おまけその5『大賢者の初恋』
コミカライズ更新日に間に合わせたかったのですが、ちょうどその時期に県外への用事があり、戻ってきたらきたらでドタバタしており、なんとか月内には間に合ったという形です。
今回はバラストスとケイールのお話。ケイールがバラストスの絵を描いたらバラストスに気に入られたというお話の内容の掘り下げです。
「ケイールを夫にしたいのよ。子犬ちゃん、知恵貸しなさいよ」
久しぶりに顔を出したバラストスからまたえらい無茶振りが飛んできた。『俺』は何も聞かなかったことにして、クトウの入れたお茶を堪能し、窓から見る空の青さに一息をつく。
「いや、聞きなさいよ」
「聞かないでやってるんだろ。前も言っただろうが。あいつは一人前の騎士になりたいんだから、そこを汲んでやれって」
事の発端は『俺』達がリティアルやラーハイトの足取りを追うべく、トリンにあるホルステアル商会に接近しようとしたことにある。
魔界で取れる希少な鉱石や植物を取り扱う商人として接近するため、それらの価値や効能を調べる必要があった。
そこでクアマとトリンの国境付近に住んでいたバラストスにその鑑定をお願いしに行ったのだが、その際に護衛として連れていたレアノー隊所属の新米騎士、ケイールをバラストスが大層気に入ってしまったのだ。
聞いた限りでは暇を持て余したバラストスが、ケイールの趣味が絵画であることを知り、自分の肖像画を描かせた際、自分を描くケイールの姿に惚れ込んでしまったとのこと。
その後バラストスは事あるごとにマリトに対し、ケイールを欲しいと交渉している。
大賢者バラストスに大きな貸しを作れることは国として非常に魅力的な提案ではある。ただケイールはただの騎士ではなくルコの弟であり、ルコを妻として迎えるマリトからすれば義理の弟となるわけである。なんかドラマみたいな展開だよな。
「だって!この前雑用でやってきたギリスタがね!?これみよがしに結婚指輪を見せてくるのよ!?」
ギリスタは裏稼業的な冒険者の仕事を生業としていたが、最近はどこの国も先の大戦の立て直しを重視している。足の引っ張り合いよりは手を組んだ方が得な状況では仕事も降ってこないのだ。
そんなわけで今は様々な雑用をこなす便利屋としての仕事も始めたらしい。どこかの誰かさんが諜報活動をやらせたおかげで、色々と地方にツテが増えたそうな。
本人は血生臭い依頼が減りつつあることに不満を示していたが、ヤステトを旦那にしてからは特に不満もなく日々を満喫している様子だ。
「ケイールだってお前のことを好いているんだし、今は甘酸っぱい日々を堪能したらどうだ?」
「嫌よ。私は一刻でも早く互いにドロドロに依存し合う関係になりたいの」
「なんで嫌われないんだろうな、お前」
バラストスのアプローチは相当なもので、なんならターイズに根回しをし、弟子であるノラの護衛にケイールを任命させ、自分の側に置くくらいには好き勝手にやっている。
ノラ曰く、ケイールが護衛として側にいる時間よりも、バラストスに連れ去られている時間の方が長いとか。何をされているのかは触れないでおこう。
「それはほら……なんでかしら……?」
「自分のしていることの面倒さに気づくレベルかよ」
「容姿には自信がある方なのだけれど、あの子そんなに私の容姿には揺れてる様子ないのよね。絵を描く時以外、全然私の体見てくれないし」
それは邪な感情を抱かないようにしているだけなのでは。
ケイールのことは出会う前からレアノー卿や、マリトから話を聞いていた。あの二人を信じている以上、よほどのことがない限りは信用しても良いだろうとそこまで理解しようとしてこなかった。
把握しているのは、せいぜいバラストスの気持ちを知っており、ケイール自身も彼女に惹かれているという事実くらいだ。
「大賢者として……といってもケイールは魔法の方はからっきしなんだろ?」
「ええ。この前魔法の講義をしてみたけど、騎士以上に才能を感じなかったわ。でも寝顔は可愛かったわ」
「さいですか」
「つい襲っちゃったもの」
「なんで嫌われないんだろうな、お前」
「本当に……なんでかしら……?」
ヤダよ『俺』、マリトに『お前の義弟、寝込みを大賢者に襲われてたってよ』って報告するの。
「ノラの教育に悪いから、自重してくれ」
「そこは大丈夫よ。あの子、私よりもよっぽど恋愛強者だし。この前も『そんなだからケイール程度ものにできないのだ』って鼻で嗤われて……うっ、うっ、グスッ……」
「程度て」
