第41話 危機
デリートとスキャンを乗せたワールウインドが飛んでいく。僕の前に立ちふさがるのは「灼熱竜」シューティングスターと「黒蛇竜」ニーズヘッグの2頭だった。ロージーから大量の魔力が送られてくる。それによって更なる力が漲るのが分かった。
「ヒューマ様、二対一デアリ不本意デスガ行キマス」
「やりたいわけではないのは分かってくれてますよ……ぶへっ!」
喋っているシューティングスターの下顎を殴りつける。ここでようやく自分が更なる形態変化をしていたのに気づく。ロージー、どれだけ魔力を送ってきてるんだよ。
翼の生えた超人形態からさらに禍々しい角が生えてきているようだった。見た目ではもはや人間とは言えない。そして、感情的に抑えられないものも出てくる。
「殺ス」
目の前の2頭の竜が憎かった。敵と認定してしまったのだろう。抑えられない攻撃衝動が意識を飛ばそうとしてくる。
「おいっ! 大丈夫か!?」
明らかな僕の変化にロージーが慌てたようだった。
「うるさいっ!」
邪魔をされるのが許せなかった。明らかに自分の状態が異常であると思う。
「吹き飛べ!」
ニーズヘッグのブレスを正面から受け止め、そのまま蹴りで下顎を吹き飛ばした。更に手刀で首を飛ばす。ユニーク系ドラゴンが瞬殺されたことで、その場の空気が固まったようだった。だが、僕にはそんな事はどうでもいい。
「デリート! 逃がさない!」
視界の端にはデリートとスキャンを乗せた「暴風竜」ワールウインドがいた。かなりの速さで東に飛んでいく。その内、この周辺のアークデーモンたちは魔力が届かなくなることで強制送還されてしまうのだろう。だが、デリートの召喚範囲はかなり広いようであるし、なにより元凶と分かっているデリートをそのまま逃すなどという事はこの時の僕には耐えられなかった。
「待てよ! ヒューマ!」
急に飛び出した僕を追ってロージーのワイバーンが付いて来る。
「テト兄! ここは任せた!」
「待て馬鹿! 召喚獣の自制が効かなくなってるのはヤバい! 送る魔力を抑えろ!」
「大丈夫だって!」
第4将軍テト=サーヴァントとロージーのやり取りに苛つく。確かに僕は自制を失っていたが、それを指摘される事すら気に食わなかった。ワールウインドを越える速度で飛ぶ。そして放つ。
「フレイムバーストレイン!」
以前第2将軍シルキットが放った魔法だ。ロージーもきちんと見ていたようで、つまりは僕も使えるようになっていた。その一つ一つに殺傷力のある破壊魔法が先行するワールウインドに襲い掛かる。
「追って来ただと!?」
後ろを振り向いたデリートが大量のアークデーモンを召喚した。フレイムバーストのほとんどがそのアークデーモンに遮られ、ワールウインドまで届かなかったが、一つだけ右の翼に当たったようだ。ワールウインドのバランスが若干崩れる。そして速度が落ちた所に僕が追い付いた。
「死ネ」
この時にはすでに翼が8枚、角が4本生えていた。禍々しさは自分では分からなかったが、ロージーの想像力が急成長し、さらには大量の魔力が送られたことで自制が効かない。そして意識はほとんどなかったが、破壊衝動とわずかな敵の認識能力だけで僕は現世に留まっていた。
***
「各員、周囲のアークデーモンを掃討しろ! 俺の班はこいつをやるのを手伝え!」
ロージーとその召喚獣がワールウインドを追っていった。あの強さは尋常じゃない。俺のリリスでも太刀打ちできないだろう。ハルキ様のゴッドであれば少しはいい勝負になるかもしれないが、純粋な強さはヒューマの方が上に違いない。
「テト将軍! 配置に着きました」
「分かった、俺たちはさっさとシューティングスターを強制送還させてアークデーモンの掃討に加わるぞ」
「ワールウインドは追わないので?」
ロランスの心配は分からないでもない。だが、そちらは大丈夫だ。あの人は絶対に任務に失敗したりしないッス。ロージーのバカを任せてても大丈夫だろう。
「さあ、狩るぞ」
「「「はっ!」」」
テト班は全部で5人である。今までこの5人とそれぞれのウインドドラゴンで狩ることのできなかった魔物はいない。今回のようなユニークドラゴンであろうとも、結果は同じはずだ。
「リコ、フレイ、モーガン、周囲を回って隙があれば攻撃しろ。ロランスは俺の補佐だ」
俺とリリスを乗せたウインドドラゴンが周囲を旋回する。シューティングスターはそれを余裕の目で見ていた。
「ヒューマ様がいなければ、俺の敵などいないな」
「さて、それはどうだろうか」
急激に速度を上げたウインドドラゴンがシューティングスターに近づく。それに合わせてシューティングスターがブレスを吐こうとした。
「させませんわ!」
リリスがブレスを吐こうとしている口めがけて氷魔法を放った。無理にブレスを吐こうとすれば暴発するはずだ。だが……。
「効かないな!」
顔についた氷を一瞬でかみ砕くと、シューティングスターは大きく羽ばたいた。そして上空からブレスを吐く。
「避けろっ!」
