第38話 Human Delete Program
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「タイタニスさまぁぁぁぁぁぁ~~!!」
朝日が差す港に若干懐かしい声が響き渡る。そう言えば、この海で別れてから会ってなかったな。
「とぅあぃタにぃスさまぁぁぁぁぁぁ~~!!」
そしてどこから聞こえてくるのだろうか。できれば早めに身を隠したいところである。
「あぁっ!? そこにいるのはヒューマ君じゃないかぁ!?」
しまった。見つかったか。でも、こっちは奴らがどこにいるのか見つけられてない。
「ヒューマ君! ヒューマ君!」
かすかに海の方から風の音に混じって、僕の名前を呼ぶ声が聞こえる。でもそっちにいるのはなぜか筏に乗った原始人のような格好をした薄汚い3人組だけだ。僕の名前を知っている人がいるわけがない。
「ヒューマ君! なんで無視するんだ! 私たちは沖合の無人島に流されて……うおぉっ!?」
なぜか海の中から出現するデッドリーオルカ。あっという間に筏をかみ砕く。
「させるかぁぁ!!」
原始人がニコルさんの声でなにやら破壊魔法を繰り出すが、足場を失った原始人たちは海に落ち、そしてデッドリーオルカの背びれにひっかけられてまたしても沖合の方へと消えていった。ぺリグリンが見えるからアレクさんの仕業だな。
「おのれぇぇぇぇぇ!!!! レイクサイドめぇぇぇ!!!!」
本日も平和である。
「そろそろ俺もフラット領に帰らなけりゃならない気もするけどなぁ」
「でも、その場合ニコルたちが迎えに来るだろ」
「まあ、確かに。じゃあ、もうちょっと遊んでおくとしますか」
ロージーとタイタニスはそんな話をしながら朝食を取っている。昨日の夜にすでに出来上がっていたデビルモスのローブが届けられて、ニコラウスはご満悦だった。
「ふっふっふ、これで俺も宮廷魔術師っぽく見えるってもんだね」
「良かったですねえ、先生。これで女の子にモテマスヨ」
「あれ? 先生って独身だったっけ?」
教え子二人に失礼な事を言われてもニコラウスのご機嫌な様子は変わらない。
「せめてこのくらいは役得がないとやってられないもんな。早く杖が見てみたい」
巨大な魔石がニコラウスの杖の頭の部分になる事が決定している。まだまだ若く見えるニコラウスであるが、確かにデビルモスの黒ローブに巨大魔石の杖を持てば偉大な魔術師に見えるかもしれない。実際に破壊魔法は結構すごい。
「ちょっと、ヒューマ。今失礼な事を考えてただろう?」
「え? そんな事ないですよ」
危ない危ない。顔に出ていたか。
「それで、結局そのデリートとかいう奴から逃げてきたのはいいけど、この後はどうするの?」
「うむ、目的がないのであれば私とマリーのハネムーンの邪魔はしないでほしいのだが」
「誰と誰のハネムーンよ、この変態」
「そんな恥ずかしがらなくってもいいんだよ、マリー」
朝からめんどくさい二人組である。本気でマリの婚期は遅れる事になりそうだ。というよりもソニーが召喚獣化してしまったから寿命もなにもないためにマリは結婚とかできないんじゃないか? というよりもロージーから魔力を吸い取るのをやめて欲しいんだけど。一応、僕の召喚主だし?
「デリートの事はクソ親父がなんとかするだろ」
魔力を吸われながらもロージーはすでにこんな事を言いだしている。さんざんこき使われて、しかも最後は結構しんどかったからね。でも、あの時にロージーから流れてきた魔力は今までで最高に莫大な量だった。ご馳走様。
「たしかに、ハルキ様は一度デリートを殺す寸前まで追い詰めたって言ってたしね!」
マリーが容赦のない一言を言う。ピシリ、と空気に音がしたような気がした。だが、マリにそのつもりはないようである。
「ほ、ほう。たしかにクソ親父は殺す「寸前」まではいったらしいな」
「ん? どうしたの?」
ロージーのプライドを逆なでした事に全く気付かず、マリが朝ごはんをもりもりと食べている。
「マリー、つまりこのボンクラにはこう言っておけばいいんだよ。大召喚士はデリートを追い詰めたけど、ボンクラ息子は尻尾巻いて逃げてきただけだよなって」
トマトジュースを飲みながらソニーがニヤニヤする。さらに空気にピシピシと音がする気がするほどにロージーから魔力が漏れ出している。そしてちゃっかりそれを吸い取るソニー。
「つまり、あれだ。クソ親父はデリートを仕留めることが「できなかった」というわけだよな」
「おや、ロージー。君ならばできると言うのか? 逃げるだけしか能がなかったというのに」
ソニーはロージーに何か恨みでもあるのか? ……そういや貴族院ではかなり手を焼いたと言ってたっけ。
「上等だソニー! デリートだかデリケートだか知らねえが俺がぶっ飛ばして親父を越えたって所を見せてやろうじゃねえか!」
「ふむふむ、それではそれを期待しよう。さあ、マリー。私たちはハネムーンの続きを……」
それか! それが目的でロージーを焚き付けて誘導したな!
