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理系女子の恋  作者: 流音
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149、萌えポイント


悔しい結果となった球技大会から一週間。

赤井君やあゆちゃんは文化祭でリベンジ!!と息巻いていて、今から文化祭のことを考えると休み時間の度に何やらコソコソと相談している。

私はそんな何か月も前から…と呆れながらも、また負けるのはイヤだったので温かく見守ることにした。

井坂君も同じなようで、変な事し出したときだけ止めればいいよと放置している。


まぁ球技大会直後はさすがにクラス全員が落ち込んでいたけど、今は悔しさをバネにしてという感じで大方元通り。

大きく変わったのは球技大会以降、1年9組が注目の的になり、大輝が瀬川君以上にモテ始めてしまったことぐらいだ。

今は廊下を歩いてるだけで「大輝く~ん!」という黄色い声を耳にする。

我が弟ながら、どこが良いのかと真剣に思うけど、外から見ればよく見えるらしい。

あゆちゃんは自分の予想が当たったことにドヤ顔していた。


そして大輝に皆の目が映ったことで、井坂君ファンだった子まで大輝に流れたみたいで、私たちのクラスに顔を見せる女子の顔が減った。

だから私としては内心大輝に流れてくれて万々歳。

以前より落ち着いた空気の中で井坂君と一緒にいられることに幸せいっぱいだ。


そうして私が大学受験の赤本を見ている井坂君を見てニコニコしていると、井坂君が「何?」と笑いかけてくれる。


「別に~。何もないよ?」


私は平和な毎日が一番だな~と思って顔が緩みっぱなしになっていると、井坂君も嬉しそうに笑って「何それ。」と返してくれる。


あー…、幸せ…

このまま時間止まってくれないかなぁ…


私は赤本に目を戻した井坂君を熱く見つめてしまう。


三月にあった私の誕生日。

あの日、私と井坂君の関係は大きく前に進んだ。


そのせいもあるかもしれないんだけど、私はたまに「拓海」と呼びたくなるときがあって、グッと我慢していた。

口に出してしまったら自分が井坂君に何をするか分からないからだ。

きっと自分から触りたくなるし、そうなったら途中で止めるなんてことできなくなってしまう。


私は自分も変態になったもんだ…と思って少し頬を赤らめたのだった。





***




昼休み――――


いつもだったら井坂君が女子のお昼の輪の近くに座って一緒に食べたりするんだけど、今日は珍しくアイちゃんが「男子禁制!!」と井坂君を赤井君の所に追いやってしまった。

アイちゃんの少し変わった様子から女子にしかできない話があるんだろう…と察して、私たちはいつもより輪を小さくしてアイちゃんの話を聞く姿勢になった。


「アイ。なんかいつもと様子違うけど、どうしたの?」


あゆちゃんがパンを片手に最初に声を発して、アイちゃんが少しむすっとした後に驚きの事を告げた。


「実は…この間、渡利君に告られたっていうか…。」


「…――――――え!?」

「えぇっ!?」

「え――――――っ!?!?」


アイちゃんから聞いたこともなかった恋愛話が飛び出して、私たちは口々に驚嘆の悲鳴を上げた。

アイちゃんはそんな私たちを見てシーっ!と口の前に一本指を当てて黙るように促してくる。

私は手で口を押えると、詳しく聞こうと「それで?」と続きを催促した。

みんなも聞きたそうに目を輝かせていて、何か言いたいのを堪えて身を乗りだし始める。


「えと、一応言っておくけど…断ったからね?付き合ったりしないよ?」

「え!?そうなの!?」

「なんで!!」

「そうだよ!!なんで渡利君はダメなの!?」


皆が口々にどうしてなのか知りたくて口を開く。

私もそれが不思議で仕方ない。


渡利君といえば、西門君や本田君と仲が良くて、剣道部に入ってて…すごく部活に一生懸命なイメージ。

そして勉強に関しても真面目でメガネが良く似合う、硬派な感じの男の子だ。

あまり話をしたことはないから詳しいことは知らないけど、悪いイメージは一切ない。

アイちゃんの事が好きだっていうなら、すごく大事にしてくれそうで彼氏にはぴったりなのに…


何がダメなんだろう…?


