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理系女子の恋  作者: 流音
159/246

152、まさか!?


暗い教室の中―――井坂君の瞳が妙に鋭い光を放ってるように見える。

私がそれに体を強張らせて身構えると、井坂君が何も発さずに深く口付けてきて息苦しくなった。


ウソ!?ウソ!!?!


私はまさかの現状に大きく心臓が高鳴っていて、さっきまでの穏やかな時間が嘘のように消え去ったことに動揺する。

井坂君は息をするのに口を離したときだけ、「俺も詩織が大好き。」と言い、またキスしてきて、私はじんわりと汗をかいてきた。


嬉しい…けど……

でも、まさかここで!?


私は井坂君にこうされて嬉しい気持ちと学校だからダメだという優等生な部分が共存していて、激しいせめぎ合いになる。

井坂君はというとそんな事考えてもいないのか、いつの間にかシャツの下から手を入れていて、胸を触られていることに体がビクついた。


「―――――っいさっかくんっ!!!」


私がキスが止んだときに声を上げると、井坂君は「詩織…。」と呟きながら首の辺りを攻めてきてゾワッと鳥肌が立った。


このままじゃ流されるっ!!


私は荒く息を吐きながら触られている気持ちよさに考えるのをやめてしまおうかと思っていると、チャイムの音が鳴り響いて私は我に返った。


「いっ、井坂君!!予鈴!予鈴なったよ!!」

「…え…?」


私が井坂君の体を押し返しながら言うと、井坂君は肩で大きく息をしながら少し私から離れた。

井坂君の上気した顔が見えて、胸がギュウッと苦しくなって欲求に負けそうになる。


「じゅ、授業…。始まるから、戻ろ?」


私は何とか欲求を抑え込むと、サボるわけにはいかないと井坂君を懇願するように見つめた。

井坂君はしばらくじっと私を見下ろして黙っていたけど、鼻から大きく息を吸いこむと私から離れて乱れた制服を整え始めた。


「そうだな。三年のこの時期にサボりは良くねぇしな。」


井坂君にも理性は残ってたようで、そう言ってくれて、私は安心して制服を直してから落ちていたネクタイを拾った。


「うん。」


井坂君…意外とすんなり分かってくれたなぁ…


私が少し残念な自分の気持ちと向き合いながらネクタイを締めていると、井坂君が急にその手を掴んできてビックリした。

井坂君は私の首元をじっと見つめていて、さっきとは正反対に顔を青ざめさせると言った。


「悪い…。また、やっちまった…。」

「え…?またって…?」


私が尋ねると、井坂君は私の首元に手を触れてきてシュンと頭を下げた。


「…首…。キスマーク…つけちまった…。」

「え!?!?」


私は修学旅行のときに聞いた言葉に目を剥いて、自分で確認しようとしたが見えなかった。

井坂君はしばらく落ち込んでいたけど、ガバッと顔を上げると私の手からネクタイを奪って第一ボタンまで閉めてしまった。

私は久しぶりに第一ボタンまで閉めたことで苦しかったのだけど、井坂君はキッチリしめたのを確認したのか「よし!」と満足そうに声を上げた。


「こうしてれば見えねーから!しばらく、このままでいてくれよな。」

「…う、うん。いいけど…。」

「絶対ボタン開けちゃダメだからな!!特に赤井や小波の前では開けるなよ?」

「…わ、分かった…。」


私は井坂君に念を押されて頷くしかできなかった。


キスマーク…いつの間につけたんだろ…


私はさっきまでの事を思い返して、ぐわっと赤面した。

教室に入ってからは展開がすごく早かった。

何回もキスしてる間に、井坂君の手が服の中に入ってて…知らない間に触られてた…

私は呼吸が苦しくて息してるのに必死で分からなかったけど、足も触られてたような気もする…


井坂君って…もしかして…スイッチ入ったら物凄く手が早いのかな…?


私は教室を出て行く井坂君の背中を見つめながら悶々と考え込んだ。

今回はチャイムの音に理性を取り戻せたからいいものの…

私はさっきまでの感覚を思い出して体がムズムズと疼き出してしまう。


どうしよう…

途中になっちゃったの…もったいないなんて思ってる…


私は前を歩く井坂君の背中を見つめて、引き留めようとしてる自分の感情にすごく複雑になったのだった。





***





それから、私は授業を受けながら席の離れた井坂君の背中ばかり見てしまって、その度にサッと黒板に目を戻すを繰り返した。

五限のあとの休み時間も、話しかけにきてくれる井坂君をうっとりと物欲しそうに見つめてしまって、自分の変態っぷりに頭が痛くなる。


途中でやめるっていうのが、こんなに苦しいものだなんて初めて知った。

私は触れられてた首を隠すように手で押さえて、井坂君から目を背けるとあゆちゃんと目が合ってしまいビクッと心臓が跳ねた。


なぜならあゆちゃんがニヤッと意味深な笑みを浮かべていたからだ。


あの顔…絶対に何か勘付いてる…


私は第一ボタンをキッチリ閉めてることからも気づかれてるだろうな…と思って、勘の鋭いあゆちゃんに苦笑いを返した。


そして、なんとか燻った気持ちを抱えながらも一日の授業を終えると、私は予備校まで少し時間があるな…と時計を確認した。

だから赤井君と話をしながら不機嫌そうな井坂君を見て、どうしようかと考え込んだ。


井坂君と二人になりたい…

さっきの続きしたいなんて…言っても大丈夫かな…?


