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異世界でも無難に生きたい症候群【完結】  作者: 安泰
邂逅編

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目下のところ帰還しました。

 長いようで短かったガーネ滞在もようやく終わりを迎えた。

 当初の予定よりも大幅なロスタイムを加えての滞在だ、期間で言うならば長いのだが過ぎてみれば案外短いものである。


『妾もターイズに行きたい』

 

 という金の魔王に対し全員で『来るな』の合唱。

 ターイズで金の魔王を快く迎えてくれるものがいるはずも無い。


『御主だけは妾を好いてくれておると思うたのに!』

『好きか嫌いかで言えば好きだが、国とか国民とかそういった規模の物を捨てるような重さはちょっと……』

 

 と一縷の望みも絶たれ、金の魔王も渋々とガーネの国王と言う立場に戻った。

 守護結界を離れた金の魔王なぞあらゆる勢力の格好の狙いの的なのだ。

 只でさえ武器を失ったばかりの異世界人が今後厳しい最中、余計なリスクを進んで背負いたいものではない。


『いずれ追いつくから待っておるのじゃぞ!』


 と謎の捨て台詞を残されたことは気になるが深くは考えないことにした。

 そして無事ガーネを出国、再び馬車に揺られてどんぶらこどんぶらこと言った感じである。

 結局ガーネの視察はほとんど捗っていない、色々予定を組んでいてくれたルドフェインさんには申し訳ないことをした。

 当人は『陛下が掻き回してくれた』と言うことで納得しているのだが、大臣と国王の溝が深まった気がしないでもない。

 なおグラドナは継続してウルフェの修行の面倒を引き受けてくれたのだが、一度古巣に帰って色々整理やらを済ませてくるとのこと。

 聞けばエクドイクに呼び出されたその日のうちに修行場を離れガーネに来たらしい、今頃は行方不明者扱いになっているのだとか。

 エクドイクはそんなグラドナに都合の良いタクシー代わりとして使われて同行している。

 グラドナは弟子であるパーシュロを裏切って殺害したことを承知のはずなのだが、えらい仲がよろしいなあの二人。

 

「当初の目的を考えれば実入りの多い旅行ではあったな」

「そうだな、色々な意味でな」


 やや視線が痛いが気にしない、立場的に色々失っているのはこちらなのだ。

 ラーハイトの情報を求めてガーネに来て得た情報は様々だ。

 国王が魔王であり、他の魔王も復活しており、ユグラが傍迷惑なマッチポンプ野郎だった。

 さらに紫の魔王が金の魔王を狙っており、世界の脅威は未だに続いている。

 何でアイツの情報ついでにこんなに情報が零れてきたのやら、薮蛇どころの話ではない。

 実際に成し遂げた実績としてはどういったものがあるだろうか。

 まずはガーネ国王との友好関係を築けた、戦闘面が最弱とは言え魔王の一柱に恩を売れたのは大きい。

 同時に他の魔王に関する情報を得た、人間サイドとしては有益過ぎる情報だ。

 しかし肝心のラーハイトのその後は未だ消息をつかめていない、こちらの命の危険は相変わらずである。


「得るものがあったと言えば、ラクラに渡すものがあったな」

「私にですか?」


 揺れる馬車の上を慎重に立ち上がり、ラクラの側へ。

 ラクラの首周りに腕を入れ、ちょいちょいと渡し物を済ませる。

 ラクラの首に付けられたのはネックレス、派手な装飾品ではないが小さな宝石が埋め込まれた職人技が光る美しい銀細工である。


「わぁ、素敵ですね。でもどうして私に?」

「金の魔王から貰ったんだよ」

「はぁ、ですが尚書様が貰ったのであれば――」

「金の魔王からラクラに渡すために貰ったんだよ」


 理解に苦しみ首を傾げるラクラ、だが気に入ってはいるようだ。


「話は変わるがガーネ魔界に現れた魔物の群れに関してだがな。ターイズ魔界に向かって駆逐されたことは間違いない。だがガーネ魔界にいたという噂がどうもガーネを始めとして人間界にも流れていたらしい。数ヶ月間も魔界の中央にあれば物好きな冒険者の一人や二人が目撃してしまうんだろうな」

「言われて見ればそうですよね、私も過去メジス魔界に悪魔狩りに入ったことが何度もありますし」

「だが突如消えた事に関しては情報が一切流れていない、そりゃあ魔界に住んでない限りはそういった情報を知りようがないからな。とは言え突如魔物の軍勢が消えれば噂話としては不安が残る、そこで金の魔王がちょっとした処置を施した」