と私は顔をしかめているアイちゃんを見つめた。

アイちゃんは机に頬杖をつくと、大きくため息をついてから言った。


「ダメっていうか…。魅力…感じなかったんだよねぇ…。」

「み、魅力??」

「魅力ってどういう意味?アイは何を渡利君に求めたわけ?」


あゆちゃんも魅力がよく分からないのか首を傾げた。

当のアイちゃんはじとっと私とあゆちゃんと新木さんを見ると、不満気に口を開いた。


「じゃあ、逆に聞くけどさ。井坂や赤井、北野のどこを好きになったの?っていうか、どういうところがいいの?」

「ど、どういうところ?」


私はどこと聞かれて、井坂君を思い浮かべて好きな所を挙げてみることにした。


井坂君の好きなところ…

照れると可愛いところかな…

あ、でも拗ねてるところも好きかもしれないな…


私が色んな表情の井坂君を思い浮かべながら考えていると、先にあゆちゃんが答え始めた。


「赤井は…底抜けに明るくて…いつでも元気くれるとこかな…。一緒にいて楽しいのもあるかも。」

「ふ~ん…。それって中身の話でしょ?外見は?何か良いなって思うところは?」

「外見!?」


あゆちゃんがズバッと切り込んできたアイちゃんの問いに驚いて、私も同じように驚いた。


が…外見って…


私は井坂君の最初の第一印象を思い出して、良いイメージはないかも…と思ってしまった。

だって最初、チャラそうって…別世界の人だって思ってた…

私はそんなこと口に出したくないと思って口を噤む。


「えぇ?アイ。人を外見で好きになるわけじゃないでしょ?」


あゆちゃんが正当なことを言ってくれて、私は横でうんうんと同意した。

アイちゃんはむすっとすると納得いかないようで言った。


「そうだけど。やっぱり見た目の印象だって重要でしょ?世の中には萌えとかフェチとかいう言葉もあるのにさ。」

「あ、それは一理あるかも。」


アイちゃんの話に珍しくツッキーが乗っかってきて言った。


「私、好きになった男の子はいないけど、男子がネクタイ緩める仕草は好きでキュンとくるから。」

「あ、私も!!あとこうペットボトルの残り少ないときの飲む仕草!!喉仏の動き見ちゃうっていうか、あれにキュンとするんだよね!!」


篠ちゃんがジェスチャーしながら熱く語っていて、その横でまさかのタカさんまで手を挙げて話し始める。


「他にも手の節くれだった感じとか、指が長くて綺麗なのもキュンとくるよね。」

「くるくる!!シャツの袖めくり上げて出てくる筋肉質な腕もいいよね!」

「あ、鎖骨とかもよくない?」

「いいっ!!骨ばったの見ただけでキュンとする~!!」

「あ、他にも普段メガネかけてないのにメガネかけるとかは!?」

「それいいっ!!キュンとするよね~!!」


何やらアイちゃんや彼氏持ちの私たちをそっちのけで男子の萌えポイント談義が始まり、ぽかんとしてしまう。

すると見兼ねたあゆちゃんとアイちゃんが割り込むように手を挙げて言った。


「ちょっと、みんなだけで盛り上がらないでよ。」

「はいはい。それぐらいにしようか~。っていうか、好きになる男子とこういう萌えポイントってのは別物じゃないの?」


あゆちゃんが腕を組んで首を傾げて、篠ちゃんがむすっとすると言った。


「え~?じゃあ、あゆは赤井の鎖骨とかにキュンときたりしないの?」

「…………それは…、するか…しないかだったら…。すると思うけど…。」

「でしょ!?こういうキュンから、恋になったりするんだって!アイだってそういう事が言いたかったんでしょ?」


珍しくあゆちゃんが篠ちゃんに押されていて、アイちゃんは篠ちゃんに聞かれて「そういうこと。」と満足げに頷いた。


「やっぱり深く相手を知らないときっていうのはさ、こういう何気ない仕草とかでキュンとしたいわけ。そこから、あれ?ちょっとカッコいいってなって…それが好きに変わるってのが理想だよね~。」


