103、島田君の葛藤
井坂の友人、島田視点です。
「追いかけろよ!!何やってんだ!!バカ!!」
俺は黙って谷地さんの背を見送る井坂に腹が立って、思わず奴の胸倉を掴んだ。
井坂は顔をしかめたまま、俺の方を見ずに谷地さんが走り去った方向を見続けている。
そんなに名残惜しい顔して…なんで!?
俺は井坂が何を考えてるのか分からなくて、あいつの胸倉を掴んだまま揺さぶった。
「なんで自分からチャンス作っといて、あっさり引くんだよ!!今が謝って、仲直りするチャンスだっただろ!?なんで何も言わなかった!!」
井坂は俺の手を掴んで引き離してくると、顔をしかめたままでやっと口を開いた。
「俺は…詩織に許されるつもりはない。…お前には前にも言っただろ…。」
「は…?」
俺は過去の記憶を探って、そういえばそんな事を言っていた事を思い出した。
でも、俺から谷地さんを引き離した井坂を見てたら、そんな事もう思ってないと思ってた。
井坂は谷地さんの事が好きだから、吹っ切れてあんな事をしたんだと感じた。
だから、黙って見守っていたのに…
こいつはまた自信のない姿に戻っている
本当に意味が分からない。
俺は井坂がこれからどういうつもりで谷地さんと接していくのか気になって尋ねる。
「なぁ、お前…谷地さんとどういう関係になりたいわけ?」
井坂は俺をじっと見つめると、拳で俺の胸をドンと押し返して言った。
「お前にはやらねぇよ。」
「は!?」
思ってもみなかった返答がふってきて、俺は目を剥いた。
井坂は眉間に皺を寄せると腕を組んで言う。
「まだ、しらばっくれるつもりかよ。俺が気づいてないとでも思ったか?」
このタイミングで以前の井坂に戻り始めて、俺は否定することができなくて顔に熱だけが集まっていく。
この一週間、友達である井坂をとるか、俺を必要としてくれてる谷地さんをとるかで頭を悩ませていた。
谷地さんを好きだという自分の気持ちは、井坂と別れたという現実を目にして、大きく膨らんできていた。
でも井坂が谷地さんの事をどれだけ好きなのか、傍で見て知っていたし、別れてからも未練を感じているのは分かっていたので、自分自身かなりきつかった。
それを、あっさりと井坂は見透かして、口に出してきやがった。
こいつにだけは知られたくなかったのに、どこでバレたのだろうか?
俺は途端に気まずくなって、井坂から目を逸らして俯いた。
心臓がドクドクと嫌な音を立てる。
「お前のことだから、本気で詩織をものにしようとか思ってたわけじゃねぇと思うけど…。でも、別れたからって、詩織に手を出そうとするやつを一人だって見過ごすわけにはいかねぇよ。」
井坂の言葉から別れた今でも谷地さんを束縛しようとしてる事を感じ取って、俺は思わず顔を上げて言った。
「お、お前…前は谷地さんの事を幸せにするなら、文句はねぇみたいなこと言わなかったか!?」
「…それは…それだよ。…今は、ただ嫌なんだ。詩織が…他の男と一緒にいるところなんて見たくもねぇ。」
……自分勝手極まりないな…
俺は井坂に呆れて、じとっとした目で井坂を見つめる。
すると井坂が少し顔を歪めてから背けた。
なんか…谷地さんに近付きすぎたら、こいつとの友情が壊れるかも…とか心配してたけど…
そんなことなさそうだな…
俺は悩んでた事が晴れるようで気持ちが楽になった。
「そっか…、じゃあ…もうごちゃごちゃ考えなくてもいいよな…。」
「…??考える?って何を考えてたんだよ?」
俺がボソッと口に出した言葉を聞いて、井坂が食いついてきた。
俺は自分の中に余裕が生まれて、ふっと顔が緩んで笑顔を浮かべる。
「俺さ、お前にこの気持ちがバレたら、お前と友達でいられなくなるかも…って思ってたんだよな…。でも、お前の我が儘な発言聞いたら、そうじゃねぇんだって安心した。」
井坂はまだ不思議そうな顔をしていて、俺の言葉の意味を汲み取ってないと伝わってくる。
