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第42話 隼

「人使いが荒いッスよ」


 第5騎士団の最精鋭を乗せたペリグリンが飛ぶ。その数は10頭というところであるが、どの組織もこの数を揃える事は不可能なほどに召喚契約に必要な素材が貴重なものだった。


この部隊は『はやぶさ』と呼ばれている。


 第4将軍テト=サーヴァントのウインドドラゴン部隊が圧倒的な攻撃力を元に多くの敵を打ち負かしてきたのに対して第5騎士団の代表的な召喚獣の名前を冠したこの部隊はそこまでの派手さはないものの任務遂行率はほぼ100%と言われている。

 その多くは強大な魔物を討伐したり多くの軍勢の中に切り込むなどといったものではない。世界を牛耳ると言っても過言ではない召喚都市レイクサイド領の前領主が最も重要と考えている「速度」を重視した部隊であった。

 ある時は大切な情報を運び、ある時は劣勢の仲間の救援に誰よりも早く駆け付け、ある時はこれ以上ないタイミングでもっとも痛烈に軍勢に切り込む。


 この部隊を任されているのが第5将軍ヘテロ=オーケストラであり、「フェンリルの冷騎士」その人である。ハルキ=レイクサイドがまだ次期当主であった頃から最も近くで信頼されているこの将軍が、ハルキ=レイクサイドの逃避行阻止以外の任務で失敗したことはほとんどなかった。それだけ信頼を置かれている彼は元平民であるにも関わらず、オーケストラ家の養子として受け入れられるほどの優秀さを若いころから発揮している。


 その軽い口調とは裏腹に、あくまでストイックにあるじの命令を遂行するその性格は何も変わってはいない。そしてその長身がペリグリンに乗って担いでいるのは大型の薙刀とも言えるやや反りのついた大きな刃がついた槍状の武器であった。魔力をのせたこの武器による一撃を、ペリグリンの速度で叩きこまれて防ぎきる人物は世界に数人しかいないと言われており、エレメント魔人国魔王「魔槍」ブルーム=バイオレットですら、ヘテロ=オーケストラには一目置いていると言われている。


「ヘテロ将軍! あれ!」

 隊員であるイザーム=ローランドが指差した先には暴風竜ワールウインドと、それを切り刻む禍々しい召喚獣がいた。

「あれは、何ッスか?」


 明らかに異質だった。本来であれば「隼」の部隊全員で襲っても倒せるかどうか分からないような暴風竜を、一人の召喚獣が圧倒していた。そして、その見た目の禍々しさも見た事がない。

「やめろ、ヒューマ! それ以上力を使うな!」

「うるさいっ!」

 その背後では召喚主であるロージー=レイクサイドを乗せたワイバーンが見えた。だが、召喚獣の起こした衝撃派によってワイバーンは近寄ることができない。あるじに逆らう召喚獣は聞いたことがない上に、明らかに暴走していた。

「ヒューマ!」

 ついに召喚主が魔力を送るのをやめたようだった。その間にもワールウインドは首をもぎ取られ、強制送還される。投げ出される2人はとっさに新たな竜を召喚してその場を離れようとしたが、その竜もまたロージー=レイクサイドの暴走した召喚獣によって胴体部分を貫かれて強制送還されてしまった。


「くそっ! HDPが何故俺たちを!」

 もう一度ワールウインドが召喚される。


「おいっ! ヒューマァァ!!」

 ロージー=レイクサイドが叫んでいた。ヒューマと呼ばれた召喚獣の形状に変化が現れる。禍々しいまでに生えていた羽根が1枚ずつなくなっていき、角も消えたようだった。そして、徐々に人間の体へと変化していくにつれて、飛行能力をうしなったのか落下していく。それを追うロージー=レイクサイドのワイバーンだったが、こちらも魔力不足で送還されそうだった。


「イザーム! 2騎をつれてロージー様の救出に行くッス!」

「はっ!」

「残りはあれを叩くッスよ!」


 7騎のペリグリンが世界最速で飛ぶ。その飛行の軌跡は曲芸でも見ているかのようであり、かつ相手を翻弄させるには合理的な動きである。視界の外から現れた7騎に即座に対応できるほど、デリートもスキャンも戦闘に慣れているわけではなかった。予想外の角度から現れたヘテロの薙刀がワールウインドの首に食い込む。ブレスを吐く暇はない。

