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異世界でも無難に生きたい症候群【完結】  作者: 安泰
策略編

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まずはお茶を。

 同胞が大悪魔に捕獲された。

 分析、腹部に特異性の見られる大悪魔ともなれば『迷う腹』フェイビュスハスだろう。

 目的は間違いなく同胞、俺が葬ったググゲグデレスタフの報復と言った仲間意識はないだろう。

 紫の魔王の指示、いや本気で同胞を確保するならばデュヴレオリを使わないはずがない。

 これはこの大悪魔達の独断と見るべきだ。

 影と大地を繋いでいた杭を鎖で抜き自由となる。

 そのまま鎖への魔力供給を最速で行い、空と大地を鎖で埋め尽くしていく。

 鉄鎖の牢、結界を張り巡らせたこの牢獄からは容易には逃げられない。

 これならば大悪魔の影に潜む術も封じられる。


「下らん真似を、早く同胞を解放しろ。さもなくばこの場で貴様等を徹底して滅ぼす」

「無駄なことだ、フェイビュスハスへの攻撃は取り込まれた者の中身へと届く。貴様の鎖で人間を殺したいのであれば好きにすれば良い」


 その効果は聞き及んでいる、敵の仲間を捕食し盾とするフェイビュスハスの噂は父から聞かされていた。

 

「そうか、ならば貴様は関係ないな」

「――ッ!?」


 フェイビュスハスとハッシャリュクデヒトに鉄鎖の牢から枝分かれした鎖が絡みつく。

 この技の最大の特徴は全方位を鎖で埋め尽くすことで任意の方向、任意の数の攻撃が行える。

 不可視の魔法を組み込めばそれこそ自在に攻めることが可能だ。


「ひ、人質がどうなっても良いのか!? フェイビュスハス!」


 フェイビュスハスも同様に全身を鎖で拘束が済んでいる、しかし様子がおかしい。

 鎖に捕らわれてなお反応がない、内部に精神体を送り込めると聞いたがそちらの作業に専念しているのか。

 同時に行動も可能と聞いていたが今内部で何かが起きているのか。


「貴様等の目的は同胞の身柄を利用しての紫の魔王への交渉だろう、今ここで同胞の生命を脅かせば貴様等に生きる望みは皆無だ。同胞を痛めつけたいのならば好きにしろ、ただし俺はそれ以上の苦痛を貴様等に味わわせると誓おう」


 同胞とて覚悟はある、ここは臆し従うことだけは避けねばならない。


「ぐっ、我等が手出しできないと慢心するか! フェイビュスハス、人質の腕の一本でも千切って――」


 余計な言葉を吐いてフェイビュスハスを煽らないようハッシャリュクデヒトの首と口を鎖で締め上げる。

 『駒の仮面』の力で強化されているとだけあってかやはり鎖の締め付け程度では殺しきれない、だが鉄鎖の牢の影響下ならば拘束は十分可能だ。


「選べ、俺達を紫の魔王との勝負に専念させるか、下らん茶々を入れ望み無く死に絶えるか」


 しかしフェイビュスハスは反応しない、一体どうして――と、奴の腹が動き出す。

 もしや何か攻撃を――


「ふぅ」


 重々しく閉じた腹を抉じ開けて同胞が姿を現した。

 奴の涎にまみれている点を除けば捕獲される前となんら変化は見られない。

 

「お、出れた出れた。あー全身ベトベトで気持ちわりぃ……って鎖邪魔だな!?」

「あ、ああすまん、そいつが影に溶け込み逃げないように封じている。今ずらそう」

「いや、こいつもう死んでるぞ?」

「何だとっ!?」


 同胞の傍に駆け寄りフェイビュスハスの様子を観察する――確かにこれは……。

 肉体こそ傷ついていないが内部の魔力が完全に失われ死亡している。

 