アイちゃんがうっとりしながら恋愛の理想を口にして、篠ちゃんやツッキーがうんうんと頷きながら同意している。

でも私はそれがよく分からなくて、自分が井坂君を好きになったきっかけって何だっただろうか?と考えこんだ。


少なくとも顔じゃないのは確かなんだけど…


私は二年前のことを思い返そうとしていて、その後はアイちゃんが熱く語る理想の男像の話を全く聞いていなかったのだった。





***





そしてその日の帰り道、私は井坂君と並んで帰りながら、じっと井坂君を見つめて今日話したことを思い返して考えこんだ。


えっと、確かネクタイ緩める姿がいいとか言ってたなぁ…


私はネクタイをしてない井坂君の首元を見つめて、これは見る事ができないな…と少しがっかりした。

でも、その首元から視線を下げると井坂君の骨ばった鎖骨が見えて、胸が変に動いた。


あ…鎖骨…ゴツゴツしてる…

確かにちょっとキュンとくるかも…


私は一瞬触りたくなってしまって、サッと鎖骨から目を逸らすと視線を落とした。

そのとき自転車のハンドルを掴んでいる井坂君の手が見えて、血管の浮き出た指の長い大きな手をじっと観察してしまう。


手…いつも思うけど、すごく綺麗だな…

指長いし、あの指で触られた―――――


私はそこですごく恥ずかしい妄想をしてしまって、耳までカッと熱くなって井坂君から思いっきり顔を背けた。


ダメ、ダメ!!

みんなが変なこと言うから、私の妄想がおかしなことになってる!!

煩悩退散!!


私は違う事を考えようと、昼休みから考え込んでいたことを思い返した。


そういえば井坂君を好きになったきっかけって何だっけ?


私は二年前を思い返して、一番最初の記憶は井坂君と目が合ったときだと思った。


あのときは井坂君のことを気にも留めてなくて、井坂君のことを見た目でチャラそうとか…真面目じゃなさそう…とか思ってたんだっけ…

あ、理不尽に怒られたときは怖いとも思ってたな…

あとは…友達多くて羨ましいな…とか恋愛とは違うところで尊敬もしてたっけ…


こうして思い返すと、自分が井坂君を好きになったきっかけって何だったのか…と不思議になってくる。


「う~ん……。」

「何、考え事?」


私はいつの間にか唸っていて、それに気づいた井坂君が不思議そうに顔を覗き込んでくる。


「あ、えっと…。ちょっとお昼にあゆちゃんたちと話してた事を考えてて…。」

「そんな悩むほどの話だったのか?」

「そういうんじゃないんだけど…。」


私は井坂君を好きになったきっかけがハッキリと分からないなんて言えなくて笑って誤魔化すと、井坂君が「どんな話だよ。」と顔をクシャっとさせて笑う。

私はその顔に胸がドクンと動いたのと同時にきっかけを思い出した。


「あ!!」


そうだ!井坂君に謝られた日!!

あのとき見た笑顔にキュンってしたんだった!!


私は好きになったきっかけはこれだ!と分かって気持ちがスッキリした。

アイちゃんの言う通り、井坂君の笑顔という見た目に心を持っていかれたのは事実なので、これはアイちゃんには言えないな…と心の中に留めておくことにした。


そうして一人で解決していると、その姿が井坂君には不審に映ったのか、井坂君は私の前に立って足を止めると不機嫌そうに言った。


「詩織、絶対何かあっただろ。隠してないで話してくれよ。」

「え…?な、何もないってば。それより予備校始まっちゃう。急がないと。」


私は井坂君を好きになったきっかけなんて言えなかったので、笑って誤魔化すと井坂君を追い抜かして前に進もうとした。

でも井坂君は見逃してくれないようで、自転車のスタンドを立ててその場に止めると、私の前に手を広げて壁際に押しやるように抱え込んできて後ずさった。


私は道路脇の壁に背をつけて不機嫌そうな井坂君を見上げる。

井坂君は私の横の壁に手をつくと逃がす気はないようで、ぐっと顔を近づけて至近距離で言った。


「詩織、隠し事はなしだよ。言って。」


うわわ…井坂君の匂いにドキドキしちゃう…!!