「処置と言うとガーネの国王としてですか?」

「そうだ、魔物の軍勢を退けたとして勲章を発行し授与することにしたんだよ。解決されたと言う噂が流れれば心配事も減るだろう?」

「なるほど……これですかっ!?」


 察しの良いラクラは嫌いじゃない。

 そうです、それが国王様に特注で用意して貰った名誉勲章です。


「おう、それだ。国王からの寄贈品だから売ったり無くしたりしたら一大事だからな」

「ど、どうして私なのですかっ!?」

「相談の結果だ、まずこちらと金の魔王の意思としては地球人の協力者がいたという痕跡は残したくない。ユグラと同郷の者と手を組んだと他の魔王に知られるのは余り良い印象を受けないからな。イリアスとミクスは護衛として来ている立場でウルフェは知名度が無さ過ぎる。そしてなによりエクドイクの推薦で決定した」

「そんなことってありですかっ!?」

「ありもなにも、エクドイクは最初からお前の地位の向上が目当てで協力していたんだぞ。これはエクドイクへの正当な報酬でもあるんだ」


 ぶっちゃけると途中でエクドイクが『これではラクラ=サルフの地位向上にならないではないか!?』とか勘付いたのが原因である。

 秘密裏にことが運んでしまえばそれで終わりなのである、ましてや魔王同士のやり取りがあった等と言えるわけも無い。

 だがそうなるとエクドイクの機嫌も悪くなる、そういったわけで大した噂にもなっていなかった発見談を採掘しなおして広め直した。

 同時にガーネの国王が英雄に与えるレベルの勲章をラクラに与えたと言う確定情報も流した。

 これによりメジスの司祭のラクラ=サルフがガーネ魔界に集っていた魔物の軍勢を退けたと言う噂は容易く確立されることになる。

 国王が認めるのだ、信憑性が高いどころの話ではない。

 ちなみにエクドイクはグラドナを運搬するついでにその噂を伝播する仕事もこなしている。


「実際にはラクラだって貢献はしている。受け取る資格はあるんだ、素直に受け取っとけ」

「いや、確かにそうですけど……思った以上に腑に落ちないものですね。やりがいとかほとんど感じていないのですけど」

「公の評価なんて大抵はそういうものだ、自分の実力を十分に発揮できなかった、全力で取り組まなかったとしても結果さえ出ていれば評価されてしまうんだ」


 イリアスの山賊討伐とてそうだ、知略としては難易度の高いものだったかもしれないが武力としてはイリアスはほとんど苦戦をしていない。

 戦闘だけならどの騎士団でも可能な任務だっただろう。

 それでもマリトから褒賞を受けて評価されることになったのだ。


「でも私がしたことって……結界を出した記憶しかありませんよ?」

「ついでに言えば屋敷の酒を大半消費してくれた件だな、やらんで良いことは色々やってくれたよな。その結果が国王からの最大級の勲章だ、どうだ気分は?」

「ひぃっ、罪悪感が圧し掛かりますぅっ!?」

「エウパロ法王やエクドイクとの約束もあるし、こっちの活躍の隠れ蓑としては大いに役立ってくれるんだ。これからもちょくちょくお前の地位は上げさせてもらうからな?」

「労働無き報酬には憧れていたのに……思ったのと違いますぅ」


 魔物の前に結界を出していたら英雄になったのがこちらです、刺身の上にタンポポの花を乗せていたらテロリストを一網打尽にしたと表彰されるのと同じだろう。

 自分でもよくわからん。


「エウパロ法王やマリト、金の魔王やらはお前のことは知っている、地位が上がったからって無茶な仕事は割り振ってこないだろう」

「そうですよね……そうですよね?」


 勘の良いラクラは嫌いだ、やはり誤魔化しきれないのかもしれん。

 確かにエウパロ法王はラクラのダメさを知っている、わざわざ高い地位を与えたりはしないだろう。

 だがラクラを良く知らない者はどうだろうか、ラクラが各地で活躍し名声が上がればふとした切っ掛けでラクラを推してくる、なんてことがあるかもしれない。

 とは言え実際の実力が無いわけではない、相応な立場になるのが先だろう。

 エクドイクのロビー活動の程度にもよるが、多分大丈夫だろう、多分。

 あーダメかもなー、あいつラクラの地位向上のためなら命くらい張りそうだしなー。

 

