第43話 ソニー強制召喚の阻止
むむーん(*´Д`)
「ヒューマが召喚できない?」
いくら俺が呼びかけてもヒューマは応じなかった。こんな感覚は初めてだ。
「もしかして……」
「まずいッス」
テト兄とヘテロが変な顔をしている。
「ねえねえ、ロージー坊ちゃま。ヒューマが召喚できないってことは魔力が足りないの?」
「いや、魔力はあるんだが……」
「マリー、その魔力バカから魔力がなくなるなんて事はない。これはもっと間抜けな事態だ」
ソニーが俺を見下した態度で言う。こいつには何かが分かっているんだろうか。
「ロージー、落ち着いてよく聞け」
テト兄が真剣な顔でこっちを向いた。
「ヒューマのようなユニークと言われている召喚獣が召喚できない場合、魔力が足りないという事もあるだろうが違うと思う。その……なんだ……」
そして歯切れが悪い。
「他の誰かが召喚してしまったということだ」
テト兄が言いにくかった事をソニーが言ってしまった。他の誰か?
「他って、誰だよ」
「これだから魔力バカは。他に召喚できるのなんて一人しかいないだろう。デリートだ」
「「「!?」」」
タイタニス、マリーはびっくりした顔をしていた。多分、俺も同じ顔をしていただろう。テト兄とヘテロはすでに思いついていたに違いない。表情が変わることはなかった。
「まずいじゃねえか!?」
「だから、落ち着けと言っている」
テト兄に小突かれてしまった。だけど取り乱すなって方が無理ってなもんだ。
「じゃあ、ヒューマはどうなんだ? 敵になってしまったって事か!?」
「おそらくな……」
「ハルキ様にもう一度連絡するッス」
ヘテロが魔道具を取り出して隣の部屋へと出て行った。親父と対策を練るのだろう。
「早いところヴァレンタインに帰った方がいいかもな」
テト兄も部下たちを呼んで帰還の準備を始めている。だが、俺はどうしてもヒューマがいないという事を認めたくなかった。それも敵になっただなんて信じられない。
「ロージーさん、ショックなのも分かりますが冷静に行動しましょう。ヒューマが本気で襲ってきたらちょっとやそっとの戦力では歯が立ちません」
そりゃタイタニスの言う通りだ。カヴィラ領で第2第7騎士団を全滅させたのは第2形態のヒューマだった。暴走した第3形態はユニークドラゴンのニーズヘッグやワールウインドですら全く歯が立たなかった。そんな召喚獣が俺たちを襲う? いや待てよ。ヒューマだぞ?
だが、その日も次の日もそのまた次の日もヒューマは俺の召喚に応える事はなかった。俺たちは急いでヴァレンタイン大陸へと帰った。
***
「てっきり、すぐに攻めてくるものだとばかり思ったんだがな」
レイクサイド領は厳戒態勢である。王都ヴァレンタインとシルフィード領が襲撃された後は召喚都市レイクサイドに襲撃があってしかるべきなのだ。そしてヒューマを召喚したデリートが他の召喚もできなくなったとは考えにくい。ヒューマを召喚しっぱなしとはいえ2人で潜伏されたら把握が難しい。どこで襲撃が始まるか分からない状況なのである。それこそ領主館が最初でもおかしくない。だが、この数日、レイクサイド領は平和であった。
「親父、何を呑気な事を言ってるんだ」
「そんな事言ったって、あいつらが動かない限りは何もできんさ。準備は、もうしてあるしな」
「何ぃ!? いつの間に!」
「このバカ息子め」
領主は俺だというのに俺が知らないだと!? 引退したとはいえ大召喚士は大召喚士のままか。
「むしろ、うちじゃなくて他の領地とか国を襲われた方が対処しづらい。リヒテンブルグなんか国土が広いから主要都市だけでも大変だと言っていたぞ。エレメントなんぞ、なんの対処もできんとか言って帝都エレメントだけにしぼって防衛しているみたいだ。奴の居場所が分かればいいんだがな」