「一体何をしたんだ?」

「あーそれは後で話す。拘束はこのまま維持できるか?」

「あまり遠距離になると拘束力が弱まるな」


 現状割り込む人物がいないということはデュヴレオリを始めとした紫の魔王陣営もターイズの陣営もこの場を見ていないことになる。

 尾行していたであろうミクス=ターイズ達はおそらく俺達が路地裏に入ったのを確認し回り込んでいる頃合だ。

 大悪魔達の奇襲と向こうの迂回のタイミングが重なってしまったか、不運な。


「わかった、ならこいつの出番……ちょっと水魔法浴びせてくれ」

「強めに流すぞ」


 同胞の頭上に水球を作り出し、叩きつける。

 涎はおおよそ流れ落ちた。


「――浮かせられるなら置いておいてくれ、自分で洗える」


 その発想は無かった、再び水球を作り同胞に好きに洗わせる。

 詫び代わりとして熱風を当て乾燥もさせていく。


「こいつの出番、緊急時に鳴らす笛だ。流石に涎まみれじゃ吹きたくないからな」


 そういって同胞は笛を鳴らす、そして間も無くしてミクス=ターイズと以前出会ったカラギュグジェスタ=ドミトルコフコンが血相を変えて姿を現す。

 勝負中に予期せぬでき事が起きて第三者への救援を求められたとあってかなかなかの慌てぶりだ。


「何事でしょうかご友人!? ってこれは一体!?」

「ああ、実はだな――」


 事情を説明しハッシャリュクデヒトの身柄を渡す。

 鎖に一定以上の魔力を込められれば拘束は維持できる、コツはいるがミクス=ターイズならば十分に可能だろう。

 

「頼んだぞミクス、こちらはこのまま謎を解く」

「坊主、大悪魔に捕らわれたと言ったが怪我はないかの?」

「ええ、大丈夫です。むしろさっさと勝負を終わらせてマリトに報告しないといけないことができました」


 同胞はそのまま勝負へと戻る選択をした、ならばこちらも再び護衛に戻るとしよう。

 しかしイリアス=ラッツェルにあのような啖呵を切っておいてこの様とは……マシではあるだろうが奇襲への対処の手段をもう少し増やしておく必要があるだろうな。


 ------------------------------------


 いやはや、大変な目にあった。

 フェイビュスハスに捕まったこともそうだが、あの男もそうだ。

 『無色の魔王』、金の魔王からその存在は聞いていたがどの魔王も面識のない存在がまさかあんな所で突如現れるとは予想だにしていなかった。

 登場の方法も、その強さも、話していた内容もあらゆる点で異質だった。

 一瞬でフェイビュスハスの精神体を破壊、そしてどうやったのかフェイビュスハス本体の命も奪った。


『もうしばらくすれば腹の中で意識が戻る、色々聞きたいこともあるだろうがまた今度にな』

 

 奴はそういって消えた。

 新たな石碑を見つけて謎を解いていくが序盤の勢いよりも幾分か速度が落ちている。

 難易度が上がったというより動揺が消えていないと言ったところか、

 以前ドコラの残した青の魔王に関する本を見つけたときと同じような気分だ。

 雑念が脳裏にちょくちょく湧いてくる、早く切り替えねば。


「これは……今までの悪魔の像とは違うな」


 12問目に見つけた石像は悪魔を模していなかった。

 今までの様な細かい造形が見られず、人間の女性にも見える。

 それは紫の魔王のシルエットにも感じられた。

 とりあえず石碑に羊皮紙を当て、問題を得る。


『私は最後の時まで貴方を待つ』


「これが最後の問題のようだな、紫の魔王のいる場所を示す最後の謎だ」

「……どこだ?」

「この勝負は朝日が昇り、夕日が沈むまでの勝負だ。最後の時とは夕日が沈みきる時のことだろう。夕日が沈むまでを見届けられる位置、西の城壁の上だ」



 ターイズ国の周りを囲む巨大な城壁の上には緊急時に上から見下ろせるように道があり、その道中には幾つかの小さな屯所がある。

 最西にある屯所へと入ると紫の魔王とデュヴレオリの姿があった。


「あら早かったのね、流石だわ?」

「色々トラブルがあって急いで終わらせなきゃならんかったからな。ゆっくり待ちたかったろうに悪かったな」

「――そうね、もう少し待ちたかったのだけれど……何かあったのかしら?」

「道中二体の大悪魔に襲われた、フェイビュスハスとハッシャリュクデヒトと言う名前だ」


 その言葉を耳にして紫の魔王の目が開く、デュヴレオリも驚きの反応を見せた。

 紫の魔王はその後目を閉じ、少し瞑想を行う。

 

