第23話 お目付け役
本日2話目更新
「今思ったんだけど、私って一応このパーティーのお目付け役なのかな?」
いきなりニコラウスが何か言い出した。いまさら? って思ったけど、確かにニコラウスは特にお目付け役みたいな事していない。魔物がいたら破壊魔法繰り出して殲滅するだけの係だ。
「今頃何言ってんですか、先生」
「まあ、確かにお目付け役を押し付けられたのに仕事してねえよな!」
タイタニスとロージーがとどめを刺す。
「この現状がセーラ様にばれたらちょっとまずいかもね。何せ天災級とはいえ天龍の素材は関係ないし」
「あ! 先生もしかしてローブの素材がもう集まってるからって興味をなくしてない!?」
タイタニスが核心を突く。そして図星のニコラウスは顔に出る。
「そ、そ、そんな事ないよ」
「嘘つけぇ! その顔は完全に怒られたくないと思ってる顔だ!」
うん、分かりやすい。しかし、ちょっと板挟みは可哀そうでもあるから助け船でもだしてあげようか。
「もしかしたら天龍から特大の炎の魔石がとれるかもよ?」
「おぉ! じゃあ、問題ないぞ!」
ぱぁっとニコラウスの顔が明るくなる。どれだけセーラ様怖がってるんだよ。
「さあ、天龍を倒して魔石を回収に行こう!」
「先生、天龍がいるのは北の魔大陸なんで出発は明日ですよ? 聞いてました? 今日は自由行動です」
「…………」
「おのれ! またしてもか! タイタニスさまぁぁぁぁ!! いずこへぇぇぇ!?」
午後からランカスターの町をぶらついてると簀巻きにされたニコルさんたちが船に載せられて沖の方に流されていくところだった。相手が気づかないうちにどこかへ行こう。
「おぉっ! ヒューマ君! いいところに!」
ちっ、気づかれたか。
「…………」
「あぁっ! 何故目を合わせてくれないんだ! 前回の事は謝るから! この拘束をほどいてくれぇ!」
「…………」
「ヒューマくん! ヒューマくぅぅん!!」
明らかに変な人がいる。関わっちゃいけないな。しかし、人の名前を叫ぶのはやめて欲しいものだ。
「ひゅーーまーーーくぅぅぅぅぅ…………」
さて、何か買い物でも行こうかな。できたら向こうでも美味しい物が食べたいからね。
「おいおい、まさか次は北の大陸で天龍狩りか? お目付け役が全く仕事してないな」
「ほんと、予想を斜め下に大幅に上回るよな」
「斜め下に上回るとは意味が分からん。下なのか、上なのか?」
「つまり、意味が分からんという事だよ」
「どうせ、お前の仕業だろうが。クロウの工房の剥ぎ取り職人につける冒険者が少ないのを相談されていたのだろう?」
やっとの事でロージーを補足したアレクたちだったが、次の目的地が北の大陸のさらに北東と聞かされてげんなりしている所だった。
「いや、だって俺だってクロウが天龍の素材を欲しがってるなんて知らんかったし。てっきりエルダードラゴンくらいかと……」
「そんなものお前が取ってくれば話が早いではないか。ロージー様を巻き込むな」
「だって……面白そ……」
アレクにとってロージーたちの行動は予想が付きにくいものであり、さらにはシウバの効果的な妨害もあって状況の把握が難しい相手であった。喋った事はなかったはずであるのにアレクの好みの酒を知っているシウバに買収された事で、探索はジーロ達が行っている。そしてジーロ達では結局補足できなかったために、アレクはフラット領の親衛隊の野生の勘にかけてみた所、あっさり見つかりそうになり、ニコルたちがタイタニスに接触する前に拘束したのだった。
「なんて忙しい仕事なんだ」
アレクがシウバに酒で買収されなければ特に問題ない仕事であったはずであるが、シウバもハルキの指令を受けているという。
「だいたい、なんでハルキ様が俺たちの妨害を指示するんだ? 意味が分からん」
「妨害ってほどじゃないけど、行き過ぎた干渉を阻止しろって」
「行き過ぎじゃないだろうが。完全に寄り道だぞ? 今回の依頼は」
「そんな寄り道でもないよ。もう領主様なんだから好きにやらせやれよ。親離れさせてさ」
一瞬、シウバに説得されそうになるが、それでは任務失敗にてセーラに怒られると思いなおすアレク。
「ええい、そろそろお前も家に帰れ」
「いや、任務終わってないし」
「ユーナもアンリも帰って欲しそうにしてたじゃないか」
先日首都リヒテンブルグのシウバの自宅で久々の再会とともに会食を行っている。というよりも朝まで飲んでいた。そんな事をするから仕事にならない。
「大丈夫だって。たまには俺も羽根を伸ばしたいし」
「伸ばし過ぎだ!」
そうこうしているうちに沖までニコル達を流していった部下が帰ってきたようである。
「ジーロ達は先行して北の大陸に入っていろ。目的地にできるだけ近づいておけ」
本格的に部下のウインドドラゴンとペリグリンの契約を申請しようかと迷うアレクであった。
***
「さあ、長旅になるね」
北の大陸のさらに北東にまで行かねばならないのだ。ウインドドラゴンでも数日かかってしまう。
「おい、まずはネイル国で一泊でいいんだな?」
リヒテンブルグ大陸から海を隔てて向こうにあるのがネイル国である。基本的にどんな国でも「大同盟」でつながっているから、入国に関しては特に問題なさそうだった。これが十数年前までは戦争しまくっていたというんだから、すごいものである。それを作り上げたのがハルキ=レイクサイドにシウバ=リヒテンブルグだというのだから、本当に伝説的だ。
ロージーの召喚したウインドドラゴンに乗りこむ。
「私とマリーは北の大陸は経験があるけど。三人は初めてなんじゃないかい?」
ニコラウスがそう言った。
「あ、でもこの前シウバさんに拉致られてカヴィラ領なら行ったよね」
「あぁ、帰りも拉致られたから実感ねえよ」
悲しそうにロージーが言う。まあ、今度はゆっくりできそうだよ。依頼といっても期日はないし、天龍に会いに行くだけでも数日は滞在することになるしね。
「さて、ちょっと僕は召喚獣の異世界にもどってるよ」
「なんでだよ、魔力は申し分ないぜ?」
「いや、ちょっと調べたいものがあってね」
他の召喚獣たちに聞いときたいことができたんだ。
「分かった、付いたら再召喚するわ」
「いつみても、便利だよね……」
タイタニス、そうでもないんだよ。ロージーのアホみたいな魔力があるからできることで、君の魔力だと30分くらいしかもたないから。




