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第4話 災厄の人物

だから、こっちを書くなら第2部を早めに終わらせろと…………

 何故かデザイア=ブックヤードという青年に絡まれてしまった。しかし、突き飛ばされた時に依頼されたお土産が壊れずにすんで良かったよ。よくよく聞いてみるとフェンリルで疾走中に僕を轢いたんだとか。交通事故ってやつだな。賠償金を請求したいところではあるが、相手が貴族っぽい。変な事したら殺されるから大人しくしておこうと思う。

「そんで、ヒューマはどこに向かってんだ?」

 そして慣れ慣れしい。こんな奴には基本的に関わらない方がいいんだ。

「守秘義務があるから話せないよ」

「シュヒギムって何だ?」

 ダメだ、こいつ。誰かどうにかしてくれ。

「お礼にフラット領に行くんだったら連れていってやってもいいぜ?」

 お礼じゃないよ、お詫びだろうが。

「だから、どこに行くかなんて話せないよ。これでも僕は冒険者で依頼を受けている最中なんだ」

「でも、この道だったらフラット領だろ?」

 まあ、そうなんだけど。

「まあまあ、遠慮すんなって。ワイバーン召喚!」

 そう言うと、デザイアはワイバーンを召喚した。少しだけ、ワイバーンで行けば今日中に着くな、とか思ってしまった。


『は? こいつも?』

 しかし、なんて慣れ慣れしいワイバーンなんだ。しかも乗車拒否とは許せん。いや、べつに乗せろと言ったわけではないのだけども。

「当たり前だ。俺が召喚してやってんだから、俺と俺の知り合いを乗せるのは当たり前だろうが!」

『いや、だってよ、こいつ……』

 なんだよ? 何が言いたいんだ?

「うるせえ、つべこべ言わずに乗せろ!」

『う、承知した』

 そして僕は召喚獣であるのに、召喚獣に乗って移動する事になった。ワイバーンはもしかしたら気づいていたのかもしれない。

「さあ、フラット領へ行くぞ! 低空飛行で!」

「え? なんで低空飛行?」

「そりゃ、高度を上げると遠くから見つかるだろうが!」

「見つかっちゃいけないのかよ……」

 デザイアは何かから逃げているらしい。

『低空飛行ならもう一度フェンリルを呼び出せよ』

 そして文句を言うワイバーン。まあ、気持ちは分かるよ。

「うるせぇ!」

 そしてあまりいい主人ではないようだった。なんというか、オブラートに包んで言うと「クソガキ」ってやつだと思う。やっぱり関わらない方が良かったに違いない。できるだけ早く離脱することにしよう。

「それで、俺さぁ。特に目的地ないんだ! ついて行っていいか?」

「ダメだよ」

 こうして僕は冒険者としての新たな一歩を踏み出した途端、変な奴に絡まれてしまい、そいつから逃げるのに忙しくなってしまったのだ。早く召喚主を見つけなきゃならないってのに。


 ***


 フラットの町に着くのはあっという間だった。そりゃワイバーンで飛んでいるから当たり前だ。受け取り主は土産の包みが若干汚れていたのを少し気にしたようだったけど、特に文句は言われなかったから大丈夫だろう。そしてフラットの町の冒険者ギルドで依頼終了を出して、依頼料を受け取った。こっちで終了できるっていうのも便利でいい。