だから、俺ははっきり宣戦布告することにした。
「お前が動かねぇなら、俺が行く。悪いな。」
「…は…??」
俺は困惑顔の井坂を置き去りにするように足を進めた。
谷地さんの後を追いかけるように、全力で走る。
俺にできる最善はこれしかない。
俺は谷地さんの笑顔を取り戻す方法を、自分の中に思い描いた。
背後からやっと俺の行動の意味に気づいたのか、井坂の俺の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。
同時に足音も聞こえてきて、追いかけられてると分かる。
でも、俺は足を止めるつもりはなかった。
ただまっすぐ谷地さんの後ろ姿が見えるまで、足をひたすら前に進める。
それから、どれぐらい走ったか分からないけど、谷地さんの背が見える前に、俺は井坂に追いつかれて肩を掴まれその場に押し倒された。
「いって!!」
「島田っ!!!詩織に手を出したら、ぶっ殺す!!!」
井坂が息も絶え絶えに大声で怒鳴ってきて、俺は同じように大きく息を吐きながら笑いが込み上げた。
「ははっ!!」
「何、笑ってる!?俺はマジだからな!!!!」
俺は井坂の必死過ぎる形相に笑いが止まらない。
ここまで簡単に動くとは思わなくて、俺のハッタリも捨てたもんじゃないと井坂の胸を小突いた。
「ははっ!バーカ!!ちゃんと動けんじゃん!気持ちもしっかりしてるみたいだし、さっさと谷地さん追いかけろって。」
「は…??」
俺が井坂を動かせたくてした策略だとは気づかずに、井坂はぼけっとした顔のまま首を傾げる。
俺は井坂を押し返して体を起こすと、バシッと井坂の頭を叩いた。
「お前も色々ごちゃごちゃ考えずに動けって言ってんだよ!バカ正直なお前でぶつかれば、谷地さんだってちゃんと話を聞いてくれる。」
俺は井坂に手を掴まれただけで真っ赤になっている谷地さんを見ただけに、今なら間に合うと確信があった。
だからこそ、井坂の背を押してやりたかった。
「今ならまだ間に合う。行け。井坂。」
井坂は俺から手を放すと、顔をしかめて首を横に振る。
「だから、俺は…詩織に許されるつもりは――」
「まだ、んな事言うか!?自分の気持ちに正直になれよ!!」
俺は井坂の胸に拳を押し当てると声を荒げた。
井坂は一瞬瞳を震わせたけど、ギュッと眉間に皺を寄せた後俯いてしまう。
こいつっ…イライラするっ!!
俺は谷地さんに対してだけ、自信のないこいつに嫌気が差してくる。
俺にはこうして食ってかかってこれるのに、谷地さんに対して消極的過ぎるだろ!!
もう、どうすればこいつが動くのか分からないのでお手上げだ。
挑発にのってこないのなら、俺にできる事なんてないようなものだ。
「井坂のバーカ。」
俺は飽きれから口から悪態が飛び出す。
井坂はその悪態にも動じず「だよな。」と言って笑う。
俺はその笑顔を見て、やっぱり自分にとって井坂も大事だと思った。
自分の気持ちよりも、井坂や谷地さんの幸せそうな顔を見たい。
さっきは邪な想いもあったけど、自分には恋愛よりも友情だと…
そう気づいて、俺もとことんバカだな…と自嘲気味に微笑んだ。
***
あの日以来、井坂と谷地さんはやっぱり話をするどころか、目も合わせなくて、見守り隊の俺としては歯痒い日々を送っていた。
その当人の井坂はというと、今も俺の目の前で化学の教科書を広げ、赤井と揉めている真っ最中だ。
「だから!!お前、化学得意だっただろ!?何全部スッパリ忘れてるわけ!?留年したいのかよ!?」
「うっせーなぁー!!思い出せねぇもん仕方ねぇだろ!?だからこうして一から覚え直してるんじゃんか!!」
「それじゃあ間に合わねーっつってんだよ!!追試全科目なんだろ!?化学や数学はお前ならぶっつけ本番でもイケるって!だから暗記系の世界史とか苦手な現文を先にやれよ!!」
「俺には俺のやり方があんだよ!!口出ししてくんな!!」
