第33話 HDP
冒険者たちのキャンプにいたのは総勢で二十名程度である。そこに四人加わって作戦会議である。議長はフォレストであり、そのフォレストが敬語を使っているデザイアがどこかの貴族のボンボンであることはすぐにバレたが、まさかロージー=レイクサイド領主であるとまではばれていない。
「まさか、お前がこんな所に来るとはな」
ヴェルテさんが僕に話しかけてくれたのはエルダードラゴンの解体が終わり、その肉が焼かれてそれぞれに配られた時のことだった。二度見どころか三度見くらいしてたからよっぽど信じられなかったみたい。まあ、たしかにそうだよね。
「ちょっと、いろいろありまして」
だけど、他の人たちと一緒に行動するとなると、変身は使えないなとか思ってしまう。
「あんまり無理すんじゃねえぞ。まあ、ここにはフォレストさんとかアイリスさんがいるから並大抵のことじゃ危険にはなんねえけどな」
その並大抵じゃない事が起こってるんですけど、説明しようにもややこしいからな……。
「さて、それじゃ本格的に話し合いを始めようか」
フォレストの掛け声で全ての冒険者が集まりだした。
「かなりレベルの高い冒険者がここには選別されている。自分がAランクだから上の方とは思わない方がいい。実際にAランク冒険者の諸君は足手まといだからこのキャンプの防衛とサポートに回ってもらう。文句があるならばそこのエルダードラゴンくらいは倒せる実力を示してもらいたい」
文句なんて出るわけがなかった。実際にいるAランクの冒険者たちはここにきてから恐縮しまくっている。彼らにとってSSSランクのエルダードラゴンは視界に入っただけで逃走する魔物の一つだ。
「そしたら、実力からいって、俺たちのパーティーとデザイアの所が抜きんでてるな。次はヴェルテの所だが、お前ら大丈夫か?」
ちょっと、フォレストさん。ヴェルテさんがこっち向いて信じられないって顔してますけど睨んで黙らせるのはやめてもらえませんかね? うちは一応Sランクパーティーになってるんですよ。一応。
「じゃあ、この三パーティーがそれぞれ動くことを主体としよう。ヴェルテの所は心配だからアレク貸してやるよ」
「おい、俺は子守か?」
「そんなもんだ」
歴戦のヴェルテさんの所をこんな風に扱えるのはフォレストさんくらいだな……。
作戦が大まかに決まった。このキャンプを拠点としてフォレスト、デザイア、ヴェルテの三パーティーが三方向に向かってその魔物を狩りに行く。実際は幻獣化した召喚獣である天龍もしくは雷狼だ。奴らはデリートの命令でこの辺りで召喚の契約素材と魔石を集めているらしい。それを阻止するのが目的になっているが知っているのは僕たちとフォレスト、アイリス、アレクだけだった。あくまでこれは冒険者ギルドのキャンペーン討伐なのである。ただ、難易度がめちゃ高い。補助に回ったパーティーからも討伐メンバーの補充などがされるが、基本的にはキャンプの防衛とサポートで報奨金とランクの融通があるようだった。更に下のランクのパーティーはもっとエレメント魔人国側で大掛かりな魔物の討伐を行っている。そのためにこの辺りに幻獣たちは来ざるをえないはずだ。先に幻獣化した召喚獣を狩ってしまってデリートの戦力を削がねばならない。ただし、デリートが近くにいると、ドラゴン系ユニークを始めとしてあいつが強制召喚した数々の召喚獣がやってくるから逃亡の準備はいつでもできるようになっている。
「今のところはこっちはこれだけだけど、あとで頼りになる援軍も来るしな」
フォレストがそう言ってた。フォレストが頼りになるというくらいだから強い人物が来るのだろう。
「さあ、俺たちはまっすぐ北東に向かおうぜ」
デザイアが張り切っている。よく考えなければ冒険者ギルドのキャンペーンに参加したようなものだしね。楽しむのもありかと思う。
「ねえねえ、ヒューマ君」
ニコラウスが怪訝な顔をして聞いてきた。何?
