155、内村の告白?
井坂視点です。
俺は詩織が黄色のビキニの水着姿で現れたとき、全身に雷が打たれたように痺れて、天使が舞い降りたと真剣に思った。
それぐらい俺にとったら魅力的で刺激的で…舞い上がった。
だから隣にいた内村の照れた顔を見たときに、俺より先に見た内村に嫉妬で狂いそうになったんだけど。
でも、詩織の目には俺しか映ってないとずっと俺の傍にいる詩織から感じていたので、自然と嫉妬なんてどこかへ飛んでいった。
そして詩織は今は水着の上に薄い黄色のメッシュ地のパーカーを着てしまっていて、俺は残念な気持ちを笑顔の裏に隠した。
まぁ、詩織の水着姿は目に焼き付いているので想像力でカバーしているけど。
マジで海最高!
俺は浜辺に木の棒で必死に何かを書いている詩織を見ながら、顔が緩んだ。
「できた!」
詩織はそう言って嬉しそうに木の棒を横に置くと、俺を手招きした。
そして「見て見て!」と砂浜を示してくるので、そこに目をやると、そこにはハートの中に俺の名前と詩織の名前がローマ字で書かれていた。
『TAKUMI』『SHIORI』
俺は何かの映画で見たことあるバカップルの証明みたいな行為に、照れて口元を隠した。
詩織はニコニコしながら「一回やってみたかったんだよね~。」と声を弾ませている。
もう、ヤバい…
やってる事はアホっぽいのにすげぇ可愛く見える…
俺は詩織を見て胸がギューッと苦しくなっていて、バレないように細く息を吐き出した。
「あ、せっかくだから写真撮りたいな。私、ケータイ取ってくる!」
詩織は思い立ったら即行動のようで一人でパラソルの所へ戻ろうとするので、俺は慌てて詩織の手を掴んだ。
「待って。俺も一緒に行くよ。」
「え?すぐそこだから一人で大丈夫だよ?」
「いいから。行くよ。」
俺は一秒だって詩織と離れたくなくて、手を握ったまま先導して歩き出した。
すると詩織は手を握り返してから、俺とくっつくように近くを歩いてくれて、顔がムズムズしてグッと緩まないように堪えた。
あー…電車の中といい、今日は最高に幸せな日だなー…
俺が詩織と並んで歩いてるだけでフワフワと夢心地でいると、詩織が手を離してパラソルに駆けていって、俺はいつの間にか荷物の場所まで来ていたことに気づいた。
「あ、あった。」
詩織がケータイを見つけたようで荷物の固まりから顔を上げたとき、「谷地さん。」と荷物の向こうにいた内村が詩織に話しかけてきた。
俺は荷物に埋もれるように内村や田村、諏訪がいることに今初めて気づいて、詩織に何の用だ?と睨みつけるように見据えた。
すると内村は俺を気にしながらもおどおどと、詩織に「後で話があるんだけど…。」と言い出して、俺はイヤな予感に眉間に力をこめた。
「話って…今じゃダメなの?」
詩織は何も分かってないのかきょとんとそんな事を言って、内村は困ったように詩織から目を逸らした。
「…ふ、二人がいいんだ…。今は、井坂君と一緒みたいだから…後…で。」
「……二人?」
詩織はここで何かを感じ取ったのか、ちらっと俺を見ると何か考え込んでから、俺に向かってきた。
そして俺にケータイを渡すなり、俺を困らせることを口にする。
「井坂君、さっきの浜辺の写真撮ってきてもらってもいい?私、ここで内村君の話聞いてるから。」
「は!?な、なに言って!!!」
ふざけんな!!内村と二人にするわけにいかねーだろが!!
「お願い。写真撮ったらすぐ戻ってきてくれていいから。ね?」
~~~~~っ!!!!
俺は詩織から可愛く小首を傾げてお願いされてしまい、断れなくなってしまった。
だから仕方なくケータイを受け取ると、内村に目を向けて「手出すなよ~~!!」と念をこめて睨んでおく。
内村はかなりビビってたようで、肩を縮めて小さくなってしまう。
「すぐ戻る。」
「うん。」
俺は詩織にそう言い残すと、さっきの浜辺に猛ダッシュした。
とりあえず写真撮ってすぐ戻る!!