私は問い詰められているにも関わらず、井坂君の匂いや怒ってるときの低い声に胸がときめいていて、自分の萌えポイントは井坂君全部だと思った。

井坂君は私がこんな事を思ってるとは気づかずに追い討ちをかけるように「詩織。」と低い声を耳元で言ってきて、足の力が抜けそうだった。


もう無理~!!


私はこのままだと「拓海」と口にして襲い掛かりそうだったので、観念して考えてたことを暴露することに決めた。


「わ、私が考えてたのは井坂君を好きになったきっかけのこと!!色々考えてたら、井坂君全部が好きだって気づいただけの話!だから隠し事なんて何もないの!それだけ!!」


私は恥ずかしい事を口にしたことで耳まで熱くなって、頭がふわふわした。

心臓もドクドクと脈打っていて、収まる気配がない。


井坂君は私の言ったことに驚いたのか、少し面食らっていたようだったけど、コホンと咳払いするとまた私をときめかせる低い声で言った。


「きっかけって何?…全部ってどういうとこなんだ?」

「え!?言うの!?」

「うん。言って?聞きたい。」


井坂君は少し瞳が潤んでキラキラしていて、私はそんな瞳に胸をズキュンと撃ち抜かれてしまった。

もう井坂君しか目に入らない。


「えと…、最初は…笑顔…かな…。」

「笑顔?」

「う、うん。井坂君、笑うとこう…顔がクシャってなるの…。その顔が好き…。」

「へぇ…。後は?」


井坂君は見るからにワクワクして、続きを促してくる。

私は全部言うのかな…と思いながらも思いついたことから口にしていく。


「後は…井坂君の手…とか…筋肉ついてる腕も…。」

「手…か…。ふ~ん…。」


井坂君は片手を壁から離すと目の前にもってきて、じっと自分の手を観察し始める。


「それと…低い声とか…井坂君の匂いとか…。あと、首から鎖骨にかけてのラインも…。」


私は口に出したことで止まらなくなって、自分がじっと物欲しそうに井坂君の鎖骨を見つめているのに気付いてかぁっと恥ずかしくなった。


うわわっ…!!日頃からこんな事考えてる変態だって思われなかったかな!?

もうヤダっ…!!


井坂君は恥ずかしさで汗をかいてる私を見て「ふ~ん…。」と言ったあと、小さく笑ったと思ったら急に私を抱きしめてきて体が強張った。


「俺の声、好きなんだ?」


井坂君が耳元で低く囁いてきて、私はゾクッとしてしまって腰が抜けそうだった。

それを何とか堪えると「うん。」と小さく頷く。


ど、どうしようっ!!

予備校行かなきゃなのに…離れたくないかも…!!


私は大好きな井坂君の匂いと体温に癒されていて、堪らなく幸せな気分になる。


「そか…。詩織の言い方だと、他にも俺の好きなとこありそうだな?」

「あ、あるよ!まだまだ、言いきれないぐらいたくさんある!!」


私はたったこれだけじゃ足りないと思ってすぐ返した。

すると井坂君が楽しそうに笑ってから、「全部聞きたい。」と言ってきて、私は固まった。


全部…って…

今、口にしたら予備校どころじゃなくなっちゃう…


私は予備校とこの幸せな時間を両天秤にかけて、しばらく悩みに悩んだ。


う~~~~~……・・・・!!

やっぱり流されちゃダメだ!!


私は大きく息を吸いこむと、誘惑に打ち勝とうと井坂君を思いっきり押し返した。


「それはまた今度!!予備校遅れちゃうから!ね!!」


私が井坂君に分かってもらおうと笑顔を浮かべて言うと、井坂君は子供みたいに拗ねてから「ちぇっ。」と舌打ちした。


その姿にキュンとしてしまって、私はまた萌えポイントが増えてしまったことに胸を掴んで背を向けた。


あ~~~~!!

もうダメだってば~~!!

予備校!予備校あるんだってば!!


私は行かなきゃいけないと思いながらも足が前へ進もうとしなくて、結局長々と井坂君との時間に浸ってしまって予備校に遅刻してしまったのだった…。










ちょっと続きます。

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