「これから先はターイズでの活動になる、こっちが得る地位なんてのは戦闘力を評価されての物じゃないからな。適度な感じで向上していくだろうよ」

「尚書様の地位は向上しなくても良いのですか?」

「既に二カ国に渡って国王の友人だぞ、役職的な地位や名誉に拘る意味がほとんど無い」

「そう聞くと尚書様も大概出世していましたね」

「金の魔王とのやり取りは行動の結果も付いてきているがマリトとの交友関係は些細なことからだからな、実力や人格やらを正当に評価される前から評価を得ているのは今のラクラと似たり寄ったりだな」

「む、ご友人は兄様が受けた第一印象を見くびるつもりですか?」


 マリトの話をちょこちょこ出したせいかミクスが食いついてくる、マリトを評価することに関しては寛容だがマリトへの不平不満に関してはしっかりと喰らいついてくるのだ。


「選定眼にケチを付けるつもりは無い、結果としてはマリトにとっても良い結果を生み出せているわけだからな。ただその過程をすっ飛ばし過ぎではあると思うぞ、マリトのこっちへの喋り方は知っているだろう? あれ初日からなんだぞ」


 ミクスとてマリトを信仰と同じレベルで崇拝しているのだ、そのマリトが第一印象で親友だとか言い出す相手をどう思うことやら。

 なお、こちらがその人物です。


「それは……きっと一目惚れだったのでしょうな」

「男に一目惚れされてもなぁ……」


 マリトの対応はこちらの存在が大いに価値があると判断し、将来的に良い友人になれると初期の段階で決め付けていたものだ。

 こっちとしてはそこまでの価値があるとは思えないが賢王としての評価に文句を言うつもりは無い。

 異世界の文化情報もそうだが世界の歴史の裏に隠された情報を知る良い切っ掛けであったことは事実だ。

 ただそれを見越して交友関係を築くにしても初手から肩組みタメ口で語ると言うのはどうなのだろうか。

 余程自分に自信が無ければできない方法だ、あるんだろうな。


「金の魔王に関しては――まあ人肌恋しい奴が気軽に触れられる相手を見つけた、敵の多い人生で構ってもらえるペットを見つけたようなもんだ。まあ撫でてたのはこっちだがな」

「ペットに撫でられると言うのも妙な話ですな」


 今思うとあの尻尾の撫で心地は良かった、割と今でも鮮明に記憶に残っている。

 大半が顔面に叩きつけられた記憶なのだが、まあそれはそれでモフかった。


「うーむ、割と寂しさも感じているのか。ウルフェ、ちょっと撫でて良いか?」

「はいっ、どうぞ!」

 

 金の魔王と同じような体勢でウルフェを撫でる。

 耳などの撫で心地は同じ感じで悪くない、だがあのボリューミーな尻尾は金の魔王ならではか。

 そういえばウルフェの尻尾をじっくりと撫でたことは無かったな。

 

「ふむ……さわり心地は良い、絹でできているようなサラサラ感だ。これはこれで金の魔王に負けていないな」

「えへん!」

 

 自分の尻尾が誇らしいのか、そういえば金の魔王も自慢げだった。

 自分の体の部位を褒められるのは嬉しいのだろう。

 あれ、これってセクハラにならんよね?

 現代日本じゃ女性の頭撫でるだけでもセクハラになる時代だ、亜人系が登場する漫画でも尻尾への接触は胸を触るくらいの行為として解釈されているものもある。

 金の魔王やウルフェからはそういった反応は見られない、大丈夫そうではある。

 黒狼族の生態も今度調べておくべきだろうか、今後亜人と接触する場合には嫌がる様子が無いかも気をつけよう。


「そうだ、君に聞きたいことがあった」

「なんだイリアス」

「この際だから聞いておこうと思ってな、私達に対して隠していることなどはあるのか?」

「随分とばっさり来たな、まあ好きにしろといった建前文句は言わんが」

「こちらから動かねば埒が明かないと学んだからな、それでどうなのだ?」


 イリアス達に隠し事か、……ふむ。


「それは聞かれてないから喋っていないこととは違うんだよな?」

「それはそうだが……そういうのもあるのか?」

「例えばラグドー卿の孫とは偶に遊ぶ仲だとか、カラ爺達ラグドー隊の酒飲みの会に入っているとかそんなことだな。隠す気は無いが言ってないことは割りと多いな」


 こちとら日常の全てを毎度毎度報告しているわけではない。

 当然ターイズの生活においてイリアスの知りえないでき事だって起きるのだ。

 わざわざ話していないというだけで秘密と言うわけではない。


「……物凄く気になる初耳だな。だが言われて見れば君はレアノー卿達とも親しい関係を作っていた、不思議ではないのか。それらは追々聞くとして、私達に故意に隠していることについて聞くとしよう」