急げば3分にも満たねぇだろうし、俺の嫌な予想通りになることはねぇだろ!
俺はそう考えて急いでさっきの浜辺に到着すると、まだ残ってる俺たちの名前の絵を詩織のケータイに撮り収めた。
そして綺麗に映ってると画像を確認すると、すぐに踵を返してパラソル群へ足を向けた。
その帰り道に「おー!井坂ー!!」と島田に声をかけられたけど、「また後でな。」とだけ告げ足は止めなかった。
俺が息を上がらせながらすぐ戻ってくると、詩織はパラソルの下でまだ内村と話をしていた。
内村は俯いていて表情は見えなかったけど、詩織は少し照れたような顔で内村を覗き込んで何か言っている。
でも詩織は俺に気づくと立ち上がってから、内村に向かって「ありがとう。」とだけ言ったのが聞こえてきた。
俺は詩織の身に何も起きてなかったことに安堵しながらも、何の話だったのか気になって詩織が俺の傍に来るなり尋ねた。
「内村。何の話だったんだ?」
「んー…。それは、内緒。」
詩織はそう可愛く言ったあと俺の手からケータイをとるなり、画像を確認して「わ、綺麗に撮れてる!」と話を流そうとしてくる。
俺は隠し事をされるのが嫌だったので、ケータイを取り上げると問い詰めた。
「何の話してたんだよ?」
「…………だから、内緒。」
詩織はむすっとすると俺から目を逸らしてしまう。
俺はそんな詩織にイラッとして詩織のケータイでさっき撮った画像を表示すると、<削除しますか?>の画面にして詩織に見せた。
「言わないと、これ消すからな!」
「なっ、なんで!?」
「なんでもくそもあるか!!詩織が隠すからだろ!?俺は隠されんのが一番嫌いなんだよ!!」
「だ…、だとしても…これは…その…。い…言えない…よ。」
詩織はジッと俺を上目づかいに見つめて、分かって欲しいというオーラを出してくる。
俺はその顔に負けそうになって一瞬怯んだけど、ケータイの決定ボタンに指を置くと最後通告した。
「じゃあ、消すからな!?隠し事するぐらいなら、こんなもんいらないもんな!!」
「ダッ、ダメ!!消さないで!!」
俺は本気で消すつもりはなかったのだけど、詩織が俺に飛びついてケータイを取り返そうとした反動で指がボタンに触れてしまい、画面に<削除しました>の文字が出てしまった。
「あ。」
「え?」
俺がケータイの画面を見て固まったのを見て、詩織が慌てて俺の手からケータイを奪い取った。
そして画面を見たまま肩を震わせると、瞳に涙をいっぱい溜めて俺を睨んできた。
「井坂君の意地悪!!」
詩織は俺にそう吐き捨てると背を向けて走り去ってしまって、俺はヤバい事した…と背筋がサーッと冷えた。
また嫉妬に我を失って、詩織を傷つけちまった!!!
俺は謝りにいかねーと!!と詩織の後を追いかけようとした瞬間、腕を誰かに掴まれてつんのめった。
「おっ!?――――っと!!ん誰だよ!?」
俺が邪魔するのは誰だとドスのきいた声で振り返ると、ビクッと肩を震わせた内村がいて驚いた。
内村は「ご、ごめん…。」と小さい声で言うと、俺から手を離してモジモジとし出す。
「何の用だよ?」
俺は内村からこんな風に引き留められたのは初めてだったので、面食らいながら苛立ちの混じる低い声で訊いた。
すると内村は少しビビってた空気を和らげて、遠慮がちに言った。
「や…谷地さんは…僕が黙っててほしいって言ったから…井坂君に言えなかったんだ。」
「―――は??」
「谷地さんは…僕が…その…井坂君を苦手に思ってるって…知ってて…だから…。その…。」
俺は最初何を言ってるのかよく分からなかったけど、内村が詩織をフォローしに来たのだけは分かった。
こいつ、やっぱ俺のこと苦手だったんだな…
俺は内村と目を合わせるだけでビビられてたことを思い返して、ふうと息を吐いた。
「谷地さんを…責めないで…あげてほしい…。谷地さんは…本当に優しくて…こんな僕のことも考えてくれ―――」
「知ってるよ。」
俺は内村に詩織を分かったように語られるのが嫌で、途中で口を挟んだ。
「お前よりも詩織のことはよく知ってる。さっきのも俺が一方的に悪いってのも分かってる。お前にフォローされなくても大丈夫だよ。」
俺は心の底でお前に嫉妬したからだけどな…という思いを隠して、内村を見つめた。
すると内村はまた俯いて、手を何度も握り直しながら言った。
「井坂君って…たまに自分勝手だよね…。」
「あん!?」
こいつっ、ケンカ売ってんのか!?