幼女に泣かされる恋愛弱者な大賢者ってなんだよ。いやまぁ、ノラについては『紫』も『あの子が貴方じゃなくてデュヴレオリを好いてくれて本当に良かったわ……』って零していたしな。
「他にも、『人が研究している時に、隣の部屋でおっ始めるななのだ。次騒がしくしたらケイールを奪うのだ』って笑顔で脅されて……」
「怖っ!?……いやそれはお前が悪いんだけどな?」
「早くデュヴレオリを復活させないと、本当にケイール取られちゃいそうで……」
「ノラはデュヴレオリ一筋なんだから大丈夫だろ」
「大丈夫じゃないわよ!?この前二人で買い物から帰ってきた時、二人ともすっごい仲良さそうに話してたのよ!?私でもケイールのあんな爽やかな笑顔見たことなかったのよ!?しかもあの子!私が物陰から見ていたことに気づくと、こともあろうにケイールに抱きついて、私の方を見て勝ち誇るように……っ!なんなのあの子!?」
「お前の養子で弟子だよ」
大方色欲に暴走するバラストスに対するノラなりの制裁なのだろう。効果がテキメン過ぎるのだが、まあバラストスだし。
「ケイールにあの子は危険だから近づいちゃダメって言ったら、白い目で見られたし……」
「普段から襲ってくるお前の方がよっぽど危険だわ」
「あ、でも椅子に縛られながらも、白い目で見てくるケイールにはちょっとときめいたわ……」
「なんで嫌われないんだろうな、お前」
「本当に……なんでかしら……?」
ヤダよ『俺』、ルコに『お前の弟、椅子に縛られながら大賢者に襲われてたってよ』って報告するの。あと報告せずに墓場まで持っていくのも。
「お前の不安は大体わかった。どれほどアプローチしても関係が進展しないし、周囲の変化には戸惑う。更にはケイールが自分を好いている理由もはっきりしないままだから、余計に焦りを感じているわけだ。だからそのへんを分析して欲しいと『俺』のところにきたと」
「有り体に言えばそうね。ついでにあの子を落とすアドバイスが欲しいわ」
「図々しいわ。まあ良い。ケイールのためにも少しばかり協力してやろう」
「わぁい」
そんなわけでケイールを呼び出し、ちょっとばかり探りを入れることになった。バラストスも話を聞きたいと言ったが、横にいたら意味がない。なので猿ぐつわを噛ませ、拘束した後にベッドの下に転がした。若干喜んでいるようにも見えたが、そこには触れないようにしておいた。
「失礼します。お久しぶりですね、先生!」
「よぉ、元気……だよな?」
久しぶりに見たケイールだが、少しばかりやつれているように見える。あの大賢者のせいだと考えると少し胸が痛くなってきた。
「あはは、ちょっと最近夜ふかし気味でして……」
「バラストスのせいじゃないだろうな?そうなら本気でなんとかするが」
「いえ、あの人のせいじゃないですよ!まぁ……昼間は少し元気があり過ぎますけど……」
「迷惑なら迷惑だと言って良いんだぞ?」
「求められていることは嬉しいですから。ただ……私があの人の想いに応えきれていないという負い目はあります」
隙あらば自分を襲ってくるような変態大賢者相手に負い目を感じるとか、聖人かこいつは。
「それなら良いけどな。そういえばバラストスがお前を気に入った理由は簡単に聞いたが、お前がバラストスを好いている理由は聞いたことがなかったな」
「ええと……近しいタイミングではあるのですが……そうですね。あの人の絵を描くことになった時のことを詳しくお話すると――」
少しだけ恥ずかしそうに、それでいて懐かしそうに、ケイールはその時のことを語りだした。
◇
新米騎士として要人警護は憧れの仕事でしたからね。トリンへ向かうときは少しだけワクワクしていました。
でもエクドイクさんやミクス様、それにハークドックさんのような人達がいる状況では、護衛としての仕事はほとんどありませんでした。
せめて雑用だけでもと頑張ろうとしても、エクドイクさん、ハークドックさん、メリーアさんが優秀過ぎて……。
それでも何かできることはないかと考えた私は、先生やターイズの知識の足しになればなと思い、バラストスさんの屋敷の周りにあった珍しい虫や植物の絵を描くことにしました。
「はぁ……」
先生は『良いな。マリトが喜ぶと思うから、空いた時間に頼む』と認めてくださりましたが、騎士の仕事というわけではありませんからね。
新米騎士となって喜んでいたのも束の間。自分の未熟さを思い知らされる日々。
緋の魔王との戦争で見た、レアノー卿や他の騎士達の姿を思い出しながら、自分には騎士として足りてないものが多過ぎる……そんなことを考え、少しばかりナーバスな気分で絵を描いていると、バラストスさんに声を掛けられました。
