第22話 地道な努力とは
日付変わってるから本日1話目だな!
「ロ、ロ、ロ、ロージー様!?」
ランカスターでまだ動いてたデビルモスの蛹を卸していると、なんと工房「クロウ」から最高責任者であり筆頭親方であるクロウがやってきたという事だった。そして、いつくるのかと思っていると、なにやらちんちくりんなドワーフがロージーを見て驚いている。
「あ、なんだよ、おっさん」
「ロージー様じゃないですか!? もしかしてこのデビルモス獲ってきてくれたんですか!? うわ、くっさ。懐かしっ!」
やたら慣れ慣れしいな、こいつと思っていたけど、周りの職人たちの雰囲気がちょっとおかしい。まるで親方がきたかのように緊張しきっている。
「あれ? もしかしてレイクサイド領のダンテ親方のところにいた職人さんじゃないですか?」
マリは知り合いみたいだ。
「おぉ、マリーお嬢様。フラン様はお元気ですか? いやあ、昔はよくしごかれて死ぬかと思いましたが今ではおかげさまで」
やはりレイクサイド領にいた事があるようである。
「む、結局お前は誰だ?」
ロージーが確信をついた。そう、皆それが聞きたかったんだよね。
「おっと、自己紹介がまだでしたね。この辺を取り仕切ってます。クロウです」
「「「なにぃ!?」」」
そして手のひら返したように態度が変わる僕たち。まあ、仕方ないよね!
「装備品が欲しかったと。なんだ、早く言っていただければ。ロージー様やマリーお嬢様たちでしたら超格安でお譲りするに決まってるじゃねえですか」
やったぁぁ! 「クロウ」製品が安く手に入るぞ!
「うちの商品はですね、加工ができる奴がほとんどいねえんですよ。というのもナイフに魔力を通さないと加工できないようなものを扱いますんでな。「流星」マジェっちの剣と同じ原理で、もともとはフラン様やシウバが戦闘に使ってた技術なんですが」
なるほどね! それで流通する商品が激少ないわけか。
「えっ、それじゃ私も作れるのかな!?」
「魔力が通っても、もともとの加工の腕が必要なんですよ。俺はシウバに強制的にフラン様の所に修行に行かされたから身につきましたけど、他に行けっていっても、ものになる職人が全くいなくて。師匠のダンテ親方にもこれは無理ですからな!」
ふへへんっと胸を張るクロウ。まあ、そうだろう。もともと職人としての腕がなければ装備品の加工なんてできやしない。さらには剣に魔力を通す技術だって戦士としては一流である証だ。両方できるとは、なんてすごいんだ。
「といっても素材がなけりゃできないってのもあるんで、そのへんは相談ですけど。で、どんなのが好みで?」
堰を切ったように皆がいろんな要求をしだす。全く遠慮ないよね、君たち。
「はぁ、なるほど。だいたいの好みは分かりました。」
要求をほとんど聞いた後にクロウが言った。そして、なにやら考えこんでいる。
「うーん、しかしどうですかねえ。ちょっとシウバあたりと相談したいところですけど」
「なんかあるのか?」
「えぇ、お聞きした装備品の好みにとてもよく合う素材がないわけではないんですよ。ですが、その魔物というのが厄介で」
「たいていの奴ならなんとかしてやるよ」
「はぁ、ロージー様の実力を疑っているわけではないんですけど、さすがにあいつはハルキ様クラスじゃないと絶対大丈夫とは言えないんで」
「どんな魔物なの?」
タイタニスが興味深そうに言う。
「えっと、その魔物の名前は「天龍」です。第五の天災級と言われ、他の天災級の魔物よりも強いんじゃないかとも言われている伝説級の魔物ですね。かつて蟲人を喰らって生きていたとまで言われたやつです」
わーお、やたらすごいのが出て来たよね。みんな若干、顔が蒼いけど大丈夫だろうか?
***
ちょっと考えさせてもらう事になった。宿に帰って体を洗ったりする時間が必要である。三人が臭いからね。風呂に入ってさっぱりしてから集合し酒場に移動だ。風呂が付いてる宿は少ないし金もかかるけど仕方ない。デビルモスの依頼は結構な額になったから大丈夫だった。装備品の正規価格には届かないけど、安くしてもらえるって事だったし、今後も依頼は続けるしね。
「ニコラウス先生は蟲人との戦争の時は戦ったんですか?」
「いや、ヴァレンタイン軍はほとんど戦場までたどり着いてないんだよね。戦ってたのはレイクサイド騎士団ばかりで、他は壊滅したトバン王国と半分壊滅したエレメント魔人国軍かな。ネイル国軍とヒノモト国軍も戦場には間に合ったらしいけど、ほとんど活躍してない」
「おぉ、親父すげえな」
「なにしろ戦場で三大精霊同時召喚とかしてたらしいからね。その間に「神殺し」テツヤ=ヒノモトと「邪王」シウバ=リヒテンブルグ、「流星」マジェスター=ノートリオ他二人で蟲人の女王を始末しに行ったんだとか。そっちも激戦だったみたいだけど」
他二人って誰だろうか。でも、よく聞く名前ばかりで僕らの世代からすると伝説だ。ところで大精霊は四大精霊なんだけど?
「蟲人は四メートル超えるって言うでしょ? そんなのが数千数万と襲ってくるんだから当時は世界が亡ぶんじゃないかって大変だった。ヴァレンタイン大陸にまでは来なかったけど」
「私も親衛隊入隊したばかりで右も左も分かんなかった時だな」
「え!? マリは蟲人みた事あるの?」
「うん、戦ったよ。めちゃ怖かったけど、皆について行ったら勝ってた感じ?」
まさかマリが蟲人見てたなんて。
「一人一人がアイアンゴーレムとかと対等に戦えるから地上戦はきつかったかな。ハルキ様が四大精霊召喚したりするまでエレメント魔人国は虐殺に近い形で押し込まれてたし」
「四大精霊?」
タイタニスが変な声をする。
「うん、大精霊は四人だもの」
そう、大精霊は四人なんだけど、なんで記録では三大精霊になってるんだろうか?
「でも、空中戦はレイクサイド騎士団の圧勝だったの。羽の生えた蟲人は空を飛べるってだけでワイバーンとかウインドドラゴンに比べると飛び方が遅くて。それで空中戦で蟲人をほとんどやっつけた後に、ゴーレム空爆で地上を殲滅していった感じかな?」
「ほとんどレイクサイド騎士団が戦ってたんだ?」
「うん、最後は各国の騎士団は遠巻きに見ててとどめだけ刺した形?」
えげつない。さすがはハルキ=レイクサイド。
「しかしレイクサイド騎士団がそこまでしないと戦えなかった相手が蟲人で、その蟲人が主食だった魔物って事か」
そうそう、今の話題は天龍だ。これを討伐しに行くかどうかが話し合いの焦点だった。
「やろうぜ、親父を越えるならコツコツとだ!」
最終的にロージーがそう言って、僕らは天龍の討伐を決めた。まあ、僕は究極だ。天龍であっても負ける気はしない……多分。
「天龍を狩るってのはコツコツとは言わない気がするけど……」
「うるさい、タイタニス」