俺はビビってる割に上からな言い方をする内村に腹が立って、内村を睨みつけた。
内村は俺の威嚇にかなりビビったようで、肩を強張らせながら少し震えている。
でも口を出すのはやめないようで、俺と視線を合わせないまま言葉を紡ぎ出す。
「じ、自分勝手だよ!あれだけ谷地さんに好かれてるのに、谷地さんがすることに口出して…挙句怒鳴って…束縛するような事ばっかり…。僕が谷地さんだったら、井坂君となんてとっくに別れてる。」
「はぁぁぁ!?!?」
俺は内村にここまで言われる意味が分からなくて、頭に血が上ってカチンときた。
「でも、谷地さんは井坂君がいいんだよね。」
内村は珍しく声を張ってハッキリと言って、俺は少し面食らう。
「谷地さんは…井坂君しかダメなんだ…。だから、僕も言えなかった…。」
内村は苦しそうにそう吐き出すと、俺に背を向けてしまった。
俺は<言えなかった>の言葉の意味を知りたくて、訊こうかと口を開いたら先に内村が声を出した。
「井坂君は谷地さんの優しさをもっと理解すべきだよ。……僕が彼氏なら、さっきみたいな顔は絶対にさせない。」
「うっせーな。お前に説教されなくても分かってるっつーの!!」
俺は内村がカッコいいことを言ってることにムカッとして、反射で言い返した。
内村が少し振り返ってくる。
「お前、俺に偉そうなこと言うけどさ。もとはと言えば、お前があわよくばみたいな顔して詩織に近付いたからだからな?」
「え?」
「そうじゃなきゃ、俺だって嫉妬してあんな事言ったりしねーよ。」
「僕に嫉妬なんて…。井坂君、僕なんか眼中にもなかったんじゃ…。」
内村は俺の本心にビックリしたのか、振り返ると目を大きく見開いている。
俺は少し恥ずかしかったけど、これ以上内村に偉そうにされたくなくてすべてぶちまけた。
「そんなわけねーだろ!?詩織に近付く奴はみんな敵だ。お前だって例外じゃねぇよ!?」
「………井坂君、そんなにモテるのに…案外心狭いね。」
「うっせぇ!!モテる云々は関係ねぇだろ!?俺だって一人の男だ!!」
俺は内村と自分の何が違うんだ!?と思ったので、ビシッと言い切った。
内村はそこで初めて俺の前で笑うと、肩の力を抜いたのが見えた。
「…そっか。井坂君って…そういう人だったんだね…。」
「あ!?お前、俺のことどんな風に思ってたんだよ!?」
「……まぁ、それはいいよ。それより、谷地さんはいいの?」
内村は言いたくなかったのか話を詩織に切り替えてきて、俺は確かに詩織の所へ行きたかったので、ここは内村の話の流れにのっとくことにした。
まぁ、話が中断したのには複雑だったけど…
「言われなくても行くよ。っつーか、もう詩織に近付くなよな。」
「それは無理でしょ?クラスメイトなんだからさ。」
「それでも努力しろっつーの!!」
俺が念を押して言うと、内村は俺にビビらなくなったのか「早く行けば?」と背を向けてパラソル群へ戻っていった。
俺はまだ内村への怒りがくすぶっていたけど、詩織が一番だったので、まっすぐさっき写真を撮った浜辺に向かった。
きっと写真を撮り直しに行ってるはず…
俺がそう予想して行くと、俺の予想通り詩織はさっきの絵のある浜辺に座り込んで、また木の棒を手にしていた。
詩織はその棒で一心不乱に砂をグチャグチャにしていて、俺はさっきのハートが跡形もなくなっている事に詩織の怒りを感じ取った。
……すげー怒ってる…
俺はとりあえず謝らないと…と詩織のしゃがんでる前に腰を落とすと、潔く頭を下げた。
「詩織、ごめん!!画像、本気で消すつもりじゃなかったんだ!!たまたま指が触れちゃって…事故で消えたっていうか…。」
「それは、もういいの。」