どこも大変である。ヴァレンタイン王国もこの前の襲撃の復興で忙しい時期だ。さらなる襲撃に怯えながら国民は暮らしている。
「タイタニスもニコラウス先生も帰っちまったしよ」
「さすがにこの緊急事態に帰さんわけにいかんだろうが」
「まあ、そうだけどよ。そう言えば、俺のラーメンだけチャーシューが少ないんだけど? ズズッ」
「みーたんのに多め乗せたらなくなった。 ズズズッ」
「俺領主。もぐもぐ」
「知るか。もぐもぐ」
少しいなかっただけでラーメンの味が上がっている。
「もし、ヒューマが襲って来たとしたらどうしたらいいんだ?」
実はまだ領主らしい仕事をした事のない俺は基本的に暇である。領地経営はすでに俺どころか親父の手すら離れているようで、ほとんどは部下が行っている。最終決定を母上が行うくらいだ。領主の部屋でぼーっとしている。
「ロージー坊ちゃま、暇ですねえ」
「マリー、俺はすでに領主だから坊ちゃまはよせ」
「そうだぞ、マリー。こいつは単なる魔力バカだから、『バカ』で十分だ」
「こるぁ、ソニー! てめえはなんでここにいやがんだ!」
「マリーのいるところ私がいるのは当たり前だ」
護衛のマリーについて来るのは「不屈のヴァンパイア」もとい「不屈のストーカー」ソニー=シルフィードである。
「ここは俺の部屋だから出て行け」
「マリーは仕方なくお前のような者の護衛をしているんだぞ? 私が付いていなくてどうする?」
「どうするじゃねえよ! 送還されてろ!」
「うう、ごめんなさい、どうやっても送還できないんですよ」
こいつは無理矢理現世に留まり続けている。マリーが魔力を送らなくてもとどまり続けることができるとかもはや反則だ。どうにかしてこいつを送還させる方法はないのだろうか。
「あ、そうだ」
俺はある事を思いついた。
「マリー、これは日頃の感謝の褒美だ。おそらく、今のマリーにとって必要なものだろう」
俺にも必要な物である。それをマリーが身に着けることによって……。
「え? なんですか? 指輪?」
「貴様! 魔力バカのくせにマリーに求婚などするつもりか!?」
ソニーが勘違いをしているが無視だ。マリーも若干引いているところをみると、そう受け取られてしまってもおかしくなかったのかもしれない。
「違う、とりあえず、どの指でもいいから、はめてみろ」
そう、これはタイタニスにもらった召喚を妨害する指輪だ。これをつけてヒューマが消えたのが懐かしい。
「マリー! だめだ、こんな奴からもらって指輪なんぞをつけ……」
ヒュンっとソニーが強制送還される。
「あ、これってタイタニスが持ってきた指輪?」
「そう。それつけていればソニーいなくなるだろう?」
「ありがとう! ロージー坊ちゃま!」
「坊ちゃまはよせ」
とりあえず、静かな領主の部屋にもどった。奴がいると面倒な事しか起きないしな。うるさいし。
「普段つけてるといざという時に召喚できないから外しときますね! って、勝手に出てこないでよ!」
「マリー! ダメだ! それをつけ……」
再送還されるソニー。その度に魔力が搾取されるようでマリーは何度か頑張ったが諦めて指輪をはめていることにしたようだ。
「んん?」
いや、待てよ? もしかして、この指輪をデリートに着けさせることができればその内にヒューマを俺が召喚する事ができるんじゃないか?
「おい、この指輪、デリートに着けさせることができないかな?」
「いいですね! そうしたらヒューマがこっちに戻ってくる!」
「なあ! いいアイデアだろ! よし、さっそく親父にアドバイスしてきてやる! ついに俺も親父を越えることができたようだな! はっはっは!」
そして、親父がすでに指輪どころか遠距離からこの効果をもたらす魔道具と、さらには自分だけそれを阻害できる魔道具を開発して、しかも前回それで撃退しているという事を知るのは数分後のことであった。ちくしょう。
メンタル崩壊中、若干改善中