「あら?子犬ちゃんの護衛の騎士よね?そんなところで何を描いて――うそっ!?めちゃくちゃ絵が上手じゃない!?え、落とし子!?」
「ち、違いますよ!絵を描くことが昔から好きで、趣味として――ああっ!?」
バラストスさんは私のデッサン帳を奪うと、それを興味深そうに眺めました。先生と交渉をしているお方でしたから、無理に取り返すこともできず、少々生殺しのような時間が続きました。
「動く鳥や虫の細部までしっかりと描いているわね。記憶力が高いのかしら。騎士よりも文官とか目指した方が良かったんじゃない?」
「いやはは……。用語とかは完璧に覚えられたのですけど、それを活かす頭がなくて……」
記憶力と賢さは違うもの。『覚える』と『身につく』は別もの。
直ぐに覚えられるということは、必要な努力が少ないということ。
覚え身につけることで人は知識を活かせるわけですが、私は覚えることが先行して、身につけることが苦手となっていました。
「ならどうして騎士を目指したの?」
「切っ掛けは幼い頃、収穫祭で見た騎士達の演舞でした。素晴らしい騎士達の技の粋を見て、目に焼き付けるのなら、文字よりも彼等の素晴らしい姿を、そして私も誰かの心に刻まれるような人物になりたいと」
その目標を忘れたことはありませんでした。でも新米騎士になっても、戦場を経験しても、自分がその存在に近づけたという自覚はなし。それどころか身近な皆がそうなっていくのを感じて、どこか孤独感を覚えていたほどでした。
「へー」
その淡白な返事に、微塵も感銘を受けていないことは伝わりました。まあ相手は世界に名を馳せた大賢者なのですから、私のような小さな目標に興味がないのも仕方がないといえばそうなのですよね。
「そうだ。どうせ暇なら私の絵を描きなさいよ」
「え」
「ほら、私は大賢者って肩書の女でしょ?ターイズでのイメージがどうも老人っぽく思われているみたいなのよ!」
「……それは、はい」
正直な話、ノラさんからバラストスさんの容姿を聞くまではラグドー隊の奥方達のような女性のイメージがありました。エルフの血が混ざっているとはいえ、このような若々しい女性だとはターイズの皆には想像できないでしょうし。
「だからほら、私の絵をビシっとターイズで広めてちょうだい!」
「わ、わかりました」
こうしてバラストスさんの私室へと移動し、彼女の絵を描くこととなりました。とりあえずは貴族の皆様が肖像画を描く時のように椅子に座ってもらい、下書きを開始したのですが……。
「じっとしているのも退屈ね。何か話題ちょうだいよ」
バラストスさんはじっとしているのが苦手なのか、直ぐに動き出し、私に話しかけてきました。私の方もある程度姿を見ていれば被写体がその場にいなくても描けたわけですから、とりあえず会話を続けようと考えました。
「ええと……すみません。私は絵を描くか、鍛錬をするくらいしか経験がなく……。そうだ、バラストスさんのことを話していただけないでしょうか?大賢者の半生ともなれば興味があります」
「私のこと?んー特に面白いことはないわよ。生まれて直ぐに魔法を知って、それに惹かれて、知識を得続けて、気づいたら大賢者って呼ばれてただけ」
「……それだけですか?」
「そうよ?そりゃあ他人と比べたら才能もあったし、機会もあった。貪欲に求め努力もしたわ。だけどそれだけ。私にとっては当たり前のことですもの」
バラストスさんは自分の半生について面白みがないと、本気で言っていました。きっとその詳細を語れば、皆が驚き、心躍るような内容だというのに。
彼女にとっては今、目の前にあるものこそが生き甲斐であり、直向きに歩み続けているのです。
私は気付かされたのです。私が憧れた騎士達は優秀だったからではなく、騎士として直向きに歩み続けていたからこそ、心惹かれる光を持っていたのだと。
そして私は手に握っていた炭のペンをより強く握り直しました。
「……」
「ねぇ、別に貴方のことじゃなくて良いから、何か面白い話を――」
私は誰かにとって心惹かれる存在になろうと、そればかりを考えていました。でもそれは分かってしまえば滑稽な話。中身の存在しないものに誰が心を惹かれるのでしょうか。
自分は見栄えの良い騎士になろうとしていたに過ぎない。本当に憧れた騎士になるのであれば、彼等が目指したその先を知るべきなのに、彼等の姿しか見ていなかった。
それを理解した時、彼女に私の憧れた騎士達の姿が重なったのです。