詩織が鼻声でキッパリと言い切った言葉に反応して、俺が顔を上げると、詩織がポロポロと涙を流してる顔が目に入って、胸がズキンと痛くなった。
…俺が泣かした…
「写真のことは…もういい…。」
「いいって…なんで?…消したこと怒ってたんだよな?」
「…そうだけど…。それよりも……井坂君が軽々しく…画像を消したことが…悲しかった…。」
詩織はキュッと眉間に皺を寄せて涙を零しながら言って、俺は自分まで泣きそうになって眉間に力を入れた。
「ボタン…一個で簡単に画像が消えたのを見て…。楽しかった思い出も…気持ちも…井坂君は…ボタン一個で簡単に消してしまえるんだって…思って…。そしたら…すごく…すごく悲しくなって…。」
「そんなわけねぇだろ!?」
俺はとんだ誤解だと声を上げた。
「そんな簡単に消せるわけねぇっ!!」
俺は詩織の顔をガシッと掴むと、涙で濡れた頬をグイッと指で拭う。
「詩織と過ごした時間や、積み重ねてた気持ちがさっきの画像みたいに消える訳ねぇっ!!俺の心はそんな簡単にできちゃいねぇよ!!」
元はと言えば俺が画像を消したのが悪いのだが、俺はその行為一つで自分の気持ちを決められたことに腹が立った。
だから、謝りもせずに訴え続ける。
「俺は出会ってから今までの詩織の姿、全部覚えてる!!何をしたら喜ぶのか、怒るのか、悲しむのか…。傍でずっと見てた!!今日だって、そういう詩織の姿、見逃したくなくて、ずっと傍にいたし。一緒にいられる時間がすっげー幸せだった!!それなのに…、その時間や気持ちを大事に心ん中しまってる俺に、んな事言うなら俺のが悲しくなる!!」
「……ごめん。」
俺が一気に捲し立てた後、詩織から謝罪が聞こえて、俺は頭にきて自分を見失っていたと我に返った。
詩織はまたボロボロと涙を流しながら「ごめん…。井坂君、ごめん…。」と何度も謝ってくる。
詩織に謝らせてどーすんだよ!!
俺は詩織の顔から焦って手を離すと、何も拭くものがなかったので手で詩織の涙を拭った。
「わ、悪い。イラッとして言い過ぎた…。俺が画像消したのが悪いのに…。」
「ううん。私も悪いの…。すぐマイナスな考えに行きついちゃって…、すぐ自信なくなるから…。変なこと言って、ごめん…。」
詩織は涙を拭ってる俺の手を遮ると、自分のパーカーの袖で拭いて言った。
俺は内村の言う『自分勝手』という言葉が自分にぴったりだと感じて、大きくため息をついて落ち込んだ。
……俺は本当に最低な奴だ…
「あのね…内村君と話した事を言えなかったのは…。口に出すのが恥ずかしかったからなの…。」
「ん……。へ?」
詩織から急に内緒にされてたことを打ち明けられて、俺は落ち込んでた顔を上げた。
詩織は少し頬を赤く染めながら視線を下に逸らしてしまう。
「く、詳しいことは…その、言わないって約束してるから言えないんだけど…。私にとったら嬉しい話なんだ。」
「う、嬉しい??」
俺は内村の告白が嬉しかったのか!?と心臓が冷える。
「うん。それ聞いて…、私はやっぱり井坂君が大好きだなぁって思った。」
「うん??」
え?内村に告白されて、俺が好きって再確認したってことか??
俺は『大好き』と言われて嬉しかったので、不安は消えたけど話の内容が更に分からなくなった。
「内緒なんて言ってごめんね?私は井坂君が大好き。」
「え。あ、うん。お、俺だって…。そうだよ。」
詩織の口からストレートに紡がれた告白に俺は照れて表情が緩んだ。
詩織はさっきと違って嬉しそうに口元に手を当てて笑っている。
結局、内村との話は告白だったのか??
俺はその疑問だけ残ってしまい、胸がもやもやと雲がかったのだった。
内村の絡みはここで終幕です。
告白したかしてないかは次回にて。




