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理系女子の恋  作者: 流音
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183、体育祭を終えて


高校最後の体育祭は私にとって、本当にハラハラさせられっぱなしのものとなった。


―――というのも、


井坂君は自分がモテるってことを分かってないのか、簡単に下級生女子に手を触られたり(二人三脚を頼まれたとき)、人目のある体育館脇で爆睡したり…。

寝ていたときには危うく寝顔写真をとられる所で、私心臓が縮み上がって、咄嗟に女子避けとして私のタオルを置いてきてしまった。

井坂君は、私が親切心だけでかけたと思ってるようだったので黙っておいたけど…


更には、これから玉入れってときにたくさんの女子から告白されて、押し切られそうになったり…。

まだ玉入れが待機中だったのもあって、井坂君が囲まれているのに気付いて良かった。

二番目の彼女とかキスしてとか言ってるのが聞こえてたから、放っておいたらどうなっていたか分からない。

何かされてたらと思うと、今も怖くて立ちくらみがしそうだ。


井坂君は私にはガードが緩いってよく怒るけど、自分はどうなんだと言っても良かったかな…と今になって思う。


そして、最後には出場したリレーで派手に転んであちこち傷だらけ。

私にとったら結果なんてどうでもよくて、すぐに手当てをしてあげたかったのだけど…

井坂君は自分が怪我してるのも忘れているのか、北野君が一番でゴールしてリレーが大団円で終わったあとも救護所に行かず、私をひどく心配させた。


最終的には私が無理やり引っ張っていって手当してもらったけど…


今日一日で思ったのは、井坂君は私の事を心配する前に自分の身を守って欲しいということだ。


だから、学校からの帰り道、私は少し注意してもいいだろうと道路の端で立ち止まって、井坂君を軽く睨んだ。


「詩織?」


井坂君は押していた自転車を道の端に寄せると、私に振り返ってくる。

私はそんな井坂君に近付くと上目づかいで睨んで言った。


「井坂君。今日の反省点は?」

「?反省点って…あぁ!リレーの最後にこけたことか?あれは流石に恥ずかしかったよなぁ~。北野がまさかあんなに足が速いとは思わなかったし…。」

「そうじゃなくて!!今日一日の行動を思い返しての反省点は!?」


私は分かってない井坂君にイラッとしながら詰め寄った。

井坂君は少し仰け反りながら、視線を泳がして答える。


「え…っと…。詩織が大輝君を注意しろって言ったのを深く考えなかったこと…とか?」


違う!!


私はどこまでずれてるんだ!と腕を組んでそっぽを向いた。

すると、井坂君が自転車止めをしてから、私のご機嫌を取り戻そうと正面に向き合って色々言ってくる。


「他には…、えっと玉入れのとき詩織の応援をベンチの後ろからしてたことか?俺、声に出して頑張れとかガラじゃねぇから…。表だって応援しなくて悪かったよ…。」

「もう!違うよ!!井坂君、自分がモテるってこと理解できてないでしょ!?」


私が答えが出てくるのを待てずに言うと、井坂君は面食らったような顔で首を傾げる。


「私にはガードが緩いとか、分かってないとか言うけどさ。井坂君も一緒だよ!!女子にモテるんだから、たくさん目のある場所で寝てたら注目されるの分かるでしょ!?告白だってそうだよ!今ならつけ込めるって女の子たちが思ったから、あんな大騒ぎになったんだよ!分かってる!?」


