第24話　残念な人たち

「ちょりーっす、ヒューマさん、お久ーッス！」

　出た。なんでこいつ待ち構えてるんだよ？

「先日は失礼しましたッス！　まあ、ヒューマさんもボロボロになった状態だったしぃ？　仕方ないスね!!」

　殺意が沸く。しかし、この世界で攻撃しても無効化されるから何もできない。

「あ、なんで目合わせてくれないッスかぁ！？」

　こいつ、理由が分かってるくせに。この前まで目を合わせなかったのはお前だろう。あぁ、やだやだ。もしかしてとは思ってたけど、本当に待ち構えてるなんて、なんて性格悪いんだよ。

「ちょっと、やめてくれる？」

「え？　何をッスかぁ？」

「うるさいんだよ、ゴッド」

　召喚獣の異世界に還るなりゴッドの奴に絡まれてしまった。しかも、ものすごいドヤ顔で。後ろに部下の天使系召喚獣たちが並んでる。

「これは召喚主の差って奴っすねぇ！　しゃーないス！　いくら俺でも究極の召喚獣であるヒューマさんにはかなわないスけど、召喚主の差は仕方ないッスからぁ！！」

　たしかにハルキ＝レイクサイドとロージーだと現時点ではかなりの差がある。魔力量的には同じくらいだけど、召喚の使い方や魔力の込め方なんて雲泥の差だ。でも、将来的には分からないよ？

「いつの間に召喚契約なんて結んでたんだよ」

「それは企業秘密ッスゥ！」

　滅したい。

「いや、でもまさか俺と契約できる奴がいるなんて思わんじゃないッスかぁ！？　呼ばれた時はマジびびったッスぅ！」

「まぁ、契約しようと思ってもその感じだとやめようと思われて終了だよね」

「またまたぁ！　股！」

　ゴッドが「あら奥さんポーズ」をしたあとに「コマ〇チ」する。殺意しか沸かない。

「契約時にはちゃんとした口調でやるに決まってんじゃないッスかぁ！　ハンコ押しちゃったらこっちのもんスよぉ！」

　ぐっと親指を突き立てるゴッド。後ろの方で天使型召喚獣のユニークの多くがやれやれって感じになってるけど、お前的にはそれでいいのかい？　あ、ケルビム君が向こうむいちゃったよ？

「嘘つけ、お前現世ではちゃんと真面目にやってるよね？　後ろの皆ぁ？　こいつが現世でどんなだったか知りたくない？」

「ちょ、待て！　待つッスぅ！　ちょっと！　それは、ええと、とにかく今回は俺っちの勝ちでしたけど、ヒューマさんは落ち込んじゃダメっすよぉ！！」

　慌てたゴッドと一緒に天使型召喚獣の全てが消えていく。ほんと、最初から来ないで欲しかったのに。

「お疲れ様です。災難でしたね」

　イフリートが近づいて来た。気づいてたんなら助けてくれてもいいのにとも思ったけど、確かに僕が彼の立場だったら助けようがない。

「疲れたよ。それよりイフリート、聞きたい事があるんだ」

「何なりと」

「シルフの事なんだけど……」

　＊＊＊

「こう言っちゃあ、なんだけど」

　タイタニスがぼそっと言う。そして、次の言葉は他の人間も感じていた事で、簡単に予想がついた。

「ここ、ネイル国の首都だよね。なんか、こう、ショボくない？」

　海を渡ったところで僕は召喚された。ウインドドラゴンの上が狭くなるのは嫌だという理由で飛行中は呼ばれなかったんだけど、それは僕にとってもありがたかった。

「とりあえず宿をとるぞ！」

　ロージーも旅に慣れてきて、やるべき事も分かるようになっているようだ。

「お風呂はいりたーい」

　マリが呟く。一日中ウインドドラゴンの上にいて、一向はかなり疲れぎみのようだった。

「あ、じゃあ皆疲れてるみたいだから、僕が宿の手配とかするよ」

　召喚獣の異世界で休ませてもらった僕に疲労はない。あってもロージーから魔力もらえば元気になるしね。

「たのむー」

　すでにニコラウスが限界のようだ。

　しかし、あんまりいい宿はなかった。

「ちょっと高いけど、風呂ついてるのはここだけみたい」

　首都ネイルで一番の宿にしか風呂ついてないってどういうこと？

「しかも、この値段か…………」

　明らかに皆納得がいってない顔である。そりゃ、この値段だったらレイクサイドだったら最高級のコース料理までついてくるぞ？

「仕方ねえ、マリーもいるし風呂なしに泊まるわけにはいかん」

　おぉ、ロージーが男気をみせた！　たまには珍しいこともあるもんだ。しかし、客室に通された僕たちは釈然としない雰囲気になってしまった。部屋がショボいのだ。タイタニスが文句言うのも分かる。

「ネイル国はあんまり栄えてないからね」

　ニコラウスが久々に教師っぽく話す。

「サイド=ネイル１２世は戦には強くても内政がいまいちで、騎士団を使って狩猟した魔物たちをうまく活用できてないよね」

　レイクサイド領もリヒテンブルク王国も経済がしっかりしている。その基盤は農業であり、狩猟から続く生産販売でありと安定した経済が騎士団に還元されることで国力が充実し、文化などに力を回す余裕が生まれるんだろう。それはこういった宿とか店とか生活に現れてくる。

「もう、安くて美味い店を探しに行こうぜ」

　領主とは思えない発言をするロージーだが、全員が賛同したみたいだった。

「あ、じゃあオススメの店を聞いてくるよ」

「え？　宿の人に？　こんな宿の人がオススメする店ってある程度高い所じゃないの？」

　マリの指摘はもっともなんだけど、あいにく僕が聞く相手は宿の人じゃない。

「ほほう、それでよりによって俺の行き付けをばらしたわけだな」

「てめえ！　シウバ！　この野郎！」

「あ、ロージー様、お久しぶり」

「シウバさん、お勤めお疲れ様です。こちらが副隊長さんですか？」

　つけてきてた特殊諜報部隊のジーロさんを捕獲して、オススメの酒場を紹介してもらった。

「アレク様！　申し訳ございません！」

　すると、そこには何故かシウバさんともう一人がすでに酒盛りをしていたのだ。シウバさんは爆笑している。すでにできあがってるな。

「見ろ、アレク！　やっぱり予想の斜め下じゃないか、しかも大幅に」

「まさか、ジーロが拷問に耐えきれない軟弱者だったとは」

　拷問とは人聞きが悪い。拘束して羽毛でくすぐっていただけなのに。

「なかなか良さそうな酒場だね」

「腹減ったよー」

　ニコラウスとタイタニスはすでに気分は飯に向かっている。

「ちょっと！　なんでアレク様がここにいるのよ！　それに一緒にいる人もしかして！」

　マリは気づいたようだ。

「あ、だいぶ久しぶりだなマリー=オーケストラ」

「やっぱりシウバ様！？」

　マリはシウバの正体を知ってるみたいだった。若干固まっている。

　乾杯もそこそこにマリ以外の皆が飯にむさぼりつく。おお、美味い。

「知り合い？」

　骨付き肉をかじりながらタイタニスが聞いてきた。この旅を始めてからというもの、このフラット領の次期領主はどんどん行儀が悪くなる。

「えっと、あの…………邪王？」

「はじめましてー、邪王でっす！」

　酔っ払いが自己紹介する。そして固まるタイタニスとニコラウス。さらにはSSSランク冒険者であるフォレストの正体がシウバさんとばらしてるけど、いいのだろうか？