「幻獣化した召喚獣は狩っちゃっていいの? 君の同胞でしょ?」
「ああ、それですか」
たしかにそれは最初に懸念した。だから、ワイバーンの長に聞いてみたことがあった。
「幻獣化した天龍? 奴ならちゃんと戻ってきおったわい。現世で食われたっつー肉体は召喚士の物だな」
「つまり、むしろ狩られるのは召喚士の方で、この場合は蟲人なんだよ」
「じゃあ、気兼ねなく狩ることができそうだな。最近ストレス溜まってるし、ちょうど良かった」
ニコラウスがちょっと悪い顔した。ストレスが溜まってるというのは本当なんだろう。たしかにずっと休暇を取ってないよね。
「さあ、行くぞ!」
デザイアとレオンはすでにかなり先に行ってる。召喚したフェンリルに漲る力はそこそこのものだ。デザイアも気合が入ってる。後ろに乗ってるレオンも楽しそうだ。
「我々も楽しむとしよう。申し訳ないけど八つ当たりさせてもらう」
狩りを楽しむのはどうかとも思うけど、たまにはいいと思う。それに、僕にとってこれは絶対にやらなければならない事のような気がしてきた。デリートはどうしても許せない。ニコラウスと僕を乗せたフェンリルはデザイアたちのフェンリルに追い付くために加速した。
***
「やべーよ、シウぽん」
「まさか、あんたが援軍なんですか? テツヤ様が来るとばかり……」
「え? 嫌なの?」
「はい」
デザイアのパーティーとアレクに強制的に連れて行かれたヴェルテのパーティーが抜けたキャンプではまだフォレストのパーティーが出発していなかった。と言っても、このパーティーはペリグリンに親子三人が乗るために、少々遅れても問題ない。本日は日の出ている間にせめて一匹狩りたいくらいにフォレストは思っていた。そして到着予定の援軍を待っていたのである。
「そんな、つれない事言わないでよ」
「というか、せめて年をとれよ。こっちは年々おっさんになってるってのに」
そこにいたのはこの十年で全く年を取っていない「邪神」ヨシヒロ=カグラである。というよりもこの十年ではなく、この一万年だ。
「いやいや、本当はテツヤが来る予定だったんだけど、無理言って僕が来ることにしたんだ。責任ってのもあるしね」
「責任?」
「そう、先生聞いたんだけど、その「駆除人」っての? デリートって言うらしいじゃん」
「ええ、そうみたいですね」
「ちょっと思い当たることがあってね。多分、もう一人の仲間はスキャンって言うはずなんだよ」
「知り合いですか?」
「うん、知り合いみたいなもんなんだよ」
一日前の事である。テツヤからシウバの援軍に行くと聞かされたヨシヒロはハルキ=レイクサイドの許を訪れていた。目的はラーメンである。そこで聞かされたのは「駆除人」デリートの事であり、その不自然なまでの所業だった。
「おい、まさか」
大召喚士のジト目に耐えきることができず、ヨシヒロ神は白状したのである。
「多分、そいつらはあれだよ」
「あれ?」
「Human Delete Program. HDPと呼んでた。人類が病気とかであまりにも変異してしまった場合に、それをバグと認定して削除にかかる自己防衛プログラムだ。魔人族でも蟲人でも作動しなかったし、僕がコンソールを持ってる間は特に作動してない事は確認してたんだけど、プログラム自体にバグが生じたのかもね。大学のメインコンピュータにウィルスでも入ったかな?」
やっぱり一日一話投稿に戻そうかなー。でも仕事しんどそうだしなー。
一週間に一話だと少ないしなー。
どのくらいの投稿回数がいいんだろうか。二日に一話? 週に三話?