私が今日一日我慢していたことをぶっちゃけると、井坂君はなぜか口元を手で隠してニヤニヤし始める。


「なんで笑うの?」


私が怒ってるのに笑う井坂君に更にムカついていると、井坂君はなんとか笑わないようにしているのか顔をムズムズとさせながら言う。


「いや…。今の詩織、なんか俺と同じこと思ってて嬉しいっつーか…。愛を感じる…みたいな?」

「………愛??」


私は聞き慣れない単語にぽかんとすると、『愛』というのが『好き』より上の感情だと導き出して、急に恥ずかしくなった。


「なっ!!!!!そっ…そういうんじゃないから!!」


私はただ井坂君に警戒して欲しかっただけだと、断じて自分の……あ、愛?からくるものじゃないと言い切った。

恥ずかしくてその場にいられない私は、井坂君を置いて先に歩き出す。


すると井坂君は自転車を押しながら追いかけてきて、追い打ちをかけにくる。


「詩織は今日一日、俺の心配ばっかりしてくれてたってことだろ?そんなの愛がなきゃできないよな?」

「そっ、そりゃ心配はしたけど…。それは井坂君があまりにも無警戒だから…。」

「それが愛情からくるもんだろ?あー!今日はよく眠れそうだ~。」


井坂君がすごく嬉しそうに笑って言って、私はそんな井坂君を横目によく何度も『愛』なんて恥ずかしい事言えるな…と感心したのだった。






***






そして私と井坂君が他愛ない口喧嘩をしながら私の家まで帰ってくると、家の前に大輝とカンナさんがいるのが見えて私は意外なツーショットに首を傾げた。


あの二人…一緒に帰るほど仲良かったのかな…?


私はカンナさんが大輝から嫌われてると言い切っていたことも記憶に新しかったので、二人の関係性がいまいちよく分からない。

そうして私が声をかけるべきかと考え込んでいると、急に井坂君が私を押して曲がり角に隠れ始めて、私は隠れる意味が分からなくて「どうしたの!?」と井坂君に尋ねた。


「ちょっと、ちょっとだけ二人にしてやって。何か大事なこと話してるのかもしれねーし。」


井坂君は焦った様子でそう説明してから、コッソリと二人を覗き出す。

私は不思議に思いながらも、井坂君と同じように二人の会話を盗み聞ぎしようと、壁からこっそり二人を見つめる。


「やっぱり谷地君が来ないとダメだよ。あんなに頑張って出場してくれたのに…。」

「結果負けてんじゃん。それなのに打ち上げとか気分じゃねぇし。」

「だからお疲れ会の意味もこめて―――」

「あのさ、俺はお疲れ会という名の打ち上げにくる女子と絡みたくねぇから行かないって言ってるんだけど。賢いお前なら言わなくても察してくれよ。」


うわ…最悪…

女子になんて口を!!


私が姉として謝らせないと!と思い飛び出しかけると、井坂君が「まだ待って!」と私を引き留めてくる。


「でも…みんな谷地君来るの楽しみにしてて…。」

「そんなの向こうの勝手だろ。俺は文化祭の打ち上げで懲りてんだよ。お疲れ会なら、功労者である俺が疲れないように不参加ってことで。」


大輝が取り付くしまもなく家へ入りかけたところで、私は我慢の限界で井坂君を押しのけて道路に飛び出した。

でもそれと同時にカンナさんが大輝の腕にしがみつくのが見えて、私は出しかけた声が引っ込む。


「私が来て欲しいの!!」


―――――え…!?


「は?」


私が大輝の素っ頓狂な声と同じようにぽかんと固まると、井坂君に腕を掴まれまた曲がり角に戻る。


え?何…??さっきの…

カンナさん…大輝にしがみついて…


私が半ばパニックになり呆けて固まっていると、二人の会話が耳に届く。


「わ、私…お昼に谷地君に迷惑もかけたでしょ?だから、そのお礼がしたいの!!」

「……迷惑って…、俺ただ面倒だからお前呼びにいっただけで、お礼される筋合いもねぇんだけど。」

「それでも、私にはすごく嬉しい事だったから!!だから、お願い!私にお礼させて!!」


あー…お昼の大輝が落ち込んでたカンナさんを迎えに来たのときのことか…


私はお昼の悲しそうなカンナさんが、大輝が迎えに来たことで嬉しそうにしてたことを思い返して、ふっとあることを導き出してしまった。


あれ…?

そういえば…あのときのカンナさん、井坂君や赤井君と話すときとは全然違う顔してたような…

目が輝いていて、まるで恋する女の子のような…


………え?


