表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
理系女子の恋  作者: 流音
113/246

107、バカな男

詩織の友人、小波あゆみ視点です。


「あ、そういえば今日はベルリシュのライブがあるらしいぜ?」


赤井が久しぶりに嬉しそうに笑いながら報告してきて、私は詩織と井坂のことを思い出してイラッとした。


「みたいだね。」

「うん?なんか不機嫌だな?なんで怒ってんだ?」

「赤井こそ、なんでそんな嬉しそうなの!?意味わかんない!!」


私は詩織が井坂からライブの事を断られたと泣いている姿を知ってるだけに、ライブと聞くだけで腹が立って仕方がない。

ベルリシュなんて滅んでしまえとさえ思ってしまう。

赤井はそんな私を不思議そうに見ながら、首を傾げてくる。


「俺のがなんで怒ってるか意味分かんねぇけど…。何?そんなにベルリシュに恨みでもあんの?」

「そんなものないけど!!とにかく、今はライブって聞くだけでムカつくのよ!!」


私が拳を握りしめて歯を食いしばると、赤井が肩をすくめて「変な奴。」と苦笑した。


「井坂のやつは谷地さんとライブだって、あんなに喜んでたのになぁ~。」


赤井がサラッと驚きのことを口にして、私は反射的に赤井に掴みかかった。


「今の話、何!?井坂がライブってどういうこと!?」

「うわっ!!急に何だよ!!」

「いいから!!詳しく教えなさいよ!!!」


私は詩織から聞いていた事と違ったので、赤井に先を促した。

赤井は目を白黒させながら、思い出そうとしているのか視線を上に向けて口を開く。


「あれは確か…追試の結果が出たあとだったかな…。井坂が谷地さんからライブに誘われたって、すっげー嬉しそうに報告してくれたんだよ。」

「何それ!?初耳なんだけど!!」


私は井坂の嬉しそうな姿なんて、詩織と別れてから見たことがなかったので、赤井が嘘を言ってるんじゃないかと思った。

でも、赤井はへらっと笑みを浮かべると私の肩を叩いてくる。


「まぁ、あいつは俺にしか本音言わねーからなぁ~。学校では基本カッコつけてんだよ。」

「カッコつけてるって…、じゃあ何で詩織に予定があるなんて言うわけ!?あいつ、詩織のこと無駄に傷つけて、わけ分かんないんだけど!?」


私は赤井の胸倉を掴むとユサユサと揺すって、自分の怒りを赤井にぶつける。

赤井は私の肩を強く掴んで「落ち着け。」と私を宥めてくる。

私は荒い息を吐き出すと、揺らすのをやめて赤井を睨むように見つめる。


「何か誤解があるんじゃねぇ?俺の知ってる井坂は、谷地さんとライブ行けることをすっげー喜んでたんだよ。あんなあいつ久々に見て、俺すげー嬉しかったんだからさ。」

「誤解って…。それ、本当の話なんだよね?」

「こんなことで嘘つくかよ!!」


赤井が自信満々に言って、私は詩織と井坂の間にすれ違いが起きてると確信した。

私は今すぐにでも詩織の誤解を解こうと、ケータイを取り出すと詩織にかける。

でも、コール音が鳴らずに電源が切れているというアナウンスが聞こえて、私は時間を確認した。


「六時回ってる…。」


ベルリシュのライブは六時からだと詩織から聞いていたので、ケータイの電源を切っていることにも納得した。

少し遅かったと落ち込みそうになるが、まだ手はあると前に向かって足を進めた。

その後を赤井が慌てて追いかけてくる。


「ちょっ!!小波!どうしたんだよ!?」

「ライブ会場に行く!!詩織にこのこと教えてあげないと…本気で井坂のことを断ち切っちゃうかもしれない。」

「井坂のこと断ち切るって…どういうことだ!?」


「詩織は井坂にライブの事断られたって泣いてたのよ!!」


私は立ち止まると、何も分かってない赤井に苛立って声を荒げた。

赤井は口をぽかんと開けて固まった後に、焦ったように私に詰め寄ってきた。