「――宿には両者の姿が見えない、本当のようね?」

「フェイビュスハスは倒させてもらった、ハッシャリュクデヒトは現在捕獲している。身柄を預けても良いか?」

「デュヴレオリ、直ちに向かいなさい」


 その言葉と同時にデュヴレオリが影に溶け込み消えていった。

 紫の魔王は立ち上がり、そして深く頭を下げてくる。


「これは私の用意した展開ではないわ、全面的に私側に非があることを認めます」

「こっちとしては問題はない、だがこの場合どうなる? こちらは勝負の最中にそちらの陣営に攻撃を行ったわけだが」

「謎を解いて私を見つけた以上この勝負は貴方の勝ち、約束通り大悪魔の一柱との一騎打ちの場を用意させてもらうわ?」


 この勝負は大悪魔を駒として利用する。

 一騎打ちに使用すべき駒を排除した場合、勝負の内容に不具合が生じるのではと心配したが、どうやらフェイビュスハスの件は例外処理として対処するようだ。


「そうか、ただ一つ要望がある。一騎打ちは明日に延期してもらえないだろうか」

「ええ、構わないけれど……何かあったのかしら?」

「ハッシャリュクデヒトを捕獲する際に国の騎士達の協力を要請したからな、事情やらを説明しなけりゃならない。すまないな」


 この様子からして紫の魔王はあの男とは完全に無関係と見て良いだろう。

 ここで事情を話しても良いかもしれないがこの勝負が流れることだけは避けたい。


 その後紫の魔王と別れ、ミクスと合流する。

 ハッシャリュクデヒトは突如現れたデュヴレオリによって回収された、こちらの事情を説明した上での行動だったためにミクス達は素直に応じたとのこと。

 そのままマリトの執務室へと急ぐ、そこではマリトとエウパロ法王達が勝負の結果を待って待機している。

 まずは勝負の結果について説明、そして大悪魔二体の乱入の旨も説明した。

 『無色の魔王』に関しては伏せて話した、不自然に死んだ大悪魔については疑問を持たれただろうが今は仕方がない。

 その前に大悪魔の奇襲に対しヨクスが憤慨した。


「勝負の最中に奇襲とは、やはり奴等はまともに勝負する気がないのだ!」

「いや、今回の一件は紫の魔王の関与は見られなかった。大悪魔達の独断だ」

「本気で言っているのか!? 君を手に入れられぬと判断した魔王が隙を見て君を奪おうとしたとは考えないのか」

「考えない、それを行えばこちらの価値が無くなる。手に入れる価値を自ら失わせる行為はできないんだ」

「奴等にそんな高尚な価値観があると!?」

「落ち着かんかヨクス」


 エウパロ法王に諌められ、息を荒くしながらもヨクスは大人しくなった。


「展開としては悪い話じゃない、一体の大悪魔は死んだ。明日には新たにもう一体の大悪魔と一騎打ちができるんだ。この勝負では二体の大悪魔を排除できると思えば十分だろう」

「……明日の一騎打ちの指名は頼んだぞ」


 明日の勝負にはヨクスを使うことは構わないが、過度な衝突が起きないようには注意せねばならないだろう。

 悪い人間じゃないのは分かるのだが、ユグラ教の方々は魔物や魔王に過剰反応が目立つ。

 いや、これが普通なのだろう。

 こちらが魔王に対して許容しすぎなのだと自覚せねば。


「それと……法王様達には少し席を外してもらいたい。ミクスとエクドイクもだ、マリトと二人で話がしたい」

「それは我等には話せないことが起きたということかね?」

「話すべきかどうかを相談したいのです」

「……良いだろう、ヨクス、リリサ、席を外そうか」


 エウパロ法王達が席を外し、ミクスとエクドイクも気になる素振りを見せていたが黙って部屋を出てくれた。

 