私は胸の奥がウズウズと疼いていたので、この胸の苦しさを取り除くには言うしかない!と決めて、井坂君に近付いた。

井坂君と話していた赤井君が私に気づいて目を向けてきたけど、私はその視線をスルーして井坂君の耳元に手を当てて内緒話のように言った。


「二年生の教室行かない?」


私はさっきのこともあるのでこの一言で分かるはずと思ったら、井坂君が聞くなり椅子をガタつかせて私から離れると、真っ赤な顔で食い入るように私を見つめてきた。


あれ…?

もしかして言い方、大胆過ぎた…?


私は自分の欲求最優先で、いつもの恥じらいがなくなっていて、井坂君の反応を見てから言わなきゃ良かったかも…と言った事を取り消そうと口を開いた。

でも、そのときに井坂君が私の腕をグイッと引っ張ってきて、頭を抱え込まれる形で思いっきり抱きしめられた。


私は井坂君の体温を感じて心臓がドッドッと大きく揺さぶられる。


「おい、井坂。」


近くで呆れたような赤井君の声が聞こえたとき、井坂君が離れるなり私の腕を掴んで立ち上がった。

そして「また月曜な!」と赤井君に言い残して、井坂君が私を引っ張って教室を飛び出す。

私はそれに必死に足を動かしてついて行くと、井坂君は二年の教室ではなくて同じ二階にある社会科準備室へと入った。


社会科準備室の中は入ると両脇に本棚があり、古い本の匂いが立ちこめていた。

そして奥には古びたソファがあり、その脇に年表だろうか?巻物のような物が何本も立てかかっていた。

私が初めて入った社会科準備室にキョロキョロしていると、後ろでガチャと鍵のかかった音がして振り返った。


「ここなら鍵かかるし、誰にも邪魔されないよ。」


井坂君はにっこりと笑ってそう言うと、私に大股で向かってきて、私は自分で促した事とはいえドキドキして自然と後ろ向けに下がってしまった。

そして後ろ向けに下がったことでソファに足をひっかけてしまい、そのままソファの上に座ってしまい、直後に優しくキスされた。


うわわわわっ!!


井坂君の優しい指先に熱が上がって、嬉しさで表情がゆるゆるになってしまう。

すると口を離した井坂君がギュッと私を抱きしめながら、はぁと息を吐いた後に言った。


「詩織も俺と同じだったんだな…。」

「え…?」


私が井坂君をキュッと抱きしめ返していると、井坂君が頭を摺り寄せてきた。


「昼の…寸止め…。すげーきつかった。」

「え…、あ、あはは…。そうだったんだ…。」


私はぼわっと顔が熱くなりながら笑うしかない…


「でも…改めてってなると…緊張するもんだな…。」


井坂君はそう言いながらも背中に回した手がいつの間にかシャツの中に入っていて、肌に直に触れられたことに短く息を吸いこんだ。

更に耳元にキスまでしてくるから、体が疼いて堪らなくなる。


絶対緊張なんかしてないよね!?


私は自分ばっかり荒い息を吐き出してる現状に、大きく心の中で叫んだ。







***






それから私はらしくないことをいたしてしまい…

名残惜しそうに引き留める井坂君を振り払って、なんとか予備校にやってきて一息ついた。


そして、学校であんなことをしてしまったことを悶々と思い返して、恥ずかしくて堪らなくなる。

欲求が解消されてしまうと、なぜあんなことを要求したのか…と自分らしくない行動にため息が出る。


優等生で勉強ばっかりだった自分が、今じゃ嘘のように恋愛に流されてる…

学校は勉強するための場所なはずなのに…

もう…社会科準備室の前…歩けない…


私は机に手をついて何度もため息を繰り返す。

すると、トントンと横から肩を叩かれて目を向けると、いつ横に座ったのか僚介君がいて驚いた。


「りょっ!すけ、くん!!」

「何?そんな驚いた?詩織ってやっぱ反応おもしれーっ!」


僚介君はケラケラと高笑いすると、ふっと私の首元に目を留めて指さしながら言った。


「あれ?詩織、首んとこ虫刺され?」

「え…?」


――――――!!!!!!