「獲ったッス!」

 そのまま巨大な首を跳ね飛ばすと、残りの6騎がまだ強制送還される直前のワールウインドに乗っているデリートとスキャンに斬りかかった。


「デリート、お前にはまだ自分が必要と思っていたがこれまでのようだ」


 デリートがスキャンの言葉を聞いたのは、これが最後だった。



 ***


「スキャンと名乗る犯人のうちの一人は討ち取ったと」

 魔道具での報告を受けているのは「大召喚士」ハルキ=レイクサイドである。この計画を立案したのは他の人物であるが、そもそもこれは不慮の事態であり、その場の判断に任される事も多かった。彼が状況を把握していたらと考えた人物は一人や二人ではなかったに違いない。

「ええ、ですがデリートはあっと言う間に掻き消えたッス……。それも正確な表現じゃないッスけど」

「正確じゃない?」

「なんと言えばいいッスか……」

「……皆の時が止まってデリートだけが動けたような?」

「それッス! そんな感じッス!」


 前回デリートを仕留めそこなった時も同じような感覚があり逃げられた。実はこれはスキャンによる「コンソール」とよばれる神だけが使える技であったが、大召喚士もフェンリルの冷騎士もそのような事は知らない。

「スキャンの能力であれば良いが、デリートが使った可能性もあるな……」

 同じ失敗はしない。それがこの主従であるが、正直なところ打開策が見つかっていない。ハルキ=レイクサイドには思う所もあった。

「分かった、クソ神にも何か知らないか聞いておくよ」

「お願いしますッス」

「ロージー救出の任務は果たしたんだ。良くやった」

 魔道具から魔石を取り外す。ヘテロ=オーケストラは襲撃で様変わりしたランカスターの港町で無事だった区画の宿に泊まっていた。ここにはロージー=レイクサイド一向と、第4将軍テトたちも泊まっている。


「ロージー様、無茶ッス。あんな召喚獣は聞いたことないッスよ。魔力がどんだけ多くても召喚獣を暴走させるなんて身の程を知るッス。まだ、召喚の技術もまだまだまだまだまだまだまだまだッスし」

「まだまだ言うなぁ……」

「ヘテロ、ロージーもへこんでるじゃないか。そのくらいにしとけよ」

「テト、お前が甘やかすからこんなボンクラになったッス。セーラ様のご子息がこんな程度の訳がないっスし、ハルキ様のご子息が……ボンクラ……あの方はヘタレッスからねえ……まあ仕方ないッスか」

「それはそれで嫌な納得のされ方なんだけどぉ!?」


「なんか、ものすごいメンツだし、ロージーさんは仮にも領主なのにすごい言われようだよね」

「仕方ないわよ、二人とも私たちにとっては伝説よ、レジェンド!」

 タイタニスとマリーが横でそのやり取りを見ている。若い世代にとってテトとヘテロの武勇伝は幼いころから聞かされているようなものだった。


「まあ、いいッス。とりあえずヒューマの話も聞きたいッス。召喚してもらえるッスか?」

「ああ、いいぜ」

 そういうとロージー=レイクサイドは召喚獣ヒューマを召喚しようとした。

「あれ?」



 ***



「やばい、呼ばれた」

「ヒューマ様!」

「仕方ない、行ってくるよ。イフリート、あとの情報の整理は頼んだ」

「ヒューマ様……」

「隙を見て、なんとかしてくれ」

 そう言って僕は召喚主の所で向かった。この召喚される感じにも慣れて来た。昔みたいに慌てて召喚されることも少なくなった。すこしでも落ち着いて状況を把握してから、現世に召喚されるんだ。暴走してしまった僕は召喚獣の世界にもどってから情報の整理を行い、なにが原因だったかを突き止めることにした。それでも情報が足りなくてまだ分からない事が多い。そして、今回のこの召喚だ。自体は最悪な方向に向かっている。


「はははははっ! できた! できたぞ!」



 現世に召喚された時、そこはランカスターではなかった。




 そこは「ゴゼの大空洞」。僕はもともとの召喚契約主であるデリートに召喚されてしまった。



次回から、主人公がロージーになるかもしれないし、ならないかもしれないし。よく分からん。

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