第39話 召使の意味
「将軍、総員配置につきました。もうすぐランカスターです」
「よし、行くぞ。各自召喚の用意をしろ」
世の中で最強の召喚士と言えば誰しもが「大召喚士」ハルキ=レイクサイドと「極めし者」ロージー=レイクサイドと答えるだろう。だが、その次の者は? 意外にもその答えも決まっている。
「勇者」フラン=オーケストラが齢八十を超えた頃、さすがの「勇者」も体の老いには勝てなかったようだった。であるならば第一将軍を務めていた「鉄巨人」フィリップ=オーケストラがその家臣最強の座を勝ち取るのが妥当なところだったのだろう。だが、実際には全盛期の「勇者」フラン=オーケストラだろうとも今現在の「鉄巨人」フィリップ=オーケストラであろうとも、彼には勝てないのではないだろうか。それほどまでに彼の召喚は「大召喚士」を忠実に受け継ぎ、さらにはその豊富な魔力はいまだに増え続けている。
後の世には埋もれてしまった逸材である彼であるが、それは「極めし者」ロージー=レイクサイドの功績のせいであって、歴史家の中には彼の実力と功績を疑うものなどいない。しかしその控えめな性格と、死ぬまで妻を娶らなかったために子孫が残っていない事などから彼の功績を声高に主張する者は少なかった。
当時、「大召喚士」ハルキ=レイクサイドのみならずレイクサイド首脳陣は彼をもっとも困難な任務に好んで起用している。やはりその実力が認められていたというのが本当の所なのだろう。実際に、その功績からか彼は貴族の爵位を与えられていた。彼にその爵位を授与した時に「大召喚士」ハルキ=レイクサイドは不在だったのだろうか。記録ではセーラ=レイクサイドが授与したこととされている。そして爵位を授与された彼が選んだ姓が、何を表していたのかは今となっては知る由もない。
第四将軍「深紅の後継者」テト=サーヴァント。
あえて「召使」の意味をもつ姓を携え、誰のために生きたのか。彼は主張の少なかった人間だけに、残るのは莫大な功績のみである。
「テト将軍、また騎士団の新人の娘を泣かせたらしいですね。ホモ疑惑が進行してますよ」
「ぶっ!? ほ、ホモって、俺が!?」
「ええ、それだけの容姿を持ちながら妻も娶らないのは男色趣味なんじゃないかって、主にレイラさん付近で持ち切りです」
「レイラめ……自分はハゲ趣味だったくせに……」
やや赤みがかったウインドドラゴンの上でテト=サーヴァントは部下であるロランス=オーケストラと雑談中である。立派に大人になり身長も伸び、召喚士としては最高潮という年齢に差し掛かっているテトであるがいまだに独身であり、求婚も片っ端から断っている。その容姿は騎士団入団の頃から美少年とも言われてきただけに、一言で言うならば「イケメン」である。そして実力はすでにフィリップ=オーケストラすら凌ぐ。勝てるのはハルキ=レイクサイドだけではないかとの評判だった。
モテる。しかし浮いた噂はない。自然と男色の噂が立つ、主にヨーレンと結婚したレイラの付近から。
「マジ勘弁してくださいよ。最近は相手が俺じゃないかとか言われてんですから」
「勘弁しろはこっちのセリフだ」
ウインドドラゴンの部隊が上空を飛んでいく。そこに乗っているのは一頭につき五人から六人の召喚士である。全てのウインドドラゴンはテト=サーヴァントが厳選した召喚士が召喚するものであり、さらにそこに乗っている他の召喚士は敵の目前でそれぞれが一頭ずつさらにウインドドラゴンを召喚するために敵からしたら目の前で数頭のウインドドラゴンが五倍ほどの部隊に増殖するのだ。今まで、この戦法を破った部隊はいない。
「よし、ロランス。お前次からパタリーのウインドドラゴンに乗れ。俺に近づくな」
「ちょ、マジすか」
「マジだ」
部下と一通り冗談を言い合ってからテトは気持ちを引き締める。今回の任務は今まで以上に困難なものになるだろう。なにせ相手の魔力は無尽蔵だ。離脱の時期を見誤ればこちらの損害は尋常なものではなくなる。もともとウインドドラゴンが召喚可能な者というのはかなりの精鋭である。それを数十人もの部隊として作り上げ、さらには編隊を組んで飛行させるなどという途方もない事を考えるメンタルの弱い領主のせいでテトはかなりの苦労をしてきた。だが、実際に出来上がってみればこれは最強の部隊であり、レイクサイド第5騎士団のペリグリン以外には負けることのない機動力と、ペリグリンとは比較にならないほどの戦闘力をもったレイクサイド第4騎士団はいつしか最強の名を欲しいままにしている。
「ほんとに、ほかのおっさんたちもキリキリ働けよ」
同僚に聞こえないように毒づく。以前の少年の頃の彼からは想像もできないようなとんがった大人になってしまったとレイラなどは思っている。
「リオンとレイラのウインドドラゴンはもっと広がってくれ。相手の規模が全く想像できない。おそらくは俺たちよりの数百倍多いから、一人ノルマは二百アークデーモンな」
勝手に単位を創造して魔道具で隊員に告げる。二百ものアークデーモンを倒すというのは普通ならば無理な話であるが、テトの事であり本気か冗談なのか判断がつかない。団員たちが騒めく。本気にした奴も多いようだった。
「サタンがいるらしい。他にも召喚獣ならなんだって出てくるかもよ。リリスがいたらどうしようか」
「将軍、最初に召喚しとけばいいですよ。リリスちゃんユニークだし」
「あぁ、そうだな」
しかしリリスは召喚には応じなかった。
「マジか!? すでにデリートに召喚されちまってるってこと!?」
「そのようですね……」
頭を抱えたテトの肩をポンポンとロランスが叩く。後ろの団員から「それがホモ疑惑の原因ですよ」というツッコミがあり、ロランスの手が止まる。
「ええい、なるようになれだ!! とりあえず蹂躙すんぞ!! イツモノヨウニ!」
超低空を飛行し、水しぶきをまき散らしながらウインドドラゴンの編隊がランカスターの港に着いた頃にはすでに上空で戦いが始まっていた。レイクサイド第四騎士団の役割は展開したアークデーモンを中心とする悪魔系召喚獣との交戦と、その数を減らすことである。その際におそらくはデリートに隙ができるはずだった。同時に行動しているはずの第五騎士団と第八騎士団はどこかでこれを見ているのだろうか。
「目算でだいたい四万ってところか!?」
「目算なんてできる数じゃないですよ!!」
「なんでもいい、あとは各自乱戦に持ち込んで数を減らせ! 魔道具は常に交信できるようにしておけよ! 離脱の時期をしくじると死ぬからな!」
「「「了解!」」」
レイクサイド領が世界に誇る第四騎士団によるウインドドラゴン部隊、通称「赤風」。赤の由来はテトの二つ名と、赤揃えの装備である。テト=サーヴァントが在命のうちは無敗であったと言われるこの部隊がデリートの召喚した無数の悪魔系召喚獣たちの集団に突撃したのは、ロージーとヒューマが戦いを始めてからすぐの事であった。
こっちは週に一回くらいのペースでやらしてもらえたらいいかなぁ……
仕事忙しすぎ