キスマーク!!!!


私は慌てて学校を出てきたので、第一ボタンまで留めるのを忘れていて、慌てて手で隠しながら言い訳を口にした。


「あー、虫刺されかなー!?痒いなーって思ってたんだよね~!」


私は顔が熱を持っているのを気づかれないように、作り笑いを浮かべながら手早くボタンを留めた。

でも、それが逆に不自然だったのか、僚介君は気づいたようで「まさか…。」と呟いた後に、パッと顔を背けてしまった。

私はその空気に居た堪れなくなって、作り笑いをやめると肩を縮めて僚介君からイスをずらして少し離れた。


……絶対、ふしだらな女だって思われた…


私は中学の頃の自分からは考えられない…と思って、またため息が出る。

井坂君と出会って…付き合って…、どんどん井坂君を好きになるにつれて、自分が良い方向かは分からないけど変わっていってるのを感じる。


優先順位の一番が勉強だったのから、井坂君へ入れ替わったのもそう。

大学受験や内申の事を考えると、学校であんな事すべきじゃなかったのに…

もう、自分が自分じゃないみたいだ


でも、心のどこかで私はこれで良かったんだと思ってる。


井坂君がいなかったら、きっと今もバカみたいに勉強してなかっただろう

そんな毎日、今の自分からすればゴメンだ


井坂君がいてくれるから毎日が楽しくて輝いて見える

今日のことだって、いけないとは思っててもすごく幸せだった

井坂君がいたから、知らなかった色んな自分が見えてきてるんだ


そう考えると、変化っていうものは悪いものじゃない


私はそう結論付けて、ため息になりそうな息を大きく吸い込んだ。



すると、横で僚介君が前を向いたのが見えて、私がちらっと様子を窺うと、僚介君が前を向いたままで言った。


「俺、見なかったことにするから。」

「え…?」

「それ、向こうが勝手にしてきただけの事だろ?なら、見なかったことにする。」


僚介君は目線だけこっちに向けると、少し口の端を持ち上げた。

私はどう返せばいいのか分からなかったので、とりあえず「ありがとう。」とお礼だけ口にした。


勝手にしてきたかどうかはあれだけど…誘ったのは私…だもんね…


でも僚介君はふんっと鼻から息を吐き出すと、顔をしかめて言った。


「そんな見えやすいとこにするとか、男の風上にもおけねぇ奴だよな。詩織、嫌なら嫌って言わなきゃダメだよ?」

「え…。いや…別に嫌ってわけじゃ…。」


私は井坂君が悪者になってることに複雑で、恥ずかしかったけどフォローした。

すると僚介君が意外そうな顔でこっちに向くと言った。


「え?詩織、そういうのOKなのか?」

「え?OKって…?え?…だって、彼氏だし…。」


私は意外そうな顔をされるのが不思議で、首を傾げながら僚介君の様子を観察した。

僚介君は「へぇ…。」と言うと、前に向き直った。


「まさか、詩織がなぁ…。」

「???」


私だとそんなに意外なのかな…?


私は僚介君の中の私のイメージがどういうものなのか気になって、黙ってしまった僚介君をちらちらと見てしまう。

すると僚介君がスッと視線を向けてきて、私は目が合ったことでじっと見つめ返した。


「……そんなにそいつがいいの?」

「そいつって…、井坂君のこと?」

「そう。そんなに良い男なのかなって思ってさ。」


これは井坂君の名誉を挽回するチャンス?


「う、うん!井坂君はすごく良い男だよ!!」

「ふはっ!即答!!」


僚介君はお腹を抱えて机に顔をつくぐらい身を前に倒して笑うと、目尻に涙を浮かべている。

私はそんなに笑われるような返答をしたつもりはないので、笑われてることに少し顔をしかめる。

すると僚介君は笑いを収めてから「どういうとこが?」と訊いてきて、私はぽわんと井坂君の顔が浮かんで頬が熱くなった。


どういうとこ…なんて、一言では説明できないかも…


私は色んな井坂君の姿を思い返して照れてしまって、熱い頬を手で隠した。


「え、えっと…ね…。」


何から言おうかと迷っていると、スピーカーからチャイムの音が聞こえて、それと同時に先生が教室へ入ってきた。

だから「また今度ね。」とほっと安心しながら僚介君に言ったのだけど、僚介君は何を考えてるのか「もう十分分かったからいいよ。」と問題集を広げて、私から顔を背けてしまった。


分かったって…何も言ってないんだけどな…


私は真剣な目をして前を見つめる僚介君を見て、まぁいいか…とこの話は流すことにして、同じように前へ目を向けた。


そのときに僚介君がじっと私の横顔を見てたなんて気づきもしないで…









とうとうこんな所業に出てしまいました…

恋に盲目状態の詩織も良いかと思って、こうしました。

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