「すみません。今から集中して描かせてもらいます」
「……え、ええ」
私にとってバラストスさんが目指すものは理解の及ばないものなのでしょう。それでもそれに対し直向きに向き合っている彼女には、私が憧れた人達と同じ光を感じたのです。
私にとって絵は趣味の範疇にしかない特技。精密な模写はできても、そこに人の心を揺らせるような表現はできない。
だけど私の憧れた光を持つ人を描くのに、半端な気持ちで描くことは失礼なことだと思ったのです。
決して届くことはないだろうけど、それでも自分にできる限り直向きに彼女の光と向き合おう。そう思って今まで以上に真剣に絵を描くことにしたのです。
◇
「ええと、それが大体の経緯ですね。完成した絵を見たバラストスさんはそれを大層気に入っていただいて。本来は持ち帰る予定だったのですが、差し上げる形に……」
なるほど。その時のケイールは本気でバラストスに感じた光を表現しようと、真剣に彼女と向き合ったのだろう。
これまでバラストスを求めた男性はかなりいたようだが、それは彼女の容姿や肉体、大賢者としての知識や才能を求めてのことだった。彼女が直向きに追い求めているものを純粋に分かち合ってくれる者はいなかったのだろう。
バラストスはそんな瞳にときめき、完成した絵を見て完全に堕ちてしまったというわけか。屈託のない敬愛の眼差し、そしてそれを形にした自身の絵、堕ちる奴は堕ちるだろうな。
そういえば最近ケイールの描く絵の質が向上していると、もっぱらの噂だったな。あの日がケイールの画家としての転機だったというわけだ。
しかしだ、しかしだよ?
「バラストスがお前を気に入った理由はしっかりと理解できた。だけどお前がバラストスを好いた理由は……直向きに生きる連中の一人ってことと、あとはそれに気づかせてくれたことくらいだよな?」
「それもあります。ただなんと説明すれば良いのか……あの日からバラストスさんの姿が脳裏から離れなくなったと言いますか……」
「……そっか」
理解してしまった。ケイールがバラストスを意識している理由と、その危うさに。
あの日ケイールは初めて憧れた人達と同じ人種、直向きに生きるバラストスと向き合った。完全記憶能力とも言える記憶力で、真剣にだ。
写真のように記憶を保存していた場合、ケイールにとってその時のバラストスは一枚の絵ではなく、何十、何百、いや何万とも言える大量の画像の重なりとして記憶されてしまったのだろう。それこそ脳裏に焼け付くくらいにしっかりとだ。
軽く見るだけでも覚えられるのに、そんなに本気で脳裏に焼き付けば、当面の間無意識の中でも憧れた光を放つバラストスが脳裏に浮かぶこととなる。
そりゃあ日夜女性の姿が脳裏にチラつけば、恋愛的な好意を抱いているのではと錯覚するだろうよ。
これはどうすべきか。これを丁寧に説明した場合、ケイールがバラストスから興味を失ってしまう可能性がある。
「ケイール、実はな――」
『ダメ、言ったら殺すわ』
そこまでの考察をベッドの下にいたバラストスも気づいた模様。わざわざ『俺』の脳内に届くように言葉を届けてきやがった。
「どうしたんですか、先生?」
「……いや、また暇な時にバラストスの絵でも描いてやってくれ。そうすりゃもう少しは大人しくなると思うからさ」
『ヨシ』
ケイールの心がバラストスから離れないようにするには、そうするのが一番手っ取り早い。彼が本気でバラストスを描き続ける限り、ケイールはバラストスのことを常に意識し続けることになるだろう。だが良いのかこれ、実質洗脳を続けるような行為に等しいんだが……。
「ああ、それでしたら大丈夫です。実はもうすぐバラストスさんの誕生日でして、今こっそりと彼女の絵をプレゼントしようと思っているんです。ただ色を塗るとなると流石に時間が掛りまして……毎晩少しずつ描いているんですよ」
『――――っ!?』
「っ!?」
うわうるさ。人の脳内にわけのわからない黄色い悲鳴を垂れ流すな。危うく意識持っていかれるところだったわ。
「先生?どこか体調が優れないのですか?」
「お前よりかはマシだ。でもそれでやつれていたらバラストスに余計な心配を抱かせるぞ」
「あはは……そこはなんというか自分の未熟さ故なのですが……」
「昼は騎士、夜は画家か。二足のわらじも大変だな」
「はい。でもあの人には我慢してもらっていますから」
「え、なんて?」
「あの人には我慢してもらっていますから……」
いやいや、抑えきれずにお前を襲っているんだけど。それのどこが我慢していないっていうんだ?