「なんだよ、たったそれだけしかもらえないのかよ?」

 デザイアがうるさい。そりゃ、お貴族様はこんな金ははした金だろうけども、僕にとっては明日を生きる大切なお金なんだ。

「金が欲しかったら、高額の依頼をやろうぜ、手伝ってやるよ!」

 あぁ、本当にこの子はダメな子なんだな。ちょっと説教だ。

「ちょっと、デザイア。君は貴族だろう? 本来ならば僕も君に対して敬称をつけて呼ぶべきなんだろうけどさ」

「いいって、めんどくさいもん」

「でもね、君はちょっとお金に関して無頓着すぎるよ。このお金は僕が僕の力で稼いだ正当な報酬なんだ。君に手伝ってもらって討伐任務をするよりもずっと価値があるんだよ」

 まさか、僕にこんな事を言われるとは思わなかったのだろう。デザイアがちょっとへこむ。

「君はまだ若いけど、たくさんの召喚獣と契約している。その中に自分で稼いだお金や素材で契約した召喚獣がいたかい?」

 これは予想でしかないけど、こいつがそんな事をしているとは思えなかった。完全にボンボンだから。

「いや……いない。」

「だろう? であるならば、君は君の両親や周りの人に感謝をするべきなんだ。君の力は君だけのものではない。その力を授けてくれた人の事を想い、力を誇りに思うといいよ」

「力を誇りに?」

 だめだ、完全に幼稚園児みたいな顔してる。絶対に分かってない。


 ここで僕は完全に過ちを犯した。こんな事を言うべきではなかったのだ。そしてその災厄とも呼べる人物はすでに背後にいた。

「すんばらしいぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 冒険者ギルド中が振り向くほどの声量でそいつは叫ぶ。めちゃくちゃビクッてなった。

「げぇっ!!」

 そして何故か、デザイアの顔が真っ青になっている。

「力をただ振りかざすだけではなく、それを授けてくれた周りの人々に感謝し、誇りに思う! 感激したぜ! なあ、デザイアだっけか!?」

「ウォ、ウォ、ウォ…………」

「俺の名前はストロング=ブックヤード!! こいつの伯父という設定だ!!」

 まじかよ、デザイアだけでも腹いっぱい胸いっぱいなのに、なんでこいつの家族はこんな変な奴ばっかりなんだよ。僕は早く平和な世界に戻りたいだけなのに。そしてとりあえず召喚主を見つけて、これからどうするかを考えなきゃなんないのに。だいたい設定ってなんだよ。

「いやぁ、こいつがどっか出ていくからずっと後ろから尾行してたんだけどよ。君、いい事言うねえ。おじさん泣きそうになったよ」

 そいつは何故かギルドの中でもゴーグルをつけている。そして、僕の肩をガッチリと掴むとこう言ったんだ。


「簀巻きにして連れて帰るタイミングを見計らっていたけど、気が変わったよ。君にならこいつを任せられる。後で、もう一人送るから、こいつの事は頼んだよ」

「はい?」

「俺はもう帰るから、こいつの父親には良いように言っておくよ。母親には…………やっぱり連れて帰ろうかな……」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!! やめてぇぇぇぇ!!」

「まぁ、本人もこう言ってるわけだし、なんとかしてみるよ。さっき、怪鳥ロックの肉が手に入ったって部下が言ってたしね。なんとかなるだろう。しかし、なんであの方はあれだけ食べても太らないんだろうか」

「いや、ちょっと待ってくださ……」

 しかし、そいつは僕の言葉なんて全く聞かずに帰って行った。

「このボンクラが力を誇りに思うように躾けてやってくれ! 頼んだよぉぉ!!」

 そして残される僕と、過呼吸気味のデザイア。

「な、なんとか、助かった……」

 どれだけ、さっきの伯父さんが怖かったんだよ……。



 次の日に宿に「もう一人送る」と言われていた人物が訪ねて来た。デザイアとは知り合いらしい。というよりも部下に近い関係なのだそうだ。しかし、これは予想外だぞ。


「というわけで、こちらが依頼料の前金です。そして、依頼内容はこちらの……えーと、デザイア? 様を立派な戦士とするために冒険者の仕事を経験させてほしいという事でした。少なくともそれなりの経験を積むのを私が確認する、および護衛するという事で派遣されてきました。…………という事なんだけど、何がどうなってこんなことになっているのかしら? ヒューマ!」

「マリ、こっちが聞きたいんだけど…………」


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