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第34話 戦力不足

「ちょっとこれは無理なんじゃない?」

「レオン、危機感が足りんっ!!」

「ぎゃぁぁぁぁああああ!!!!」

「あ、デザイア、そっちにも行ったよ」


 フェンリル二頭で討伐に出たは良かったものの、僕らは丁度いい具合に幻獣化した召喚獣たちとであった。召喚獣「たち」の集団である。

「でかいっ! あれはもともとワイバーンじゃなかったのか!?」

 天龍は幻獣化したことでレッドドラゴンをも超える大きさとなっていた。そしてブレスまで吹く。なんてこった。

「ちょ、ちょっとさすがに追いつかれる!! 跳ぶよっ!」

「え? ちょっと、ヒューマ、待っ……ぎゃぁぁぁぁぁ!!」

 そして幻獣化したフェンリルである雷狼もでかい。テンペストウルフなんかをはるかに上回る巨体でめちゃくちゃ速い。僕がニコラウスを掴んで跳ばなかったらフェンリルごと食われていた。ただ、地面に降りてもすぐに追いつかれるからどうにかしないといけない。気を取り直したニコラウスが雷狼の方を向く。

「サンダー!」

 ニコラウスがとてつもなくでかい破壊魔法をぶっ放した。落雷の魔法である。本来であればヴァレンタイン王国で数名しか使う事のできないほどの魔法でエネルギー量が半端ない。普通であれば標的は黒焦げだ。普通であれば。

「でも、それを雷狼にぶっ放してどうすんの!?」

「あぁ、しまったぁぁぁ!!」

 まあ、ダメージにはならなかったけど、足止めにはなったか? 使い所は見極めようよ。

「デザイア、とりあえずワイバーン呼んで」

「お、おうっ!」

 三頭のワイバーンが召喚される。三匹の雷狼は上空に逃げてしまえばなんとかなるかもしれないが、問題は天龍だ。それが四匹もいるとは。

「ヒューマ!! なんとかしろ!!」

 デザイアから魔力が流れてくる。今回はデザイアも必死なのだろう。かなりの量の魔力だ。

「僕が究極だ」

「それはいちいち言わなくていいっ!!」

 超人モードに変身する。翼がはえるために僕も飛ぶことができるようになった。

「とりあえず、時間は稼ぐから一旦撤退する?」

「おうよっ!! 任せた!!」

「じゃあ、後で再召喚よろしく」

 三人をのせたワイバーンがキャンプの方向へ逃げていく。それを追うように天龍と雷狼が動いたが、僕が許さない。

『究極の大召喚獣、ヒューマ様』

 おぉっ、天龍が喋った。自我が保たれてるのは事実だったんだな。

「分かってて、あえて僕と戦おうと言うんだね」

『我らを、止めて下さい』

 なるほど、幻獣化したといっても「駆除者」デリートの支配下にあるというわけか。ただ、どうやってデリートが召喚獣を支配下に置いたかは不明である。これって、僕もデリートの支配下になる可能性があるって事なのかな?

「分かった、痛いけど我慢するんだよ。召喚主が遠くに行っちゃったから、全部は無理かもしれないけどね」

 デザイアたちは今のうちに逃げている。僕はここで足止めだ。強制送還される覚悟もしている。それはデザイアも分かってるだろうから、装備は全部ニコラウスに押し付けておいた。

『有難うございます』

 そこから天龍四頭と雷狼三頭が僕に襲い掛かってきた。


 ***


「それで、一頭だけ倒したけどあとは無理だったと」

「だって、デザイアが遠くに行き過ぎて魔力がこなかったんだもん」

 キャンプで再召喚された僕は戦闘の結果を報告した。超人モードでノリノリで戦ってたのに、ある時からふっと魔力が届きにくくなり、最後は普通の人くらいの動きしかできなかった。まあ、仕方ないよね。

「よし、今度からはデザイアもその場に残ろう」

「待って先生、そしたら俺死んじゃうから」


「戦力がちょっと足りないよな」

 僕たちが返ってきたのを確認してフォレストさんが腕組みをしながら言っている。

「だよね。その幻獣化したやつらだけだったらいいけど、デリート本人がやってきて無尽蔵の召喚をし始めたらどうやったって戦力的に負けるもんね。あ、だから奴が出てこないように少数精鋭なのか。でも出てきたらどうするの?」

 そして隣には見知らぬ人が……いや、どっかで会った事があるような気がする。

「それに関してはハルキ様が何か考えるって言ってたから全部任せることにしてる。多分、あの人が考えて無理だったら人類終わるだろうし」

「なんで、先生がその評価なのに僕の評価が低いのさ。一応神なんだけど」

「神の力が使えなくなったって言ってたでしょうが」

 フォレストさんとやけに仲が良さそうである。


「作戦を替えよう」

 アレクさんがげっそりした顔で言った。アレクさんとヴェルテさんたちのパーティーも幻獣に出会っていたらしい。しかし、雷狼が一匹だったとか。ただし、手も足も出ずに最終的には重症まで負ったメンバーもいてアレクさんのぺルグリンで逃げて来たようだった。ちなみにフォレストさんたちのパーティーは色々と問題があってキャンプから出ていないらしい。

「色々とって言うか、原因はこの人だけどな」

 そう指差すのはさっきからフォレストさんと仲がいい人だった。……というよりも、もしかして。


「あのう、もしかして神楽先生ですか?」

「その言い方……もしや同郷の人かな?」

「え? なんでそんなこそこそ言うんですか?」

「いや、ちょっと事情があって、おそらくは多分、君と出会った時の記憶がなくなっている。なにせ僕が知ってるのは初期メンバーだけで、まあ、テツヤは知ってたけど本当は先生と会った記憶はないもんね。ところで、君は何期生?」

「え? 大学ですか? 二年生ですけど」

 いまいち話がかみ合わない。この人神楽先生であってるよな?

「…………ちょっと待ってよ、君、もしかして初期メンバーの井上君じゃない?」

「だいぶ久しぶりに本名で呼ばれましたね」

 日本での本名で呼ばれるのはこっちにきてから始めてだった。ちゃんと神楽先生は僕の事を覚えていてくれたようで、しかし何故、ここに神楽先生もいるのだろうか。


「ちょっとちょっと、君は結構重要な人物なんだけどなんでこの時代に生きてるのかな? 今までどうやって生きて来たのかを教えて欲しいんだけど」

 

仕事のリハビリってさ、普通は職場に復帰するにあたって少しずつ慣れさせる事を言うもんだよね。これ、全力じゃね?

しかもそれって普通さ、異動が終わってから始めるもんだよね。まだ三月なんだけどさ。

しかも四月になった瞬間に日曜日の担当が一人ってどういう事なの? 馬鹿なの?

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