第21話 動く蛹
いつのまにやら本日9話め! さすがに疲れて来たな
「貴様何が目的だ!」
「6割はあるお方からの依頼だ、あとは単なる興味本位と嫌がらせだな!」
「あるお方って、お前がそう言う時点でどう考えてもハルキ様だろうが!」
「馬鹿野郎! 依頼主を教えてハルキ様がセーラ様に怒られたら俺らのせいになるんだぞ!?」
「それはダメだ! 分かった、俺は知らない事にしておく!」
シウバとアレクが言い合いをしていたのは港町ランカスターである。何故かジーロ達からの連絡が途絶え、さらには皆との倉庫で糸に拘束されていたのを見つけたのは次の日になってからだった。
「トイレとか大丈夫だった?」
シウバが呑気な事を言っている。
「いえ、もうやばいんで早めに拘束をといていただけると……」
変な姿勢でジーロが言う。
「くそっ、誰がこんな事をっ!」
「シウバ様……」
見え見えの演技にジーロ達の半眼を気にもしないでシウバが明後日の方向を見て叫んでいる。何故か拘束をとく溶液を持っていてそれを使うシウバとそそくさとトイレに行くジーロ達一向。
「はぁ、どうせもうランカスターにはいないんだろ?」
「あ、ばれた?」
「……仕方ない、買収されてやろう。さっさと首都リヒテンブルグに行くぞ」
「よし、エジンバラ産の4202年の赤でどうだ?」
「マッドロブスターの丸焼きもつけろ」
「それは……ユーナとアンリも呼ばないと殺されそうだな」
「やっぱり喧嘩なんかしてないじゃないか」
「あ、ばれた?」
***
「見てみろよ、この「天然アプロ」の生け捕り? めちゃ依頼料が高いぞ?」
「難しいんじゃないかな? この頭の野菜?をとってくる依頼は安いから、生け捕りにするには土ごと運ばないといけないみたいだよ。それより、こっちのシルバーファングの群れの討伐の方が楽で効率的じゃないかな?」
首都リヒテンブルグの冒険者ギルドはそれなりに大きかった。それにリヒテンブルグ大陸は魔物が強い事で有名である。とくにテンペストウルフで構成された騎馬軍団は世界最強とも言われていた。
「とりあえず、片っ端から受ければいいんじゃないかな。特にウインドドラゴン使えば遠くの方の依頼もいけるわけだし? 速そうなやつにしようよ」
マリの提案に皆が頷く。
昨夜遅めに首都リヒテンブルグへと入った僕たちは手ごろな宿に泊まることにした。そして朝一番に起きて冒険者ギルドへと来たのである。
「うーん、でも装備の素材となるものの依頼が良かったんじゃねえのか?」
「でも、今のところあんまりなさそうだよ?」
さすがにそうほいほいとティアマトなどの討伐依頼があるわけではないだろうけど。ここじゃなくて世界中の討伐依頼を検索してもらった方が良かったかもしれない。
「ちょっと、君たちはもしかして素材目当て?」
依頼板の前でワイワイ騒いでいたら、受付から声をかけられた。何やらおっさんが手招きしている。でも、よく見ると名札にギルドマスターって書いてある! この人偉い人だ!
「なんだよ、おっさん」
もっと偉い人が偉そうに言った! まあ、ロージーは一応天下のレイクサイド領主だし?
「素材目的ならいいのがあるけど、受けて見ない? みたところ腕がたちそうじゃない?」
おぉ、このおっさん見る目があるよ!
「とりあえず、見てみようぜ」
なんでも、「クロウ」で使用される素材っていうのは特殊なはぎ取り方が必要なのだそうだ。だから、その剥ぎ取り職人を同行させる必要がある。そして討伐直後から劣化する素材をいかにうまくはぎ取るかによって、装備品の強度が変わってくるらしい。
「実は、マリー殿の話は伺っていたんですよ」
「え? 私ですか?」
「そう。ある方から「宝剣」マリー=オーケストラ殿がこちらにこられるという情報をいただいておりましてね。実力的にSSランクは確定ですからな。その方によると皆さんはSSランク以上のパーティーだとか。」
「だれだよ、そいつ…」
ロージーの言うとおり、そいつが誰か気になるよね。
「それは言えませんな。ですが、かなり信用のおける方と申しておきましょう」
あ、これはシウバさんだ。間違いない。
「まあ、それはともかく、剥ぎ取り職人を同行させるにあたって高ランクの魔物を相手にできて尚且つ剥ぎ取り職人を守り切るほどの実力があるパーティーがほとんどいないのが現状なんですね」
ティアマトクラスになればそんな事をする余裕がある奴は少ないとの事だった。だからこそ、僕たちに声をかけたんだとか。
「よし、いいよな。皆」
皆が頷く。もちろん願ってもない。そして素材が手に入り、装備品に近づくのだ。
「じゃあ、こちらの依頼の中から選んでください」
そこには数件の依頼があった。そして、その中にはお目当ての素材の魔物の討伐もある。
「よっしゃ!」
話合いの結果、僕らはある依頼にする事にした。
***
「だから、ティアマトにしとこうって言ったじゃんか!」
「うるさい、タイタニス=フラット! 私は悔いはないぞ!」
「うげぇぇぇ」
「ちょ、近寄らないで! あ、職人さん。どこに行けばいいかな?」
「ロージー、僕、一瞬還っていいよね?」
「ダメだ! 一緒に苦しめ! あぁ! この野郎、還りやがった!」
一瞬召喚獣の異世界に戻った僕が再度召喚される。
「てめえだけ! 卑怯だ!」
「むしろ僕だけ助かったことを喜んでくれよ」
あたり一面、真黒な液体である。向こうの方には真っ黒な塊がもぞもぞと動いており、そこにでかい鍋をもって近づいていく剥ぎ取り職人。
ここはデビルモスの群生地帯。職人を守っていたマリ以外は真っ黒でめちゃ臭い液体まみれになってしまっている。襲って来たデビルモスの幼虫と成虫を倒す度に飛び散る体液である。僕は一旦還ったから綺麗になって戻ってこれたけど、あと三人は大変だ。南無~。
「くせぇぇ!!」
「うるさいぞ、ロージー君。諦めろ」
「先生! なんで魔法で焼き尽くさんかったんだよ!」
「蛹が燃えたらだめだろうが。私のローブになるんだぞ?」
「あぁー、もうー」
タイタニスが水魔法をかけて体を洗う。他の二人もそれをしようとし、ニコラウスはもちろん問題なくできるが、ロージーができない。
「ヒューマぁぁぁ!!」
「はいはい、分かったよ」
代わりに僕が水魔法で洗い流すのだ。ロージーは基本的に魔法できないからね。
蛹の方ではマリが鍋の中の水を沸騰させている。その中にもぞもぞ動く蛹を入れようとして職人が格闘している最中だった。もぞもぞ動く中身を煮殺すのだそうだ。
「しかし、結構な数があるけど、いつまでかかるんだ?」
ついに魔法で洗濯まではじめたタイタニス=フラット次期領主。やはり、こいつは順応性が高すぎる。
「あれが全部終わるまでだろうよ」
そこには結構な数の蛹があった。どう考えてもあそこで似てたら今日中には終わらない。
「どうする?」
「どうするったって……」
その日、ランカスターまでも動く蛹を輸送するウインドドラゴンが目撃されることになり、港町はちょっとした騒ぎとなったという。そして、そのドラゴンに乗ってきた奴らが臭かったというのも噂になった。




