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第31話 許嫁

 実に約二週間もの間が空いた。それほどまでに声が届かなかったのは初めてである。原因は分かっていた。恒常的にそこにあるはずの物がなくなる事によって、訪れる人々が少なくなったのだ。周期的にここを訪れていた人々は、いつもあるものがない事により憤りを覚えるのではなく、興味を失ったという事だった。

 だが、物事には理由が存在する。その場からいなくなりたいという欲求からいなくなったわけではなかった。障害となるものはいくらでも存在する。この場合はその障害が大きすぎたという事だった。人は乗り越えることのできる壁を試練と呼び、乗り越えることが不可能であったばあいは災害と都合よく呼ぶことでなんとか前へ進んできた。この場合も災害だろう。これは試練ではない。試練であるとすれば、もはやその不条理は理解できる範疇を越えている。


 さらなる追い打ちもかけられた。最近ここに訪れる人々の多くは、M大先生のおこぼれであるという事実である。ほとんどのお気に入りユーザーのマイページに飛ぶと、引きこもりの文字が。そして最近は愉快な仲間の文字もちらほらと。あちらが活発化している今、何故だか登録してくださる方々が急に増えている。ありがたやありがたや。紬も毎日参拝している。しかし、残念だったがここにモフモフはないぞ?

人気投票には可哀そうな執事に一票いれておいたが、案の定ネタ扱いだった。


 本職を「災害」と呼んだことが職場にばれるとまずい。しかし、全ては感想を13日間も書いていない読者が悪いのだろうか。いや、そうではない。悪いのは作者の豆腐メンタルだろう。ふと、エゴサーチをしそうになる手をなんとか止めることができた。やってはいけない。やれば、もう立ち直れなくなるに違いない。どうせ、ひどいことが書かれている。YaH〇〇検索に「転生召喚士」「爆死」と打ち込んだ状態のままそれ以上先に進まなくて済んだ。危なかった。いつもの日常に戻ろう。家に帰ってビールを飲むんだ。

 そして、後ろから嫁の声がかかる。


「あんたの作品ランキングとかに全く載ってないんだけど? あとツイッターでね」

「うわぁぁぁぁん!! 聞きたくないっ!」



ストレスがたまると茶番を前に持ってくる症候群

いつの日か、本文に茶番を書いて、あとがきに本編書いてやる

 ロージーが母親と話し合っている間に僕は召喚獣の異世界に戻ることにした。いくら召喚獣とはいえ、ちょっと間に入りづらい話だったし。

「ヒューマさん、実は俺召喚されんかったんすよ」

 還ると、そこには落ち込むゴッドが。ちょっと、めんどくさいから来ないで欲しいんだけど。

「サタンの野郎は召喚されたくせに何もできずに強制送還されてましたけどね!」

 実にどうでもいい。ハルキ=レイクサイドがフラット領で開発中の召喚を阻害する魔道具を盗んで改良してそれの防止装置を自分に付けた状態であの辺り一帯の召喚が阻害されたという、ハルキ=レイクサイドの金にものを言わせた作戦にデリートはまんまと引っ掛かったというわけだ。気づいた時にはノーム玉にまみれてノームごとレッドドラゴンに焼かれていたらしい。ゴッドの出番なし。ただ、問題なのはその状況をどうやって逃れたのかという事だった。

「ちょっと、レッドドラゴンから事情を聞かなきゃならないよね。ドラゴン系のユニークを呼んでよ」

「えぇ、あいつら話が通じないんで嫌いなんすよね」

 基本的にお前はどいつもこいつも嫌いだろうが、と思ったけど口にはしない。だって、こいつめんどくさいもん。


「何か用か?」

 レッドドラゴンの長がやってきた。なんか、めちゃくちゃ機嫌悪いんだけど。というか、ユニークはどうした? まあ、こいつでも構わない。

「デリートの事で詳細を聞きたいんだけど」

「やつか、今やつに我らの眷属のユニークはほとんど強制的に召喚されてしまっておる」

 それがこいつの機嫌が悪い原因か。しかし、悪魔系だけでなくドラゴン系もむりやり召喚できるとか、すごいな。

「さらには、他の召喚獣を幻獣化させようとしとるらしい。まあ、我らの契約素材は貴重であるが故にそうそう蟲人なんぞには契約はむりだろう。せいぜい、ワイバーンまでと儂は思っておるが」

「幻獣化?」

「うむ、召喚士の命を犠牲にして現世にとどまり続ける禁忌の法だ」

「まじで?」

 そんな方法があるんだったら、マジでやばくないか? それに蟲人って言った?