井坂が持っていた化学の教科書を閉じて赤井に噛みついて、赤井が「勝手にしろ!!」とブチ切れてダンダンと足音を立てながら教室を出ていった。
それと入れ替わるように北野が井坂の所へやってくる。
「おいおい、井坂。赤井だって心配して言ってんだぞ?あの言い方はねぇんじゃねぇの?」
「うっさい。誰が心配してくれなんて言ったよ。ほっといてくれればいいのに、おせっかいしてくるのはあいつだ。」
井坂がまたムスッとして教科書を開いて、北野がそれを見て大きくため息をつく。
「お前、谷地さんと別れてから変わったよ。いっつもピリピリしてさ、気を遣うこっちの身にもなれっつーの。」
うわ…確信ついた…
俺はズバッと井坂の傷を抉ってくる北野にちらっと目を向けると、北野が俺に目配せしたあと井坂を睨みつけた。
井坂は教科書を見つめたまま黙って、しばらくの沈黙の後に口を開く。
「気を遣わなくてもいいだろ。誰もそんなこと頼んでねーし。」
「お前なぁ…」
北野がまた何か言いかけると、井坂は「お前ら勉強の邪魔。」とだけ言うと、サッと立ち上がってベランダに閉じこもってしまった。
残された俺は北野と顔を見合わせて苦笑する。
お前らって…俺、何も言ってねーけど…
北野ははぁ~と大きく息を吐くと、井坂が座っていた俺の前の席に腰を下ろして頭を抱えてしまう。
俺は閉めきられたベランダの扉に目を向けてから、何気なく谷地さんに目を移す。
すると谷地さんの心配そうな目がベランダの扉に向いていて、俺は彼女も心配していることを読み取った。
そのあと谷地さんが俺の方を見たことで目が合って、俺の心臓がドクンと意味深に跳ねて顔が強張る。
谷地さんは少し困ったような表情を見せた後にへらっとはにかむような笑顔を見せて、八牧に目を戻してくれて、俺はほっと胸を撫で下ろす。
きっと俺に井坂を見てた事を気づかれたと思って恥ずかしかったのだろう…
友情の方が大事だとは気づいたけど、やっぱり好きな気持ちが消えてくれるわけではない。
俺は早く二人が元に戻ってくれないかと願って大きくため息をついた。
するとそれを目ざとく見ていた北野が、意味深な笑顔を浮かべて話しかけてくる。
「お前も苦労するなぁ~。」
「あ?何の話だよ。」
「しらばっくれるなよ。井坂にも気づかれたんだろ?お前の気持ち…さ。」
井坂に続き北野にもバレてた事に顔が引きつって、嫌な汗が出てくる。
俺はなるべく平常心を心掛けると、不自然にならないように落ち着いて返す。
「だったら、お前は…俺に説教でもするわけ?」
「ははっ!そういうんじゃねぇよ!!俺は井坂ともお前とも友達だからな。相談なら乗るぞってことだよ。」
北野が俺の肩を叩いて明るく言って、俺は北野の言葉に嘘はないと感じて少し安心した。
井坂にしても北野にしても、俺の友達はいい奴ばっかだ。
俺は自分が友情を取りたくなる理由は、奴らのこういう良い人柄のせいだな…と思った。
「北野…。俺さ、自分の中の気持ちはハッキリしてるんだよ。」
「うん?」
「俺には井坂から谷地さんを奪うとかできない。俺は…井坂にも谷地さんにも幸せになって欲しい。自分よりも…。偽善者…だよな?」
俺は自分の正直な気持ちを初めて人に話して、恥ずかしかったけど気持ちが楽になる自分がいた。
北野はそんな俺の告白をからかわずに優しい笑顔を浮かべると、声音を落として言う。
「偽善者とか俺は思わねぇけど…。それがお前の本心なわけ?」
「…本心って?」
「言ってみれば、お前は今、すっげー大チャンスの前に立ってるわけじゃん?谷地さんを振り向かせるなら、傷心の今が絶好の機会だって分かってて、お前は井坂を優先しようとしてる。それでこれから先、後悔しないのか?」
後悔…
俺は北野から視線を落として考え込んだ。
今、谷地さんの心の隙間に割り込めて、仮に…もし…ないとは思うけど、付き合えるなんて夢みたいな現実がやってくるなら…
俺は…本当にこのままで良いのか…?