「な、何の話をしてんだよ!!井坂は断ったなんて一言も…。」

「だから慌ててんでしょうが!!何か二人の間にすれ違いが生じてんだから!」


私は話す時間ももったいないと思って再度前を向いて足を速める。

後ろから赤井がまだ「どういうことだよ…。」と困惑しながらついてくる。


するとそのとき、道の先で何やら揉めてる声が聞こえてきて、私は目を凝らしてその集団に見つめた。


「離せよ!!俺は行くとこがあるって言ってんだろ!?」


聞き馴染のある声が聞こえて、私は赤井と顔を見合わせるとまさか!と足を速めた。

そして一軒のカラオケ店の前に着くと、井坂が以前ファミレスで絡まれた男子と揉み合っているのが目に入って、私は目を剥く。


なんでこいつここにいんの!?


私は井坂を見ただけで頭に血が上って、問い詰めてやろうと前に出ようとすると、赤井に腕を引っ張って止められた。

赤井は「ちょっと待て。」と言って、二人の様子をじっと見つめている。


「鹿島!!いいから離せ!!」

「今度こそ勝手に帰るとか許さねぇ!!黙って部屋戻るぞ!!」


井坂は抱き付くように引き留め続ける鹿島君?とやらを引きはがそうともがいていて、鹿島君は食らいついてでも放すか!!という形相でカラオケ店の中へ引っ張っていく。

そこでやっと赤井が状況を理解したのか、私の手を放して二人に向かっていく。


「鹿島!!お前、何やってんだ!!」


赤井が声を荒げて二人を引きはがそうと手を伸ばしていて、私も手伝おうと同じように手を貸した。


「赤井!!助けてくれ!!」


井坂が赤井にすがるような目を向けてきて、赤井は放そうとしない鹿島君の手を掴んだ。

すると鹿島君が赤井を睨んでから、声を荒げる。


「邪魔しにくんな、赤井!!お前が井坂の味方なのは知ってんだ!!ぜってー放さねぇからな!!」

「井坂は大事な約束があんだよ!!放せって!!」

「知ってるよ!!だから、こうして引き留めてんだろ!!」


ん…??だから引き留めてるってどゆこと?


私が言葉の意味を理解しようと首を傾げると、井坂と赤井が同時に動きを止めた。

井坂は鹿島君が言った言葉に彼が何かを企んでいる事を読み取ったのか、抵抗するのをやめて鹿島君を凝視している。

赤井も同じで手を緩めて、しまった!という表情をした鹿島君を見つめる。


「おい、鹿島。今、なんつった?」

「別に?何も言ってねぇ。」


目線を斜め上にそらしてしらばっくれる鹿島君に、赤井も井坂もイラついたのか同時に声を荒げた。


「全部顔に出てんだよ白状しろ!!」

「だからっつったな!!お前、何考えてる!!」


赤井が鹿島君の胸倉を掴んで、井坂は背中にへばりつかれているので顔を後ろに向けている。

鹿島君ははーっと長いため息をつくと、降参の意味なのか両手を上げて井坂を放した。


「もう完敗だよ。井坂を元に戻そうと色々と策を練ったけど、全部パァだ。」

「は?お前、一体何の話をしてる?」


井坂が皺になった服を戻すと、鹿島君に向き合って尋ねた。

鹿島君は井坂を見ると、ヘラッと軽薄な笑顔を浮かべる。


「聖奈をけしかけて、お前と彼女を別れさせたの俺なんだよね。別れれば昔みたいに戻るかと思ったんだけど、無駄だったなー。」

「は!?わ、別れって…!!お前、葛木に何させた!?」

「別に?井坂を口説いてくれって言っただけだよ。あ、あと執拗にベタベタして、男の本能くすぐれとも言ったかな?」


鹿島君は悪気はないという様子でいたって普通に話していて、こっちの頭が混乱しかける。

井坂は鹿島の悪びれない様子にイラついて顔を般若のように歪めている。


「それなのに、お前聖奈には一ミリも心動かなかったよなー。夢のFカップ女子なのに、信じられねぇよ。だから!俺はお前の彼女の方を揺さぶる事にしたんだよ。彼女の方が簡単に揺らぎそうだったし?」