「ちょっと、詳しく聞かせてよ」

 こうして僕はレッドドラゴンの長からデリートの情報を聞き出した。これはすぐにでも伝えなければ世界がまずい事になる。冗談じゃなくて世界を救わないといけなくなったみたいだった。しかし、ロージーは何でかしらないけどなかなか僕を再召喚してくれなかった。


 ***


「い、嫌だ」

 レイクサイド領領主館、ここにロージーは母親のセーラ=レイクサイドとともにいた。他にいるのは妹のミセラ=レイクサイドである。ついでに部屋の隅っこで焼き豚を焼いている元領主がいるが、誰も気にしない。

「ちょっと、俺の希望は?」

「貴族の結婚に希望はありませんよ」

 セーラ=レイクサイドが言い放つ。

「うそだ! 母上は許嫁がいたのに父上が無理矢理略奪したって有名じゃないか! ワイバーンに乗って拉致したとか、霊峰アダムスで告白したとか聞かされる子供の身にもなってよ!」

「ぶふぉっ!」

 部屋の隅でせき込む元領主。母親の方は何も気にしていない。

「若干、違う気がしないでもないですけど、概ね合ってますね」

「いや、全然違うんだけど」

「だったら、俺だって少しくらい希望を言っても……」

「あの頃の父上は「紅竜」ハルキ=レイクサイドですよ? 文字通り純人の王国を救った大英雄です。襲い来る魔人族の部隊を薙ぎ払うレッドドラゴンにどれほどの騎士たちの命が救われたことか。私もその中にいました。あの時は他の領地の領主たちが無能すぎて、私がいたシルフィードアイシクルランスにかなりの負担がかかってましたからよく覚えています。特にジンビー=エル=ライトとかジルベスタ=フラットとか、本当にあれでよく領主が務まったと思うほどに統率力のない輩どもで……」

「い、いや、セーラさん言い過ぎだよ」

 次のレッドブルの肉の塊に紐を撒きながらハルキ=レイクサイドが言う。

「とにかく、貴方には実績がありませんからそんな事を言う資格はありません」

「ちょっと待ってよ、だったら実績があればいいの?」

 ピタリと、部屋の空気が鎮まる。

「あれ、ロージーそんなに嫌なの?」

 ハルキ=レイクサイドにとっては意外だったようだ。おそらく、自分がロージーの立場だったら了承するのだろう。

「嫌なんだよ! なんで、俺があんな奴と!」

「あんな奴って……お兄様ひどい……」

 そこで今まで黙って聞いていたミセラ=レイクサイドが泣き出した。その理由はロージーの許嫁にと決めていた人物とミセラとの関係にある。

「いや、なんというか、人そのものっていうか、立場の話ね! カルティが悪い子だって意味じゃないよ!」

 あわあわと泣き出したミセラをなだめるロージー。なんだかんだ言って、妹は兄に大事に思われている。

「てめえ、みーたん泣かせるとはいい度胸だな」

「うるせえ、くそ親父!」

 そして始まるいつもの親子喧嘩。

「じゃあ、お兄様はカルティと結婚してくれるの?」

「えっと、あの……それとこれとは……」

「どっち?」

 責められて、どうする事もできないロージー=レイクサイド領主。

「まあ、どっちにしてもすぐという話じゃないぞ。当たり前だけど、相手は10歳だし?」

「俺はもう16だ!」

「6歳しか違わないじゃないか。家柄とかこれ以上のものはないぞ?」

 若干ニヤニヤしながら言うハルキ=レイクサイド。自分がやられるのは絶対嫌だが、人の恋路を勝手に決めるのは楽しいらしい。

「父親はまあいいとしても、私としては母親に不満がありますけどね。ローザ様はどこか抜けているところがありますから」

「待って、セーラさん。それ以上は言っちゃだめ」

 あわててハルキ=レイクサイドが止める。

「カルティはいい子だもん。絶対いいお嫁さんになるわ!」

 親友を押すミセラ=レイクサイド。

「お姫様の時点でいいお嫁さんにはならないと思うんだけど……」


「ロォォォジィィィィー!! うちの娘の何が不満なんだぁぁぁぁ!?」

 そこに乱入してくる一人の男。というか、王様。ラーメンの器をもって登場している。ハルキ=レイクサイドの新作チャーシューを楽しみに待っていたらしい。



 ロージーの許嫁にと言われている女性。名前がカルティ=ヴァレンタイン。母親はローザ=ヴァレンタイン。父親はアイオライ=ヴァレンタイン。貴族院の同級生にミセラ=レイクサイドがいるという生粋のお姫様である。


「いや、だから本人じゃなくてどっちかというと家柄がヤダ」

「なんでだこらぁぁ!!」

 この騒動が長引いたためにヒューマが再召喚されるのはかなりあとの事になってしまったという。

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