北野の言うように後悔はしないのか?
俺は少し視線を上げると、八牧と話をしている谷地さんを盗み見た。
谷地さんは八牧と何かを話して笑っているが、どこか無理しているように見える。
八牧もそれに気づいているのか、どこか寂しそうな笑顔を浮かべている。
俺はそんな二人を見て、自分が谷地さんの隣にいる想像をした。
俺の隣で谷地さんが井坂に向けてた笑顔を見せてくれている…
そんなことになったら夢みたいだろう…
だけど…、やっぱり井坂の姿がちらついて、俺は心の底から喜べるのか考えて結論を出した。
「後悔はしない。俺は…井坂の友達だからな。」
俺がまっすぐ北野を見つめて告げると、北野がふっと息を吐き出して笑った。
「お前って…ほんと、どこまでも良い奴だよな~…。お前の将来が心配だよ。」
「将来って…大げさだな。」
「だって、良い奴過ぎて、人生損しそうだぞ?もう少し我が儘になっても良いと思うけどなぁ~…。」
「我が儘って…、そんなのまんま井坂じゃんか。」
俺がこの間の井坂の傍若無人っぷりを思い返していうと、北野が吹きだした。
「ぶはっ!!確かにそうだ!!我が儘はあいつの代名詞だもんなー!!」
「だろ?俺は、それを一歩引いて見るポジションがあってるんだよ。」
「まぁな~。赤井の奴も結構自由気ままだしな。俺らがしっかりしねぇとってのはあるよな?」
俺と北野は俺たち4人のクセを踏まえての立ち位置を考えて、自然と笑顔になった。
「早く前の井坂に戻るといいよな。」
俺がベランダの扉を見つめて呟くと、北野も同じようにベランダの扉に目を向けて「だな。」と頷いた。
***
そして井坂の追試の日が刻々と迫ったある日――――
帰ろうと思って赤井達と歩いていた俺を、谷地さんが真剣な顔で引き留めてきた。
「島田君…。ちょっといいかな?」
俺は何だろうと思いながらも、赤井達に先に行くように言ってから谷地さんの前に立った。
谷地さんは「あのね…。」と言いかけて、俺の後ろに目を向けて固まってしまった。
俺はそれに気づいて後ろを振り返る。
するとそこには葛木さんに引き留められて何か話をしている井坂がいて、俺は慌てて彼女に目を戻した。
谷地さんの大きく見開かれた瞳が震えているのが見えて、俺は思わず彼女の視界を隠そうと一歩前に進み出る。
「あー…っと。…ここじゃなんだし、向こう行くか~。」
俺がなるべく谷地さんの目に入らないように、手を無造作に動かして言うと、目の前で谷地さんがふっと微笑んだ。
「ごめん…。ありがとう。」
谷地さんはそんな俺を分かってか、見てるこっちが悲しくなるような笑顔を浮かべて、俺は堪らず谷地さんの手をとり引っ張って足を進めた。
井坂がいる方向とは真逆に大股で歩く。
くそ…!!