緊急回避でウインドドラゴンが速度を増して飛ぶ。周囲の温度が急上昇するのが分かる。これは今までいろいろな魔物やドラゴンのブレスを見てきたが、もっとも殺傷力が強いのは間違いない。
「逃げ回るだけか?」
シューティングスターがさらに羽ばたいた。俺のウインドドラゴンを追ってくる。その速度はウインドドラゴン以上のものがあった。だが、速度で負けるわけにはいかない。ウインドドラゴンに送る魔力を増やす。
その動作を隙と判断したリコがシューティングスターを強襲する。ウインドドラゴンの爪が刺さればたいていの魔物は戦闘不能になるほどの鋭さだった。だが、シューティングスターの鱗を貫く事はなかった。竜尾がリコのウインドドラゴンを地面にたたきつけ、強制送還される。
「リコ!」
リコが無事かどうかの確認ができない。焦りがでるが、シューティングスターは標的をこちらに直してなおも追って来ていた。
「これは歴代でもかなりヤバい状況かもな!」
「テト将軍! 顔が笑ってますよ!」
「笑ってない! それよりもリコは大丈夫か?」
「ワイバーンが召喚されてたから死んではいません!」
「良し!」
ウインドドラゴンを大きく旋回させる。ブレスを避ける意味もあるが、シューティングスターに言いたいことがあった。
「おいこら、シューティングスター!」
「なんだ?」
「俺が勝ったら、お前の契約素材を教えろ!」
「ふん、よかろう」
「送還されたら後でリリスに伝えるんだぞ!」
こいつを召喚してみたいと思った。ハルキ様ですら契約していないユニーク系ドラゴンだ。
ウインドドラゴンがさらに急上昇する。それを追ってくるシューティングスター。ウインドドラゴンでは傷一つつけられないと思っているんだろうが、俺を舐めるなよ。
「リリス!」
まずはリリスを空中に待機させる。リリスの氷魔法でもあまりダメージはないようだけど、牽制には十分だった。そしてウインドドラゴンはそのまま上昇を続ける。
「口だけか!?」
シューティングスターが大きく羽ばたいた。その分の速度が上がる。このままではブレスの射程圏内に入ってしまいそうだった。
「ちょっと、スマートじゃないけれど。まあ、俺はハルキ様とは違うしな!」
同時に2頭のウインドドラゴンを追加召喚する。そして交差する瞬間に俺はウインドドラゴンを乗り換えた。シューティングスターが一瞬であるが目標を見失う。
「いまだ!」
俺を乗せていないウインドドラゴンがシューティングスターの翼の付け根を狙って絡みついた。それを必死で剥がそうとシューティングスターが暴れる。だが、さらに……。
「アイアンゴーレムズ!」
追加でアイアンゴーレムも両側の翼の辺りに召喚した。リリスの氷魔法でアイアンゴーレムごとシューティングスターを凍り付かせた。4頭もの重量級の召喚獣に絡みつかれて、さらには翼で羽ばたく事もできずにシューティングスターが錐揉みしながら落ちていく。この高さを確保するためにウインドドラゴンでかなりの高度まで上がったんだ。
「死んで来いっ!」
超高度から落下したためにアイアンゴーレムとウインドドラゴンは強制送還された。
「おお、マジか」
だが、シューティングスターは弱りながらもまだ飛び立とうとしていた。
「ぐっ、おのれ……こんな……」
あきらかに翼が折れているために飛ぶことはできそうにもない。時間をかければ確実に勝てるだろう。だが、他のアークデーモンの掃討にも参加する必要があるし、この硬い鱗をつらぬく攻撃が必要だった。
「めんどくさいけど、仕方ないなあ……よっと」
ウインドドラゴンから跳躍する。腰のミスリルソードを抜いた。
「召喚契約の時にまた会おうな!」
「くそぉぉ!!」
ミスリルソードに魔力を込める。首の付け根に切り込んだミスリルソードがそのまま心臓まで到達する感触を確かめる。デカいから長剣でもようやく届くくらいのようだ。そのまま、シューティングスターが強制送還される。
「休む暇はない! アークデーモンの掃討に加わるぞ!」
「深紅の後継者」テト=サーヴァント、この後はレッドドラゴンよりもさらに赤い「灼熱竜シューティングスター」が彼の代表的な召喚獣となる。
はい、紬です。お久しぶり。
おおお、「誰だったっけ、こいつ?」と思ったそこの君! 作者のメンタルが大きく削られたよ! 詫びとしてレビューとか感想とか書き込んでくれてもいいのよ? え? しない? あぁ、そうorz
さて、再開しちゃいました。超不定期で書きますけど、完結まで頑張ります。
エタることはできればしたくないので、という程度の気持ちです。モチベーションが乗らなかったらまたやめるかもしれません。
ただ、「面白かった」と言われたのがなんとなく「書こうかな」に繋がったので、最新話投稿します。新作が書き溜めまで、こっちは書かないつもりだったけど、そんな制限をかける必要もないのでは?と思った次第です。気まぐれなんで、今後はあまり期待せずに次の話を待っててくださいね。
本田 紬