私はここまで考えて呆けた状態から元に戻り、急いで二人の様子を覗き見た。

この導き出した可能性が本当かどうか、自分の目で確認するために。

大輝は腕にしがみついたカンナさんを見下ろして複雑そうな顔をしており、カンナさんは大輝を見上げてじっと想いを伝えようとしていた。


カンナさんのあの必死な顔…やっぱり…


「――――だったら、打ち上げじゃなくたっていいだろ。」

「え?」


私が導き出した可能性を確信に変え始めたとき、大輝がカンナさんを引きはがしながらぶっきらぼうに言う。


「お前が俺に礼したいだけなら、別に今日じゃなくたっていいわけだろ?」

「え…、あ…まぁ……そうか…な?」

「じゃあ今度の日曜、時間作れよ。」

「え…?」


大輝は困惑しているカンナさんに上から目線で続ける。


「礼させてやるって言ってんだよ。駅前に10時でいいだろ。」

「え、それって…二人で会ってくれるってこと?」


大輝の言いたい事をやっと理解したのかカンナさんが信じられないという顔で尋ねていて、大輝が顔を歪める。


「会わないでどうやって礼するわけ?何、俺に礼したいのかしたくねーのかどっちだよ。」

「あ、お礼したい!!駅前に10時だよね!?大丈夫!行くから!!」

「だったらいいよ。それじゃ、今日は不参加ってことで伝達よろしく。」


大輝はそれだけ言うと、さっさと家の中へ入って行ってしまう。

カンナさんはそんな大輝に向かって「ありがとう!」と律儀にお礼を言う。


私はそのときのカンナさんのなんとも嬉しそうな笑顔を見て、不覚にも感動して涙腺が緩んだ。

でもそれは私だけではなかったようで、すぐ上から鼻をすする音がして見上げると井坂君の瞳が潤んでいた。


「…井坂君…、なんで泣くの?」


私が目尻の涙を拭いながら尋ねると、井坂君は「泣いてねぇよ。ちょっと感動しただけだ。」と壁に背をつけて上を向いた。


私はその井坂君の姿から、私が思う事が正しいのだと感じて井坂君に問いかける。


「井坂君。もしかして、カンナさんが大輝のこと好きって知ってたの?」


井坂君は私の問いに驚くこともなく、上に向けていた目を私に向けると、ふっと微笑んだ。


「さすがに今の見たら気づくよな。」

「なんで言ってくれないの?言ってくれたら私、協力できたのに。」

「カンナに詩織には言わないでくれって頼まれてたんだ。どうせ望みはないから、今の関係を変えるようなことはしたくないって…。」

「……それって、私が協力しようとするのを見透かしてたみたい…。」

「見透かしてたんだろ?仮にも俺の彼女だからさ。」

「??井坂君の彼女だったら、どうして見透かされるの?」


「それは、俺が昔からカンナにお節介焼いてきたからだろうな…。」


井坂君が懐かしそうに目を細めて言って、私はお節介を焼いてきた井坂君を想像してみて、あまりピンとこなかった。


井坂君って面倒臭がりな面があるから、お節介焼きなところを想像できないんだけど…


「でも、俺らが手を貸さなくてもカンナ、自分で頑張って大輝君との約束を取り付けたわけだし、ホント良かったよ。」


井坂君が嬉しそうに笑いながら言って、それがどこかカンナさんを心配してたお兄さんのように見えた。

それが少し羨ましくて、私は井坂君に私とは違う部分で想われてるカンナさんをずるいと思ってしまった。


私の知らない頃の二人の関係がそうさせるんだろう…

恋愛感情はないけど、どこか幼馴染とは違う絆を持った関係…


そこへ嫉妬したって仕方ないというのは分かってるんだけど…


私は井坂君と出会ってなかった時間を初めて悔しいと思い始めて、どうにもならないことに寂しい気持ちが生まれたのだった。











大輝とカンナの話はここで一旦終了です。

次から話を終結へ向けていきます。

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