こいつ…クズだ…


私は詩織と井坂が別れた原因がこいつによるものだと知って、腸が煮えくり返りそうだった。

それは赤井も井坂も同じなのか、井坂は鹿島君の服をガッと掴むと至近距離に顔を近づけて睨む。

赤井は冷めたような目で鹿島君を見ていて、その目が見下しているものだと分かり、私は赤井が珍しくマジ切れしてると悟った。


「お前、詩織に何した?」

「ただ話をしただけだよ。少し事実を捻じ曲げて、お前についての話しをさ。」

「おい、それ…谷地さんを傷つけるためにやったとか言わないよな?」


赤井が冷たい視線を鹿島君に突き刺して、鹿島君は笑顔でそれを流すとケロッとして言った。


「そうに決まってるじゃん。そうじゃなきゃ、誰が何のために地味な女に声かけんだよ。」


これには井坂も我慢の限界だったのか、鹿島君を殴りかけて途中で手を止めると、足で鹿島君を蹴っ飛ばした。

私はその光景が去年の文化祭のものとかぶって見えて、すんでの所で殴るのをやめたことに井坂の成長を感じた。

あのときは井坂は容赦なく先輩を殴ってハラハラしたけど、今は相手を傷つけようとしたわけじゃないと感じてホッとする。


「ってめぇ!!許さねぇ!!」

「井坂!!」


だけど、蹴とばした後に殴りそうになって、赤井が井坂の後ろから井坂の腕を掴んで止める。

私は前言撤回して、成長してないなと感じて目を細める。


「ははっ!!俺が何か言うたびに泣いてさ。彼女、本当に脆かったぜ?」

「ぶっ殺す!!」

「井坂!!今度は警察の世話になるつもりか!!」


井坂は真っ赤な顔で怒り心頭していて、私はそんな井坂と同意見だったので、井坂の代わりに鹿島君の頬をパシンッと平手打ちした。


怒ってた井坂と赤井が同時に私に目を向ける。

私は驚いたように目を見開く鹿島君を睨みつけて、仁王立ちして見下す。


「詩織のことバカにすんな!!詩織は脆いけど、芯の強い心持ってるんだから!!あんたに何が分かるっていうのよ!!こんのヤリチン男!!!!」

「は…!?」


私は頭に血が上っていて、勢いに任せて捲し立てる。


「あんたが井坂を元に戻すとか、変な戯言ほざいたのは、自分にないものを井坂が持ってて悔しかっただけなんでしょ!?それなのに、詩織にまで絡むなんて…!!あんたなんか井坂の足元にも及ばないわよ!!男返上して、性転換でもすれば!?そうすればこの世界もほんの少しマシになるかもね!!」


