第13話 魂
「ちょっと待ってください、重要案件ってこれですか? めちゃ納得いかないんですけど」
カヴィラ領の一室ではハルキ=レイクサイドが極秘の行動をとっていた。部屋の中にいるのはロージー=レイクサイドと召喚獣である僕だけである。そして僕はハルキ=レイクサイドにちょっとした事を教えただけだった。だが、その事は「大召喚士」ハルキ=レイクサイドにとって、いや日本人にとって非常に重要な事だったようだ。
「ついに、できた! 感動した! ヒューマ、お前がいてくれて良かった」
渾身のガッツポーズで天を見上げる大召喚士。しかし、解せぬ。僕が日本人だった事を放っておいて、それかよ。日本の話しないの?
「おい、クソ親父、それで何なんだ? これは」
まさかハルキ=レイクサイドが日本人だとは、思わなかった。でも、これはさらに予想外だ。というか、人払いの意味あったのか?
「魂だ! おいっ、テツヤに連絡だ! 遂に長年の夢が叶ったんだ! 何度やっても駄目だったんだよ!」
ハルキ=レイクサイドの長年の夢が、魂がこれだと? ごめん、正直共感できない。部屋の中には湯気が充満していた。そして、そこで茹でられたものがある。そう、ここは調理場である。
「だって! どんなに頑張ってもうどんかそうめんかパスタがいいところだったんだぞ! 小麦粉に何入れたらいいかなんて知るか!?」
そう、彼が知りたかったのはラーメンの作り方である。僕もたまたま父親が自分でラーメンを作りたいからと言って色々調べていたから知っていただけだけど、ラーメンには普通小麦粉の他に「かんすい」
というよく分かんない物質が必要だった。家庭で手に入りにくいそれを重曹で代用したら、自家製ラーメンができるのだ。まあ、知らなかったら作れないよね。確かにこの世界にはラーメンがない。
「おい、ヒューマ。分かるか?」
「分からないでもないけど、ちょっと無理な領域まで感動されちゃってる」
「あとで詳しく教えろ。でも、疲れたから俺は部屋に戻って寝るわ」
絶叫するハルキ=レイクサイドを放っておいて、ロージーが部屋を出ていく。入れ替わりに呼ばれたシウバが何やら魔物の骨付き肉を要求されていた。出汁を取ったり、焼き豚にするらしい。メンマらしきものをレイクサイドから取り寄せようと画策している。この10年くらいのうちに開発していたらしい。食用の竹なんてどうやって見つけてくるんだよ?
「ハルキ様、でもあくまで代用品であって、本当のラーメンじゃないですよ?」
「馬鹿野郎! ラーメンのカテゴリーに入るのは間違いないだろう!! よし、とんこつスープを作るぞ! シウバ、レッドボア狩ってこい!」
無茶ぶりをされるシウバ。しかし、狩ってくること自体は無茶じゃないようだ。
「もしかして、それはめちゃくちゃ美味いんですか?」
「ふっふっふ、いわゆるソウルフードだ」
「そうるふーど?」
「食えば、魂が漲り、定期的に食いたくなるものだ。俺は15年以上食ってないからこの程度の働きしかできん」
「世界を救った大召喚士であるハルキ様が、この程度の働きしかできていないという事は……」
「うむ、引退してしまったから仕方ない。次の新しい領地でも作るとするか」
なにやら物騒な話になってきている。僕のせいなのかな? しかし、ラーメンにそんな効果があったなんて知らなかったんだけど。そして食談義で盛り上がる二人。もう帰ってもいいのかな? シウバが作りたての具なし「醤油もどきラーメン」を食べている。なかなか美味しそうだ。あ、半熟ゆで卵が投入された。なんて美味そうなんだ。
「これでもまだまだなんだ! まだ高見を目指せる食。それがソウルフード・ラーメンだ!」
「ソウルフード・ラーメン!」
「ソウルフード・ラーメン!」
だめだ、ちょっとついて行けない。あ、後ろに領主のオクタビア様がいるけど、多分僕もあんな顔してるんだろうな……。あ、レッドボアの肉が領主館にあったんだ。……煮豚を作り出した。これはいつまでたっても終わりそうにないな。一杯だけ食べて出て行こう。
