第37話 お連れの方
前回までのあらすじ!
とりあえずこの中に詰め込んどこう
一匹だけな、一匹だけ!
え? 五匹とも全部はいっちゃいましたけど?
…… ←イマココ!
「逃げやがった」
「逃げてったね!」
「ねえ、ママ。なんでロージー様どっかいっちゃうの?」
キャンプに帰ってきたロージーはそそくさと討伐した幻獣の死体をまとめると、召喚しておいたウインドドラゴンに固定しなおした。他の荷物も持っていくために結構な量である。しかし、最近はまた総魔力が上がったようで、戦闘の後だというのに問題なく召喚を継続できているようだった。
「さあ、クロウの所に急ぐぞ!」
すでにここの近くには幻獣五匹を討伐できる者がいるとばれているはずである。であるならば、デリートが出てくるはずだった。つまり、危険地帯である。エレメント魔人国とは距離が離れているし、死守する必要なんてない。たんなるキャンプ地だった。
「あー、この後どうしよっか」
「シウバ! とりあえずはハルキ様に連絡とるんだよね?」
「そうだよ、ユーナ。作戦失敗しましたーって。……よし、アレクに言わせよう」
責任回避を企むシウバ。自分の事は棚に上げて「アレクが幻獣倒せてたら問題なかったしな」とか言ってる。
「あれ? 撤収?」
そんな所に帰ってきたヨシヒロ神。
「一匹ずつ倒すつもりでロージー様とヒューマ君を洞窟の中で待機させて追い込むつもりが、五匹も入っていってしまいましてね」
「あー、なるほどね」
「神様が手伝ってくれていたら違う結果になったかもしれんですけど」
精一杯の皮肉を言うシウバ。しかし、この手の皮肉が通じる神ではなかった。
「ちょっと用事があったもんで。でも、僕だったら皆殺しかもね。その幻獣めちゃくちゃ強かったんでしょ? よくイノウ……ヒューマ君だけでやれたね」
「ええ、最近また強くなったみたいなんですよ。ロージー様が」
「なるほどねー」
「さあ、俺たちもとりあえず撤収します。集まった冒険者たちにはロージー様たちは単独で討伐に向かったと言って騙してありますんで、口裏合わせよろしく」
決して幻獣の素材を使った防具を作りに帰ったとは言わなかったシウバ。それによって冒険者たちの中ではロージー=レイクサイドはふがいない冒険者たちに足を引っ張られたくないがために単独行動に出たのではないかという自虐的な噂が流れている。
「それ、もしかして先生の作戦?」
「ええ、ハルキ様のご命令です。もし撤収することになるならばこうしろと」
「何を考えてるのかな?」
「さあ、俺らの考えの及ばない領域で悩んでるのは知ってますがね」
冒険者たちはとりあえずはエレメント魔人国の帝都にもどることになった。シウバたちは引き続きこの周辺の警戒をしつつもデリートに鉢合わせしないように行動しなければならない。アレクたちはロージーを追ってリヒテンブルグ王国へ行くようだった。
「うーん、それじゃあ僕はどうしようかな」
ハルキ=レイクサイドの計画をつぶすわけにもいかず、今後の行動を決めかねるヨシヒロ神。
「とりあえず、情報の共有がいいかもしれない。一旦、ヴァレンタイン王国に戻ることにするよ。先生とも話合っておかないといけない事ができたし」
「分かりました。ハルキ様には次からはちゃんと助けになる援軍をよろしくお願いしますと伝えて置いて下さい」
「シウぽん。それ、どういう意味だよー」
それぞれがそれぞれの方角へ撤収する。この迅速な行動が功を奏したのか、このキャンプ跡地にデリートが来たのは数時間後のことであった。すでに撤収されたキャンプ地を見て、デリートの苛立ちは深まる。
***
「おぉ、意外と早く持ってきましたね。それにこっちの狼はなんですか? テンペストウルフよりもすげえんですが!?」
クロウの工場に天龍と雷狼の死体を運び込んだ時にはすでに日が沈んでいた。しかし、ロージーはそんな事はお構いなしである。
「これは雷狼だ。なあ、これの毛皮でマント作ってくれ。恰好いいやつをよろしくな」