私が鼻で笑って吐き捨てると、赤井が私の肩を叩いて遠慮がちに「もうやめとけ。」と言ってきて、私はハッと我に返って周囲を見回した。

そこには高校生ぐらいの女子やもの珍しそうに見るおばさんたち、ギャラリーが集まっていて、私は注目されてる事に赤面して身を縮めた。


最悪…頭に血が上って、感情に任せて物言っちゃった…


私という存在を消してくれーと思って赤井の背後に移動した。

すると前から「ふははっ」と笑い声が聞こえて、私は目を鹿島君に戻した。

鹿島君はお腹を抱えて笑ってから、赤井の後ろに隠れてる私を見て言う。


「あんた気強いなぁー。さすが赤井の彼女。ほんっとお前らのクラスって意外性のあるやつばっかだな!!」


「ってっめ!!ちったー反省しやがれ!!」


井坂が鹿島君に怒鳴ると、鹿島君は「悪い、悪い。」と全く反省してない様子で笑う。

その様子に井坂はまた手が出る寸前という形相で、ぐっと堪えている。

すると、今まで黙ってた赤井が井坂を手で制して口を開いた。


「鹿島。お前のこと、こんな風に言うの嫌だけどさ…。正直、幻滅した。」


赤井ががっかりしたように肩を落としていて、鹿島君が笑顔を消して赤井を見つめる。


「井坂の幸せ壊すような事までするとは思わなかった。いくら考え方が違うからって、これはやり過ぎだ。もう、お前と友達やってく自信ねぇよ。」


私は赤井の決別宣言にぐっと胸が詰まったようになる。

井坂は赤井の横顔をじっと見つめた後、鹿島君に目を戻して「俺もだ。」と言う。


当の鹿島君はというと、ハッと息を吐いて口元に笑みを浮かべると俯いて言った。


「俺はお前らがそうして一人の女子に気持ち預ける事が理解できねぇよ。モテるんだから、そんな自分を有効活用して何が悪い!?お前らは自分を無駄遣いしてるよ!!」


鹿島君は顔を上げて二人に詰め寄ると、声を荒げる。


「なぁ、目を覚ませよ!!お前らは俺と同じなんだって!!」


必死な鹿島君を見て赤井がため息をつき、井坂がきっぱりと「それは違う。」と口を開いた。


「俺とお前は違う。俺はお前の言う女子との付き合いは一生理解できない。俺には詩織だけいれば十分なんだ。」


井坂…


私はハッキリと詩織への想いを口にする井坂に胸を打たれた。

一時はこいつが浮気したと思って「死ね」とさえ口にしたけど、こうして迷いのない井坂を見るとあれが嘘のような気がしてくる。


「それが俺には理解できねぇ。もう勝手にしろよ。聖奈も手を引かれたし、俺も首突っ込むのをやめる。」


鹿島君は本当に諦めたのか私たちに背を向ける。

その背へ赤井が声をかけた。


「鹿島。お前も分かるときがくるよ。」


鹿島君は振り返って驚いたように赤井を見たあと、へらっと笑って「そーかよ。」と言って今度は井坂に指先を向けて言った。


「つーか、もう六時過ぎてるぜ?例のライブ、とっくに始まってんじゃねぇの?」


これに私も赤井も井坂も目を剥いた。

思わず時間を確認して、井坂の背を叩く。


「そーよ!!何やってんの!?詩織とライブでしょ!?そもそも、あんた何でここにいんのよ!!」

「だって…、鹿島が二時間だけっていうから…」


井坂が私の声にビクッと怯えて言い訳してきて、私は頭を掻きむしると井坂の背をドンと強く押す。


「もうっ!!そんなことはどうでもいいのよ!!詩織を泣かしたこと、償ってきなさいよね!!」


私が励ますように言うと、赤井も私の横に立って笑顔で言う。


「もう始まってんぞ!!急げよ!!」


井坂は真っ白な顔で小刻みに何度も頷くと「悪い!」と言い残して駅に向かって慌てて走っていく。


私はその背を見送ってハラハラしながら、自分も一緒に行こうかなどと考えてしまう。

すると赤井にそれを見透かされたのか、優しく頭をポンと撫でられた。


「きっと大丈夫だよ。今は二人を信じとこうぜ?」


私は心強い赤井の言葉に、少し気持ちを強く持つことができて、笑顔で頷いた。


すると赤井が私の手をギュッと握ってきて、その力が強いことから、赤井も私と同じで二人を心配しているんだと感じた。

私はそんな赤井を少しでも安心させたくて、手を強く握り返して井坂の去った方向をじっと見つめて祈ったのだった。



どうか、二人が元に戻りますように…と。








鹿島のことを解決させました。

次で詩織との対面です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