***
「おい、ちゃんと説明しろ」
部屋に替えるとロージーが拗ねていた。父親の事に関して聞きたい事があるらしい。そりゃ、あんな会話になってたら気になるだろう。
「長くなるけど、ちゃんと聞いてね」
僕は覚悟を決めた。そして、前世の事をロージーに話した。
「はぁ、なるほど。それで親父はあんなにすげえのか」
「いや、前世の記憶があるからだけってわけではないと思うんだけど」
「なんでだ?」
気になる事が沢山ある。それは前世の記憶をしっかり持っていて尚且つそれを使って繁栄したようなハルキ=レイクサイドなんだけど……。
「そりゃ、ある程度は記憶があったからだと思うけど、あんまり活用してないと言うか、何と言うか」
召喚都市レイクサイドで5年も住んでいたから分かるけど、現代の知識があればもっと便利な事もあると思うのに、それほど他の都市と比べて発明品が多いわけじゃない。いまだに井戸にポンプがないのはどういった事なんだろうか。
「それに記憶があっても頭が悪かったら何にもできないよね?」
「しかし、親父は小さい時はものすごい頭悪かったって聞いたぞ? ほとんどの奴がそれはわざとだったと思い込んでいたけど」
そりゃ、成人した瞬間からあれだけの事を成し遂げれば誰だってそう思うだろう。でも、おそらく違う。成人した時に前世の記憶が混ざったんだ。多分、そう。
「それに、テツヤ=ヒノモトも同じ日本人らしい」
「なるほど、テツヤおじさんもか。確かに言われてみれば思い当たる節がある気がする」
いろいろと分からない事もあるが、少しずつパズルが合わさっていくように分かるのだろう。あとでゆっくりハルキ=レイクサイドに聞くとしよう。そして、そうするとこっちの世界の事も興味が湧いて来た。多分、日本に帰るのは無理だとは思うけど、そういった所を聞いておきたい。
しかし、タイミングは基本的に悪いものである。
ドドォォォォーン!! という轟音とともに、領主館の玄関の方へ土埃が舞った。
「オクタビア=カヴィラ様! ここにうちの兄がきているはずですわ! 引き渡しを要求します!」
そこには後ろにレイクサイド騎士団を引き連れた少女がアイアンゴーレムの上に仁王立ちしていた。領主館を取り囲むワイバーンの数に引きそうになる。そして、隣で蒼い顔をしているのがロージー=レイクサイドであった。
「げぇっ! ミセラ!? それに後ろにいるのは第2騎士団と第7騎士団じゃねえか!? 二つも連れてくるなんて!?」
窓からちょびっとだけ顔をだしてロージーが呟いた。
ちょこちょこと玄関まで出て行ったオクタビア様が挨拶した後にこっちの部屋を指差す。
「あの野郎! 俺を売りやがったな!」
「お兄様! 逃亡なんて許すはずがなくってよ!」
ワイバーンから大量のアイアンゴーレムが降り注ぎ、領主館周囲を固めた。オクタビア様がちょっと文句を言っている。少女の後ろから誰か出てきて、オクタビア様に耳打ちした。あれって、もしかしてシルキット将軍かな? そして、またオクタビア様が大人しくなる。
「あの野郎! 買収されやがったな!」
「さあ! お兄様! レイクサイド領へ帰りますよ! 戴冠式の準備がありますわ!」
さらに増える召喚獣の数。相手はロージー一人だと言うのに、まったく容赦するつもりがないのだろう。
僕らは、というかロージーは絶体絶命のピンチに陥った。一旦召喚獣の世界に戻ってようかな?
「うおぉい! ヒューマ!?」
「え? ダメ?」
あなた! 更新ないから感想に「はよ書け(原文改変)」って書き込みよ!
え? きづいてから1時間以内に書いたから大丈夫?
大丈夫じゃないわよ! なによ、その3秒ルールみたいなへんなのは!?
え? 3秒ルールはきちんとした論文がでていて3秒以内に拾えば食べ物にゴミが付く割合がへるからって……ダメよ! 拾い食いは!




