第30話 計画
「よし、状況は分かった。悪いけどバカ息子をもう少し頼むことになる」
「え? なんで?」
ヴァレンタイン王国レイクサイド領召喚都市レイクサイドの領主館引退領主の部屋。何故かラーメンの寸胴鍋が火にかけられているこの部屋で僕たちは情報の共有を行っている。あちら側で出席しているのはハルキ=レイクサイドにセーラ=レイクサイド、筆頭召喚士「鉄巨人」フィリップ=オーケストラに「勇者」フラン=オーケストラ、さらには将軍様たちが何名も……。レイクサイドに数年住んでた僕からするとレジェンドって感じだ。マリはソニー=シルフィードの件があるから直接シルフィード領に行ってもらっていた。ソニーが日傘をねだっていたのは昼間も召喚されて付きまとうためだろう。マリも大変だよね。
「しかし、ダガーが死んでないってのは悪くない」
「まあ、仮にも私の義理の父になりますし」
ハルキ=レイクサイドとフィリップ=オーケストラが何かを話し合っている。ハルキ=レイクサイドの顔がものすごく悪い顔に見えるのは気のせいだろうか。
「アイオライが珍しく落ち込んでたからな。まあ、仕方ないけど。召喚のレベル上げて契約結べって言ってやるか。しかしヒューマのおかげで召喚獣から情報が入るというのはありがたい」
テロの首謀者はハルキ=レイクサイドがあと少しのところまで追いつめたが逃がしてしまったらしい。その際におかしな現象が起こったとかで、ハルキ=レイクサイドにはそれの心当たりがあるそうだった。
「で、なんで俺たちはまだ解散じゃないんだ?」
ロージーが言う。たしかに緊急事態は脱しているがそれにしたって天下のレイクサイド領の領主が武者修行していて良い状況ではない。フラット領の次期領主と王都ヴァレンタインの宮廷魔術師というのもフラフラしてていい立場ではなかった。
「王都およびシルフィード領の襲撃の首謀者は「デリート」と名乗った。他にも仲間がいそうだ。こいつらの能力に関しては心当たりがあるから、対処は可能だと思う。問題はその後だ」
テロの首謀者を殺して終了というわけにはいかないほどの被害を受けてしまったというのが大問題だった。中でも現王アイオライ=ヴァレンタインの安全を確保するために真っ先に逃がしたダガー=ローレンスの判断はある意味は正しかったが、その後現王がいないという事で宰相ジギル=シルフィードが駆け付けるまで混乱が続き、さらには「大同盟」にも不穏な動きが見られてしまったという。つまり、アイオライ王の威厳を損なう事件であったという事だ。
「これを挽回させるためには、なにかしらの対策をとらないといけない。だけど俺はもう年だしな」
まだ正確には40歳にもなっていない元領主がニヤニヤしながら言う。隣ではあきれ顔の将軍たち。一人すました顔をしているのはセーラ=レイクサイドのみだ。
「ちょうどいい事に、レイクサイド領だけで動いてたわけじゃないし?」
「え? ごめん、話が見えてこねえ」
「つまりね、お前らが英雄になればいいんだよ。というわけで事件の首謀者ひっ捕まえてこい」
「は?」
計画の全貌はこうである。今回のテロで地に落ちた権威をなんとかするため、もとい民衆を騙くらかすにはヒーローが出てくるのがちょうどいいというわけだ。そこに領主になったばかりのロージー=レイクサイドがフラット領次期領主、宮廷魔術師の師匠とともにこの事件をスパーンと解決すればいいという事である。そのためにレイクサイド領およびヴァレンタイン王国が全面バックアップするという酷い計画だ。
「なんで俺なんだよ! 親父がやればいいじゃねえか、暇だろ?」
「馬鹿野郎! こんな物は若ければ若いほどいいんだよ。それに俺は忙しい!」
「ラーメン作ってるだけじゃねえか」
「だけじゃねえ! 魂こめてるんだよ! だいたい、俺がやってもすでに実績ありすぎてて話題にすらならんわ!」
