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理系女子の恋  作者: 流音
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99、号泣


私は鹿島君に現実を気づかされて今にも胸が張り裂けそうだった。


井坂君の心の中に私以外の人がいるなんて認めたくない


苦しい…辛い…


どうすればこの苦しさから逃れられるの?

これ以上は一人で溜め込んでおけない。


私は藁にもすがる思いで、今まで何度も救われた人に電話をかけた。


『はい、もしもし。谷地さん?』


私はいつも通りの島田君の声を聞いてホッとしたことで、我慢していた涙が溢れて頬を伝った。

慌てて拭うが、若干鼻声になりながら島田君に言葉を返す。


「ごめん…急に電話して…。」

『それはいいけど…。もしかして今泣いてる?』


さすがに伝わってしまったと、私は後ろめたさから口を噤んだ。

そしてどう答えようか迷っていると、島田君が先に口を開いた。


『今どこ?』

「え……」


私は場所を聞かれたことで辺りを見回して、見覚えのない景色に驚いた。

鹿島君から逃げたい一心で走って、知らない所へ来てしまったようだ。


私は目印になるようなものを伝えようと、とりあえず目に入ったものを告げる。


「えっと…コンビニとドラッグストアが並んでて…細い道の先に河川敷が見える…。あ、なんか小学校が近くにあるみたいで小学生が下校してる…かな…。」


私はこんな説明しかできない自分に情けなくなりながら返答を待つと、島田君がブツブツ何か言ったあとに声を上げた。


『あ、それ川西小の近くかも。俺の母校だよ。とりあえずコンビニの前で待ってて。』

「え…待っててって…。」


私は彼の言い方から来てくれることが分かり戸惑った。

わざわざ来てもらうとか申し訳ない。


『俺、今近くにいるんだ。だから、とにかく待ってて!動かないでくれよ!!』


島田君は走っているのか電話から彼の吐く息と足音が聞こえていて、私は申し訳なかったけど、それと同時に有難かったので頷いた。


「分かった。」

『じゃ、すぐ行くから!!3分ぐらい待ってて!!』


島田君は力強く言うと電話を切ってしまって、私はケータイをしまうときに自分の涙が止まってる事に気づいて、手で目の下を触る。


前にも同じように島田君と話しただけで涙が止まった。

島田君と話すと気が楽になるのかな…


私は島田君は私の涙を止めてくれるお日様みたいだな…と思って、気持ちが温かくなった。

そして大きく息を吸って気持ちを整えると、コンビニへ足を向けたのだった。




**




そうして島田君は宣言通り、3分ぐらいでコンビニまで走ってきて、私は息の荒い島田君に駆け寄った。


「ご、ごめん。私が気になるような電話かけたから…。」

「はぁ…はぁっ…いいって…。はー…なんか泣く程のことがあったんだろ?」


島田君が息を整えながら笑って言って、私は彼の笑顔になぜか自然と涙腺が緩んだ。

目の前が霞んできて、私は手の甲で顔を隠す。


今も耳に鹿島君の言葉が響いて、瞼を閉じると聖奈さんと井坂君の2ショットが浮かぶ。

信じるって言ったのに、信じられない自分の弱さに悲しい。


「ごめ……。さっきまで止まってたんだけど…っ…。」


私は零れる涙を拭いながら、気を遣わせないように頬を必死に持ち上げて笑顔を作った。

でも島田君は涙を拭っていた手を掴んできて、私は目に涙を浮かべたまま島田君を見つめた。

島田君は優しい笑顔を浮かべると落ち着いたトーンで言った。


「泣きなよ。隠さなくていいから。」


彼の何でも受け止めるという態度に、私は抑え込んでいたものが溢れた。


「う~~~~っ…!!」


涙が目から溢れて止まらなくて、私は肩を小さくしながら顔を隠して泣きじゃくった。

それこそ傍を通る小学生の子供のように。


きっと通行人には変な目で見られてる。


そう思って泣き止もうとするけど、溢れたものは止まってくれない。

私がしゃっくりを上げてせめて声だけでも消そうとしていると、肩を優しく抱き寄せられて島田君の胸に頭がぶつかった。

彼のその行動が我慢しなくてもいいと言ってくれてるようで、その優しさに私はまた声を上げて泣いた。


小学生の集団のからかい声が耳に入らないほど、子供のように…。





***





私は一頻り泣くと、我に返って顔を上げられずにいた。

あれだけ泣き声をあげて泣くと、スッキリしてしまって冷静になってしまう。


よくよく考えると、全然関係のない島田君を呼び出して、子供みたいに泣いて、更にそれを慰めさせるとか最低だ。

井坂君の友達だからって、彼を頼りにし過ぎてる自分が本当に情けない。

巻き戻せるなら、彼を呼び出す前まで巻き戻って欲しいぐらいだ。


それに…人の通りのある場所で男友達とこんな状態とか…恥ずかしい…

絶対周りに誤解されてる…

とりあえず一刻も早く現状から抜け出さないと…


私は涙で濡れた顔を手で拭いながら、島田君の腕の中で悩んだ。


あ、抜け出したら一番に島田君に謝らないと…

あと、迷惑をかけたお詫びをしなきゃ…

こんなの割に合わないよね…


私は島田君に対するお詫び等を悶々と考えて、どう声をかけようかとソワソワしてくる。


すると先に島田君が動いて、私は彼の温もりが離れたことに慌てて声を上げた。


「あっの!!ジュース!!奢る!!コンビニ入ろ!!」


私が涙でカピカピする目を瞬かせて島田君を見ると、彼は面食らったように固まった。


あれ…?…なんか声かけ間違えた…?


