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理系女子の恋  作者: 流音
77/246

74、最終リハーサル


文化祭前日――――


私はタカさんと二人で生徒会室前の張り紙を見つめて、複雑な気持ちだった。

そこにはミスタコンの出場者の写真がズラッと張り出されていて、学年の入り混じった女子が騒いでいる。

私たち二年生の出場者は赤井君に井坂君、それに瀬川君まで入っていた。

あとの二人は知らない人で名前と写真を見てもちっともピンとこない。


「……しおりん。なんか凄いことになってない?」


タカさんが周りの盛り上がり具合に顔をしかめながら言って、私はその通りだっただけに細く息を吐きだした。


「だよね…。」


私はここまで大騒ぎになるとは思ってなくて、少し後悔し始めていた。

張り出されている井坂君の不機嫌そうな写真を見て、はぎ取って帰りたいと思って頭を振った。

ダメダメ!!そんな事できない!

私は張り紙に背を向けると教室に戻ろうと足を進めた。


タカさんがそんな私を追いかけてきてくれる。


「しおりんは投票するの?」


タカさんがミスタコンの投票の事を聞いてきて、私は首を振った。


「…しないよ。井坂君に優勝してほしくない。」


私はもし優勝してしまったりしたら、今まで以上に女子に囲まれる井坂君を見る事になりそうで嫌だった。

彼女だって自信はあるけど、嫌なものは嫌なんだ。

私は瀬川君辺りに優勝してもらえると助かるな…なんて勝手に思った。


「だよね~。彼女としては複雑だよねぇ~。自慢な彼氏の反面、自分だけの彼氏じゃないんだもんねぇ…。」


タカさんに心情を言い当てられて私はムスッとした。

タカさんは私の反応が面白いのか横でクスクスと笑っている。

すると廊下の向こうで赤井君と一緒に下級生の女子に捕まってる井坂君が見えて、私は足を止めた。

スリッパの色から一年生だと分かる女子たちは口々に「ミスタコン投票します!」とか「文化祭一緒に回ってください!!」なんて事を言っている。


それを聞いて嫉妬心が湧き上がってきて、私はタカさんを置いて井坂君の元へ走った。

私が女子の固まりの後ろに駆け寄ると、不機嫌そうな井坂君の顔がこっちを向いて表情が変わるのが見えた。

見るからに私を見て嬉しそうに頬を緩ませると井坂君が手を挙げて「詩織!」と声をかけてくれる。


それを合図に女子が振り返ってきて、私は突き刺さる視線を浴びながら勇気を出して固まりに割り込んだ。

咄嗟に体が動いて来てしまったものの、どうやって井坂君を連れ出そうかと考えて井坂君に近付く。

すると井坂君が私の手を握ってきて、私は学校でこうやってくるのは珍しかっただけに驚いた。

井坂君はすごく嬉しそうな笑顔で私を見てから、下級生に目を戻して言った。


「投票はサンキューな。でも、ぶっちゃけミスタコンなんてどうでもいいんだ。だから、俺以外の奴に入れてくれると嬉しいよ。じゃ、そういうことで。」


井坂君はそれだけ言うと赤井君の肩をポンと叩いて、私を引っ張って固まりから離脱した。

