21.救世の英雄
闇影省が解体されてから数日が過ぎた。
王国を巣食う悪を潰したことで、影を支配する悪人はユーリだけとなっていた。(もちろん、本人だけがそう思っている)
――真の悪人はやはり俺一人だな。
笑みがこぼれそうになるのをユーリは堪えていた。
実際は王国の英雄として、これ以上ないくらいの称賛をあびていたのだが、そのことはユーリの耳には入っていなかった。
いや、ユーリがそういった事に興味がないのだと思われていたから、ランベルトもわざわざ報告まではしなかったのだ。
そして、今日もユーリは悪行にさっさと励む……、前の下準備としてポテトを食べていた。
――やはりこれがないと悪人として始まらないからな。
適当に言いわけをしているが、実際はただ食べたいだけであった。
せっせと口の中へフライドポテトを運んでいくその姿はまるで小動物のようだった。
そんな姿を見て、ランベルトは微笑ましそうに言ってくる。
「相変わらず、ユーリ王子はポテトがお好きですね」
「これを食っていると思策が捗るんだ」
実際は無心で食べているので、何も考えていないのだが、ランベルトにはなぜか頷かれる。
「なるほど、それがユーリ王子の思考方法なのですね」
ランベルトも自分の前に出されているポテトを食べてみる。
サクッサクッ……。
「なるほど、この音を聞いていると無心になりますね。ただ、私はこれで何かを考えるのは難しそうです」
ランベルトは少しだけ食べるとそこで手を止めてしまう。
「いらないのか? なら俺がもらうが」
「はい、ユーリ王子の策謀の役に立つのならいくらでも」
ランベルトはユーリの方へとポテトを差し出してくる。
――よし、これでポテトの量が倍だ。
はにかみながらポテトを更に食べていくと、ランベルトが現況の報告をしてくれる。
「さすがユーリ王子が自ら見出した孤児たちです。こと王都内の偵察だと右に出るものはいなさそうです。さすが、王都内の地理を知り尽くしているだけありますね。子供たちなので、警戒されることもありませんし」
「うん、まさかあの子たちにこんな能力があったとはね。ぼくも予想外だよ」
ルミも少しポテトを食べた後、ユーリにそれを渡してくる。
「孤児院のお礼だよ」
随分と安いお礼だな、と思いながらもそれを素直に受け取るユーリ。
――まさかルミから便宜を図ってもらうための賄賂を渡してくるとは。俺の悪に当てられて、すっかり悪い人間になったな。
もちろんこのポテトにそんな深い意味はない。
むしろ、ユーリがあまりにも美味しそうにポテトを食べているものだから、何かと理由をつけて譲ってくれているだけだった。
そのことに気付いていないユーリは幸せそうにポテトを食べるのだった。
◇
ポテトを食べ終わったユーリは改めてランベルトに聞く。
「それで、情報網の構築は随時進んでいるんだな?」
「もちろんです。と、言いたいところですが、やはり他国の方は時間がかかりそうです。申し訳ありません」
「いや、ランベルトはよくやってくれている。この調子で頑張ってくれ」
「はい、誠心誠意頑張らせていただきます」
ランベルトが感涙して、頭を下げる。
「それにしても他国か。ギルムーン皇国はティーナに聞けば何とかなるだろうけど、他の国は俺も交流がないからな」
そもそも、他にどういう国があるのかすらよくわからないユーリだったが、それを言うわけにもいかないので、別の言い方をする。
「アルマーズ公国は来年、ユーリ様が通う学校のある場所だね。王のいない『全ての頂点に神がいる』と言う考えを持つ国だよ。他の国も色々とあるけど、基本的には王国や皇国に敵うほどの力を持つ国はないかな」
ルミが手に持っている本を広げながら説明をしてくれる。
――あれっ? この件はランベルトよりルミに任せた方がうまくいったかもしれないか?
一瞬そんなことを考えたが、やはり交渉ごとが出てくるならランベルトの方がいいだろう、と考えを改める。
すると、そんなタイミングで扉がノックされる。
「少しよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「ユーリ王子にこちらの手紙が届きました。本来ならルミ様に見てもらってから、ユーリ王子にお届けするべきなのですが、ルミ様もこちらにおられるとのことでしたので」
「……なんだ、それなら実質ぼく宛みたいじゃないか」
ルミが扉を開けて、兵士から手紙を受け取っていた。
「えっと、なになに……」
ルミが早速手紙を読み始める。
すると、すぐに驚きの表情を浮かべていた。
「何が書かれていたんだ?」
「うん、どうもアルマーズ公国に神託が下ったみたいなんだよ」
その時点でユーリの興味はほとんどなくなっていた。
神なんてものがこの世にいるはずもない。
どうせ今回の神託も誰かが適当なことを告げたのだろう、とユーリは思っていた。
しかし、その内容はユーリにも関係のあるものだった。
『この世界に光の英雄と影の悪人たる子供が現れた』
ただ、それだけの言葉。
でも、どうしてこれがユーリ宛に送られてきたのか、その場にいた全員が理解した。
そして、ユーリ自身も一気に興味を取り戻していた。
――なるほどな。たしかに悪人である俺に向けた内容だ。光の英雄なんて奴が俺の命を狙うってことだな。しかも、俺と同じ子供。おそらくは学校で相対する相手になるはずだ。くくくっ、どんな奴でもかかってくるといい!
ユーリはニヤリ微笑む。
そんなユーリの考えとは裏腹に他の三人が思っていることは全く別のことだった。
――光の英雄はユーリ王子のことですよね? つまり、ユーリ王子に相反する人物が現れたのでしょうね。無理やりユーリ王子の相手をさせられるなんてかわいそうに……。
眼鏡を光らせながら笑みを浮かべるランベルト。
その眼鏡には既に悪人が滅ぼされるイメージが浮かんでいた。
まさかユーリが悪人を目指しているなんて、全く考えていないところを見ると、相変わらずその眼鏡は曇っている。
――あれっ? 英雄ってユーリ様のことだよね? でも、影の悪人もユーリ様のことじゃないの?
首を傾げるルミ。
ある意味彼女の反応も間違いではない。
特にユーリとランベルトの二人を間近で見ている彼女からしたら……。
ユーリ自身は悪人を目指し、ランベルトはユーリのことを英雄という。
つまり、どっちも満たしている人間とも取れるのだ。
――へぇ……、本物の英雄と悪人が現れたのですね。外に出るときは気をつけないといけないですね。
ミーアだけは全く見当外れの考えを浮かべていた。
まさか神託の相手がユーリだとは思わずに、そういった人間が全く別の所に生まれたのだろうとそんな考えを持っていた。
そして、それぞれの思惑を胸にユーリは十二歳になり、学校へ行くことになる。全ては真の悪人になるために……。
ここまで読んでくださってありがとうございます。これにて『次は悪役になってやる!』の第一部が終わりとなります。
第二部の方ですが、少し構想の期間をいただきます。
予定としては来月9月1日より再開の予定とさせていただきます。
一応第二部1章のタイトルですが『同級生の光の英雄』を予定しております。
少し期間が空きますが、再開の折にはどうぞよろしくお願いします。