私は島田君から反応が返ってこないことにドキドキしていたら、島田君が息をぶはっと吐き出して笑い出した。


「あっはははは!!!何!?第一声それ!?あはははっ!!谷地さん、面白すぎ!!」


島田君はお腹を抱えてしゃがんでしまって、私はそこまで笑われるような言い方をしただろうか?と首を傾げた。


笑われた事が何だか恥ずかしい…


そして赤面しながら笑う島田君を見つめて、私は謝罪してないことに気づいて、ガバッと頭を下げた。


「ごっ、ごめんなさい!!島田君、何も関係ないのに呼び出して…あげく号泣して…恥ずかしい思いまでさせちゃって…。なんと言ったらいいか…。」


私は自分という人間が本当に情けなくて仕方ない。

自分の中だけで処理すれば良い問題に島田君を巻き込んでしまった。

とりあえずお詫びだと思って頭を上げると、笑い続ける島田君に声をかける。


「お詫びさせて!!コンビニで何か奢るから!!何でも好きなもの言って!」

「あはははっ!お詫びとかっ!!あははっ!!そんなのいいのに。」


島田君がヒーヒー言いながらなんとか笑いを収めて、私を涙目で見上げた。


「そんなの私の気が済まないから!何がいい!?買ってくる!」

「えー…??じゃあ、喉乾いたから何かシュワッとするジュースで。」

「炭酸だね!了解!!」


私はコンビニに駆け込むと、まっすぐ飲み物の棚へ向かい、島田君用のファンタと私は自分用のお茶の500mlのペットボトルを二本手に取ってレジへ。

レジはすいていたので小銭でサッと支払いを済ませると、レシートを断って島田君の元へ走った。


「お待たせ!はい、ファンタ!!」

「サンキュ。走って来たから喉乾いてたんだ。」


島田君がファンタをがぶ飲みするのを見て、私は必死に走ってきてくれたことに申し訳なくなった。

ペットボトルを開けようとしていた手を止めて、また島田君に謝る。


「ホントに…ごめんね…。私が電話なんかしたから…。」


また落ち込みそうになって、自然と俯くとペットボトルに蓋をした島田君が私の腕を掴んで引っ張った。


「こっち。河川敷まで出よう。風が気持ちいいよ。」


島田君は笑顔でそう言うと、私の腕を引いて細い道を歩き出した。

そして道の先に出ると視界がひらけて、地元の大浦川の土手に出る。

河川敷には散歩途中のご老人やランニングしているお姉さんに下校中の小学生や中学生がいて、結構人通りも多かった。


島田君はその河川敷の歩道から河の方へ下ると、草むらに腰を下ろした。

そして横を示してくるので、私はおずおずと横に腰を下ろす。


「泣いてたのってさ。井坂と例の女子のことで?」


島田君は何もかもお見通しのように言って、私は彼に見透かされたことに驚いて言葉を失った。

島田君はそんな私の反応を見て、ふっと口元に笑みを浮かべる。


「気にすることないよ。井坂のやつ、ほんっとに何とも思ってないみたいだし。相変わらず谷地さんにベタ惚れだから。」


島田君がははっと軽く笑いながら言って、私は鹿島君の言っていたことが頭の中に浮かんで顔をしかめた。


「それってホントに?島田君の思い違いじゃないの?」


島田君が私の怒ったような言い方に驚いたのか、目を大きく見開いて私の顔を見つめてくる。

私は好かれてるなんて自信を失ってしまったので、もうどんなフォローをされても受け入れられなかった。


「谷地さん。井坂のこと信じるって…。」

「言った。言ったけど…、あのときは好かれてる自信があっただけで…今はそんな自信…これっぽっちもない。」

「好かれてるよ!!井坂がどれだけ谷地さんのことが好きか…俺は見てた!!」