女子の残念そうな「えぇ~…。」という声が聞こえて、私は内心すごくホッとしていた。

繋がれた手も嬉しくて体がムズムズしてくる。

そうして自分の気持ちを堪えていると、井坂君が歩きながら振り返って笑顔を見せた。


「来てくれて嬉しかった。囲まれてうんざりしてたんだよ。」


私はそう照れ臭そうに頬を赤らめながら言う井坂君を見て、胸がギュッと苦しくなって体が勝手に井坂君に抱き付いた。

井坂君の後ろから体に手を回して力を入れる。


「しっ…詩織!?」


井坂君が驚いて声を上げているけど、私は井坂君が自分のものだと確認したくて、離れるつもりはなかった。

こんな嫉妬だらけの自分はみっともないけど、自分の気持ちに正直になりたくての行動だった。


私があまりにも離れないので見兼ねた井坂君が急に辺りを見回し始めて、人のいない空き教室へ入っていって、私は入るのと一緒に腕の力を弱めて井坂君から離れた。

井坂君は空き教室の扉を閉めると、赤い顔で私を見てから「ん。」と言って腕を広げてきた。

その仕草からギュッとしてくれることが分かって、私は嬉しくて自然と頬が持ち上がると井坂君に抱き付いた。

井坂君の匂いと温かさにすごく安心する。


「なんか…最近の詩織は…昔と違うよな…。」


井坂君がボソッと呟いてきて、私は違うと自分では感じてなかったので尋ねた。


「…それって…どういう所が?」

「う~ん…、なんていうか…自分からこういう事を要求してくるところとか?大胆になったっていうか…珍しいなぁ~って思ってさ…。」


言われてみて、確かに前までは井坂君からっていうのが多かったかな…と思った。

前までは自分からなんて恥ずかしくて思ってても行動になんかできなかった。

でも夏に嫉妬を井坂君に受け止めてもらえて、気持ちをさらけ出すのが怖くなくなって…心が軽くなっていた。

というか色々な積み重ねから、自分も成長したんだと感じた。


「ふふっ…井坂君と一緒だから…かな。私だって、井坂君に触りたくなることぐらいあるよ。」


私は言いながら彼の背中に回した手で井坂君のシャツをギュッと掴むと、井坂君がシャツ越しに私の脇腹を撫でてきて驚いた。


「……俺も触りたい…。いい?」


井坂君から小声で懇願されて、私は『触る』がどういうラインまでなのか気になった。

でも自分だって触りたいと言った手前断ることもできなくて、とりあえず「いいよ。」と答える。

それを合図に井坂君の吐息が頬にかかったと思ったら頬にキスされた。

私は井坂君のシャツをギュッと握りしめて目を瞑って、バクバクと荒れてる心臓の音を聞いていた。


嬉しいけど…なんか恥ずかしいっ…!


井坂君は頬から少しずつ下におろしながら、首筋にまでキスしてきて体がゾワゾワと鳥肌が立つ。

私はただされるがままシャツを握りしめることしかできない。


絶対私の顔真っ赤だ。―――っていうかいつまで続くの!?


私がそろそろ離れようと言おうと思っていたら、井坂君の手が服越しに胸に当たるのが分かって心臓が飛び上がった。


うそっ!?!?!?


