第25話 王都襲撃
「いや、めんどくさいからって、これはないでしょ?」
「私もそう申し上げたのですが……」
「まぁ、仕方ねえよ。いくぞ」
ネイル国に一泊した一向はさらに西へと向かう事になった。そして、ウインドドラゴンの後ろにはひーひー言いながらなんとかついてきているジーロさんのワイバーンが……。
「あぁ、もう正体ばれてるしお前普通について行け。俺らはここでもうちょっとゆっくりしてから向かうから。ロージー様、いざという時はこいつ盾にして逃げても構わないんで。セーラ様には良いように言っておきますから」
と、アレクさんに言われたジーロさんはウインドドラゴンの定員がいっぱいだという理由で自前のワイバーンで全速力でついてきている。
「さすがはジーロ……」
マリなんかは尊敬するポイントが違う気がするけど、ウインドドラゴンの速さについてこれるワイバーンっていうのはあまりいないのは確かだ。僕が還れば席が一つ空くのに、それは言わなくてもいいってロージーに言われちゃった。何故だろうか。
「この辺で野営しろって言われたんだっけか?」
目的地であるゴゼの大空洞周辺に至るまでにどこかで一泊する必要があった。海を渡っているわけじゃないから、途中で数回休憩のために降りている。昨日の旅に比べると皆、まだ元気があるようだ。
「野営か……」
「え? もしかして野営した事ある人いない?」
マリが慌てている。今まで冒険者をしていたけれどもどれも夜になったら召喚獣で町に帰るからテント張って寝た事などない。僕はともかく、ロージーやタイタニスは野営増設の仕方すら分からないようだった。ニコラウスもほとんど同じである。
「信じらんない!」
女性であるマリが率先してテントを張る事になっている。今までテントを持ち歩く事すらなかったんだから誰か気づいても良かったんだけども……。あ、ジーロさん手伝ってくれるんだ。すでに死にそうだけど……、なるほど、早く寝たいんだね。
「仕方ない、僕らは魔物を狩って晩御飯を作ることにしようか」
「そうだな」
四人で狩りに行くことにした。この辺りは国が存在しないから、魔物はかなり豊富にいるようだった。
「あんまり無茶はしないようにするのと、必要以上に獲らないようにしなきゃね」
やる気まんまんのロージー達をある程度制止しなきゃだめみたい。
***
「ハルキ=レイクサイドが引退したとか」
「ここに来て絶好の機会だ。おそらくは運命であろう」
「君がそんな事を言うなんて、よっぽど興奮してるんだね」
王都ヴァレンタインの某所。二人の人間が会っていた。表舞台ではおそらく接点のない二人である。
「なんだかんだ言っても、あの領地はハルキ=レイクサイドがいてこそのものだ。取り巻きが現状維持をしたところで、揺さぶってやれば綻びが出る」
「引退が嘘で、僕らをあぶり出しにかかってるかもしれないよ?」
「奴らにとって、我らは取るに足らないほどの小さい存在だ。そんな大がかりな嘘をつく必要性がない」
「たしかに、数にものを言わせてしらみつぶしに調べればいつかはたどり着いてしまうだろうからね」
「長年の悲願だ。頼むぞ」
「任せてよ。もともと僕はそのために生まれたと思うんだ」
そういうと、若い方の人物は路地へと出ていく。
「お前だけが頼りなんだ」
老人は、全てをやりつくしたかのような顔をしていた。実年齢を聞くと驚くほどに若い。彼をここまで老齢に見せているのはこれまで歩んできた人生が原因なのだろう。そして、その彼が夢を託すのはまだ成人して間もないような人物だった。
「さあ、お祭りだ!」