「なるわ! 世界を救ってこい、大召喚士!」
しかし、隣からすでに計画が進んでいるという話を聞いてしまう。
「ふぉっふぉ、ロージー坊っちゃま。すでに陥落する王都からアイオライ王を救いだしレイクサイド領まで逃がしたのは武者修行中のロージー坊っちゃまと仲間たちという事になっております」
フラン=オーケストラが何気ない口調でぶっこんできた。かなりの高齢だと思うけど、背筋がピンと張っている。恐るべし。
「なんでっ!? だいたい、そんなのアイオライ王が許さないでしょ?」
「いえ、アイオライ王もその案には賛同されております。実際、アイオライ王を救ったのはレイクサイド領の人間ですし」
ダガー=ローレンスからの緊急連絡で特殊諜報部隊がアイオライ王をレイクサイド領へと逃がしたのは事実だった。
「あいつなら、今食堂でラーメン食ってるぞ?」
「アイオライのおっさん、何してんの!?」
現王を王様とも思わない親子が喧嘩をしているが、微妙な顔をしているのはニコラウスとタイタニスである。
「アイオライ王がここにいるんですか? え? やっぱりご挨拶しておかなきゃダメですよね? それにしてもいつになったら休暇をくれるんでしょうか」
「あぁ、まーたフラット領に帰るのが延期になりそうだね。親父大丈夫かな」
若干、諦めたような表情に見えるのは気のせいだろう。
「というわけでまた追い出されたね。またしてもこの風景を見るとは思わなかったよ」
「待てぇ! 全面バックアップってなんだったんだ!? ジーロが隠れてちょこっとついてきてるだけじゃねえか!」
召喚都市レイクサイドからまたしても旅立つ事になるとは思わなかった。すでに隠れる気の全くないジーロさんが後ろに付いてきている。という事はアレクさんもあとで合流する事になるんだろうか。いや、こっちが大変そうだからジーロさんだけかもしれない。むしろ戦力ダウンが甚だしい。
「とりあえず、魔大陸に戻る? 装備品も作りたいし」
タイタニスが達観した目で言う。ここまで振り回されるのにフラット領の次期領主は慣れていないんだろうけど、何故だかいつも通りのような感じだ。貴族院でロージーに散々振り回されてたんだろう。
「そうですね、ローブだけでも作ってもらわないと」
「天龍素材はどうすっかな」
なんだかんだで前向きな三人。
「ソニーの事があるからマリは合流できないのかな」
さすがに次期領主を召喚する召喚士はシルフィード領に釘付けになりそうだ。
「あー、それがいいかもな。ジギル=シルフィードの所も落ち着くまでにかなり時間がかかりそうだし」
「男三人でむさい旅ですか。ヒューマ君とジーロさんいれて五人ですね」
ニコラウスが現実を口にする。
「ロージーさん、どうにかならない? さすがに男だけでとかつまんないですよね。色町突撃しても諜報部隊から母上に筒抜けになっちゃうし」
「ジーロが黙ってれば大丈夫だ」
「ロージー様、さすがに無理です。行動は逐一報告する必要があります」
いつのまにかすぐ後ろまで来ていたジーロさん。足音立ててくれよ。
「よし、領主命令でジーロに色町の情報を取って来させよう」
「セーラ様から、許嫁がいるロージー様が変な行動をしないように監視するという任務も言付かってますよ」
「「「許嫁!?」」」
「何それ、聞いてないんだけど」
何故か一番ロージーが驚いていた。
「「「聞いてない!?」」」
「え? もしかして私、やっちゃいました?」
ジーロさん蒼白。
「ちょっと、母上に聞いて来る」
こうしてレイクサイドから旅立とうとした僕たちはすぐに引き返すことになったという。
次回新キャラの予感!
とか言って、既出キャラでやると思うだろ? でも、いないんだよ年頃の女性キャラが!
名前をつけるのがめんどくさいけど仕方ないんだよ!
すでに名前のストックがないんだよ! これが一番難しい!