そのとき走る足音が扉の向こうに聞こえて、それが止まったと思うと教室の扉がガラッと開く音がした。


「井坂っ!!こんなとこにいたっ!!………って…。」


発せられた声から北野君だと分かって、私と井坂君は目を見開いて扉に目を向けた。

北野君は入り口でポカンと口を開けたまま固まっていて、視線が少し下に向いたのに合わせて私たちも視線を下げて現状に気づいた。


「わぁーーーーーっ!!!」

「ひゃっ!!!」


井坂君が私の胸から手を放すのと同時に、私は胸を隠すように両腕を前で交差してその場にしゃがみこんだ。

井坂君は恥ずかしさからか大きくむせながら北野君に食って掛かった。


「いっ…一体、何の用だよ!!ふっ、普通入るときはノッ、ノッ、ノックするだろ!?バカ!!」

「ば…バカって…。これから最終リハだからわざわざ呼びに来たのに、その言いぐさはないんじゃねぇの?いくらイチャついてたからってさぁ…。」

「なっ!?恥ずかしげもなく口にすんなぁっ!!」


北野君が何も気にしてないように言ったので、井坂君は取り乱して声を荒げた。

私だって見られた事が恥ずかしすぎて、立ち上がることもできないのに、北野君の落ち着きっぷりは何だろうと思った。


「付き合ってんだからこういう事もあるだろーさ。いいからサッサと教室に戻って来いよ。」

「はっ!?こういう事って…!?」


北野君はヒラヒラと手を振ると平然と戻っていってしまって、混乱する私たちだけが取り残された。

井坂君はしばらくその場で固まっていたけど、急に大きくため息をつくとその場にへたり込んだ。


「……マジであいつだけは掴めねぇ…。」


井坂君の呟きから北野君の事だと分かって、井坂君と北野君はそこまで分かり合える仲ではないのかもしれないと感じたのだった。






***






それから私たちは気まずい雰囲気になりながらも教室にいるクラスメイトと合流してから、中庭のステージでの最終リハーサルを終えた。

みんなでゾロゾロと教室へ戻る。


その道中で赤井君や井坂君に対する声が飛び交う。

内容は決まって「ミスタコン応援してます」関連だ。

私はムカムカする想いを抱えながら、気にしないように自分に言い聞かせた。

そのとき前から生徒会長が何人かの生徒会役員と連れ立って歩いてきて、横にいたあゆちゃんの目つきが変わるのに気付いた。


「どうも~、先日はお邪魔しました。」

「こんにちは。」


赤井君が少し嫌味っぽく生徒会長に話しかけて、生徒会長は表情を変えずに挨拶だけして立ち止まった。

私とあゆちゃんはその様子を少し離れた所から見守る。


「俺ら、仕方なくミスタコン出ることにしたんで、よろしくお願いしますね~。」

「そうですか。こちらとしては大変ありがたいです。」

「ですよね~。俺らの彼女たちが寛大だったことに感謝してくださいよ?」

「彼女…??いたんですか?」


ここで生徒会長のポーカーフェイスが崩れて、驚いたように赤井君と井坂君を見ている。

ん…?何??その反応?

私は凛とした生徒会長が会長という姿から変わったような気がして、なんだか嫌な雰囲気に女の勘が働いた。


「知らなかったわけ?結構有名だと思ってたんだけどな~。俺ら公言してたしさ。な、井坂。」

「…あぁ。」


井坂君がちらっと私を見て目が合うと、焦って逸らしてしまった。

…何で目を逸らすんだろう?

私はじっと井坂君の横顔を見つめた。


「へえ…。私の耳にはお二人の人気ぶりしか届いてなかったので知りませんでしたよ。まぁ、彼女がおられようと、このイベントには関係ないかと思いますので。最終日の結果を楽しみにしておいてくださいね。」

「へいへい。ま、俺はやるからにはてっぺん狙うからさ!じゃーな!!」


赤井君は生徒会長の肩をバンバンと叩いてこっちに向かってくる。

横であゆちゃんは何かにお冠で「あの女…。」と苦虫をすり潰したような顔で怒っている。

なんでそんなに怒ってるんだろう…?

私は生徒会長さんのどこにムカついたのか分からなくて、首をすくめた。


すると生徒会長さんが井坂君を呼び止めていて、何か話をしているのが視界に入った。

井坂君は面倒臭そうな顔をしているが、生徒会長さんは心なしか表情がさっきよりも柔らかい気がする。

嫌な女の勘が働いてしまって、私はある可能性を導き出してしまった。


会長さんは井坂君の事が好き?