俺が何もできないことに歯を食いしばっていると、谷地さんが手を軽く握り返してくれたのが伝わってきて、心臓がドクと変に動いた。
俺がちらっと後ろに振り返って谷地さんの姿を確認すると、谷地さんは戸惑いながらも俺の背に続いてついてきてくれているのが見える。
その姿に頬が熱くなってきて、俺は自分の中にある谷地さんへ対する気持ちに苦しくなって、唇を噛みしめた。
そうして、井坂の見えない渡り廊下まで来たところで立ち止まると、自分の気持ちを胸の奥に押し込んで彼女に向き合って言った。
「大丈夫?」
谷地さんは目をパチクリさせると、俺を数秒見つめてからクスッと笑みを浮かべた。
「大丈夫だよ。島田君はいつも私を助けてくれるね。ありがとう。」
俺は無防備な笑顔を向けられて、慌てて視線を逸らすと「話って何?」と話題を入れ替えた。
谷地さんの笑顔を直視したら、邪な気持ちから胸の奥に押し込んだ言わなくてもいいことを言ってしまいそうになる。
それを避けるための防御線だった。
「あ、うん。あのね…」
谷地さんは俺が悶々とこんな事を考えてるとは思ってないようで、少し考え込んでから言った。
「い…井坂君の勉強の進み具合ってどんな感じ?」
「……へ?」
俺は予想の範囲外のことを訊かれて、ぽかんと彼女を見つめた。
谷地さんはオロオロとしながら、心配を口にしていく。
「化学と英語は大丈夫だと思うんだけど…、井坂君って世界史とか現文…苦手っていうか…嫌いみたいだから…。ちゃんと勉強してるのか気になって…。何だか赤井君ともよくケンカしてるのを見るし…。」
え…っと…、これは井坂のことを訊かれてるんだよな?
俺は俯き加減で心配を口にする谷地さんを見て、ふっと表情が緩んだ。
別れたのに…井坂の心配ばっかり…
やっぱり谷地さんはこうでなくちゃな…
俺は何かが吹っ切れて笑顔で彼女を安心させるように告げた。
「大丈夫だよ。井坂のやつ、自分なりにしっかり勉強してるみたいだから。きっと追試も完璧だと思う。」
「そ、そっか…。良かった…。」
谷地さんはほっとしたように表情を緩めると、細く息を吐いている。
俺はどこまでも井坂にまっすぐな谷地さんが、なぜかすごく嬉しかった。
自分のことよりも、優先してしまうなんて、本当に不思議な感覚だ。
俺は彼女を好きになって、初めてこういう感情を覚えた。
「あ、引き留めちゃってごめんね!聞きたかったの、それだけなんだ。また、明日!」
谷地さんがハッと我に返ったのか、笑顔を浮かべて手を振って足を校舎に向ける。
そのとき、横を通り過ぎていった男子二人の会話が耳に入って、俺は谷地さんに振っていた手の動きを止める。
「あの子、可愛いな。何組?」
「あー、9組の井坂の彼女だろ。あ、今は元カノか。」
「え!?あの井坂の!?っつーか別れたってマジ!?」
「あ、うん。女子が大騒ぎしてたぜ?」
「うわ。じゃあ、狙い目じゃん?あの井坂の元カノとか燃える。」
普通クラスのチャラそうな男子が谷地さんを横目に見て言っていて、俺は思わず去ろうとしている谷地さんの手を握って引き留めた。
「谷地さん。帰りにどっか寄って帰ろうか。」
「へ…?」
俺はこっちに目を向ける男子二人を牽制するように、その男子生徒を睨みつけて言った。
谷地さんは目を何度も瞬かせて「どっかって…。」と言って困ってるようだった。
「なんか小波たちが言ってたんだけど、ショッピングモールにワッフルだか何かの店できたんだろ?そこに行こうぜ?」
ここで谷地さんの表情が輝き「そこ行きたかったんだ!!」と満面の笑顔を向けられて、俺は急に心臓が暴走を始めて握ってる手を放すに放せなくなった。
例の男子たちは諦めたのか何かを言って校舎に入っていく。
何やってる!?俺!!
俺は井坂以外の男子に言い寄られる谷地さんを見たくなくての行動だったのだけど、こうしてニコニコしている谷地さんを目の前にすると、自分も同じに見えて罪悪感が胸を掠める。
俺のバカ!!何言ってんだ!?
俺は目をキラキラさせている谷地さんを見つめて、今更行かないなんて言えなくなる。
井坂が大事だとか思っときながら、二人でワッフル食べに行くとか…あいつに対する裏切りだ。
俺は自分の高鳴る心臓と正反対の冷え切った頭で、井坂に対する言い訳を必死に考えたのだった。
彼は本当に良い人です。ただ良い人なだけなんです…
彼の行動をどうするか、島田になりきってしばらく悩みました(笑)