「そのへんの見解、ちょっと詳しく」
「え?ええと……あの日以来、バラストスさんから感じる光が少し変わったんです。私の絵を本当に気に入ってくれたんだと思いますけど……その光も本物でした。あの人は直向きに私のことを好いてくれているんだと伝わってきたんです」
「まあ、マリトに直訴しているくらいだから本物だよな」
「は、はい……。実のところ……私が騎士の道を諦め、あの人の想いに応えたい。そう考えたこともありました。でもそうしてしまった場合、私だけが不相応なままになってしまうんです。あの人の想いに応える前に、あの人に相応しい一人前の人物になりたい。私が騎士を辞めないのはそんなエゴからきています」
ケイールにとってバラストスは自らが憧れる、直向きに生きられる人物。そのバラストスの想いに応えるには、自分も相応の騎士になってから応えたいというわけか。
ケイールからすれば、バラストスの想いの強さを知っていながら、その全てを受け入れるわけにはいかないという負い目がある。だからこそ普通ならドン引きするようなアプローチをされても、許容範囲として受け入れてしまっているのだろう。
「――騎士じゃなきゃダメなのか?それこそ画家とかなら……」
「確かに画家としての道を歩んだ方が、きっと早く大成すると思います。うちの家系ってなにかしら芸術センスが高かったりしますし」
「ルコとか園芸のセンスあるしな」
「でも私が最初に憧れたのはやっぱりターイズの騎士なんです。人々を守りたい、そんな直向きな思いに惹かれたんです。その想いを他で代用したくないんです」
「なるほど、姉に似て頑固者だ」
最強格の魔王、テドラル相手に一歩も引かなかったルコ。ケイールはそんなルコの弟だ。よく似た者同士というわけだな。
画家としてならば、既にバラストスの心を魅了するほどの直向きさを発揮している。そのことを指摘してやっても良いのだが……彼の覚悟を考えると野暮な行為ではあるか。
「あはは……。あんなに凄くて素敵な方に想われているのに、身勝手なのは承知しています。でも未熟でも構わないというあの人の優しさに甘えたくはないんです」
いやぁー?身勝手なのはあっちの方だと思うよ?君少し前まで王様に直訴されて騎士を辞めさせられようとしてたよ?
「……ま、バラストスを喜ばせたいのであれば、相談してくれ。色々と助言はできると思うぞ。とりあえずは絵の方頑張ってな」
「はい!よろしくお願いします!」
穏やかな笑顔のまま、ケイールは部屋を去っていった。とりあえず『俺』にできることは、バラストスへの貸しにできるからと、マリトとレアノー卿辺りにそれとなくケイールに休暇を与えさせることくらいか。
それはそれとして、ベッドの下にいるバラストスを引きずりだし、拘束と猿ぐつわを解いてやる。その間バラストスはずっとうずくまった姿勢のままだった。
「……感想があるなら聞くぞ」
「色々な意味で死にそう……」
ケイールの純粋過ぎる思いに対し、嬉しさと恥ずかしさが振り切れた模様。今後のアドバイスとしては、疲労回復の薬を処方してやれということで落ち着いた。
後日、バラストスは過度なアプローチをかなり自粛し、ケイールの体調ケアに専念した。そのおかげか彼女の誕生日までにはケイールはすっかり元の様子まで回復することができたようだ。
そしてその誕生日にバラストスはケイールから彼女自身が描かれた油絵を貰った。ケイールが真摯に向き合い、しかも愛情まで込めた絵だ。バラストスが涙ながらに感動したのは言うまでもないだろう。
もっともそのあと感極まり過ぎてケイールを襲い、目の前でおっ始めるなとノラにキレられ、『俺』に泣きついてきたのはまた別のお話ということで。