「分かりました、ロージー様。お連れの方の分も必要ですか?」
「あ、俺も欲しい。ロージーさんとはちょっと違う感じに仕立ててよ」
「僕はロージーとお揃いで構わないけど、余裕があれば違った感じかな?」
「それよりもこの前納品したデビルモスのローブは? できたんですか?」
皆疲れているはずだったけど、装備の事になると目の色が変わる。そして僕らは天龍の鱗を使った鎧も作ってもらえることになった。加工料はいらないかわりに余った素材を寄付するのである。
「いやいや、さすがはあの方のご子息だ」
天龍と雷狼の死体を解体しながらクロウが呟く。
「うるせえな、俺はもう親父の息子の次期領主じゃなくて正式に領主になったの!」
「そうでした、こりゃ失礼」
あっというまに皮が剥がされていく。僕があれだけの力を込めて、ようやく傷つけることのできた皮がクロウの手にかかると柔らかそうに見えて来た。クロウの解体用の小刀の成分は「流星」マジェスター=ノートリオの持っている「流星剣」と同じで「隕鉄」というものらしい。空から降ってきた鉱石という非常に貴重なものだ。それに魔力を流し込みながら、思い通りの形に切り取っていく。
「お、魔石がありますよ。こりゃでけえな」
一匹の天龍から魔石が取れたようだった。巨大な炎の魔石である。僕の契約にも使えそうな代物だった。
「ロージー様、さすがにこれはお渡ししときます」
あっという間に天龍を一匹さばききったクロウがロージーに魔石を渡してくれた。
「おお、でかい」
「ロージーさん、これは一応あの集めてた素材の一つなんじゃないですか?」
すでに領主になるための素材集めの旅は強制終了させられたはずで、素材を集める必要はないと思うけど。
「まあ、一応取っとくか」
「売れば、ここの既製品が買えそうだな」
ニコラウスは売って杖でも買って欲しいのだろうか。さっきから店頭に飾られている杖の前を行ったり来たりしていた。
「なんなら、その魔石を頭に埋め込んだ杖でもつくりましょうか? 天龍の骨を削れば作れそうだ」
クロウが二匹目の天龍をさばいている店の奥の解体場から声をかける。ギュルンっとニコラウスの首が回転した。
「本当!? なあ、ロージー! そろそろ君の恩師に恩を返すときじゃないのか?」
「あー、もう好きにすればいいんじゃないですか?」
はいはい、とロージーが魔石をニコラウスに渡した。満面の笑みでニコラウスがそれを受け取り、解体場へと戻しに行く。
「そういや、他のお連れの方たちは宿の方にお泊りになってると思いますよ。若いもんに案内させましょう」
「「「「連れ?」」」」
「ちょっと! なんでロージー様たちがここにいるんですかぁ!?」
「うむ、私とマリーのハネムーンを邪魔しないで欲しいのだが」
「誰と誰のハネムーンよ!? 部屋は別々って言ったでしょ!? というか強制送還されなさい! あと、召喚されてないのに現世に出てくるのをやめなさい!」
案内された宿に行くと、そこにはマリとソニーがいた。
「え? むしろ、なんでマリがここにいるの? シルフィード領は?」
「えっと、あの……それなんだけど……」
マリとソニーはシルフィード領で色々とやらかしてしまったあげく、ソニーがマリと離れられないという事から死んでいないとはいえ次期領主は交代となったという。ソニーは一応は死んだことにされた。真相を知っているのはシルフィード領の中でも限られた人たちだけである。そのために当面する事がなくなったマリとソニーだったが、ソニーのポケットマネーを使ってクロウの装備品を買いに行くという悪だくみを思いついたらしく、ウインドドラゴンでやってきていたのだった。よくみるとマリの籠手とブーツが黒龍革の物になっている。
「一応、これが終わったらレイクサイドに戻る事にしてたのよ!」
四人からのジト目に耐えられなくなったマリが旅の同行を申し出るまでにあまり時間はかからなかった。




