点で分かっていたことだけど。俺も契約を済ませる。召喚してみると、大きな隼型の召喚獣ペリグリンが出てきた。

「おい、なんで後ろに乗るんだ?」

「え? いけませんか?」

 いけないことはないんだが、調子狂う。


 ペリグリンが最速で飛ぶ。その速度はウインドドラゴンを越える。風が、ものすごい勢いで体温を奪い、風圧が強くてしっかりと魔道具で装備させた鞍にしがみついていないと飛ばされてしまいそうだ。後ろに乗ったノアが思いっきり俺の体に抱き着いた。やっぱり、調子狂う。

「すごい! 速い!」

 はしゃぐ姿を見ていると年上には思えない。レイレットの町までは来た時に半分の時間で着いた。この速さならば、ヒューマを取り返せるかもしれない。



 ***



「おい、誰ッスか! ロージーに「サイレント」と「バニッシュ」教えた奴!」

「あ、俺!」

「やっぱりテトッスか! さっきノアの風呂を覗こうとしてユニコーンに蹴っ飛ばされてたッスよ!」

「ユニコーンには通じないんだね。あ、臭いはなくならないもんな」

「あれはマズイッス! 結構重症だったからノアが慌てて回復魔法かけてたッス!」

「あー、責任とってもらおうか……」

にょーん( ゜Д゜) 最近忙しいな(ドラクエが)

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