「幾つかあるな、まず地球のことは話したくないことが多い。与えるべきでない情報もあるからな、これはマリトと相談した結果でもある」


 時代錯誤な知識は処理できる人間にのみ話すべきである、特に歴史を大きく変えるであろう歴史の叡智はこの世界を狂わす要因にもなりかねない。

 この世界で細菌兵器や核兵器が生み出される切っ掛けにはなりたくない。

 後は地球での人間関係も同様に知られたくない話の一つである。


「それは――まあ、仕方の無いことだろう。ではこちらの世界に関することではどうなのだ?」

「この世界か……ああ、一つあるな。ちょっと待て、どう説明するか考える……ミクス、不味そうだったら止めてくれ」

「私でありますか?」

「ああ、マリトとラグドー卿の三人しか知らない話でな。ターイズにいる暗部の話だ」

「うっ、それは……私も良く知らないのでなんとも……」

「ターイズの暗部か……確かに私には知る資格のない情報だな……君は知っているのだな」

「全体像は知らないけどな、以前メジスの暗部との一件の際にこの世界の暗部の実体に関する話を聞くために一人紹介してもらったんだ」

「あの期間に城の中にいたのか……?」


 いたと言うかいると言うか、進行形でマリトの側にいるんですがね。

 暗部君は元気にしているだろうか、普段姿を見ないからこっそりいなくなっても気付かないだろうしな。


「そこは一応はぐらかしておく、気になるならマリトの許可を貰ってくれ」

「そうだな、多分無理だとは思うが……ターイズに暗部があるという話は騎士の中では多々耳にする。明らかに騎士達では入手し得ない情報などが城には流れ込んでくるからな。陛下も否定したことは一度もない」


 そういう点ではマリトが暗部君を紹介したことはこちらに対する最大限の譲歩だったのだろう、何せ本国の騎士達も知らないターイズ最強が護衛にいると言う話である。

 

「他に秘密にしていることか……うーむ……イリアス達に言いたくないこと……隠したいこと……ああ、あるじゃないか」

「当人を前にして気になるような発見をされるのはなんとも言えないリアクションだな」

「こっちの部屋には宝箱があるだろう?」

「あるのか?」

「……部屋に入った時に目に付かなかったのか?」

「そういえばそんな物も在ったような……ラクラは知っているか?」

「ええ、物々しい鍵が付いている箱ですよね?」

「ウルフェもみたことあります」

「おう、自室にしか置く場所ないしな。アレが一応個人的な秘密の宝箱だったりする」


 あそこには様々なものが入っている、初代の相棒の灰と思わしき物、山賊のアジトから持ってきた魔封石、黒狼族の住む森で拾った綺麗な石、メジスの暗部達との戦いの際に破壊された城壁の欠片等などだ。

 正直値打ちの無いゴミばかりではあるのだが異世界での思い出として色々溜め込んでいるのだ。

 見栄を張って大きい宝箱を買ったのだが、割とスペースをとっているのである。


「値打ち物でも入っているのですか?」

「いや、金品はバンさんに預かってもらっている。基本拾ったガラクタだな、旅の思い出として取っている。ラクラが除去に失敗して破損した探知結界の部品とかもあるぞ」

「なんでそんな物を……あ、私との大切な思い出としてですか!?」

「大切とは思わんがな、何かしら印象に残ったでき事があった時には色々記念にその辺の物を拾っておく癖があるんだ。こればっかりは全容を見せられんな」

「割とどうでも良いな」


 ばっさりである、人の価値観をよくも……!


