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第20話 拘束

ふぁっふぁっふぁ 本日8話目……あれ? なんでこんな事してるんだっけか?

「正直、なめてたね」

「あぁ、ちょっと依頼を受けにいこうか。くそっ、フラット領から金を持って来ても良かったらいくらでも持ってくるのに……」

「素材の持ち込みができればあんなに安くなるんだから、素材を狙うってのもいいんじゃないかな?」

「マリーの言う通りだ。行くぞ、とりあえずティアマトだな」

「いやいや、待って。デビルモスだろう。私はローブが欲しい」


 ランカスターの「クロウ」販売店に着いた俺たちはさっそく装備品を見にいくことにした。マリのウインドドラゴンはかなりの速さで飛んでくれたおかげでその日の夕方に着く事ができ、閉店前の店に滑り込んだ。途中、特殊諜報部隊のワイバーンだと思われる気配があっと言う間に引き離されてたけど、まあ彼らは彼らの任務という事だし? 助けてあげることはしなかった。

 そして「クロウ」販売店を閉店時間になって出た一向は完全に当初の目的を忘れていた。その装備品の金額が僕らが思っていた額と二桁違ったのも凄かったけど、もっとすごかったのはその見た目であり、性能を伴った形式美だった。あれは欲しい。

「先生はローブか……じゃあ、俺ら4人は同じ装備でそろえてみる? あ、ヒューマはどうしようか」

「僕も、欲しいな」

「じゃあ、頑張って依頼をこなして買おうよ。俺、めっちゃやる気出て来た」

 タイタニスがきらきらした目で言う。なんとなく年相応の16歳の目になったのを始めてみた。

「防具、良いな……」

 ロージーの口数が少ない。確かに彼にとっては武器は飾りだけど、防具は防具だからね。

「あの真っ白なコートが恰好良かった~。もしかしてヒルダ様がつけてるコートと同じかしら?」

 第3将軍「聖母」ヒルダの純白のコートは白虎製として有名である。10年以上着ているのに艶も色も褪せないと言われている。

「マリ、あの素材は白虎だ。多分、あの製品も同じだろう」

「えっ! じゃあ、なおさら白虎を討伐しなきゃ!」

 目的がすり替わる。

「私だけ、のけ者か……しかしデビルモスのローブは譲らないからな!」

 王都ヴァレンタインでも「クロウ」製品はあるだろうが、最高級品はここランカスターにしかないらしい。ニコラウスでも見た事すらないという。取り寄せられるのは領主クラス以上、もしくは伝手があるもののみである。製品自体はあまり作られないというのが理由らしい。素材が希少である上に製作できるものが限られるのだそうだ。それは「レイクサイド製」にはない何かの理由があるとか。


 ここランカスターには冒険者ギルドは小さいものしかない。それは首都リヒテンブルグが近いせいでもあるし、リヒテンブルグ王国中の冒険者が取ってきた素材が集まる専用の場所であるからでもある。

「早く、首都リヒテンブルグに行こう!」

「さすがにここで一泊じゃない?」

「明日の朝一番でいい依頼を受けたいんだ!」

 ロージーが急にやる気を出し始めた。皆興奮している。そして、ここにいてもお金が足りないから装備品が買えるわけでもない。

「分かったよ、皆はいい?」

 それぞれ装備品がはやく欲しいのだろう。つまり、お金を稼ぎたいのだ。誰も反対しなかった。

「よし、行くぞ!」

 ロージーがウインドドラゴンを召喚する。そして僕に流れてくる魔力が極小になる。

「ちょっと、乗り込むまではもう少し流しててよ」

「あぁ、すまんすまん」

 このままではちょっとした跳躍すらできない。



「やばい! アレク様に殺される!」

 ランカスターに遅れてついたジーロは焦っていた。いくら探してもロージー一向が見つからない。完全に撒かれた形になってしまっている。

「ふっふっふ、お困りのようですね!?」

 路地裏に隠れていたはずのジーロを補足したのは冒険者風の女だった。

「なっ、あなたは!?」

 その顔を確認してジーロが戦慄する。自分では勝てない相手だと気づいたからだ。

「アイリス様、配置につきました」

「えぇ、ありがとう! では夫からの指示どおり、この人たちを拘束しますよ!」

 そこにいたのはジーン、ペタ、アヤというSSランク冒険者を引き連れたアイリスこと「疾風」ユーナ=リヒテンブルグであった。すでに後方にはケルビムをはじめとしてユーナが召喚した召喚獣がジーロとその部下を包囲している。

「拘束します!」

 そして、そこには少女が一人。彼女こそ「邪王」シウバ=リヒテンブルグと「疾風」ユーナ=リヒテンブルグの一人娘であるアンリである。

 一瞬、彼女に意識が向いたジーロ達。そしてその隙をついてケルビムたちが襲い掛かる。

「散開しろっ!」

 ジーロの号令とともに散ろうとする特殊諜報部隊。しかし、すでにそこには罠が張られていた。闇に紛れるために使用されたデビルモスの糸、そしてそこには粘着性の接着剤が多量に塗りつけられている。特殊な溶液ではないと溶かすことのできないものだ。一糸ずつであれば触った感触すらない。しかし、それが多量になると例えアイアンゴーレムといえども拘束することが可能となる。それがデビルモスの糸である。

「なんとっ!?」

 いきなり動けなくなる体に驚愕するジーロ達。そして何故かケルビムも同じように拘束されてしまっているが、これはジーロ達が警戒することなく散開するようにと仕向けられた囮だったのであろう。

「ごめんね、ケルビム」

『いえ、大丈夫でござる』

 若干語尾に不機嫌さが混じるケルビムであるが召喚主に逆らえないようである。

「さあ、ちょっとここで時間をつぶしていてもらいますからね」

「あぁぁぁぁ!!」

 糸をかき集めてジーロ達ごとアイアンドロイドたちが引きずっていく。

「ジーン、ペタ、アヤ。ありがとう」

「ありがとう!」

「いえいえ、これくらいお安い御用ですよ。それで、あいつら誰だったんです?」

 アンリの笑顔に癒される三人。しかし、その後の言葉で表情が凍る。

「ちょっとね、それは知らない方がいいよ!」

「う……分かりました」


 もしかしてとんでもない相手にとんでもない事をしてしまったのではないかと後悔した三人であったが、アイリスに反抗するわけにもいかず、結局はこうなったと考えることにしたという。


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