島田君が声を荒げてきて、私はイラッとして思わず言い返した。


「だったら、何で隠し事なんかするの!?」


島田君は面食らったように目を瞬かせると、少し眉間に皺を寄せた。


「隠し事って…?何を井坂が隠してるんだよ?」

「それは…。」


私は言うべきか迷ったけど、視線を水面に移すと意を決して口にする。


「井坂君は…あの女の子…聖奈さんとキスしたんだよ。」

「は!?…え!?キスって…それ…どこから!?」


島田君は相当驚いたのか焦っているのが伝わってくる。

私はこんな話をしただけで目が潤んできて、少し俯くと言った。


「鹿島君が…聖奈さんから聞いたって言ってて…。」

「鹿島…って…。」


島田君は鹿島君を知っているのか、顔を歪めると私の肩を掴んできた。

私は突然の行動に心臓が跳ねて、大きく見開いた目を島田君に向ける。


「あいつの言う事をそのまま信じちゃダメだ!!あいつ、絶対嘘を言ってる!!」

「嘘って…。」

「俺、前々からあいつのこと気に入らなかったんだ。井坂のこと元に戻すとか訳の分かんねぇこと言って、ちょっかいかけてきてさ。人を上から見下ろしてるっていうか、自分とは相容れないものを徹底的に排除するみたいな雰囲気があって…。きっと谷地さんに言ったことも、あいつが嘘を並べ立てて―――」


「私も見たの。」


鹿島君のことを貶す島田君の言葉を遮るように、私は彼をまっすぐに見つめて告げた。

島田君が「え…?」と言いながら、表情を歪める。


「私も見たの。井坂君が…聖奈さんとキスするところ。体育祭の日に…。」

「え…?ちょ…ちょっと待ってくれよ…。それ…何かの見間違い…。」


島田君は混乱しているのか私から手を放すと、頭を抱えて地面に視線を落として前を向いた。

私は嫌な記憶を思い出さないように顔をしかめて続けた。


「私だってそう思った。…でも、鹿島君に言われて…やっぱりアレは見間違いじゃなかったって…分かったの。キスしたのは事実で…井坂君はそれをずっと隠してる…。」


「だ、待ってくれよ。井坂は隠したわけじゃなくて言えないだけじゃ…。」

「言えないって一カ月以上も?隠してる方が嫌じゃない?私は信用されてないってことでしょ?」


私は堪り溜まっていた鬱憤を吐き出すように、疑問を並べた。

島田君はまだ何か言い返そうとしていたけど、私は井坂君に裏切られたような気持ちで何も耳に入りそうにない。


「私…もう、このままは苦しい…。自分の心が狭いのは分かってるけど…、このままの状態が続くのに耐えられない…。」

「谷地さん…。」


私はまた涙が出そうで両手で目元を押さえて少し顔を上に向けた。


付き合うって難しい…

お互いをちゃんと信じて、信頼し合ってないとすぐこうやって苦しくなる…


今までもちょっとしたすれ違いはあったけど、いつもは井坂君が傍にいてくれた。

でも今は…彼は私と違う女の子と一緒にいる。


それがすごく嫌で、すごく辛い…


どうやったら確固たる自信を持てる?


その答えを誰だったら教えてくれる?


私は涙を抑え込むと鼻から息を吸いこんで口から息を吐いた。

すると島田君が横からボソッと言った。


「やっぱり井坂に聞かないとダメだよ。」

「無理。口になんか出せない。その前に泣いちゃうから…。」


私は想像しただけで怖くて、絶対に無理だという確信があった。


「そのままを聞かなくてもいいかも。とりあえず、隠してることないかって…遠回しに聞いてみたら?井坂も言うきっかけを待ってるだけかもしれないし…。」


島田君の提案に私は耳を傾ける。


遠回しに聞く…?