「ししょー、ウルフェとのおもいでもはいっているのですか?」

「ウルフェとの思い出かー、黒狼族の森での収集はあったがウルフェ個人となると幾つかあるな……例えば人生ゲームの駒があるな」

「それはわすれましょう」


 即答である、ウルフェもあの日の思い出は封印しているようだ。

 一応カラ爺に初めて膝を突かせた記念でもあるのだが……自分も炭を食ったしな。


「後はそうだな、ウルフェが『犬の骨』で何故かくれた肉の骨があるぞ」

「おー、おぼえています!」

「てっきりウルフェちゃんの毛でも入っているかと思いましたが」

「流石に人の体毛とかはちょっとな……人が見たら危険人物にされかねん」

「そうなんですか?」

地球(こちら)の世界では衛兵に捕まる可能性がある、気持ち悪がられたりするからな。取っておかれる相手のことも考えなきゃならん世界なんだ」

「ウルフェはへいきです」

「そ、そうか」


 これは収集しろと言うことだろうか、悩ましい。

 ウルフェの尻尾の毛とか確かに質が良いからな……収集家の血が働きかねん。

 金の魔王は……自分代わりだとか言って渡してきそうだな。


「ですがふとした時にそれを見て過去を懐かしむのは面白そうですね!」

「お、分かってくれるかミクスは」

「冒険者ですから、過去に思いを馳せることは多いですな。そうだ、兄様との出会いの記念品等もあるのですか?」

「――まあな、何かは内緒だ」

「それは気になりますが……ですがとても趣があるものなのでしょうな!」


 最初に出会ったとき、やり取りで使った巨大なピスタチオ豆の殻の半分です。

 なぜかマリトが取っておいていたので貰いました。

 多分マリトにも似たような収集癖があるのだろう。


「それでは私との出会いの思い出は手に入れられたので?」

「いや、それがミクスと出会ってからはすぐに馬車に乗り込んでたし、後は屋敷とガーネ城の往復だろ? これといった物が無くてな」

「なんと……ですが言われて見れば確かに……ううむ……ではこのナイフを!」

「メインウェポンを渡すな」

「しかし、しかしですよご友人、私にとっても思い出深い旅でご友人との出会いは人生にとって記憶に残ることなのですぞ!? 私だけ記憶に残ってもご友人の記念品にならないのは……はっ、髪の毛ならば――」

「まずはナイフをしまおう、な? 一人だけ実物は流石に浮くから止めよう?」

「ううむ……例えばラッツェル卿との出会いの思い出はどのようなものなのですか?」

「どんどん秘密が明らかにされているな……まあ別に構わないか、紐だ」

「紐?」

「最初に出会ったときに麻袋に入れられてな、ご丁寧に紐で口を結んでくれたんだ。その時の紐だ」

「何でそんな物を……そういえば途中一度無くしていた記憶があったが、君がくすねていたのか」

「割と些細なものなのですな……ではこれにしましょう」


 そういってミクスは衣服のボタンを一つ千切り渡してきた。

 まあこれくらいなら……金細工っぽいし、ちょっと高そうだけど……仕方ない。


「んー、これなら許容範囲か。ありがたく貰っておく」

「これで私もご友人の思い出の中に浮かび上がるのですな!」

「別にお前みたいな個性の強い奴は物がなくても思い浮かぶと思うんだがな」

「えへへー!」


 実に嬉しそうなミクス、マリトと同じ境遇になれたのが嬉しいのだろう当人のは豆の殻だがな。


「後はガーネの思い出か、金の魔王の首でもあれば記念になったのだろうが」

「生首とか収集するのは間違いなくやばい奴だろ……一応拾ってある」


 懐から小さな透き通る石を取り出す、小振りではあるが金の魔王の髪の色と同じ黄金色だ。


「見たことが無い鉱石ですな、一体どこでこれを?」

「ガーネ城で拾った、金の魔王曰く掃除をしていると偶に落ちてるらしい。魔界産の鉱石の様なものだとか」

「ふーむ、言われて見ればほのかに金の魔王と似た魔力を感じますな。大気中の魔力が結晶化でもしたのでしょうか」

「金の魔王が触れると魔力になって霧散するらしい、その可能性は高いな」


 掃除の手間が掛からないゴミとして普段から処理していたとのこと、まあせっかくなので一つ失敬したわけである。

 色的にも金の魔王を思い出すには丁度良い品だ。

 未だに底が見える宝箱、今回の思い出を投入してもそれは変わらないだろう。


「お、国境が見えてきたな」


 この世界に来てそれなりに時間も経っているのだが、まだまだ過ごしきっていないのだろう。

 最期にはどれだけ埋め尽くせるだろうか、これは密かな楽しみである。


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[気になる点] プライバシーの侵害にはならないのか?
[良い点] 宝箱にも何か意味が隠されてるのかしら……?
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