しかし、事はうまく運ばないというのはよく知ってる事だったはず。いや、この場合はうまく運んだというのが良かったのかもしれないけど。
「大変だ!」
「逃げろ!」
「悪魔たちが!」
急に宿の外が騒がしくなった。そして東の空に見えたのは、大量の悪魔系召喚獣たち、つまりはデリートの軍勢であった。
***
「ハルキ=レイクサイドの差し金かもしれん。いや、そうだろう。あの幻獣たちを倒せる者は少ない」
「スキャン。僕にはもう時間がないんだと思う。この蟲人たちを幻獣化させないことにはあのレイクサイド騎士団たちと戦えるかどうかが分からないんだ」
「デリート、いくらレイクサイド騎士団が精強だったとしてもお前の召喚は無尽蔵なはず。正面から戦えば負けることはない。この前のは罠にはまってしまったのが原因だ。聞くところによると召喚を阻害する魔道具を使ったらしい。なぜ、ハルキ=レイクサイドの召喚が阻害されていなかったまでは分からなかったが……」
「幻獣たちならばその阻害は効かないはずだ」
「デリート……」
アークデーモンの背中にのる二人の会話を聞きながらもサタンは無言を貫いている。そしてデリートの焦りが悪い方向へと向かわない事を祈るばかりのスキャン。この二人の関係性も正体も謎である。すこしでも情報を聞き出してヒューマに伝えたいと思っているが、サタンにできることは少ない。
「ニーズヘッグも呼んでおくか。シューティングスターを使って焼き払ってもいい」
ドラゴン系のユニークの中には最強の魔物を凌駕するほどの者たちもいる。サタンにも匹敵する召喚獣を無尽蔵に召喚できるという技に心当たりなどあるはずがなかった。かつて、神と呼ばれた存在ですらここまでの召喚魔法は使っていなかったはずである。
「この港町なら、召喚の素材が大量に集められているはずだ。持ち帰って蟲人たちを一匹でも多く幻獣化させないと……」
もはや周りの事が全く見えていないデリートを止めるだけの力がスキャンにはなかった。何か召喚をすればするほどにデリートの心が壊れていくようでもある。
「力が力さえあれば、僕らはこんな事にはならなかったはずなのに……」
そのつぶやきに、同意することしかスキャンにはできない。本来のデリートの力は何故か使うことができなかった。仕方なく、デリートはコンソールを使って力を捻じ曲げた。代償は大きかったが、無尽蔵の召喚魔法を手に入れた。それによってバグ化した純人たちを殲滅できるはずだったのだ。バグが影響を及ぼした今のヴァレンタイン王国は殲滅する必要がある。スキャンの能力には引っ掛かってこなかったが、獣人や亜人、魔人に蟲人も明らかにバグだった。全てを滅する必要がある。力を蓄えたのが数年前。ようやくデリートが力を使えるほどに成長した。だが、デリートは力を失っていた。スキャンにはその理由が分からない。
「とにかく悪魔たちよ、この港町を占領し、各地から集められた召喚に仕える素材を回収するのだ」
それができれば幻獣が大量に手に入る。バグの元凶であるハルキ=レイクサイドに勝つにはそれしかないとデリートは考えていた。焦りが生じたデリートに論理的思考は難しい。そして、積み重なる失敗がデリートを焦らせ、スキャンの制止はすでに効かなくなっている。
「待てぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
しかし、そこに現れた男がいた。それをデリートたちは知っている。バグの元凶である男の息子だった。名前はロージー=レイクサイド。排除の対象である。
「コロス!」
目の前の獲物に襲い掛かるように、デリートの感情が爆発する。大量の悪魔系召喚獣がワイバーンに乗ったロージーたちに襲い掛かろうとしていた。だが……
「僕が究極だ」
ロージーの後ろから翼を持った男が飛び立つ。溢れんばかりの魔力をこめられた究極の召喚獣「Human」である。いや、正確には文字が足りない。
「まさか…」
「やれ! ヒューマ! そしてクソ親父よりも俺の方が優秀であるという事を皆に証明するのだ!」
もはや、デリートもスキャンもロージーの声を聞いていなかった。アークデーモンを次々と屠るヒューマを見て、動きが止まっている。
「Human Delete Program」
それは本来デリートに授けられた、バグ化した人類を排除するための究極の召喚獣である。
仕事忙しいねんっつーの!
当直中に仕事させんなや!
……え? 当直だから仕事しようぜって?
まあ、ソウダヨネー。