「谷地さんが知りたいって雰囲気を出して聞けば、井坂のことだから言うんじゃないかな?隠し事ってしてる方もしんどいだろうし…。きっかけさえあれば…。」


私が手を目から離して彼の横顔を覗き見ると、島田君が自分を納得させるように何度も頷いていた。


もしかして、島田君も井坂君を信じようとしてる?


そうか…島田君は井坂君と友達だもんね…

友達の浮気話なんて彼もショックに決まってる。

それを思うと不安なのは自分だけじゃないと、少し勇気が湧いた。


これ以上島田君を困らせるのもよくない…よね…


「うん。分かった。明日、それとなく井坂君に聞いてみる。」


私が鼻をすすって告げると、島田君が私に振り向いて口をぽかんと開けて驚いている。

どうやら島田君は、私がこんなにすんなり納得するとは思わなかったようだった。

それが空気を伝わって感じるので、私は口をもごつかせてから言った。


「遠回しに聞いてみるよ。ちょっと怖いけど…。」

「そ…そか。うん…。それがいいよ。やっぱり…。」

「だよね…。」


私は少し笑みを顔に貼りつけると、島田君が元気を取り戻したのか張りのある声で言った。


「もし、また井坂に泣かされそうになったら助けに行くよ。だから、頑張れ。」


背中をトンと叩かれて、私は彼の気持ちに背中を押されるようにもう少し頑張ろうと力強く頷いたのだった。




***




そして次の日――――


私は島田君からもらった勇気がなくならない内に…と、昼休みに井坂君をベランダに連れ込んで彼をまっすぐに見つめた。

井坂君は不思議そうな顔をしながら、連れ込んだ意味を勘違いしているのか、手を伸ばして抱きしめてこようとする。

私はそれを遮って一歩下がると、意を決して尋ねた。


「井坂君。」

「うん?何?」

「あ、あのね…。」


私はいつも通り私を見て嬉しそうな顔をしている井坂君に戸惑った。

表情から、自分の思い込みな気もする。

でも、きちんと聞かなければまた同じことで苦しまなきゃいけなくなる。


私は大きく息を吸いこむと、勢いをつけて言った。


「私に何か隠してることない?」


私が言いきって井坂君の顔を窺うと、井坂君は表情を固まらせて動揺しているのが見て取れた。

でもそれも一瞬で、また笑顔に戻ると焦ったように言った。


「俺が?詩織に?まさか!!隠し事なんてねぇよ。」


私は彼が笑顔の裏に隠してしまったことに愕然として、緊張していた体の力が抜けた。

へらっと笑っている井坂君の姿が遠のいていくようで、私はまた胸が重く苦しくなる。


「それよりさ、こうして二人でベランダ来るとか久しぶりな気するよなー。詩織、確認し合いっこしようぜ?」

「へ…?」


私がし合いっこの意味が分からなくて、ぼけっとしながら井坂君を見ると、彼が両手を広げて笑っていた。


「前、言っただろ?気持ちの確認しようなってさ。だから、ほら。」


井坂君はそう言うと手を広げた状態で近寄ってきて、私をギュッと抱きしめてきた。

そのときにやっぱり聖奈さんの香水の匂いがして、私は目の前にあのキスシーンが映り思わず井坂君を突き飛ばした。


「おわっ!!」


井坂君がたたらを踏みながらつまずくように尻餅をついて、私を見上げてくる。

視線がぶつかって、嫌な汗が背中にじわ…と滲む。

私は目の前の井坂君が知らない人に見えて、言わないでいようと思っていたことが口から飛び出す。


「…なんで隠すの?」

「え…?隠すって…?」


どうして、とぼけるの…?


私はまだ知らないフリをする井坂君の唖然とした顔を見て、息ができないぐらい苦しくなる。

感情がグラグラと揺れ動いていて、ジワ…と涙が滲んできて思わず口から本音を溢した。



「…もう…イヤだ…。…苦しい…。」

「詩織…?」



ホントにもう無理!!


私は手の甲でグイッと涙を拭うと、ベランダから逃げるように出て走った。


そして教室を通り抜けて廊下を駆けながら、もう昔のように井坂君を信じられる自分に戻れないような気がして、胸が痛くて仕方なかったのだった。









次が100話です。その100話は詩織の友人視点です。

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