その日、ヴァレンタイン王国が始まって以来最悪の事件が起こる。突如として襲撃を受けた王都ヴァレンタインを守る護衛騎士団たちであったが、そのほとんどが討ち取られ、護衛隊長「斬月」ダガー=ローレンスの戦死が知らされる頃には、王都ヴァレンタインの王城からは火の手が上がっていた。たまたま滞在していたレイクサイド第8騎士団が守備に参加するが、現場の混乱のさなか同士討ちに巻き込まれてしまう。
襲撃の主犯は若い青年であったという。そして主犯という表現は正しくないのかもしれない。なにせ、彼は一人で王都ヴァレンタインを陥落させたのである。1000名を超える王都護衛騎士団を打ち破ったのは、多数のアークデーモンであり、さらに召喚された悪魔系召喚獣最強と言われる「サタン」は、王城の城門を吹き飛ばし、「斬月」ダガー=ローレンスに止めを刺したのを多くの者が目撃している。
悪魔系召喚獣たちの襲撃に対してレイクサイド騎士団が応戦しようとするが、同じ召喚獣を操る者たちとしてレイクサイド騎士団以外の実力者は知られておらず、ふとした誤報から護衛騎士団の矛先がレイクサイド騎士団へ向いてしまう箇所もあり、同士討ちで初速が遅れた第8騎士団は王城の防衛線に加わることができなかった。
「帝王」アイオライ=ヴァレンタインは襲撃で命を落としたと言われている。世界は「大同盟」の維持に力を注がねばならなくなったと同時に、どの国が裏切りヴァレンタイン王国を襲撃したのかという猜疑の目をお互いに向けざるを得ない状況となってしまった。この事もヴァレンタイン王国としては不利に働いたのである。
領主が修行の旅で不在であったレイクサイド領は、第1将軍フィリップ=オーケストラの迅速な指示の元、その大半の戦力を王都ヴァレンタインへと直行させた。だが、到着時には王城は炎に包まれ、襲撃の犯人はどこにも見つからない状況であったという。他の領地からも続々と軍が集まる中、自領にもどっていた宰相ジギル=シルフィードが王都へ帰ることで指揮系統を確立するが、領地ごとにも互いに猜疑を掛け合う場面も続出し、混乱は収まることを知らなかった。
そして、次の事件が起こる。
領主不在のシルフィード領が次に襲撃されたのである。アイシクルランスのほとんどがジギル=シルフィードに付き添って王都ヴァレンタインまで出向しており、防衛を任された騎士団員たちは戦力不足の中、必死に戦ったが悪魔系召喚獣たちの前に一人また一人と倒されていった。次期領主ソニー=シルフィードは最後まで指揮を執っていたが、サタンの「デスフリーズ」の前に崩れ落ちるのが目撃されている。崩壊した領主館の後から救出された者はごく少人数であり、遺体が残らなかった者も多かった。
***
「ジギルはたとえ息子を殺されても冷静さを失わないさ」
「本当にそうだったね。僕としては錯乱してくれて君らに襲い掛かると思ってたんだけど」
「甘い。考えが浅はかだ」
「そうみたいだ。こうやって僕の居場所を突き止めて、しかも単身で乗り込んでくるなんて僕には想像もできなかったよ」
霊峰アダムスに近い場所の森の中に建てられた小屋。住民がいなくなってからすでに十数年が経っていると思われる場所に、犯人は潜伏していた。
「目的が分からないな」
「それは駆除だよ。王都襲撃もシルフィード領襲撃も、すべてはバグの元凶の駆除のためだ」
「!?」
「スキャンは大変だった。なにせ、範囲と容量が大きすぎる。この世界に影響を与えすぎだよ」
犯人が立ち上がる。想像を絶する魔力が彼を包み始める。
「思ったより早く目的が達成できそうだ。君はまんまとひっかかっておびき出されたんだよ」
召喚されるサタンとアークデーモンたち。
「僕は「駆除人」デリート。そして、君は「バグ」の元凶だ。ハルキ=レイクサイド、死んでくれ」
もう第3部だし、そろそろ退場かな?