「他国のトップを部屋から追い出してまで相談したいことだなんて……大悪魔に捕らわれていた際の情報をはぐらかしていた事と何か関係があるのかい?」

「ああ、詳細を話したい。暗部君も聞いていてくれ」

「おや、私もですか」


 部屋のどこからか声が響く、いつものように背後から脅かすような語りかけはしてこない。

 こちらの空気を読んでくれているようだ。


「単刀直入に言うと『無色の魔王』と接触した」

「……本当かい?」

「ああ、奴はそう名乗った」


 そして詳しい経緯を話した。

 フェイビュスハスに捕らわれ、頭の中にある記憶を読み取られていたところ、突如謎の機械音声のような声が響いた。

 そしてそれを無視して作業を続けていたフェイビュスハスを突如現れた男が瞬殺した。


「間違いなく『無色の魔王』でしょうね」

「やっぱり知っていたか暗部君は」

「ええ、最も無害な魔王と聞いています」

「しかしどうしてその魔王が……君はどう思っているんだい?」

「元々あった推測だったんだがな。湯倉成也は地球の情報をこの世界の人間が入手できないように何かしらの仕組みを作っていたんだと思う」


 発端はこの世界の者の日本語に対する抵抗感の強さだ。

 日本語で書いた資料を誰かしらに見せた際に、誰もがそれを本気で読んでみようとしなかった。

 勉強家のウルフェですら日本語を覚えられる気がしないと学習を拒否していたほどだ。

 メジスに封印されていた蒼の魔王に関する書物も図示されている死霊術の情報こそ利用されていたが、肝心の本の解読が一切行われていなかったと言うのも気になっていた。

 他にも日本語の言葉を話したときに大抵の者達が聞き取れていなかった。

 金の魔王がルドフェインさんを使った時、発音だけを丁寧に覚えさせていたがそのときにミクス達は聞き取れていなかったのだ。


「規模のでかい話になるが、湯倉成也は地球の言語をこの世界の者達が理解できないように細工をしたんじゃないかと思っている。理由は恐らく地球の知識があれば蘇生魔法といった禁忌に届く可能性があるからだ。奴はその最終的な番人として存在していると思っている」


 最初はこの推察まで行かなかったのだが、暗部君の概念に干渉するステルス魔法やらの存在がある以上可能性は否定できない。

 あの魔王はユグラが目的を持って用意した存在、そう考えるとしっくり来る。


「だが俺は君から地球の知識を教わっているけどそういったことは起きていないよ?」

「この世界に似合わない過度な文明の知識は使わないという取り決めのせいだろう」


 マリトとの間には密約として地球の知識を与えるが時代錯誤なものは避けるといった内容がある。

 この世界でもいずれは思いつく可能性のある情報がほとんどだ。


「俄かには信じがたい話だが……どうなのだ?」

「私としては推測の段階で話されている以上、余計なことは話せません」

「だろうな、『無色の魔王』だという確定情報を与えてくれただけで十分と思おう」


 暗部君はこちらが既に知った内容に関しては進んで口を開く。

 だがそれ以外のことは口にしない、どこまで知っているかは知らないが恐らく大抵のことは知っているのだろう。


「そこでなんだが、奴を呼び出してみようと思うのだが」

「正気かい?」

「暗部君はあくまで静観を決め込んでいるからな、話を聞くなら当人に聞くしかない」

「だけどどうやって呼び出すのさ?」

「そりゃあ、マリトにギリギリの知識を与えていけばなんとかなるかなと」

「うへぇ」


 とは言えフェイビュスハスの二の舞になられても困るわけだが。

 警告文の段階で止めればあるいは――


「暗部君は止めないのか?」

「今のところは」

「そうか、暗部君って記憶を消すような魔法はあるのか?」

「ありますよ、対象の同意が要りますけど確実な物が」

「なら危険だと判断したらマリトから記憶を奪うといった形にすれば良いな。ちょっとしたチキンレースになるがどうする? 別の機会に回しても良いが」

「良いよ、何事も経験だ」

「即断だな」

「紫の魔王の件でも忙しいのに余計な懸念事項を抱えておきたくないからね」

「よろしいのですか陛下、記憶を奪う魔法は多少本人にも負荷が掛かりますが」

「構わん、ただし余計な記憶を抜くことは許可せんぞ」


 暗部君に記憶を消す魔法の用意をしてもらい、準備をする。

 暗部君は音を遮断し耳に入れないようにし、記憶を消す合図はマリトが手話で行うこととなった。


「とりあえずはそうだな……核分裂や核融合の原理やら話してみるか」


 聞きかじった程度の知識ではあるが少量の原料から膨大なエネルギーを生み出す仕組みを説明していく。

 そしてそれらを利用した核兵器の話へと繋げていく。

 マリトはそれらの話を真剣に聞き、一言一句漏らさずに記憶していく。


「原料となるのはウラン、プルト――」

『警告、この世界の者が知るべき情報量を超過しております。警告、この世界の者が知るべき情報量を超過しております。直ちに接続を終了し、該当する記憶を消去してください』


 以前聞いた女性の物らしい機械音声が脳内に響き出す。

 マリトにもしっかりと聞こえているようだ。


「これかい?」

「ああ、そうだ」

「うーん、確かに脳内に直接響く声と言うのも新鮮だが……これ次の段階は『無色の魔王』に処理されてしまうんだろう?」


 もう一段階進めば奴は確実に来るかもしれないが排除対象になってもらっては困る。

 このまま来ないようならば諦めるほかないのだが……。


「なんつー危険な橋を渡るかね『地球人』よ」


 と、ソファに座っていた奴が口を開いた。

 あ、来てたわ。


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