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第32話 丸焼きは火が入らないんじゃないか

 エレメント魔人国の北東で未知の魔物が出現しているという知らせが入ったのはロージーたちがカヴィラ領に入ってからだった。領主館に招待されて御飯を食べながら聞いた話である。僕らにはそれが何かというのが分かってしまった。

「要するに、天龍ってことか?」

「他にも雷狼だとかもいるみたいだね」

 幻獣化したワイバーンにフェンリルである。今のところそんなに数はいないようだった。蟲人の中で召喚魔法が使えるものはほとんどいなかったようで、なんとかレベルを上げて契約を結べたのは数人、しかもユニークとの契約など皆無だったらしい。まあ、そうだよね。

「でも、天龍も雷狼もめっちゃ強くなってるから気をつけないといけないよ」

 あいつらはユニークじゃないから、あんまり自我ってものはなくて種族でごちゃまぜになってたはずだけど、たぶんユニークと同じ扱いになってるんだろうな。普通は召喚された時点で種族毎の記憶をもらい、召喚されている時だけ、個として扱われる。それで送還されるとまた種族の記憶に溶け込むみたいだった。ユニークなのは長だけで、あいつらは管理職だから現場には出てこない。


「とにかく、俺たちだけで討伐に行くのか? マジでか?」

「いや、その辺りの交渉ができるのはロージーさんだけでしょう」

 タイタニスが適格なつっこみを入れてくれる。本当にその通りだよ。

「うーん、アイオライ王が乗り気だったから、拒否はしづらい雰囲気ではあったけどねえ」

 すでにニコラウスは諦めモードだ。最近、元気がない。

「まあ、先生とヒューマがいればあっと言う間に終わりますよ」

「危機感が足りんっ!」

 四人(正確には三人と一匹)で蟲人の集団と、幻獣化した召喚獣と、無尽蔵に召喚されてくるユニークを含めた召喚獣たちを相手にとって、その先にいるデリートとかいう変な奴を倒す必要があるのか……。胃が痛くなってきたよ、なんとなく。


「あまり、目立った行動は慎んでほしいのだが。ロージー殿もなったばかりとは言え、領主であるし、タイタニス殿も次期領主だ。何かあっては困るし、変な噂があっても良くない」

 オクタビア領主がロージー達の心配をしてくれる。

「まあ、私は死んでしまっても代わりがいますけどね、はい」

 拗ねてるニコラウスは放っておいても、たしかに変な噂は困るんじゃないかな?

「あ、そしたらまた偽名で行動するか?」

「ああ、いいですね」

 というわけでロージーはデザイア=ブックヤードに、タイタニスはレオンに戻ることになった。ニコラウスはニコラウスのままでいいらしい。ファランクスの姓を名乗る事はないって言ってる。

「一応、冒険者ってことでまたやるか」

 Sランクのギルドカードをくるくるとまわし、ロージーが少しやる気になってくれたみたいだった。


「事情は聞いているからカヴィラ領は全面的に補助を行おう」

 カヴィラ領は冒険者ギルドを統括している。腕利きの冒険者をエレメント魔人国の北東に集めてくれるそうだ。「討伐キャンペーン」をするらしい。移動料をギルド持ちで、ランクが上がりやすくなるキャンペーンだ……どこのオンラインゲームだよ。

「意外と、生きるためにランクを上げたいと思ってる奴らは多くてな」

 ランクが上がると同じ依頼でも少し依頼料におまけしてもらえる。そういった積み重ねは本当に生きていく上で重要だ。オクタビア領主はその辺りを上手い具合に活用して冒険者の流動化まで図っているという。

「とりあえずは二、三パーティーがすでに現地に入ってる。中にはSSランクのパーティーまでいるぞ」

「へえ、どんな人たちなんですか?」

 なんだか興味がわいた。

「あぁ、再結成したヴェルテのチームが今のところは一番有力かもしれん」

「え、ヴェルテさんですか? 知ってますよ」

 ヴェルテさんはレイクサイド領で冒険者をしていた人だ。SSランクだと思ってたけど、SSに上がってたんだな。

「今までは頑なにSランクから上がろうとしなかったが、昔のパーティーメンバーと再結成するにあたってようやくSSランクを受けてもらえた。たしかにSSランクとなれば簡単には他のメンバーとパーティーは組めんし、それは奴が後進の育成に励んでいたから目的に一致するのだが、我らとしては実力のある冒険者にはできるだけ高位のランクを取ってもらいたいのだよ」

 おお、会えるのが楽しみだよ。僕がこんな所にいたらヴェルテさんビックリするよね。

「それに他にも強力な奴らを送り込む予定にしてある。中には知ってる奴らもいると思うぞ」

 知ってる人たち? 誰だろうか……。


 ***


「いや、だってさ。俺らを放っておいて勝手に帰っちゃうんだから仕方ねえじゃん? それに天龍じゃなくてエルダードラゴンだったんだよ。誰だよ間違った情報流した奴ら。楽しみにしてたのに」

「おい、シウ……じゃなかったフォレスト。アイリスが何かしてるって事は、あれはお前たちの弟子たちか? まさかあんな体たらくでSSランクだとか言うんじゃないだろうな?」

「え? あいつらSSランクもらってたの? いつの間に」

 エレメント魔人国の北東のキャンプ。ここには収集されたというか、キャンペーンにつられた冒険者たちが集まっていた。そしてそのど真ん中にエルダードラゴンの丸焼きを作ろうとしているシウバさんの姿がある。後ろで転がってるのはつき合わされたシウバさんの知り合いだろうか。どう見てもその中の一人がヴェルテさんのような気がする。まさかの感動の再会がこんな形になるとは……。


「シウ……フォレスト!! こんな大きな肉を丸焼きにしても中まで火が通るわけないじゃない!!」

「あの、アイリスさん。突っ込むところが違うんじゃ……」

 アイリスさんという事は、「疾風」ユーナ=リヒテンブルグ元皇后か……。噂通り天然みたいである。転がったメンバーも突っ込みに忙しそうだ。

「パパ、ちゃんと火をいれないとお腹こわすよ」

「はーい。アンリの言う通りだね。おいヴェルテ。こいつ解体しろ」

 娘の前ではシウバさんといえども親ばかなのか。そして顎で使われるSSランク冒険者ヴェルテ。あの格好良かったヴェルテさんはどこに行ったんだろう。元気よく返事してエルダードラゴンの解体を始める。他の冒険者たちも手伝ってくれるみたいだった。中央に転がってるエルダードラゴンに群がる冒険者たち。なんか、ちょっとあまり見たくない光景だ。


「おい、シウバ!」

 ロージーが声をかける。

「あ、ロージー様! ちょっと、ここでその名前は言わんでください!」

「ぬぬ、お前が邪王だとばれるとまずいかのか?」

 ロージー、わざとやってるよね? シウバさんが慌てる。

「ロージー様、いやデザイア。ちょっと黙ってようか」

 後ろから音もなく忍び寄るアレクさん。首筋に手刀が当てられる。あ、ジーロさんとちがってこの人本物だ。まあ、ジーロさんもかなりの実力者ではあるんだけど。

 若干「邪王? ざわざわ」みたいな雰囲気になったけど、なんとかごまかしたようだった。


もう一つの方の連載してた小説の「守護霊の紡ぐ糸」が完結しました。

全部で83000文字くらいですので、すぐに読めると思います。

ちょっと重めの話で笑い皆無ですけど、興味がある方はぜひどうぞ。

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