私がモヤモヤする嫉妬心に顔をしかめていると、急に井坂君の笑い声が耳に入って二人を凝視した。

会長さんも井坂君と同じように笑っていて、何の話をしていたのか気になる。

私は突撃をかけようか悩んでその場に立ち尽くした。


なんだかモヤモヤして気持ち悪い…


私はただ笑って話してただけなのに嫉妬するなんて、自分はすごく醜いなと思い大きくため息をついた。

私は彼女なんだから自信持たないと…

ちょっとしたことで束縛しちゃったら嫌われちゃう

私はギュッと拳を握りしめると、井坂君を置いて足早に教室へ向かった。



そうして教室に戻ってくると、ダンスリーダーの島田君が反省点を口にし始めていて、クラスメイトたちが話を聞いているところだった。

私はあゆちゃんたちの傍に行くと、島田君の話に耳を傾ける。

でもそのときにさっきの嫉妬心からか、じわ…と汗をかいている事に気づいて、黒のパーカーを脱ぎたくなってきた。

私は今、ステージ発表用のスタイルで黒のパーカーに黒いズボンで統一していた。

また、このパーカーは井坂君から借りたもので、サイズも大きくダボダボで熱がこもるのかもしれない。

私は空気を通そうとパーカーの裾を持ってパタパタと揺らした。


すると私の横にいたあゆちゃんが、ニヤニヤと笑って話しかけてきた。


「詩織~、それって井坂のだよね?」

「?そうだけど…?それがどうかしたの?」

「ふふっ。なんか彼氏の服を借りて着るっていいなぁって思ってさ。」

「……そういうもの?」

「そういうもんだよ~。前にも増してラブラブだねぇ~二人は。」


あゆちゃんの言い方に一瞬ドキッとしたけど、さっきの二人の笑ってる姿が頭に貼りついていて上手く笑えない。

あゆちゃんはニコニコしながら、島田君に目を戻した。

私も同じように話を聞こうと思って目を向けたとき、北野君の姿が見えて、私はハッとさっき見られた事を思い出した。


北野君は何もなかったかのように平然と教室へ戻っていったけど、本心はどう思ったんだろう?

井坂君もよく分からないって言ってたし…、あのこと誰にもしゃべってないのかな?


私は北野君が黙ってくれてるのだろうかと不安になった。

北野君は島田君の話を聞く気がないのか赤井君と話して笑っている。


そういえば…北野君とはあまりしゃべった事ないし、どういう人なのかよく知らないな…


私は赤井君や島田君に比べて接点が少ないなと思って、北野君がどういう人か気になってきた。

そこで彼女である新木さんに聞いてみようと、新木さんの隣に移動して声をかけた。


「新木さん。ちょっといい?」

「うん?何?」


新木さんはパーカー姿が暑かったのか脱いで腰に巻き付けていて、Tシャツ姿が涼しそうで羨ましかった。


「あのね北野君の事なんだけど…、新木さんから見て北野君てどんな人?」

「…何?その質問?詩織、どうしたの?」


普段あまり聞かないので新木さんに不審に思われてしまい、私は笑って誤魔化した。


「あはは。私、北野君とだけあまり接点なくてさ。どんな人なのか気になって。新木さんの彼氏でもあるしさ。」

「そういうこと。北野はねー…なんて言ったらいいのかなぁ…。分かりやすく言うと、一番冷静で人の気持ちに敏感な人…かな。」


『冷静』という単語を聞いて、私は赤井君たちと比べると確かにそうかもと思った。


「口数はそこまで多くないし、何考えてるのか分からない事も多いけど。でも、人の気持ちに敏感だから、相手のことをよく考えてるんだなってのは付き合ってから感じたことかな。」

「へぇ…。」


新木さんの言葉から私たちの事を言いふらさないでくれるのも、そういった彼の性格からかと感じ取った。新木さんの好きになった人なんだから、悪い人ではないのは確かなのだけど。

「あいつだけは掴めねぇ」と言った井坂君の言葉は、もしかしたら北野君のそういう性格が掴めないって事を言ってたのかもしれない。

私は見られたのが彼で良かったのかもしれないと思って、少し気が楽になった。


「まぁ北野は赤井とか島田に比べたら、分かりにくい奴だしね。表情もコロコロ変わる方でもないし、私も日々ちょっとした変化を分かるように努力中かな。」


新木さんが彼女の顔をして言っていて、順風満帆なんだと分かって嬉しくなった。

北野君に彼女ができたと、落ち込んでいた頃の新木さんはもう見当たらない。

私はみんなが幸せそうなのが自分の事のように嬉しい。


そう思ってニコニコしていると、いつの間にかタカさんや篠ちゃんまでもが周りにやって来た。


「ねぇ、今日私の家で女子会しないって話をしてたんだけど、みんなでどうかな?」

「女子会?」

「うん。文化祭前で帰る時間も早いでしょ?だから、お菓子持ち寄って学校ではできない話したいなーって話してたんだ。」

「えーっ!何それ!!面白そう!!行く、行く!!」


新木さんが手を挙げて賛同してるのを見て、私も頷いた。

女子だけで集まって話すなんて二学期に入って初めてじゃないだろうか…?

お昼には相変わらずみんなで食べてるけど、そのときとは違った環境になりそうでウキウキする。


「じゃ、決まりね!!彼氏持ち組はちゃんと彼氏にその旨伝えとくんだよ~?邪魔されちゃたまんないし。」


篠ちゃんがからかうように笑って言ってきて、私と新木さんはお互い顔を見合わせて笑った。







生徒会長が絡んできました。

詩織嫉妬するターンです。

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